きょうのコラム「時鐘」 2011年11月8日

 「手をつないだ男女の骨」が1500年前のローマの遺跡から発掘されたという。昨日の国際面の小さな記事だった

埋葬時はお互いに見つめ合う姿だったらしい。老夫婦か、若い恋人同士だったのか。なぜ同じ時に死んだのだろう。本人たちの希望だったのか、実らぬ恋を天国で結んでやろうとした親の配慮だったのか、想像が膨らむ

出来過ぎた話で本当かなと思わぬでもない。悲劇の後始末だった可能性もある。が、ここは素直に受け取りたい。小さな記事の中に、これから話題を広げる要素がある。歴史書は数万年前の旧人類が死者に花を添えていた可能性を記している。今回の男女の骨も葬送史に残る事例となるかもしれない

先の日本の震災では、幼子を胸に抱いて亡くなった若い母親がいたと聞く。先日も倉庫跡から遺体が見つかった。いまだに犠牲者の最期に胸が痛む。最愛の人に手をさしのべながら届かず離れ離れになっていった人々の無念が浮かぶ

ギリシャやローマなど古代文明発祥の地らしからぬ「混迷」が伝わる昨今だが、久々に歴史の国にふさわしい人の絆を考えさせる話題だった。