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きょうの社説 2011年11月17日
◎クール・ジャパン 工芸、食は石川に格好の主題
日本の「クール(格好いい)」な文化を海外に広げる「クール・ジャパン戦略」で、経
済産業省が全国で展開するミニシンポジウムの第1弾が金沢市で今月22日に開催されることになった。「クール・ジャパン」という言葉が生まれて10年が過ぎたが、海外展開は十分とはい えず、有識者会議は5月に新たな戦略強化策を提言している。今回のシンポは「日本各地の宝の山をブランド化し世界発信する」という提言趣旨に沿った戦略再構築の一歩となる。 石川県ではニューヨークでの食文化発信や海外富裕層マーケットの開拓、輪島塗など伝 統工芸品の販路拡大など、海外展開では先駆的な取り組みを進めてきた。シンポで取り上げられる伝統工芸と食は、地域での文化の厚み、活動実績からいっても、石川に格好の主題である。全国の皮切りとなるシンポを、国の戦略強化と歩調を合わせ、石川がクール・ジャパンの先陣に立つ弾みにしたい。 韓国では、Kポップ、ドラマ、映画などを官民一体で輸出し、エンターテインメント分 野で定着した「韓国ブランド」で、車や電化製品、化粧品などのビジネス拡大につなげている。クール・ジャパンといえば、アニメ、ゲームなどのサブカルチャーが代表的だが、そこからメーンの文化や産業に幅広く波及していかないのは、国挙げての発信策が不十分で、文化と産業を結びつける視点が弱いからではないか。 クール・ジャパンの有識者会議がまとめた提言では、アジア、欧米など地域ごとの市場 調査や流通開発の促進、在外公館を中心に国際機関が一体となった現地での体制づくりのほか、姉妹都市ネットワークを生かした日本食産業の拡大、世界の有名ブランド、クリエイターとの製品開発を広げる「工芸ルネサンス」など各分野で具体策が示された。 有名ブランドとの共同プロジェクトでは、ルイ・ヴィトンと輪島塗作家による小物ケー ス制作など、石川には実績がある。そうした地方発の試みを軌道に乗せる総合的な戦略がいる。「工芸ルネサンス」を推進するなら、「コウゲイ」を世界共通語にするくらいの気概をもって取り組んでほしい。
◎景気下方修正 欧州は危機の連鎖止めよ
日銀が日本経済の景気認識を下方修正したのは、欧州財政危機の深刻化と円高への警戒
感からだろう。日銀は先月末の金融政策決定会合で、追加の金融緩和に踏み切ったが、資産買い入れ基金を5兆円増額し、総額55兆円とする緩和策ではインパクトが弱く、景気刺激のカンフル剤になったとは言い難い。景気判断の下方修正は、緩和策が十分ではなかったことの証明ともいえるが、今回ばか りはあまり政府・日銀を責められない。ギリシャに端を発した財務危機はイタリアに飛び火し、フランスやオーストリアなどトリプルAの格付けを持つ国の国債まで売られるなど、影響はユーロ圏全体に及び始めた。このままでは当局者の手に負えなくなるとの懸念が広がるほど深刻な事態である。 景気回復の足かせになっている円高の原因は、日本経済の実力ではなく、欧米経済への 不安からドルやユーロが売られ、消去法的に円が買われているためだ。欧州危機の連鎖に歯止めをかけないと「超円高」は止まらないだろう。 債務危機が深刻化する一方で、ドイツなどは財政負担の増大を恐れて支援強化に消極的 だ。有権者の反発を恐れる気持ちは分かるが、ドイツはこれまでユーロ安のおかげで膨大な輸出を積み上げてきたし、現在も輸出は好調である。通貨安の恩恵を受けてきたドイツは今度は明確にユーロ諸国を支える決意を示すべきだ。財政支援を渋って「小出し」にする状況が続けば、事態は加速度的に悪化し、必要とする資金量も増えていく。それがバブル経済崩壊後、不良債権処理に苦しんできた日本が得た教訓である。 先の20カ国・地域(G20)首脳会合では、欧州連合(EU)は新興国の資金協力を 当てにしていたといわれる。しかし、欧米からの資金引き揚げに悩む新興国にそんな余裕があろうはずはなく、外貨準備が豊富な中国ですら支援に触れなかった。それは当然の成り行きであり、まず欧州全体が危機感を持って現実に立ち向かう姿勢を示さねばならない。日米など他国の支援は、次の段階の話である。
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