むかしむかし、から始まる御伽噺
勇者、英雄が魔物、魔王をバッタバッタとなぎ倒していくそんな痛快な噺…
あいつはそれが大好きだった。
まあ、俺も好きだったが。
あいつはいつも眼を輝かして聞いていた。
勇者が敵を倒すときにはにんまり笑って、強い敵に出くわすと眉を八の字にして不安そうにして、笑って、怒って、泣きそうになったりして。
それは、大人になっても変わらなかった。むしろもっと好きになっていた。
「いつか勇者様の仲間になって魔王を倒してやる!」
俺はそれを無理だ、と言っているのだがあいつはまったく聞く耳を持たない。
特訓だ、と言って山に入って狩りをする。
持久力をつけるのだ、と言って村中を走り回る。
そしてなぜか俺がそれに付き合わされる。嫌だと言っても付き合わされる。さすがにクマのような魔物と闘って、怪我したときには懲りたと思った。
医者に2週間は安静にしてろと言われたのに次の日にはピンピンして走り回っていたらしい。俺はベッドの中でうなっていたのに…
つまりあいつはバカなんだ。しかも高性能なバカ。普通はやろうと思わない無理なことでもあいつはやりとげてしまう。村のやつに「あいつにあそこまでついていけるお前もかなりおかしいけどな」といわれたがそんなことはない。と思う。
そしてとうとう数年前にあいつは
「勇者様の仲間になってくる!」
と言って村を飛び出して行った。なんというか、開いた口がふさがらなかった。村のやつは冗談交じりで「本当に勇者様をつれてくるんじゃないか」と言っていたが、俺にとっては冗談にならなくて怖い。あいつのバカさをなめてはいけない。
そして今日あいつが数年ぶりに帰ってきた。
…勇者様と一緒に。
「ただいま!」
「…おう、お帰り。」
頭が痛くなるようなこいつは、俺の弟であり、まだ何かやらかしそうだなと溜め息を吐いた。