鉄道システムには、周囲の建造物などと車両が接触・干渉しないようにするため、車両のサイズの最大限界を決める車両限界と周辺地上施設形状の限界を決める建築限界とがある。日本などでは、これを数値化した静的な車両・建築限界が明示されているが、英国ではそれがない。この背景には、欧米に範をとった近代化の過程であらかじめインフラ整備を進めて鉄道を敷設してきた日本と、すでに存在している社会インフラの中に鉄道網を張りめぐらせる形で鉄道を発達させてきた鉄道発祥の地・英国との、鉄道発達史の違いがあるのだろう。このため英国では、車両メーカーが地上施設と車両が接触しないことを証明することが必要とされる。そこで「Class 395」の開発では、ダイナミクスシミュレーションなどを駆使して、車両が走行する際の動的な挙動を解析。これを実際の地上施設等のデータと照合して、干渉を起こさないように車両のサイズを決めるとともに、車両の振動に深くかかわる台車のバネ系の設計を行った。
鉄道の歴史も文化も、日本とは大きな違いを持つ英国。その車両開発は、いままでの国内の車両開発とずいぶん勝手が違ったのでは、と最後に聞いてみた。それを鈴木はこう答えた。
「それが、英国に車両を納入するということです。日本で培ってきた鉄道車両をはじめとする日立の鉄道システムの開発技術は、世界的にみても極めて高い水準にあります。環境などの視点から鉄道が見直されている中で、今後ますますその優れた技術・製品を提供していく機会が増えていくと思います。異なる歴史や文化をもつ外国で、日本の鉄道の優秀さを伝えるには、精度の高いシミュレーション技術が不可欠です。その点で、今回の『Class 395』は私たちにとって新しい経験と実績を与えてくれました。また、実際に英国で営業走行が始まり、そこからも新たな知見を得られます。こうした新しい経験をフィードバックしていくことで、さらに新たなシミュレーション技術の発展が生まれてくると考えています。そしてシミュレーション技術の発展が、海外市場で日本国内では想定していなかった課題に直面した時にも、短時間で解答を見出すことに役立つと思います」。