自転車は東日本大震災後、通勤手段としてあらためて注目された。環境に優しい乗り物としても人気は高い。
利用が増える一方で事故も多発しており、警察庁は自転車の車道通行の原則徹底などを柱とする総合対策をまとめた。悪質で危険な運転は交通切符(赤切符)で摘発するなど取り締まりを強める。
携帯電話を使ったり、イヤホンで音楽を聴いたりしながらの運転、歩道での猛スピードの走行など、ルールやマナーを無視した運転は確かに目立つ。自転車と歩行者の事故は増加傾向にある。
「軽車両」の自転車が歩道を走るのはあくまでも例外である。やみくもに歩道から追いやることは避けるべきだが、事故防止のための規制強化は必要だ。
2008年施行の改正道交法は、自転車の歩道通行のルールを明確にした。自転車通行可の標識がある▽高齢者、児童・幼児など車道を走るのが危険な者が運転▽安全確保のためやむを得ない‐場合に限ったが、状況は改善していない。
警察庁は今回の総合対策で、自転車通行可の歩道のうち、幅3メートル未満の歩道の走行は原則禁止する方向で見直すとしている。自転車が走行できる歩道は大幅に減少することになる。
一方、総合対策には自転車道や自転車レーンの整備も盛り込まれた。規制を強化するからには、自転車の安全確保策も急ぐ必要がある。
そもそも自転車の歩道通行を認めたのは、高度経済成長期の交通事故急増が背景にあり、車との事故を防ぐためだった。昨年、自転車が関係した事故約15万件のうち、自動車との事故が8割以上を占める。自転車と歩行者の事故が増えたとはいえ、割合は1・8%だ。
「車道を走るのは怖い」との声は根強く、通行環境を整備しないまま規制を強めれば、今度は自転車が被害者となる事故の増加につながりかねない。
08年には警察庁と国土交通省による自転車専用道や自転車レーン整備のモデル事業がようやく始まったが、10年度末までに完成した専用道は計画の6割にとどまる。日本は、欧州に比べて自転車道などの整備が著しく遅れている。
総合対策は、自転車通行量が特に多い片側2車線以上の道路では車線を減らして自転車道を設けること、パーキングメーターを撤去して自転車道を整備することなども打ち出している。自転車道を一挙に拡充する契機にもすべきだ。
歩行者にも自転車にも安全な環境づくりを進めていかねばならない。
(2011/11/06 11:15)
Copyright© 2011 神戸新聞社 All Rights Reserved.