日本が『TPP』に加入すると牛丼は2割引き、一方で失業率は20%になる恐れ

[2011年11月07日]


参加の是非を巡り、連日、推進派と反対派で激しい議論が交わされている「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」。そもそもTPPとはどういった協定か、アナリストの青木文鷹氏が分かりやすく説明してくれた。

「基本的にすべての関税をなくす協定で、自由化のレベルが非常に高く、加盟国で物と人の流れを活発にし、経済的に“ひとつの国”になろうということ。つまり、日本が加盟すれば『TPP国の日本県』になるイメージです」

現在、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヵ国が協定を締結済み。これにアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアが参加を表明し交渉中だ。太平洋に面するアジア、オセアニア、北米、南米の各国で『TPP国』を形成するが、中国、韓国、カナダなどの大国は参加する予定は今のところない。

では、国同士が輸出入をするときにかけている関税、それを撤廃することで日本にはどういったメリットが生まれるのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの経済・社会政策部で主任研究員を務める片岡剛士氏はこう語る。

「政府の試算では、10年ほどで実質GDP(国内総生産)が0.5%から0.6%上がる。つまり、皆さんの所得が平均して0.5%ぐらい上がるということです。ものすごいメリットとかデメリットになるかというと、実はそうではありません。ただし、関税撤廃により物の流れが活発になれば、輸出が増えるだけではなく国内の生産性も高まるのです。さらに、日本は人口減で国内の需要は伸びて行く。貿易を自由化することで、日本はそうした需要を取り込むことができます」

これに対し、前出の青木氏はこう反論する。

「TPP交渉の参加国は1人当たりのGDPが1万ドルを割るような国や、GDPは高くても人口が1000万人に満たない国ばかり。例えば、交渉参加国のひとつ、ベトナムは日本でいえば年収50万円前後。そんな国に日本製の薄型テレビが売れますか? もし売れたとしても人口が少なければ大きな市場になりません。TPPの枠組みでは、結局、アメリカに売るしかないのです。ところが、日本の主な輸出品である車をアメリカに輸出する際の関税は2.5%でしかありません。さらに言えば、関税以上に円高の影響のほうがよっぽど大きい。どれくらいの円高が関税分の2.5%に相当するかというと、およそ2円前後です。TPP参加は、たったこの程度のメリットのために農業を含めた日本の基盤を売り払うということです」

その「たったこの程度のメリット」を青木氏は「牛丼」を例に出し、「TPPに参加すれば、約2~3割引きの270円前後になると考えられます」と述べる。消費者にとっては一見いいことのようだが、それには裏があるという。

「牛丼もそうですが、TPPはデフレを進行させます。製造業などでも海外の安い製品と直接的に競合しなければならないため人件費の圧縮を迫られる。それどころか、日本に工場を置いておく必要がなくなりTPP加盟国に工場を移転する会社が急増して、国内雇用がごっそりなくなり、失業率が20%になる恐れもある」(青木氏)

関税が撤廃されれば、確かに一部の物価は下がるだろう。しかしその反面、賃金も下がる職場も発生するということ。メリットとデメリットを天秤にかけた議論は、まだまだ続く。

(取材/頓所直人)

TPPの基本からアメリカの狙いまで。週刊プレイボーイ47号『徹底Q&A TPPで日本はどうなる!』

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