沖縄県八重山地方(石垣市、竹富町、与那国町)の中学校で来春から使う公民の教科書採択で、混乱が続いている。
子どもの教科書選びをめぐり大人たちが対立し、収拾がつかなくなっている構図だ。文部科学省は沖縄県教育委員会に対し今月末までに決着を図るよう調整を要請しているが、拙速はよくない。
発端は8月下旬、3市町で構成する採択地区協議会が育鵬社版の教科書を答申したことだ。石垣市教委と与那国町教委は答申通り採択したが、竹富町教委が東京書籍版を採択し、対応が分かれた。
沖縄県教委が再協議を呼び掛け、9月上旬に3市町の全教育委員による会議を開いて多数決で東京書籍版を選んだ。ところが、今度は石垣市と与那国町の教委が反発した。文科省も「会議結果は合意ではない」と同調して待ったをかけ、にらみ合いが続いている状態である。
文科省は県教委に、竹富町教委が決定を貫くなら東京書籍版を無償対象から外し、有償購入を促す方針を伝えている。町が教科書を独自に買って、生徒に無償で与えるのは構わないという考えだ。
しかし、それでは国による義務教育教科書の無償制度の根幹が揺らぐ。竹富町側が「われわれに何の落ち度があったのか」と猛反発するのは当然だ。地元調整を求められている県教委が9月の再協議を「有効」としているのに、文科省がそれを認めないことも理解に苦しむ。
問題は二つあると思われる。
一つは、法律の不備である。教科書の採択権限は、地方教育行政法に基づき市町村教委にある。一方で、複数の自治体による現行の広域採択方式では、教科書無償措置法にのっとり同一地区は同一の教科書を選ぶことになっている。
採択地区内で意見が一致しない事態を国が想定していなかったわけで、文科省は「無償措置法が優先する」と法解釈を示し対立を収めようとしたが、とても一般の理解を得るのは難しいだろう。
もう一つは、八重山地区協議会の運営のあり方だ。協議会長主導で事前に委員の入れ替えなどがなされた。結果、地元尖閣諸島の領土問題などの記述が多い育鵬社版が選ばれたと一方が言えば、他方は手続きに問題はないと主張する。竹富町側は、沖縄の基地問題などの記述が手厚い東京書籍版にこだわったのだ。
広域採択に関しては旧文部省が1997年、採択地区の小規模化を進めるよう通達している。広域採択方式の利点は採択事務の効率化などが挙げられるが、地方分権の流れからしても教科書選びは極力、市町村単位にすべきであろう。
中川正春文科相は制度を見直し法改正もすると言う。直ちに着手してほしい。
同時に、八重山地方の現実をどう収拾するかも大切だ。このままなら、63年の教科書無償措置法制定以来、初めての事態を招くことになる。それは絶対、避けなければならない。文科省を含め、関係者には一層の努力を求めたい。
=2011/11/16付 西日本新聞朝刊=