株式会社 日立製作所 機械研究所 輸送システム研究部 鉄道ユニット ユニットリーダー
主任研究員 鈴木 敦
環境・省エネの視点から、公共交通システムの決め手として、いま改めて世界各国が建設への意欲をみせている鉄道。
なかでも高速鉄道は先進的な社会インフラの象徴として注目される存在だ。
その中で、日立が初めて手がけた英国の高速車両「Class 395」が、英国の鉄道関係者などから高い評価を受けている。
鉄道車両に関するさまざまな規準も、鉄道システムの仕組みも異なる英国の地で、成功を収めることができた背景には、車両開発に日立が培ってきた精度の高いシミュレーション技術も大きく寄与している。
機械研究所 輸送システム研究部 鉄道ユニット ユニットリーダーとして「Class 395」に関するシミュレーション技術をとりまとめてきた鈴木 敦 主任研究員に聞いた。
英国の高速新線「High Speed 1」とともに沿線の在来線にも乗り入れ可能な新鋭車両。
2009年12月13日、ロンドンと英仏海峡トンネル109キロを結ぶ英国の高速新線「High Speed 1(以下、HS1)」(*1)で日立製の高速鉄道車両「Class 395」が本格的な営業運転に入った。そして2010年2月に、英国の「 Rail Business Awards 2009(英国鉄道事業大賞)」(以下、RBA)の「Rolling Stock Exellence of the Year」に日立が選ばれた。快適性、安全性などの面で優れた能力を発揮している「Class 395」は、99.1%の定時運行を実現して、利用客にも大いにメリットを提供している点を、RBAは評価している。鉄道発祥の地・英国での快挙と言える。
この「Class 395」とはどんな車両なのか、まずそれをご紹介する。交流電化されている高速路線HS1内を営業最高速度・時速225キロメートルで走ることができるとともに、直流電化の在来線区にも乗り入れが可能。在来線への乗り入れによって沿線の移動にかかる時間を劇的に短縮でき、HS1のいっそうの有効活用とその沿線地域の輸送サービス向上に寄与できる。さらに2012年開催予定のロンドンオリンピックでは、ロンドン市内輸送にも投入される計画だ。また、欧州域内相互乗り入れ運用規格にも適合している。
開発にあたっては、日立が日本国内向けの鉄道車両で培ってきた「A-train」(*2)技術を駆使して、軽量で高信頼、高品位な車両に仕上げた。ちなみに、HS1の軌道間は、日本の新幹線と同じ1435ミリ。1編成6両で、1両の定員は384名(さらに12の補助座席を有する)。車内は左右に2列ずつ座席が配置され、ゆったりとした快適な客室空間をつくっている。日立では、この「Class 395」を29編成174両受注し、2007年8月にプロトタイプ1編成を納入。その後、数々の試験走行などを実施しながら、2009年に全車両の納入を果たした。
「Class 395」は、本格営業に入る前から英国の鉄道関係者の驚きと称賛の声を集めていた。元来、鉄道車両の開発には複雑な要素がからみあって、納入スケジュール通りに進まない英国で、「Class 395」は納期を守って納入され、その結果、当初予定していたサービス開始予定日よりも5か月も前に乗客輸送が開始されたからだ。快適性や安全性などの優秀さに加えて、納期厳守の実現。それは、もちろん設計・開発、製造、そして営業の各チームが一体となった努力の賜物だ。だが、その中でも見逃せないのが、シミュレーション技術を駆使した設計手法だ。日立がこれまで幅広い分野で築いてきた先進的なシミュレーション技術が、新しい課題解決と短期間での開発に貢献した点が多々あった。今回はその車両設計に駆使されたシミュレーション技術について、機械研究所 主任研究員の鈴木敦に語ってもらった。
機関誌「Uvalere(ユーヴァレール) Vol.17」より
文=清田勝哉 写真=吉江好樹
記載の情報は取材時点のものです。