本来はスローで、環境にも優しい乗り物であるはずの自転車が、近年は心ない人たちによって危険な乗り物とされ、時として人命を奪う凶器にもなっていることが残念でならない。
 自転車は道路交通法では軽車両に分類され、原則的に車道を走るものという意識が浸透していないためだろう。
 自転車事故の危険性が改めて指摘されていることを受け、警察庁は自転車の原則車道走行の徹底などを柱とする自転車交通総合対策をまとめ、全国の警察本部に通達した。
 自転車通行が可能な歩道を減らす一方で、自転車が車道を利用しやすくするための環境整備も進めることで自転車と歩行者のすみ分けを図るよう、従来の方針を転換した格好だ。
 自転車の歩道通行を認めた「自転車歩行者道」で歩行者を巻き込む衝突や接触事故が絶えず、全国的に大きな問題となっているだけに、今回の決定を機に国土交通省などと連携して実効ある安全対策を推進してもらいたい。
 同庁が打ち出した自転車利用の5原則は(1)原則として車道を走る(2)車道を走る際は左側通行(3)歩道は歩行者優先(4)交通安全ルールの順守(飲酒運転・2人乗り・並走の禁止など)(5)子どもはヘルメット着用―である。
 最も危険視されている自転車と歩行者の衝突や接触を防ぐ手だてとして、今や歩道の46%を占める「自転車通行可」の標識がある自転車歩行者道のうち、幅3メートル未満の歩道については自転車の走行を原則禁止する方向で検討するよう指示した。
 自転車歩行者道は1970年、交通事故の急増に歯止めをかけるため道交法を改正し例外的に認めたものだが、「例外措置」が40年が経過した現在まで継続されてきた。
 この間に政府は自動車事故対策に主眼を置き、自動車事故は着実に減少したが、一方で自転車を念頭に置いた道路整備や交通ルールの徹底はなおざりにされてきた感が否めない。
 自転車が歩道を走り続けるのには、専用レーンなどの整備が遅々として進まず、自転車が安心して車道を走ることができないといった環境にあることを忘れてはならない。
 いくら自転車を歩道から〝排除〟しても、自転車が車道を利用しやすくするための環境整備を併せて進めなければ、またぞろ車と自転車の事故が増えかねない。専用通行空間の整備を急ぐべきは言うまでもない。
 また、自転車は軽車両であるとの認識を自転車利用者に植え付ける一方、車の運転者に対しても「自転車は車道を走るもの」という教育を併せて行うことも忘れてはならない。
 自転車が絡む事故は交通事故全体の2割を占めることを再認識し、自転車利用者はルールやマナーを守り、自転車を優しい乗り物にしてほしい。