携帯電話の普及に押され、急減した公衆電話が東日本大震災を教訓に、緊急の連絡手段として見直されている。震災時、携帯電話の通信量が全国で通常の50倍になって混雑し、つながりにくくなったためだ。東京では災害時に無料で利用できる公衆電話の配備が進む。名古屋は商業施設などの公衆電話の屋外移転に向け、動きだした。震災の直接的な被害のなかった九州の危機感は薄く、そうした取り組みは見られない。識者からは「九州でもお年寄りら情報弱者を守るためにも、公衆電話を確保すべきだ」という声が上がっている。
NTTグループによると、携帯電話や一般の固定電話は、特定地域で通話が集中した場合、システムダウンを警戒して通話制限が設けられる。しかし、公衆電話は「優先電話」との位置づけで通話制限がなく、回線寸断など被災しなければ、災害時に最もつながりやすい通信手段になる。
NTT東日本によると、公衆電話は1984年には全国で約93万5千台あったが、2010年は約25万2千台と、4分の1まで減少。福岡県内でも85年の3万7615台が、10年は約7割減の1万361台になった。携帯電話の普及に伴い、通話料が採算ラインとされる1台につき月額4千円に満たない公衆電話が増えたためという。
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震災直後、首都圏や東北地方では携帯電話の通話が混み合い、通信が規制されたため、安否確認や帰宅が困難になった会社員らが公衆電話の前に長蛇の列をつくった。
こうした事態を受け、東京では9月から、大手コンビニエンスストアのセブン-イレブン・ジャパンとNTT東日本が連携し、災害時に無料で利用してもらう「非常用電話」を設置。セブン-イレブン・ジャパン広報部によると、12年2月までに都内の約1200店舗に設置する。
また総務省中部管区行政評価局要望を受け、NTT名古屋支店は6月から、管内で屋内に設置され、24時間の利用が難しい公衆電話を順次、屋外へ再配置している。
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九州では、こうした動きは見られない。ただ、05年の福岡沖地震が発生した際、福岡市役所前の公衆電話が大混雑。福岡市が、九電体育館などの避難場所に無料の「特設公衆電話」38台の設置を完了したのは、発生から5日後だった。
東日本大震災後、比較的伝わりやすい短文投稿サイト「ツイッター」などが注目されたが、大停電になると使えなくなる場合がある。福岡市南区の主婦(82)は「そもそも使い方がよく分からない。街に公衆電話が少なすぎて、探し回ることもある」と嘆く。
千葉大工学研究科の塩田茂雄教授(都市環境システム)は「大停電を誘発するような災害が起きた場合、公衆電話は重要な通信手段になる。ただ、採算面からみて、NTTだけに設置の責任を押しつけると限界がある。国や自治体がサポートして、有事に備えるべきだ」と指摘している。
=2011/11/15付 西日本新聞朝刊=