いきなり飛び出してきた自転車に、ひやりとさせられた経験を持つ人は多いのではないか。
自転車と歩行者が関わる事故を防ごうと、警察庁が自転車総合対策をまとめた。「自転車は車道通行」原則をあらためて徹底、危険な運転は取り締まりを強化する。
幅3メートル未満の歩道では自転車の通行を原則として許可せず、自動車用の車線を減らしてでも自転車用レーン確保を検討するなど、自転車と歩行者を分離する内容だ。
事故防止への大きな問題提起と受けとめたい。歩道が安心して歩ける空間となるよう、自転車に乗る人は認識を新たにしてほしい。
一方で、車道が自転車にとって安全かどうかを考える必要もあるだろう。歩行者、自転車、車のどこかにしわ寄せが行くようでは、交通安全は成り立たない。
総合対策の背景には、歩道などで自転車と歩行者が絡む事故の増加がある。警察庁によると、昨年一年間の発生は2760件。10年間で1・5倍に増えている。
自転車は道交法では「軽車両」とされ、車道通行が原則だ。しかし、多くの歩道で通行を認めていたため「歩行者と同じ、との誤解が生じていた」(同庁)という。
今回の対策では、「自転車は車両」との認識を社会全体に持ってもらうといい、自転車専用信号の設置なども進めるとしている。
京都市内ではすでに3月末、五条通(堀川通〜五条大橋間)の歩道に自転車道が設けられた。
4月施行の市自転車安心安全条例には、商店街などでは押して歩くなど歩行者や居住者への配慮を求める文言が盛り込まれている。
ただ、自転車道に気づかず歩道を疾走する自転車が目立つ。条例を知らない人も多そうだ。自転車道や条例はつくっただけでは効果は薄い。街頭で指導するなど、目に見える働きかけが必要だ。
自転車事故の8割以上は自動車との間で起きている。実際の車道には、違法駐車や荷さばきの車なども多い。「車道を走るのが怖い」とする自転車利用者もいるが、自転車の車道走行を不安視する車のドライバーも少なくない。
郊外では、交通量の多い車道よりも、人通りのない歩道を走るほうが安心な場合もある。原則は維持しながら、地域の交通事情に応じて柔軟な対応を望みたい。
安全教育も重要だ。歩道での暴走行為はもちろん、携帯電話などの「ながら運転」や無灯火走行の危険性は、学校などでしっかり教えたい。万一に備え、自転車損害保険への加入も大事なことだ。
手軽で環境に優しい乗り物としてますます役割が高まっている自転車を、社会の中にどう位置づけるか。規制にとどまらない、幅広い観点での施策が必要だ。
[京都新聞 2011年10月27日掲載] |