【社説】「人間の基本」を教えなくなった学校と家庭

 今月1日、大邱市内の中学校で、3年生の男子生徒(15)がポケットにたばことライターを入れていたため、廊下で鉢合わせになった教頭(51)が没収したところ、この男子生徒は「俺が金を出して買ったたばこをなんで取り上げるのか。○○」と悪口を浴びせ、こぶしで教頭の顔や頭を殴ったり、腹部を蹴るなどして暴行を加えた。その20日前には、光州市内の中学2年生の女子生徒(14)が、授業態度を注意した女性教諭(31)の髪の毛をつかみ、悪口を浴びせた。前者の生徒に対しては、学校が「出席停止10日」の処分を下し、事態を収拾しようとしたが、大邱市教育庁の知るところとなり、警察に告発した。一方、後者の女子生徒については、学校に適応できない生徒たちを指導するフリースクールに指導を委託している。

 生徒が教師に対して悪口を浴びせたり、暴力を振るったりする行為は、今や日常茶飯事になった。教師に暴行を加えたり、脅迫したりする事件は、2006年には7件だったが、昨年は146件発生しており、5年間で21倍に増えた。これと同様に、悪口や暴言を浴びせる行為も、27件から330件と、12倍に増えた。

 もはや韓国の家庭や学校は、子どもたちに「人間の基本」を教える「道場」としての機能を失った。家庭は子どもの教育を保育園や幼稚園、学校、塾などに押し付け、一人息子や一人娘を甘やかすことが「養育」だと錯覚している。幼稚園から小・中・高校に至るまでの期間は、人格を形成していく大事な時期だ。なぜ、小さな秩序でもきちんと守り、他人に配慮しなければならないのか。なぜ、教師や目上の人に対しては丁寧な態度を取らなければならないのか。なぜ、自分の家族や友人との共同体意識を大切にしなければならないのか。このような、生きていく上で基本になる道理を学ぶ時期だ。ところが、いつのころからか、韓国の学校は手間のかかる「訓育」を放棄し、数学や英語などの知識だけを一方的に教える予備校へと変わってしまった。

 昨年以来、一部の進歩派・左派の教育監(教育長に相当)が推進してきた「体罰の全面禁止」や「児童・生徒人権条例」は、このように崩壊し始めた教育現場を回復不能な状態に陥れてしまった。この5年間に発生した、教権(教師たちが児童・生徒・学生に対して持つ権力)を侵害する事件のうち、半分は昨年1年間に起こったものだ。また、このうち39%は郭魯炫(クァク・ノヒョン)教育監が体罰禁止を指示したソウル市で、26%は金相坤(キム・サンゴン)教育監が児童・生徒人権条例を制定した京畿道で発生している。児童・生徒たちが「何をやっても学校や先生は何もできない」という認識を持ったため、学校はジャングル同然の状態と化してしまった。

 韓国の学校が問題の本質に気付かない限り、たとえ教育団体などが推進する「教員の教育活動保護法」のような教権を保護するシステムを整備したとしても、教育の崩壊を食い止めることはできない。

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