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[30466] 【習作】空枷
Name: ko-ma◆6a49de83 ID:c6557193
Date: 2011/11/10 23:00
初めまして、ko-maと言います。
えー、初めて小説、というか文章を投稿させていただきます。
稚拙なところばかりでお恥ずかしいのですが、気まぐれに読んでみるかという挑戦者をお待ちしております。

※この物語はオリジナルです。
※この物語にはTS(になるのかな?)分が含まれます。
※この物語には(今のところ)主人公が3人いますが、完結までに何人か死にます。
※ジャンルとしてはファンタジーに分類されるのではないかと思っています。

以上の内容が許容できるか頼み、先へ御進みください。



[30466] 第1話 生き字引に聞く世界の命運
Name: ko-ma◆6a49de83 ID:c6557193
Date: 2011/11/10 23:12
空枷
第1話 生き字引に聞く世界の命運

 世界には未知の力を秘めたモノが眠っている。それらは「エギー」と呼ばれ、主に自然界のものに宿る。空気にすら溶けているようだ。
 人間はどうにかエギーを利用できないか試行錯誤を重ね、腕輪として磨くことに成功した。
 エギーを腕輪に磨くのは職人。腕輪に頼らずとも不可思議を成すことが出来るのがエギーの御子。腕輪は人々に力と希望を与えた。
 職人たちは腕を競うように腕輪を作った。それこそあふれる海のように。
 国はそれを利用して戦争をした。
 あるとき2つの大国がぶつかり合い最大攻撃を互いに放った。片方の国土は焼かれ、もう片方は領民を皆殺された。
 このままでは共倒れだと悟った国王らは和平を結び、以降世界は安定した。
 世界の安定により腕輪の需要は減り、反比例するかのように職人の腕は落ちていった。

 出典「エルギネア博物歴史図鑑 初版」より




 2人の転生者。一人は死に、一人は生きる。
 この世界の僕が死ぬとき彼女がボクとなり、かの世界の彼女が耐えられなくなったとき彼が彼女の手を取った。
 助けてくれる誰かを望み、届かなかった少年。願いの発動の瞬間に数ある世界の中からコンマ1秒の狂いもなく肉体から開放され自由になった魂が呼ばれた。
 腕輪に捉えられた彼が死亡したときにその魂が腕輪に憑いた。恐怖から逃れたい彼女が触れた瞬間に二人は入れ替わった。

 果たして、4人の運命の輪はどのような軌道を描くのだろうか。




____________________________________



「どこだろう、ここ」
 ロッカーから出てきた少女は呆然と呟いた。

 どこの世界にもいじめは存在する。
 高校デビューを失敗したらしい私はそのターゲットにされた。
 髪も化粧も服装も、これといって頓着しない私は、ノーメイクで髪は無難に後ろで1つ結び、規則どおりの制服姿で学校に通っていた。
 高校1年生にして172cmという長身も影響して、私はなんとなしに遠巻きにされていたのだが、それにほんの少しの不満をくすぶらせて日常を過ごしていた。
 ある日、クラスのリーダー的女の子の声を無視した。それは私が普段からそんなだから、ちょっとした意趣返し、仕返しのつもりだった。
 翌日、上履きを隠された。
 なんてベタな、と考える暇もなくそこからは坂道を転がり落ちるようだった。
 無視もされたし、物を隠されたし、口汚く罵られたりもした。
 体格差から手を上げようとするものはいなかったが、それでも陰険ないじめは続いた。
 抵抗もしない私に、周りは付け上がり、とうとう事件が起きた。

 卒業式前日の掃除終わり、ロッカーに箒を収めていたときのことだった。
 突然背中を押され、たたらを踏んでロッカーに足をかけたらドアを閉められた。ロッカーに閉じ込められたのだ。
「机置いてきた」
「あー、ひっでー」
「それじゃ扉開かないじゃん」
「だって何も言わないんだもん。つまんなかったからさぁ」
「そーだねー」
 外から声がもれ聞こえる。音量からしてもう教室を出るところのようだ。
 狭い空間ではしゃがむこともできず、背中には硬い棒がごつごつと当たり、足元からはかび臭いような濡れた臭いがした。
 授業はもう終わったし、部活も入ってないし、時間的余裕はたっぷりとある。
 しかしそれは逆に、見つけてもらえない可能性も大きい。
 この書道教室は人通りの乏しい廊下に面している。書道部なんて部も無いから、ここを通りかかる人は皆無に等しい。
 「今は何時だろう」とか、「立ちっぱなしで疲れたな」とか、瑣末事が浮かんでは消えていった。
 異変が起きたのはそれからしばらくしてのことだった。
 ガタガタと揺れる体。いや、空間全体が揺れている。
 激しい横方向の振動だ。
 誰かが外から揺らしているのか?
 疑問をめぐらすうちに振動は収まった。
 首をかしげ、「誰かいるの?」と声を掛けるも返ってくるものはない。
 上の階からがたがたと机やイスを動かす音が聞こえる。
 何だろうと思考に耽りかけた瞬間、大きな揺れが襲い掛かった。
 先ほどとは比べ物にならない揺れが足元から伝わってくる。
 どこからか、バリバリだのガラガラだの日常とは遠くかけ離れた破壊音が聞こえる。
 キャーだのワァーだの嬉しそうな色を孕んだ声が、次第に切羽詰った断末魔に変わる。
 何が起きているのか分からない。
 視界が閉ざされていることを恨んだ。
 揺れる揺れる。ずしんと大きな縦揺れから余韻の横揺れへ。
 何だこれ何だこれ何だこれ。
 思考からはその単語しか生まれてこない。

 どれくらい時間が経っただろう。経ちっぱなしも疲れたな、と何の気なしにドアにもたれたとき、ドアが開いた。
 出られた喜びよりも、後頭部を地面に強かにぶつけた痛みで身悶えた私は、立ち上がると周囲を見渡した。
 ジャリッと上履きが地面とこすれる。
 どこか廃墟となったビルを思わせる部屋の中だった。
 しばらく呆然としていると、男が部屋に入ってきた。
「どこから忍び込んだ」
 黒いサングラスとスーツ、いかにもという格好の恰幅のいい男だった。
「ここに閉じ込められていたんです」
 私は後ろのロッカーを指差す。
 男は馬鹿にするなと眼光をぎらつかせ、どこの組だ、何者だと、私に尋問しだした。
 わけの分からない事態に混乱する私は、正直に話した。
 1年A組の要叶です。閉じ込められていただけで、家に帰りたいんです。
 そうとしか応えられないのに、男はふざけるなと怒号を上げる。
 男はおもむろに懐からナイフをとりだした。
「うそ・・・・・・」
 突然迫り来る死の恐怖に、体が震える。
 まじめに応えろと再度質問攻めに逢うが、脅されても答えは変わらない。
 思い通りにならない事態に癇癪を起こした男は、ならば死ね、と腕を振り上げる。
 劈くような音の後、私の背後にあったロッカーに穴が開いた。
 死んではいない。ほっとしたのもつかの間、男が私に迫ってくる。
「せっかく女が来たんだ。そのまま殺すわけ無いだろう。」
 にたりと浮かべる笑顔に寒気がした。
 逃げられるはずもなく、抵抗むなしく私はあっさり捕まえられた。
 上へ報告に行くらしく、私はその間牢屋へ繋がれるらしい。

 嫌だ。
 しかしここで暴れても殺されるだけ。

 そうして私は繋がれた。
 それが運命の出会いとも知らずに。




_____________________________________


 苦しい。
 唐突に起こったそれにパクパクと口を開閉するが、一向に酸素は入ってこない。
 当たり前だ。首を絞められているのだから。

「おとうさん」
 声にならない声を掛けるが、相手には届かない。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
 彼の母親が亡くなったときから、父親はおかしくなった。


 ベルトラン・カシオはいわゆる富豪の一人息子であった。
 カシオ家は代々宝石商として名を馳せてきた。僕の父で5代目らしい。
 僕は、父ライネル・カシオと母アリエス・カシオの間に生まれた一人息子だ。
 父は婿養子だったため、カシオ家の頭首の名は肩書きだけ。
 実質は母の父、僕にとってはお爺様であるオーリアン・カシオが家の実権を握っていた。
 父と母は政略結婚らしかったが、夫婦仲は良く、穏やかな父と慈愛溢れる母は幸せな家庭を築いていた。
 母が他界するまでは。
 病気だった。発症から1年を待たずして、母は帰らぬ人となった。
 そして父は壊れていった。
 
 運命のその日は、湖畔の別荘にて過ごしていた。
 父の休養、精神的な療養として、ここを訪れたのだ。
 僕もここを気に入ったし、父もやつれ顔にも回復の兆しが見えた気がした。

 しかし

 僕は今、首を絞められている。
「と・・・・・・さん。苦、し」
 かすれかすれのその声は果たして父の耳に届いているのか

 きっかけは赤ワインだった。
 地下のワインセラーから夕食用に父の好みのものを運んでいたのだが、躓いて転んでしまった。
 ボトルが割れてしまい、ガラス片で手を切った。
 散々だと思いながら、立ち上がろうとしたとき、音を聞きつけて父が食堂から出てきた。
 父は何事かを呟き、僕に覆いかぶさった。
 ワインの染み込んだ絨毯が冷たかった。
 母は血を吐いて、ベッドの真っ白だったシーツを赤に染めて逝った。
 今思えば、その光景がフラッシュバックしたのだろう。
「お前も私を置いて・・・・・・ああ、神よ息子はやらない。私がこの手で命を摘もう。」
 父はうわごとのように繰り返す。
「心配するな、私もすぐに行こう。二人でアリエスに会いに行くんだ」
 錯乱状態の父はいつもの穏やかな笑顔を奇妙な具合に引き吊らせて、歪ませていた。
 それとも、僕の目も霞んできたから歪んで見えるのだろうか。
 誰か、誰か誰か誰か
 必死で念じるもこの屋敷には僕と父さんの二人しかいない。
 ああ、誰かが父の手を取って、父を救ってくれたらいいのに。
「愛しているよベルトラン」
(僕もだよ、父さん)




_____________________________________



 何も無い人生なんてつまらない。
 進学して就職して結婚して家庭を持って老いて死ぬ。
 それも一つの人生だし、それが幸せの一般論。
 細く長く、は日本の一つの美徳だけれども・・・・・・。
「なんかこう、常識を覆すような何かが起こらないかなぁ」
 私は太く短く派なのだ。
 卒業前に学校で出来そうなことを片っ端からやってみようと、私は躍起になった。
 図書館の本を全て読破したり、
 夜の学校に忍び込んだり、
 校庭にミステリーサークルを描いたり、
 街路樹伝いで二階から教室に入ってみたり、
 全ての教室の扉に黒板けしをセットしたり、
 トイレの花子さんを演じてみたり。

 そして今、
「わー!屋上ってやっぱりなんかいいよね!!」
 この学校の屋上にはフェンスなんて無い。だから頑丈に鍵をかけて生徒が上れないようになっているのだ。
 だがしかし、
「ふふふ。扉や鍵なんてのは開かれるためにあるのよ」
 この少女の前では無駄だった。
 空を自由に飛んだり、他人と入れ替わったり、魔法が使えるようになったり、SFやファンタジーの世界にあこがれる。
 アニメや漫画の主人公みたいに世界を冒険してみたい。
「そんな馬鹿なことを考えるのも今日で最後ね」
 今日で二月は終わり、明日は三月一日。卒業式だ。
 私は就職組みだから、四月からはOL生活が始まる。
「ネバーランドへ行きたいなんて、ウェンディではないけど・・・・・・」
 せめてこの日常の中の本の少し非日常を目に焼き付けておこうと、屋上の端から街を眺める。
 そのとき、地面が揺れた。
「え?」
 足をすくわれ、4階建ての校舎の屋上から落下する。
 ジェットコースターの様な浮遊感。
 死の迫るその間隔に、太く短くの発言を全面的に撤回したくなった。
 瞳に風が当たり、痛い。思わずぎゅっと目をつぶっては反射の涙が端から飛ばされていく。
 ふと刹那、時が止まったかのように教室が目に入る。知らず、手を伸ばした。
 誰か、誰か誰か誰か
 私の手を取って。
 私を救って。






[30466] 第2話 出会い頭に秋の空
Name: ko-ma◆6a49de83 ID:c6557193
Date: 2011/11/12 00:46
空枷
第2話 「出会い頭に秋の空」

腕輪の分類
○道具輪 ただの凡人でも発動させることが可能。
 料理道具や工具、様々な道具に形を変化させる輪。
○通信輪 遠くの人・物とやり取りができる。
 輪を掌に乗せると相手の腕輪の波動をキャッチし輪の中に相手の姿を映して会話が可能。
 精度の高さは職人の腕によって異なる。粗悪品は稀に混線することがあるので注意が必要。
○攻撃輪 警備員や騎士が使用する。一般的には光弾を飛ばすものが多い。
 当たると衝撃で吹き飛ばされる。殺傷能力は低い。
○オリジナル 上記の輪とは違い、職人独自の工夫が施されている。
 性質は輪によって異なるが、道具輪、通信輪、攻撃輪に大別できる。
○装飾輪 単に着飾るための装飾品としての輪。
 香りのするものや、宝石がはめ込んであるもの、材質が高価なものが多い。

腕輪の製造
 中世までは多くの職人が一つずつ手作りしていた。
 近世以降は店によって輪の設計図が存在し、現在日常用の腕輪は工場で店員によって生産されている。
 オリジナルの職人は現存しているが、世界でも少なく、庶民にはまず手の届かない品である。

出典「初等部教本 腕輪の知識」より

________________________________________
 

 逃げろ逃げろ逃げろ
 頭の中で何者かが声高に叫ぶ。
 男の答えは冷静だった。
 無理だ。
 俺はこれから逃げられない、逃げられないんだ。
 諦めてくれ。
 男は逃げられないことを悟っている。
 ずっと昔からこの牢屋に、この枷に繋がれているのだから。そんな気も失せてくるというものだ。
 だから彼女の意思が逃げようともがいても、反抗してしまうのだ。
 いや。嫌!嫌!嫌!!
 ならばソレも、それも一緒に逃げればいい!
 だからここから、誰かここから私を出して!!!
 少女はどうにかして逃げようとする。
 それは彼女にはこんな経験が無いためであり、今まさにありえないことを体現した自分がありえない事象をありえない方法で脱することができると信じている。

 出して!
 無理だ。
 出して!!
 無理だ。

 何度この問答を続けたことか。
 少女はいわゆる悪党の住処に忽然と現れ、洗いざらい吐かされた後、嘘吐き女と罵られ、手に輪を嵌められて牢屋へ繋がれている。
 男は気の遠くなるような昔から腕輪を嵌められたまま長い時を過ごしている。

 理解した。この肉体は彼女のものだ。
 なら俺は?俺は何者だ。
 俺はいつの間にか俺という形を無くしていた。
 彼女の肉体なのに彼女は動かすことができない。
 なぜなら彼女は逃げ出してしまったから。
 なぜなら俺が彼女の中に入ってしまったから。
 彼女はヒステリーに、出して出してと泣き喚く。
 俺は彼女にこれくらいしかしてやれない。

「分かった、出よう。ここから一緒に。」

 男は簡潔に答えを述べた。
 この腕輪の特性は知っている。
 男はエギーの特性を知っている。
 よって、少女と男の二人がここにいる時点で牢からは出られるのだ。
 ただ、この瞬間まで、男の心が動かなかっただけ。
 少女はその心を動かした。
 彼に手を差し伸べ、彼が手を取っただけのこと。
 それだけのことなのだ。
 そしてそれが、2人の物語の始まりだった。
 
________________________________________


 色の無い世界で、少女はたゆたっていた。
 一瞬かもしれない、千日かもしれない。
 少女の前には少年がいる。少女よりも一回り小さい、12、3歳くらいの少年だ。
 なんて美しい人間だろう。
 少女はそう思ったかもしれないし、そう思わなかったかもしれない。
 少年はあちらを指した。
 少女はつられてあちらを見る。
 少年が青い顔で横たわっていた。

 目のさめる感覚。
 その瞬間、彼の声を聞いた気がした。




「はっ」
 目を開けると、そこには見知らぬ男の顔。
 彼女は精一杯の力で押しやった。
 男はその行動で我に返ったかのように、なにやらうわ言を繰り返している。
 けほけほとむせて、喉に手をやると、ひりひりする。
 先ほどまで圧迫されていた血管に血が巡り始め、頭もくらくらしている。
 しかし少女の思考は明晰だった。
「なるほどね、状態は把握したわ」
 つかつかと男と距離を詰める。
「本当にこんなことが起こるなんて、ずいぶんとテンプレートからは外れているようだけれど」
 なにやら男は青い顔をしている。数秒前はこの肉体の顔を青くさせていたくせに。
 男のすぐ前へ立つ。
「ベ、ベルトラン」
「ベルトランじゃない!!」
 弱弱しい声に一喝する。
 加害者が被害者面をして悲観ぶるのが一番癪に障るんだ。
 男は口をパクパクと金魚のように開閉するが、空気だけが抜けて言葉は出てこない。
 好都合だ。最初にどでかい一発をかましてやろう。
 男の襟元を掴んで下へ思い切り引っ張る。
 男の体が傾げ、頭が下がってくる。
 目が合った。
「よく聞け!この体の持ち主は死んだ。あの少年は死んだ!これからはボクが彼として生きる!!」
 思い浮かぶ彼の顔。思い浮かぶ最期の声。流れてくる彼の記憶。
「今日からよろしくね、お父さん」
 手を離すと体が崩れた。
 最初、男はボクが何を言っているか分からないようだったが、そのうち、喉からしゃくり声が聞こえだした。
 そうして、ボクも男も天井に顔を向け、盛大にむせび泣いた。




―――お父さんを、よろしく―――

それが彼女の、この世界の住民とのファーストコンタクトだった。



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