2006年までオリンパスに勤務しましたOBの宮田耕治です。この数週間、オリンパスに関する耳を塞ぎたくなるようなニュースが新聞、テレビで報道され、客観的に見てオリンパスが独立した企業として存続できる可能性が日ごとに減少しています。

愛するオリンパスが消滅するかもしれない、このような状況をこのまま何もせず座視することに耐えられなくなり、昨日朝日新聞のインタビューを受ける形で私の気持ちを公にしました。きっと皆さんもショック状態の中、「信じられない、そんなはずは無い、きっと何とかなるはずだ・・・」と毎日願っておられると思います。しかしオリンパス丸は沈没寸前で、今までオリンパスを支え続けてくれた関係者が、どんどん離れてゆきます。私は離れる選択肢などない、あるいは考えてもいない皆さんに「まだチャンスはある、今行動を起こせば」と呼びかけたいと思います。社外にいるからこそ見えてくるオリンパスの危機の深さ、深刻さをできるだけ正確に理解し、それをチャンスに変えるための方策を自分なりに考えてみました。それを皆さんと共有し、今こそ立ち上がろう、と呼びかけたいと思います。

東証の管理ポスト入りから上場廃止まで一ヶ月です。中間決算発表が12月14日の期限に間にあわなければ自動的に上場廃止です。これだけは何とか現経営陣に頑張ってもらうしかありません。そのうえで有価証券報告書に虚偽記載があり(ほぼ確実)、その影響が重大であると判断されれば上場廃止になりますが、私の理解では「重大である」との判断には裁量の余地があります。この裁量に我々が影響を与えられるとしたら「オリンパスは再生できる」との強力なメッセージを全社一丸となって発することしかありません。

しかしより現実的なタイムリミットは「内視鏡事業が致命的なダメージを受ける前」だと考えるべきです。オリンパスの事業で、今社会が消滅させるには惜しい、と考えてくれるのは残念ながら内視鏡事業だけでしょう。もしも内視鏡事業が主要顧客から見放され、国公立の入札から全面的に締め出されれば、それをきっかけに大きなダメージが生じます。内視鏡は磐石だ、などと勘違いしないでください。顧客は汚れた企業から商品を買い続けたいと思いませんし、代わりはいくらでもありますから。

オリンパスの犯した「損失隠し」は、手口が巧妙で、長期間且つ巨額です。 既に判明したものと、それ以外にもあるなら早急に全てを明るみに出し、「これで全てです。もうありません。」と言う状態を短期間に確立する必要があります。問題はそれを果たして社会が信じてくれるかどうか、と言う点です。現経営陣のクレディビリティが完全に失われているからです。これが当面最大のハードルです。

私はこの課題をクリアするにはウッドフォード氏の復職しか道は無いと思います。ウッドフォード氏は7月号のFACTAと言う経済雑誌に暴露された「オリンパスの無謀なM&Aによる巨額損損失、反社会勢力との関係?」と言う記事を見て、オリンパスの役員の中、唯一人「万が一も事実であれば大変なことだ」と、密かに行動を起こしました。そして説明のつかないM&A関連の巨額支出が、13億ドルと言う驚愕すべき巨額な株主価値の毀損につながった、と言う事実を把握(その時点では過去の損失隠しが目的であった、とまでは理解していなかった)し、現経営陣に辞任を迫り、解任されました(このいきさつは多くの皆さんが知らされていない部分があり、別途詳しく説明します)。ウッドフォード氏はその勇気、使命感、信念の強さを世界中から絶賛されています。海外の大株主がオリンパスに対してウッドフォード氏の復職を迫っているのは「彼が言うことなら信じられる」と考えているからです。彼に復職を願い、完全に膿を出し切り、再出発の必要最低条件を早急にクリアする。これがまず第一のハードルです。

日本の首相にまで「オリンパスのガバナンスの酷さが、日本の他の企業までそうだと世界から見られることが無いように・・」といわれるほど、オリンパスのガバナンスは「形は立派だが魂が入っていない」ガバナンス体制の代名詞となってしまいました。この状態から、「もう再発は無いだろう」と社会に納得してもらえる、魂の入った一流のガバナンス体制を短期間に構築し、実行に移さなければなりません。今の経営陣にこれが出来るでしょうか?これが二番目のハードルです。

私はこの課題をクリアするにもウッドフォード氏の復職しか道は無いと思います。理由は最初の課題で述べたことと同じく、彼のクレディビリティの高さに加え、世界で通用する一流のガバナンス体制と実行に関する彼の見識の高さです。

オリンパスが毀損した株主価値は、今回明るみに出た一千数百億円とも言われる過去の損失だけではなく、この6-7週間の株価急落で投資家に与えた資産価値の急減、更には今後発生するであろう売上、利益の減少などを含めて考えると、償わなければならない毀損額は気の遠くなるようなものになります。オリンパスはこれをどれだけかかってもきっちりと取り返してゆかねばなりません。それには全社一丸となって、極めて広範で、しかも大きな痛みを伴う大改革に取り組む覚悟が必要です。内視鏡事業が致命傷を受ける前であれば、私はこれは十分可能だ、と信じています。

この課題をクリアするにも、私はウッドフォード氏の復職が最も可能性を高める道である、と信じています。ウッドフォード氏は「日本人ではなかなか徹底できない部分まで、思い切った改革を実行してもらいたい」との期待から、現経営陣の総意で本年4月に社長に選任されたわけです。この状態のオリンパスを引き受けてくれる、世界に通ずる一流の経営者がスタンドバイしてくれているわけではなく、私はウッドフォード氏の復職を願うしか我々に道はないと思います。

10月1日、オリンパスのグローバルサイトに「10月1日付でウッドフォード氏が代表取締役社長/CEOに就任した」とのオリンパスの公式ニュースレリーズが掲載されました。その中で「ウッドフォード氏のこの半年間の経営姿勢、成果に大変満足している。経営執行全体を任せ、更なる成果を期待したい」旨の菊川会長/前CEOの談話が紹介されました。何故「旨」なのかと言うと、不思議なことにその公式レリーズは英語だけで、日本語サイトには一切掲載されていませんでした。従ってこの事実を知らなかった日本の従業員の方が多いのではないか?と思います。

それからたった2週間後に、ウッドフォード氏は突然解職されました。 その理由として「日本式経営の伝統を無視し、組織を無視した独断専行で指示命令を混乱させ、日本に滞在して指揮を取る期間が少なすぎ、現経営陣から大きな危機感が寄せられたため」と説明されました。そしてグローバルサイトに掲載されていたウッドフォード氏をたたえるレリーズはいつの間にか削除されています。世界に向けたオリンパスの公式発表が、現経営陣にとって「不都合な真実」として消えていってしまったのです。まるでどこかの新興経済大国での出来事のようです。

ウッドフォード氏の解職理由は、氏が繰り返し主張している通り、オリンパスが20年に及ぶ長い間隠し続けてきた巨額損失の処理を目的として行った、説明のつかないM&A活動の事実を究明し、その事実を下に経営トップに辞任を迫ったためであることは明らかです。

以上1-5で述べたとおり、私が理解するオリンパスの危機の深刻さ、残された時間内にオリンパス復活のきっかけを掴むには、次のことが必要です。

1) 我々の不明を恥じ、行動する勇気が無かったことを率直に認め、その上でウッドフォード氏に対する故の無い中傷、名誉毀損に対して、心から陳謝すること。

2) オリンパス復活の「奇跡」を引き起こすため、声を一つにして氏の復職を嘆願すること。

3)そしてウッドフォード氏が復職し、上記2-4の課題をクリアできた暁には、オリンパスは完全に膿を出し切ったクリーンな身体で、二度と不祥事を発生させない立派なガバナンス体制を持ち、そして毀損した株主価値を出来るだけ早期に取り戻すべく、全社一丸となって大改革に挑戦する、「真のグローバル企業」のモデルケースとなりうる道が開けることを信じて立ち上がること。

私の呼びかけに応じて行動を起こそうと考えてくれる人の為に、こののウェブサイトを立ち上げました。このサイトに応募してくれることで、我々の声の大きさを日本の、そして世界の人たちに、そして誰よりもウッドフォード氏に伝えたいと思います。現役の従業員の方はもとより、OBも歓迎いたします。出来れば実名で、もしそれが難しければ匿名で、応募欄に記入をお願いします。またその前に納得するために私に対して質問があれば、出来る範囲でお答えするQ&Aのセクションを併せて設けたいと思います。限られた知識と時間の中で始めたことゆえ、走り出してみていろいろな問題に直面するであろうことは容易に想像できます。でも「座して死を待つ」よりは、と思い、走り出しました。

手を貸してください。



2011年11月12日

宮田耕治
koji@olympusgrassroots.com

オリンパス株式会社、元専務取締役
オリンパスメディカルシステムズ株式会社、元社長