2011年11月3日03時00分
結構便利なネット上の口コミが「サクラ」だったら。やらせ書き込み業者が口を開いた。
ある「営業資料」がネットに流出した。
「クチコミを活性化して、潜在顧客の関心を喚起します」。東京都内のネット関連会社のもので、依頼で「やらせ」書き込みをすることが赤裸々に記されていた。ネットでは、「ビジネスとしてのやらせは悪質」と批判が集中した。
取材を申し込んだが、「日程を調整する」という返事だけ。何度か催促し、やっと電話に出た担当者は「取材には答えられない」と言いつつ、小さな声でやらせの事実を認めた。
サービスを始めたのは、約1年前だという。
資料によると、国内最大規模の口コミサイト「ヤフー知恵袋」などで「やらせ」書き込みを請け負っていた。化粧品会社の依頼があった場合を想定し、「ニキビ跡を治すには?」などの質問を探して「○○のブランドは全部いいけど、私に合ったのは洗顔!」と書き込む、などと例示。「さりげなくURLを入れる」のがコツで、質問自体を作る「自作自演」もする。書き込むたびに違うIDや回線を使い、サイト運営者に目をつけられにくくするという。
同社の場合、初期費用は3万円で、月15回の書き込みで4万円、50回なら11万円。資料が流出したことで現在はサービスを見合わせているというが、担当者は「質問まで作るのでやらせと言えばやらせ。広告であることを隠した点は問題かもしれないが、サイト規約違反の意識はなかった」と悪びれる様子はない。
口コミをたくさん書くほど検索した時に上位になる効果もあり、依頼者には好評だったという。「ホームページのアクセス数アップサービスなどに携わる業者は、どこでもやっている。当たり前のことです」
■違法の恐れ、でも処分ゼロ
「やらせ」書き込みは、はびこっているのか。勧誘を受けた人たちに聞いた。
福岡県の美容外科には1年前から、多い時は毎日、郵送やメールなどで売り込みがあるという。ある業者は根拠を示さずに「クチコミを70%以上の方々が信用する」と営業。値段は月100件の書き込みで初期費用込み80万円と提示してきた。別の業者からは「ライバルの評価を下げます」という“ネガティブ口コミ”の売り込みもあった。
中華料理店などを経営する40代の男性には9月、「口コミサイト対策をしませんか」と、40歳前後の男性が訪ねて来た。月5〜10件ほど書いて約9万円。「邪険にすると悪い評判を書かれるかも」と心配になり、予算不足を理由に断った。「口コミででたらめを書く人もいる。何を書かれるか、毎日おびえている」
サイトの運営業者も対策は講じている。ヤフー知恵袋を運営するヤフージャパンは24時間態勢で書き込みを監視。規約に違反している場合は削除する。だが、「いろいろな例があり判別は難しい。すべて消すわけにもいかず悩ましい」。
口コミによる評価サイトは飲食店、電化製品、化粧品、ホテルなど広い分野に及ぶ。経済産業省が昨年発表した調査では、口コミサイトを「信頼できる情報源」と答えた人が5割超に上る。テレビや企業のホームページに迫る影響力で、「消費した人の感想を見て判断する消費形態が定着している」と分析した。
消費者庁によると、利用者を装った書き込みは、消費者に間違った認識を与える点で景品表示法が禁じる不当表示に当たる可能性がある。だが、行政処分の対象は書き込み業者ではなく依頼者。やらせの線引きは難しく、処分された例はない。注意喚起のため、10月末に改めてガイドラインを出した。
ネットの問題に詳しい岡村久道弁護士は「サイト運営者も通報を受けて削除するなどの対策をとっているが、匿名なのでしっぽをつかみにくい。巧妙な例もあり、見分けるのも難しい」と指摘する。「うのみにせずに実物や他のサイトを参照することが大切。実社会と同じようにネットでの口コミに対してもリテラシーが必要な時代が来ている」(村田悟、仲村和代)