2011年9月15日 23時39分 更新:9月16日 0時35分
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は15日、金星周回軌道への再投入を目指す探査機「あかつき」の軌道制御エンジンの2回目の試験噴射の結果、再投入に必要な推進力が得られなかったと発表した。これにより、当初目指した金星観測に適した軌道への投入は不可能となった。
今後、姿勢を整える目的で搭載された別の「姿勢制御エンジン」を使っての再挑戦を模索するが、設計上の推進力が弱いため、仮に成功しても、金星の遠くを90日で1周する楕円(だえん)軌道から遠巻きに観測することになるという。
あかつきは昨年12月、金星を間近に観測できる軌道へ移る際、逆噴射による減速が不十分で軌道に入れなかった。軌道制御エンジンの逆噴射に必要な燃料が、配管の弁が詰まるトラブルで十分供給されず、短時間に終わったことが原因だった。
あかつきは現在、金星とほぼ同じ軌道上にあり、太陽の周りを回っている。JAXAは、あかつきが再び金星に近づく15年11月を目標に軌道制御エンジンを噴射させ、当初計画通りの軌道へ再投入することを目指していた。
同エンジンの性能を確かめるため、今月7日に2秒間試験噴射したところ、推進力が予定より大幅に低いことが判明。14日に5秒間の再噴射試験を実施したが、予定の8分の1~9分の1しかなく、推進力不足は確実と判断した。
15年11月の軌道投入を実現するには、今年11月に約400秒間、エンジンを噴射してあかつきの軌道面を微調整する必要がある。JAXAは「どちらのエンジンを使うかを9月中には決めたい」としている。【野田武】
金星の自転周期は243日なのに、大気は4日で1周するほど速く循環している。「スーパーローテーション(超回転)」と呼ばれるこの不思議な現象を間近で観測するためにあかつきは開発された。だが今回、当初の軌道投入が絶望的となったことで、約250億円をかけた計画は大幅な変更を迫られる。
次善の策としてJAXAは、推進力の弱い別のエンジンを使って遠い軌道への投入を検討しているが、1周に要する時間は72倍、金星からの距離も最大10倍と遠い。観測機会は大幅に減り、得られるデータも限られる。
救いは、観測作業にかかわる探査機の不具合が見つかっていないことだ。JAXAは、新たな条件下でのデータに期待をつなぐ。「限られた観測機会の中で成果を得られるよう、観測計画の変更を考えたい」としている。
日本の惑星探査は探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワの微粒子を持ち帰る成果を上げた一方で、火星を目指した「のぞみ」が03年に軌道投入に失敗、続くあかつきも大きな失敗を経験した。惑星探査を「あかつき後」につなげるためにも、11月に控える難局を含め、最善の努力が求められる。【野田武】
縦横約1.4メートル、高さ約1メートルの箱形で重さ約500キロ。1周約30時間で金星を周回する軌道に投入される計画だった。地球とほぼ同じ大きさだが気象条件が異なる金星の詳細な観測を通じて、生命が存在できる環境についての理解が深まると期待された。開発費は打ち上げを含め約250億円。
2010年
5月21日 種子島宇宙センターから打ち上げ
12月8日 「金星周回軌道投入に失敗」とJAXAが発表
12月27日 軌道制御エンジンの燃料供給系配管の弁不調が原因と断定
2011年
6月30日 15年11月に金星周回軌道へ再投入する計画を発表
9月9日 試験噴射の結果、推進力不足が判明
9月14日 2度目の試験噴射を実施
9月15日 推進力不足が確定、本来の軌道投入は不可能に
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