政府は先週、福島第1原発事故に伴う放射性物質の除染や廃棄物処理に関する基本方針を閣議決定した。除染などの作業は福島県の原発事故被災者が元の生活を取り戻すためには不可欠であり、有効かつ効率的な実施を求めたい。
決定によると、国は被ばく線量が年間20ミリシーベルト以上の地域を「除染特別地域」に指定する方針で、自ら作業を担う。
このうち、原発の近接地など突出して被ばく線量が高い所を除き、2014年3月末までに作業を完了する計画だ。建物、農地、道路、林野などを除染し、汚染土壌を仮置き場に運び込むという。
計画通りに進めば、これまで何のあてもなかった人々の帰郷や帰宅に関し一定の目安になる可能性が出てこよう。
これよりも被ばく線量の低い所は「汚染状況重点調査地域」に国が指定し、原則として自治体が除染をする。
環境省は当初、年間5ミリシーベルト以上の地域を対象とする方針だったが、地元の反発を受けて年間1ミリシーベルト以上に引き下げた。文部科学省が実施した上空からの放射線量調査では、福島県以外にも年間1ミリシーベルト以上の地域は広がっており、広範囲な除染作業になることが予想される。
広大な地域の除染では、資機材と人材の効率的配置、運用が欠かせない。子どもの通学路などは当然ながら急ぐ必要がある。「あそこは終わったのに、こちらは手付かず」といった住民からの不満が起きないようにもせねばならない。
地域ごとの事情や利害の調整を考えれば簡単ではないが、国と自治体は地元の要求をくみ上げながら指導力を発揮し、地道で継続的な努力が求められる。
ここから先の課題は、さらに大きく重い。除染で出る土壌など汚染廃棄物の処理だ。現在、福島県では仮置き場に運び込まれているが、やがて満杯になる。
汚染廃棄物の中間貯蔵施設を今後3年程度をめどに福島県内に建設し、貯蔵開始から30年以内に県外で最終処分を完了させる-。細野豪志環境相は、こんな工程表を佐藤雄平知事らに示している。
除去すべき土壌は、年間被ばく線量5ミリシーベルト以上として環境省が試算しただけでも約2800万立方メートル(東京ドーム23杯分)とされる。中間施設の場所選定さえこれからであり、長い道のりだ。県全体の将来像をどう描くのかなど、国は地元の理解を得る真剣な努力が要る。
一方、福島県以外には中間貯蔵施設を造らない方針だ。汚染土壌は少ないとの判断だが、各県は困惑している。国が前面に出て処理法を指導すべきだろう。
いずれにしろ、中間貯蔵施設や最終処分場建設を含め、費用は膨らむ。
政府は基本方針で、今回の放射能汚染への対処について「原子力事業者が一義的な責任を負う」としながらも、国が「原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任」を踏まえ「国の責任において対策を講ずる」と表明している。表明通り責務を遂行してもらいたい。
=2011/11/15付 西日本新聞朝刊=