歩道でスピードを出したり、車道で車の間をすり抜けたり。携帯電話で話をしながら、あるいはイヤホンで音楽を聴きながらという人もいる。ルールやマナーを無視して街中を走り回る自転車が後を絶たない。ブレーキや前照灯、尾灯などを備えておらず、本来は公道を走ってはいけない「ピスト」と呼ばれる競技用自転車も増えている。

 お笑いコンビ「チュートリアル」の福田充徳さんが都内で9月末、後輪ブレーキのない競技用自転車に乗り摘発を受けたというニュースを覚えている人は多いだろう。警察庁は取り締まり強化などを柱とする自転車総合対策をまとめ、指導や警告でルールなどを徹底させ、悪質で危険な運転については交通切符(赤切符)の対象とするよう全国の警察に指示した。

 健康やエコのためだけでなく、東日本大震災で帰宅困難者が都内の駅にあふれたこともあって、通勤や通学に自転車を使う人が増加。若者の間では競技用自転車の人気が高い。ただ購入時に前後輪に付いているブレーキを「ビジュアル的にださい」と外してしまうことも少なくないようだ。

 自転車ブームといってもよさそうだが、「自転車は車道が原則、歩道は例外」といったルールはなかなか行き渡らない。警察が摘発に本腰を入れざるを得なくなるほど死傷事故も多発している。自分はどうか。一人一人が思い返してみるのにいい機会かもしれない。

 自転車のルールは一般の人にとって法改正が話題になったときなど、たまに耳にする程度のものだろう。例えば、2008年の改正道交法施行で13歳未満の子どもが運転するときには歩道の走行が可能になり、ヘルメット着用が努力義務になった。09年には道交法規則の一部改正に合わせ、3人乗りが認可された。

 ところが道交法などを踏まえ、警察庁が公表している「自転車安全利用五則」となると、あまり知られていないし、守られていない。「歩道は例外」をはじめ「車道は左側を通行」「歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行」「安全ルール(飲酒運転禁止など)を守る」「子どもはヘルメットを着用」という内容だ。

 昨年1年間の自転車絡みの事故は15万1626件。交通事故全体の20.9%を占める。乗車中の死者は08年以降、500人弱で推移しており、6割前後が高齢者。警察は自転車専用通行帯や自転車道整備も進めてきたが、なかなか事故は減らず、昨年から赤切符を切る摘発を本格化させた。

 摘発件数は昨年、09年の2件から686件に急増。今年は8月末の時点で654件に達した。

 自動車事故と違い、自転車事故の場合は逮捕など聞かないし、起訴されることも少ない。だから事故を起こしても大事にはならないと思っているとしたら、大間違いだ。

 日本損害保険協会が調べた「自転車での加害事故例」を見ると、横断歩道を渡っていた女性に信号無視で衝突、死亡させた男性には5400万円余りの損害賠償が命じられた(07年東京地裁)。

 また女子高生が携帯電話を使いながら走行中の事故では相手に障害が残り、5000万円の賠償命令が出た(05年横浜地裁)。ルールさえ守っていたらと悔やんでも遅い。万が一のときには、どうしようもないほど重い責任がのしかかってくることを忘れてはならない。