「歩道をものすごいスピードで走り抜けヒヤリとした」「交差点内で右折し始め、もう少しで自動車とぶつかるところだった」―。
こんなルール違反の自転車が後を絶たず事故が多発しているとして、警察庁は車道通行の原則と歩道通行の例外の徹底を柱とする自転車総合対策をまとめ、全国の警察に通達した。
悪質で危険な運転は交通切符(赤切符)で摘発するなど、法令違反の取り締まりにも力を入れるという。
「軽車両」である自転車の車道通行が進めば、歩行者はもちろん、本来なら自転車の安全・安心通行につながる。その意味で目指す方向は妥当と言えよう。
ただし総合対策も掲げているように、自転車の通行環境の整備と両輪でなければならない。国内の現状を見ると、自転車を歩道から車道へ移すと危険が増すとの指摘はもっとも。そのためには国や地方自治体の道路管理者との連携も必須となる。
東京都内では東日本大震災を機に自転車利用者の増加に拍車が掛かり、地方でも健康や環境面から利用者が増加。それに伴い、歩行者との事故が増える傾向にある。
一方で、昨年の全国で自転車が関係した事故15万1626件のうち、8割超の12万7419件は自動車との事故。ルール違反もあるにせよ、自転車用の通行スペースが極端に少ないことが事故要因の一つと考えざるを得ない。
それを実証するのが、警察庁と国土交通省が2008年に全国98地区で始めた自転車専用道や自転車レーンの整備モデル事業だ。整備自体は遅れ気味だが、整備した区間では事故が専用道で26%、レーンで36%減少した。
大きな効果があるとして、総合対策でも車線を減らしたり、パーキングメーターを撤去したりすることで自転車道を設けるよう求めている。
無論、自転車にルール順守は求められる。信号無視や無灯火といった違反には取り締まり強化も必要だろう。松山市内でも摘発されたブレーキのない「ピスト」の公道走行は危険以外の何物でもない。
自転車対策は、自動車に偏りがちだった道路整備を問い直し、歩行者、自転車、自動車が無理なく共存できる交通社会を築く手だてでもある。
「自動車通行の快適性を削ってでも、車道を通行する自転車の安全確保に全力を挙げる」。警察庁幹部が強調したように、対策は自動車に不便を強いる側面もある。もちろん、自動車利用が減っている大都市と、公共交通の貧弱な市町村の同一視は禁物だ。
それでも交通手段として自転車の地位が高まった今、地域事情を見極めながらの環境整備は進めねばならない。