「とりとめのない夢想」と創造性

WIRED2011年11月9日(水)12:17
人間が「とりとめのない夢想」にふける時間は、起きている時間の半分にものぼる。覚醒と夢の中間にあるこの状態は、うまく使うと創造的なものになりうる。



刺激の欠けた退屈な状態は、価値がない時間と思われやすい。詩人のヨシフ・ブロツキーは、「退屈な状態」は「精神のサハラ砂漠」だと呼んだ。けれども彼は同時に、退屈とは「精神の窓だ」とも述べた。「もしこの窓が開いたら、閉めようとするな。大きく開けてみろ」と。
秘訣は、退屈それ自体ではない。退屈がどのようにわれわれを思考に向かわせるかだ。人は、刺激のない単調な状態に陥ると、脳が自動的に、特別な行動に入るようになっている。「とりとめのない夢想にふける」状態(Mind-wandering)だ。
効率にとりつかれた現代社会では、この状態は怠け者的な習慣だと思われやすい。フロイトはこの状態(白昼夢)を「幼稚な」思考の一例とみなした。生産的ではなく、問題を先送りする姿勢のあらわれというわけだ。しかし最近の神経科学は、この状態に関するわれわれの見方を劇的に変えている。
まずは、われわれは非常に頻繁に、「とりとめのない夢想にふける状態」に陥ることがわかっている。2010年にハーバード大学の研究チームが『Science』に掲載した論文はこのことをよく示している。研究チームは『iPhone』用のアプリケーションを開発して、ボランティアの被験者2,250人にランダムな間隔で連絡し、「いま何をしているか」「どのくらい幸せか」を答えてもらった。その結果、とりとめもないことを考えているという回答は全体の46.9%にものぼった。実際、彼らがとりとめもないことを考えていなかったのは、セックスをしているときだけだった。
とりとめもない状態の時、脳では何が起こっているのだろうか。2009年、ブリティッシュ・コロンビア大学のカリナ・クリストフと、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョナサン・スクーラーが率いる研究チームは、「経験サンプリング法」を用いた研究を行った。被験者をfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置に入れ、脳の状態を調べるというものだ。
「とりとめのない夢想にふける状態」は簡単に作り出せる。厄介な作業を大量にさせられると、被験者は数秒でこの状態に入るのだ(スクーラー氏らは、『戦争と平和』の退屈な章を読ませるなどの作業をさせた)。
この状態では代謝が活発になっていることは、以前から知られてきた。夢想にふけっているときの大脳皮質は、実は多くのエネルギーを消費しているのだ。スクーラー氏らは、そのような状態にあるときの脳の一連の活動を、さらに詳しく解明してみせた。
これまでは互いに対立して働くと考えられていた脳の2つの領域、すなわち、実行ネットワーク[複雑な問題を解決するときのような意識的なネットワーク]とデフォルト・ネットワーク[覚醒度が低く、外界に焦点をあてていないときのネットワーク]の、同時活性化が観察された。このことは、とりとめのない夢想状態においては、通常は対立しているネットワークが共同して働くような、ユニークな精神状態が生じている可能性を示唆するものだ。
ここで重要なことはふたつある。ひとつは、デフォルト・ネットワークへの言及だ。われわれは、いとも簡単に夢想に陥ることから、夢想は思考の「デフォルト・モード」だと考えられる。そしてもうひとつは、実行とデフォルトの両領域が同時に活性化したことだ。これは、夢想というものが、これまで考えられてきたほど「無心」の状態ではない可能性を示唆している。夢想は、睡眠時の夢と、覚醒した意識の中間にある、境界的な空間に存在しているようなのだ。それは、起きてはいるが、十分に現在に焦点をあててはいないような空間だ。
オーストリアの研究者たちが今年10月に『PLoS ONE』に発表した研究は、このテーマをさらに追求している。研究者たちは、「無反応覚醒症候群」[unresponsive wakefulness syndrome:UWS。大脳皮質の障害で、睡眠と覚醒の調節は保たれているが、後は無反応な状態]の患者17人、「最小意識状態」[痛みや不快など最小限の意識体験にしかアクセスできない状態]の患者8人、および対照群の健康な被験者25人を調べ、意識レベルの差による脳の違いを突き止めた。
なかでも重要な違いは、最も反応の乏しい状態の患者では、デフォルト・ネットワークを「非活性化」させる能力が失われていた点だ。これは、こうした患者たちが、外界へ関心を払う実行ネットワークを稼働させられず、白昼夢のループを抜け出せないという状態にあることを意味する。デフォルト・ネットワークの非活性化に問題がある状態は、アルツハイマー病や統合失調症の患者でも確認されている。彼らの「精神の目」は、常に内側に向いているのだ。
最後の興味深い実験は、前述のスクーラー氏らによる別の実験で、この実験において同氏らは、「夢想」には創造性と関連したものもあることを示した。
スクーラー氏はこの実験で、夢想を2つのタイプに分けた。ひとつは、他人に意識させられないと、夢想にふけっていることに本人が気づかないタイプの夢想だ。自分の精神がさまよい始めたらボタンを押せと言われていても、これらの人たちはボタンを押せなかった。もうひとつは、夢想にふけっていることを、実験中に本人が自覚するタイプの夢想だ。自分は今、夢想にふけっていると、本人が気づくわけだ。スクーラー氏の研究結果によると、夢想を自覚しない被験者のほうが、発揮した創造性のレベルは低かったという。
つまり、単に白昼夢にひたることだけでは十分ではない。精神がとりとめもない状態になることは簡単だ。それよりはるかに難しい(そして重要な)ことは、ある程度のメタ意識(meta-awareness)を維持することだ。メタ意識があれば、シャワー中や移動中に有用な新しいアイデアを思いついたときにメモを取ったりして、ブレークスルーの瞬間を逃さないことができる。
アンニュイ(倦怠)は認識にとっては贈り物だ。しかしその鍵は適切に開けられないといけない。よりうまく退屈できる方法があるのだ。

TEXT BY Jonah LehrerTRANSLATION BY ガリレオ -高橋朋子/合原弘子



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