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きょうの社説 2011年11月8日
◎輪島を「防災都市」に 大学の研究成果還元に期待
東日本大震災を受け、地震に加え、津波や原発事故も想定した防災対策の見直しが迫ら
れるなか、輪島市と金大地震工学研究室が共同研究の協定を結び、災害に強い都市防災モデルを探ることになった。市町は防災の専門職員が手薄であり、複合災害の対応の難しさを考えれば、自治体と大学の連携強化は地域防災充実へ向けた重要テーマである。金大の地震工学研究室は、東日本大震災をはじめ、国内外の被災地調査の実績があり、 津波と都市機能の在り方についても研究を進めている。得られた成果やノウハウを、実際に被災した地域にとどまらず、地元にも還元するのが大学の重要な地域貢献である。 沿岸部に公共施設や都市機能が集中する能登では、津波災害で共通の弱点を抱えるだけ に、輪島での防災モデル研究は他の地域にも役立つだろう。共同研究が官学の新たな連携モデルになるよう着実に成果を挙げてほしい。 輪島市と金大地震工学研究室は今月11日に共同研究の協定を交わし、3年間の事業を 開始する。市街地の道路や建物、上下水道、地盤などのデータを組み込んだGIS(地理情報システム)などを活用し、地震、津波発生時のリスクを分析、被災状況をシミュレーションして都市機能を評価する。 北陸は太平洋側と比べて大きな津波被害を経験していないだけに対策の蓄積はないに等 しい。科学の知見を生かした被災予測は有効な手法であり、住民の意識向上にもつながるだろう。 東北の被害をみれば、防潮堤などのハード施設には限界があり、行政機能などをすべて 安全な場所に移すのも現実的でない。災害発生リスクと暮らしや文化を維持することの両面を考え、どこかで折り合いをつける必要がある。共同研究に求められるのは、机上の空論でなく、地域に根差した実現可能な減災対策である。 東日本大震災の被災地へは、県内から医療、保健、生活再建など幅広い分野の研究者が 足を運んでいる。少子高齢化、過疎化などの社会的な要因、災害の大規模化で自治体の対応は困難になっている。大学は研究成果を積極的に地域に還元してほしい。
◎復興庁設置法案 与野党調整を速やかに
東日本大震災の復興庁設置法案の内容をめぐり、与野党が対立している。国会審議は難
航しそうな気配であるが、最も肝心な目的は復興庁の設置自体ではなく、復興事業を迅速、強力に実行することにある。与野党の調整を速やかに行い、今国会で法案を成立させてもらいたい。震災復興事業を統括する復興庁は、他省庁より格上の司令塔に位置づけられる。6月に 成立した復興基本法では、復興に関する施策の「企画・立案と総合調整」だけでなく、野党側の意見を取り入れて、施策の「実施」の事務も行うと定められた。ところが、政府の復興庁設置法案では、同庁の主な役割が施策の総合調整機能に置かれ、復興事業の実施権限が中途半端になっているため、野党の反発を招く結果となった。 野田佳彦首相は、政府の復興庁案について「各省庁への勧告権や復興予算調整権、さら に復興交付金や復興特区制度など強力な権限と予算を持つことになる」と説明している。しかし、復興基本法に沿って「強い実施権限を持たせ、前例にとらわれず果断に実行する力強さを持った機関にする」と強調した首相の所信表明演説からの後退は否めない。 復興事業を一元的に強力に実施するには、復興庁に権限を集中するのが望ましい。ただ 、その場合は下手をすると、既にさまざまな施策、事業を進めている他省庁との非効率な「二重行政」になる恐れも付きまとう。 どちらにしても、官僚機構を十二分に機能させることが最も重要なのであり、突き詰め れば内閣、首相官邸の指導力と実行力が問われることになる。復興庁の政府案が省庁の意向に沿う形でまとめられ、復興事業が本当に政治主導、首相のリーダーシップで迅速に行われるかどうか疑問を抱かせたことがより問題である。 与野党は「大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生」という基本 法の趣旨をかみしめて復興庁設置法案の修正協議に臨んでほしい。政局の材料にするような対応で成立を遅らせることがあってはならない。
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