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【暮らし】

<はたらく>派遣法改正 たなざらし 「早期成立」求める声

牧義夫・厚生労働副大臣(右)に労働者派遣法改正案の早期成立を要請する鴨桃代会長(右から2人目)ら=9日、厚生労働省で

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 二〇〇八年秋のリーマン・ショック後に社会問題化した「派遣切り」など、派遣労働の弊害を防ぐ目的で、民主党など政府・与党が国会に提出した労働者派遣法の改正案が、継続審議のまま一年半もたなざらしになっている。派遣の現場で働く労働者や支援者からは「早急に成立させるべきだ」との声が高まっている。 (稲田雅文)

 「どこまで我慢すればいいのか。正社員、非正規社員といった身分で差別されることのない社会に一刻も早くしてほしい」

 十月中旬、東京都内であった「反貧困世直し大集会二〇一一」。「廃案にさせない労働者派遣法改正!」と銘打った分科会で、派遣労働者として働く関東地方の五十代女性は訴えた。

 十年以上前に母子家庭になり、就職先を探したが正社員になれなかった。派遣会社に登録をして今の派遣先企業で働き始めた。

 労働者派遣法で定められた専門二十六業務の一つ「OAクラーク業務」に就き、データ入力や文書作成をする契約。しかし、実際は正社員と同じ仕事を何でもこなし、必要に迫られて英語も独学で学んだ。

 正社員への登用を目指し、毎年一つのペースで資格を自費で取得したが、時給アップにすらつながらない。正社員なら当たり前のボーナスや住宅手当、慶弔休暇もない。

 上司のミスを押しつけられ、課長に相談すると「そんなにつらいなら死んだらどうか」と暴言を吐かれた。契約は三カ月更新を繰り返し、更新が近づくと雇い止めを恐れて、びくびくする。「人間扱いされていない」と感じている。

 同法は、派遣労働者が正社員の代わりに使われるのを防ぐため、三年以上派遣されると派遣先企業に雇用義務が生じるなどの制限を設けている。しかし、専門二十六業務は例外で、派遣先企業が専門外の業務もさせるなど、都合よく派遣労働者を使い、法の抜け穴になってきた。

 改正案では、登録型派遣を原則禁止とするが、専門二十六業務については例外とする。専門業務の見直しもなく、この女性の場合、今回の改正で直接今の雇用形態に規制が掛かるわけではない。それでも「まずは労働者保護を目的とした改正を実現してほしい」との思いから声を上げた。

     ◇

 個人加盟の労働組合でつくる「全国コミュニティ・ユニオン連合会」の鴨桃代会長はこの七、九の両日、民主党と厚生労働省に対し、改正法の早期成立を求める要請書を提出した。

 要請書は、改正案が一年半も審議されないまま放置されていることを批判。「成立が遅れれば、貧困はさらに拡大する」と訴えた。

 鴨会長は「リーマン・ショックに続き、東日本大震災でも雇い止めになった派遣労働者がいる。震災以後『仕事があるだけまし』との声も出るが、切ってもいい労働者として固定化されるのはおかしい。ますます雇用が劣化しかねない」と訴える。

 名古屋大の和田肇教授(労働法)は「労働者派遣法は、より総合的な規制をかけ、専門的な知識や技術を生かし、希望する働き方を選べるという本来の性格に戻していくべきだ」と指摘。「従来は家計の補助的な働き方だった非正規労働が、家計を支える人にまで広がっている。雇用と所得を安定させるため、新しい雇用システムの全体構想を政治主導で議論するときではないか」と語る。

<労働者派遣法改正案> 「派遣切り」などが社会問題化したことを受け、政府・与党が2010年4月に衆議院に提出した。製造業派遣を原則禁止し(1年を超える常用雇用の労働者派遣は例外)、仕事があるときだけ雇用する「登録型派遣」を、秘書や通訳、ソフトウエア開発、機械設計など専門26業務を除いて禁止する。

 さらに、派遣先企業が、違法と知りながら派遣労働者を受け入れている場合は、労働契約を申し込んだとみなす「みなし雇用制度」を盛り込むほか、「日雇い派遣」など2カ月以内の雇用契約の派遣も原則禁止する。

 

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