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2011年7月

■vol.56

56


『敵には敵の

「都合」がある!』

◇「敵側の事情・背景」を描いて「敵」のキャラクターを立てていこう!

 

~「敵」を描こう!~

 物語で主人公と敵対する存在「敵」が登場するものがあります。この「敵」が「問題」を引き起こします。この「敵」が「最大の障害」になり場合もあります。プロットとしては、この最大の障害となる「敵」を倒したり「敵」の目的をくじいたりする事で「問題」が解決します。

 

~「敵」が持つ「目的」「動機」を設定して「どう悪いのか」を描こう~

 「敵」とは主人公と何らかの対立をする存在です。「敵対する存在」には様々なパターンがあります。まず「悪」である場合です。これは物語上の「倒すべき存在」となります。主人公と目的が同じで、その目的を達成しようと対立する「敵対」もあります。また主人公と目的がまったく逆の場合も敵主人公双方が目的を達成しようとして結果「対立」が生まれます。

主人公は主人公の目的を達成しようとします。または敵の目的をくじくことが主人公の目的である場合もあります。敵は、その敵が持つ「目的」を達成しようとして、その過程でジャマになる主人公を排除しようとします。

 さて、この対立する「敵」を描く上でポイントとなるのは「敵」が持つ「目的」と「動機」をしっかりと設定するということです。「悪、悪いやつだから敵、だから倒す!」、これでは「敵」がリアリティを失ってしまいます。結果、主人公の「敵を倒す」という行動もよくわからないものになってしまいます。悪いという理由、どう悪いのか、何のために倒さなければいけないのかを描くことが大切です。

「倒すべき敵」を描く場合、敵が「何のために、何をしようとしているのか」を設定する必要があります。一口に悪といってもその存在が「悪い」のではありません。「悪い」というだけではその存在がどう悪いのかお客さんに伝わりません。悪いのは存在ではなく、その「目的」「動機」、そしてその「手段」のいずれかが「悪い」から「悪」なのです。

たとえば、お金を儲けたいという悪人がいたとします。しかし、お金を儲けたいだけでは悪でも何でもありません。お金を儲けることは悪いことではなく、悪じゃなくてもお金を儲けたいと思うからです。しかし、お金を儲けるための「手段」が悪いとどうなるでしょうか。例えば「麻薬を売って大もうけするとか」「人身売買をして大もうけするとか」「詐欺を働いてお金を騙し取るとか」「強盗をしてお金を盗む」とか……。ここではじめて「ああ、それは悪いヤツだ」と言うことができるのです。

世界征服を企む存在がいたとします。しかし、これだけでは「悪」とは必ずしもいいきれません。なぜなら、世界を良くしようとして征服をしようとしているのかもしれませんし、圧政に苦しむ民衆を救おうとして革命を企てているのかもしれないからです。「何のために、どんな目的で世界征服をしようとしているのか」という理由、しかもそれがどう悪いのかという「悪い理由」をまず設定して「悪」を具体的に描いていきましょう。

 

◇「敵」には「敵」の都合がある!

 

~「敵」の都合・事情を描いて、単純ではない深い敵を表現していこう~

味方には味方の都合があるように、敵には敵の都合があります。悪いやつもはじめから悪いやつだったのではないのです。たとえば、何かが事件があって、それで憎しみが生れて、そこから復讐心が生れ、そして悪の力を求め、闇に堕ちていくといった段階を踏んで悪人は悪人になっていくのです。

意思や感情を持つキャラクターという形で描かれる「敵」には、その「敵」なりの事情や都合、理由、動機があるのです。悲しい過去を背負っているかもしれません。もしかしたら、同情できる面があるかもしれません。世界征服をたくらむようなヤツから部活の嫌な先輩まで、敵対するものには、敵対するものなりの背景があるのです。

敵には敵の利害があります。計算もあるでしょう。欲望、願望、目的、気持ちがあります。それをしっかりと描いてやることで敵のキャラクター性が表れ、キャラが立っていきます。


~ドラゴンクエスト ダイの大冒険の場合~

ファンタジーマンガの傑作『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』に登場する魔王のモンスター軍団の軍団長の一人に「ヒュンケル」というキャラクターがいます。このキャラクターは人間でありながら、人間の敵である魔王軍に加担し、あまつさえ魔王軍の軍団長の一人になっています。そして、強大な力で主人公ダイたちの行く手を阻みます。ここで大事なのは「なぜ人間なのに魔王の手先になっているのか」という点です。秘密はこのキャラクターの過去にあります。ヒュンケルは魔王軍の侵略により幼児期に孤児になってしまいます。そこを当時の魔王軍の軍団長のモンスターに拾われ、育てられます。何もわからないヒュンケルはそのモンスターを親と慕って大きくなります。あるとき、魔王を倒すべく正義の勇者が戦いを挑んできます。当然、魔王を守るべくヒュンケルの親である軍団長のモンスターは勇者と戦い、勇者に破れ、結果命を落とします。育ての親の死を知ったヒュンケルは、親を殺した憎っくき勇者を倒すことを心に誓うのです。そして、勇者に敵対する魔王軍に加わり、人間の敵になったのです。(ただ、この話には裏があります。続きもあります。真相を知りたい方はぜひコミックスをお読みください)

同じく魔王軍軍団長の一人に主人公ダイの父親「バラン」がいます。このキャラクターは「世界の秩序を保つ存在である伝説のドラゴンの騎士」なのですが、魔王に力を貸しています。なぜかというと、このキャラクターの妻(人間)は、同じ人間によって命を奪われてしまったからなのです。妻の死に悲観し、人間に対して敵対するようになってしまったため、魔王の手先として主人公と戦うことになります。

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は味方のキャラクターもとても魅力的ですが、敵キャラクターも個性豊かで魅力的な悪役キャラクターがたくさん登場します。これはひとえに敵キャラクターの事情、都合、背景、そして気持ちなどを丹念に描いていっているからなのです。敵と対決する物語で、主人公たちのキャラクターを立てていくには「いい敵」が必要です。薄っぺらで単純ではない「魅力的な悪役」が不可欠です。

倒すべき敵がよく分からないようなヤツだったら、どう悪いのかいまいち掴めないようなヤツだったら、それと対決する主人公も、それを倒すための物語もつまらない中途半端なものになってしまうでしょう。しっかりした、ある意味魅力的な敵を描けば描くほど、対決する主人公も魅力的になりキャラクターが立っていくのです。

ですから、悪には悪なりの理由・都合を描いてやり、より深い、それらしい厚みのある「悪」を描いていきましょう。

 

◇「敵」を描こう!

 

~説得力のある人物像を持った血の通った敵を描くには~

敵対する人物を描く際に、敵側にも様々な背景・事情があることがわかりました。そういったことを踏まえた上で敵を描く際、その人物の持つ考え方、価値観、動機、目的を説得力のある形で描写していく必要があります。嫌なヤツを描く場合、ただ単純に嫌なヤツというだけではやはり薄っぺらい作品になってしまいます。どう嫌なヤツなのか、どんな風なところが嫌なのかをしかっりと描いていかなければいけません。(敵対するキャラクターを描くということは、主人公を描く上でとても重要なことなのです)

 

~敵を描くには実在のモデルから学ぼう~

敵を描く上で一番有効な方法は「実際にモデルとなる人物から学ぶ」ということです。みなさんの周りの嫌なヤツ、悪人、とんでもないヤツがいると思います。その人物をモチーフにして敵対するキャラ、悪役キャラ、敵役の人物造形に活かすのです。

……といっても、気に入らない人物を作品に登場させて酷い目にあわせるということではありません。それはやらない方がいいです。それをやると、怒りに任せて嫌なヤツを痛めつけることに比重を置きすぎて作品のバランスが崩れて、結果クオリティの低下を招いてしまいます。下手すると創作活動ではなく単なる報復行動になりかねません。そうではなくて、嫌だなあと思うような人物、悪人がいたら、その人物の人となり、言動・行動、思考パターンなどを「冷静に観察・分析する」のです。その人物が「嫌なヤツたる理由」を分析するのです。どんな考え方を持っているのか、どんな価値観を持っているのか、どんな状況で、どんな行動・言動を取ったのかを冷静に分析していきす。そこには必ず嫌なやつたる所以、悪たる所以、その要素が含まれているはずです。その「エッセンス」だけを抽出しましょう。そしてそのエッセンスを自分の作品の敵対する人物作りに役立てるのです。怒りを克服し、憎しみを脇へおいて、あくまで物語のクオリティを上げるという観点のみから分析していきましょう。罪を憎んで人を憎まずです。

例えば高圧的な態度とか、人を人として扱わないとか、色々な悪の性格要素があります。そういった敵の人物像を構成するエッセンスを調べていきましょう。また、自分がひどい態度で接されたという場合は、その時の状況、その時に自分が感じたことを冷静に分析し、作品に活かしていきましょう。相手はどんな意図でそういう態度をとったのか、どんな状況・状態だったのかを分析して、「敵」の描写に活用していくのです。転んでもただでは起きない、みなさんのあらゆる体験・経験が物語作りに活かされていくのです。自分で体験した事ほど役に立つことはありません。マンガの神様と称される手塚治虫は戦後、子供のころにアメリカ人の子供から何の理由もなく暴力をふるわれボコボコにされるという不条理極まりない体験をしたそうです。それ以来、その時の体験が氏の作品制作のときに大いに活かされてきたそうです。以前にも描きましたが、人間の行動原理は ①苦痛を避けたい ②喜びを味わいたい の二つです。嫌な態度をとってくる人物も、よくよく分析してみるとこの2つのどちらかに当てはまっているのです。その言動、行動は2つの行動原理のどちらから来ているものかをまず考え、血の通った敵、悪役を作り上げていきましょう。

 

~バラエティ豊かな「敵」を描いていこう~

敵の人物像にも色々なタイプがあります。悪役がみんな同じようなキャラで、一つのタイプの敵ばかりを描いていたら物語はつまらなくなるでしょう。冷静沈着な悪役もいれば、頭にすぐ血が上るといった傲慢で単純な悪役もいるでしょう。太宰治の『走れメロス』に登場する王のなどは「誰も人が信じられなくなり人間不信に陥る」という設定があり、その結果「家臣や血族を、民衆を殺してしまう」という悪に陥っています。

その人物がどんな気質を持っているのか、どんな性格か、どんな弱さがあるのか、それらを分析して作品に活かし、説得力のある豊かな悪役、敵対する人物をつくってみてください。


■vol.55

55

「組織」「職業」「部活」「家族」――人は何かに所属している』


◇人々が所属する「組織」と「職業」に関する設定

 

 わたしたち人間はこの社会で生活するうえで,必ず何らかの組織に属しています。そして,社会の中で何らかの役割を負っています。役に立つ立たない関わらず,何らかの組織の中で何らかの立場を有しているのです。そのいちばん基礎となっているのが「家族」です。家族は社会の基本単位です。そして自治会などの地域社会,町,村,市民,県民,国民などが続きます。ここではそれらの「組織」について考えてみましょう。

 

~キャラクターの職業を考えよう~

人は働く年齢になると何らかの職業に就き,生活の糧を自分で得るようになります。この世には様々な職業があります。そしてその職業に関するさまざまな世界(業界)が存在します。そこで様々な人々が働いています。

職業はキャラクターの特長や人格,価値観や知識,能力,態度に大きく影響を及ぼします。キャラクターに合った職業を設定していきましょう。

また,職業を考えるうえで大切な事は,やはり職業とそれに就いているキャラクターの性格とのギャップです。

 

~「特殊な職業」「珍しい職業」を題材にしてみよう~

 よくある職業,広く知られた職業を題材にするとポピュラリティーを作品にもたらすことができますが,一方で「珍しい職業」や「特殊な職業」など一般にあまり知られていない職業を題材として取り上げると,それだけで作品に面白さを加えることができます。その職業ならではのこと,その職業にまつわるエピソードや裏側など,一般に知られていない職業、その職業に伴う人間関係をえがくようにするとお客さんの興味を引きやすくなります。

 


~「新しい職業」を作ってしまおう~

 もうひとつの方法は,「オリジナルの新しい職業」を作ってしまうというものです。この世に有り得ないようなもの,あり得そうなもの,いろいろな新しい職業を発明してみましょう。新しい職業を作るときのコツは「その職業独自のしきたり」や「決まり・ルール」,「専門用語」,「専用の道具」「部署・会社・組織・団体」などをでっちあげると真実味が増していきます。社会の中でどのような役目を帯びているのか,どのように関わっているのかも描いていきましょう。また「その道のプロ」を登場させてみましょう。

 ウソをつくときはいくらかの本当の情報も含めないといけません。本当にある会社の一事業部だけを創作するとか,お役所の中の一つの課をでっち上げるという方法も有効です。いかにもありそうな組織,役職,部署,職業を創作してみましょう。

 いろいろなものを組み合わせても面白いかもしれません。『機動警察パトレイバー』という作品は,現代にもし人型のロボットが自動車のように一般的なものとして広く普及していたら,という世界観の作品です。そうすると「ロボットを使った犯罪」というものも生れてくる,それらを取り締まるのが主人公が所属する警視庁警備部特科(特殊)車両2課という部署です。特殊車両というのはロボットのことです。コレ,いかにもありえそうな部署ですよね。警察というのは実在する組織です。その中の一部所だけを創作したのです,しかもそれっぽいネーミングで。すごい説得力があります。ロボットが特殊車両として扱われているのも秀逸な設定です。このフィクションとノンフィクションの部分が交じり合う世界観が,この作品の大きな魅力になっているのです。

 

~「新しい組織」をでっち上げよう~

 職業とよく似ていますが,架空のオリジナルの「組織・団体」をでっち上げてしまうのも面白い手です。いかにもありそうな組織から,それはないだろうという驚きの団体まで。自由な発想で作り出してみましょう。

例えば剣術とか格闘技の流派とか,そのオリジナルの拳法とか格闘技とか特殊部隊とかです。学術団体とか,自警団とか,日本を守護する組織とかいろいろ考えられます。現実に存在する組織や人物と絡めていくと,真実味が出てきます。『るろうに剣心』はそれが秀逸です。主人公の剣心は創作された実在しないキャラクターです。主人公の剣の流派「飛天御剣流」ももちろん作者の創作です。伝説の「人斬り抜刀斎」として幕府派の剣士たちを何人も切り殺していた,なんていう設定も真っ赤なうそ。しかし,ここに「斎藤一」や「山形有朋」などの実在する人物を登場させ,それらの人物と絡ませることによって,さも剣心も実在しているかのような効果を出すことができるのです。竹本健治著『ウロボロス』シリーズなどはストーリー自体は架空のものですが,登場人物は「実在するミステリー作家」という衝撃の作品です。もちろん実名で登場し,さもその作家がいいそうなコメントをするのです。知らない人でも楽しめるけど,知ってる人はもっと楽しめる,この虚実入り交じった世界観が不思議な魅力を生み出しています。


◇若者(学生)は「学校」に通っている!

 

~学生が所属する組織「学校」を考えよう~

 就業する年齢に満たない人物たちが登場する場合、これらのキャラクターたちは(世界観・時代背景にもよりますが)「学校」に通っています。これらの年代のキャラクターが活躍する舞台は「学校」です。小学校、中学校、高校、大学、大学院、専門学校などいろいろな学校が存在します。

 

~特殊な「学校」を作っちゃおう~!

 特殊な「学校」をでっち上げることで、広がりのある設定・世界観を作ることができます。『ハリー・ポッター』では魔法を学ぶための「魔法学校」が登場します。ライトノベル小説の人気スピンオフ作品『とある科学の科学の超電磁砲』では超能力者の開発・訓練を目的とした「超能力学園都市」が出てきます。現実世界でも「探偵」を育成する学校、占い師を養成する学校など、かなり特殊な学校も実在します。

 

~学校内の所属組織の「目的」と「内容」を決めよう~

学校にはいろいろな所属組織があります。まず「学年」「クラス」です。学年の違いは先輩後輩を生み出します。クラスメイトとは学校で一番顔を合わせている時間が長くなります。クラス内の組織に「係り」「日直」などがあります。

学校の組織になると「委員会」があります。委員会はそれぞれ目的と役割と仕事があります。各委員会は校内でのそれぞれに課された目的を果たすために活動します。委員会を統括する位置にあるのが「生徒会」です。「生徒会」は学生の校内自治のトップです。生徒会の中にも様々な役割があります。

これらの所属組織を題材に選ぶ場合はその組織の活動の「目的」「活動内容」「組織の現状」「組織内の人間関係」「仕事の進めかたや価値観などの違いや軋轢」「組織にまつわる問題」を描いていくようにしましょう。

 とりわけ重要になるのはギャップです。いわゆる生徒会長という最大公約数的な一般のイメージといかにかけ離れたキャラクターを生徒会長にできるかがこの手の作品を成功させられるかどうかの鍵になります。

 


~「部活動」を設定してみよう~

学校を舞台にした作品の定番の題材として「部活動」があります。部活動は大きく分けると「運動部」「文化部」に分かれます。運動部の目的は(大会がある部活動は)もちろん「大会で勝つ」です。一方文化部は「作品展等で入賞を目指す」「部誌」の発行、作品の制作、研究と発表などです。まずはこの「部活動の目的」を明確に設定していきましょう。これらの部活動の「目的」は職業とは、また違った性質を帯びています。職業・会社の目的は「昇進する」「利益を上げる事」「社会に貢献する事」です。しかし、部活動は上記の目的に関連してかなり自由に「活動の目的」を設定できます。そしてこの部全体としての目的の他に所属する「メンバー個人の目的」も考えていきましょう。補欠の選手は「レギュラーになりたい」という目的を持っているでしょう。部活内でケンカしてる同士であれば「仲直りしたい」という目的を持つでしょう。

部活動を舞台にした作品は、「目的」であるこの「大会で勝つ」「作品展で入賞する」ということに関連するドラマの展開となります。この目的を達成するための努力、それを妨げる障害の要素、そして、それらを乗り越えて目的を達成するキャラクターたちの成長、これが部活動のドラマのパターンです。

 

~特殊な、オリジナルの「部活動」をつくっちゃおう!~

 変な部活、特殊な部活、ありえない部活、ありそうでない部活などの「新しいオリジナルの部活」を作ってみても面白いと思います。ライトノベル小説に『学校の階段』という作品があり、そこに登場するオリジナルの部活が「階段部」です。これは変な部活で「校舎の階段昇り降りしてそのタイムを競う」という競技(?)を行う部活です(いや、正確にはこのときはまだ正式な部活になっていなかったんでしたっけ)。その目的は「いかに早く校舎の階段を昇り降りできるかの追求」です。

別のライトノベル小説の作品『ベン・トー』では「ハーフプライサー同好会」なる部活動(?)が登場します。活動内容は「スーパーマーケットで出る、売れ残りの半額弁当をゲットする、力づくで」というものです。これも変です。一つの半額弁当をめぐって、様々な場所片集まった猛者たちが一触即発の格闘バトルを繰り広げるのです。たかが半額弁当一個のために……。どちらも、一見ばかばかしい目的のために本気でがんばる姿や、ポリシーや熱い闘志を持ったキャラクターのギャップの面白さが魅力となっています。青春の無駄使いですが、そこで経験・成長することは本物の部活動となんら変わりはありません。

 架空の、新しい部活動を作る際は、内容はもちろんですが、その部の「目的」を明確にしておきましょう。なぜキャラクターたちはそんな事のために一生懸命になれるのか、それをすることによって何を得られるのか、最終的にどうなりたいのか、何を目指しているのか、それらを踏まえて新しいオリジナルの部活動を作ってみましょう。


~部活動に関するその他のドラマ「部の創設」「部を立て直す」「弱小部活の強化」~

部活動もののもう一つの定番は「新しい部活動を立ち上げる」と「廃部寸前の部を立て直す」と「弱小部活を強くする」です。これらはストーリーのあらすじであると同時にキャラクターが持っている目的であり、問題となる悪い状況と回復したよい状態です。

「新しい部活動を立ち上げる」パターンは「その学校にはない一般的にある部活動を立ち上げる」「新しい架空の部活を立ち上げる」「マイナーな同好会・非公式の部活を正式な部活(予算がもらえる)に昇格させる」という3つが考えられます。それぞれ、部に昇格するための条件・反対する勢力といった障害を克服し、自分たちの活動を学校・生徒会等に認めてもらって部に昇格させるというプロットで、その過程で生じるドラマを描いた物語になります。

「廃部寸前の部を立て直す」パターンは「何らかの原因・理由でその部が廃部の危機に陥り、それをなんとかして回避させて部を立て直すというストーリーになります。ここでポイントとなるのは「廃部の危機の原因」と「廃部にさせないためにがんばる部員たちの姿を描く」という点です。廃部の危機は部員の減少、予算の削減、指導者の不足など「部活動の設立条件」を満たせなくなることです。部員たちはその条件をなんとか満たそうと奮闘するのです。

 「弱小部活を強くする」パターンでは、立て直すパターンと似ているのですが「大会などでまったく成績が出せない」「部員が足りない、部員のやる気がなくなってしまった」「もともと弱小部だった」などの部の目指す目的を達成するのがほとんど不可能という状態を何とかするというパターンです。この状態が進行していくといずれ「廃部」へとつながっていきます。このパターンを使うときのポイントは「物語のゴール」をどこに設定するかを明確にするというところです。例えば「試合に一回も勝ったことがない部活を強くする」という題材では物語のゴールは「はじめて1勝する」とか「地区予選で優勝する」とか、あるいは「全国大会での優勝」などいろいろ考えられます。どれが正しくどれが間違いかということはありません。これは作品の分量で変わってくるものです。どこをゴールとするかで、物語の描きかたが変わってきます。


◇描くものはあくまでも「人間」である!

 

~部活動の題材を通して描くのは人の「再生」と「成長」~

 部活動ものの定番としてキャラクターについて2つのパターンが存在します。一つは「再生」です。これは1度挫折とか怪我とか何らかの理由で部活をやめて落ち込んでしまったキャラクターが、立ち直って再びやる気を出すとかチームにもどるとかで再生するパターンです。また、別パターンとして学校生活という面で落ちこぼれてしまった人物が、部活動の世界で挑戦・結果を出すことで人間的に再生していきます。三浦しをん著『風が強く吹いている』では、寄せ集めの素人同然のメンバーが箱根駅伝に挑戦する、というストーリーです。

二つ目は「成長」です。部活を通して人間の大切な教訓を学び、実践する事によってキャラクターの心が成長するパターンです。未熟な状態のキャラクターが登場し、キャラクターが部活動で勝つ事や部の目的を達成する家庭で「変化・成長」することにより、試合に勝つ、部の目的を達成する、という内容になります。

部活ものといっても、主として描く対象は「人間」なのです。部活動という「舞台」を通して「人間の思い・行動・感情」を描くのです。「描くのは部活動ではなく人間である」、これを忘れないようにしていきましょう。

 

◇インターネットなど、特殊な結びつきを描く

 

~新しい「結びつき」「コミュニケーション方法」~

最近では「インターネット」といものから生じる結びつき、交流、関わり合いというものがあります。様々な場所の様々な年代の人々が(時には国境を越えて)出会う機会が生れています。インターネット通信全般、ネットゲーム、オフ会などネットに関連するものには様々なコミュニケーションの機会が存在します。

『電車男』なども実際にあった事柄をネットの掲示板に描きこんだことから物語がはじまります。電車の中から助けた女の子と交際して、その交際がうまくいくようにインターネットを通じて様々な人々がアドバイスをする、様々な人がネットを通じて繋がる、そして一つの問題に対して行動して、ついにはその問題が解決するということが、『電車男』の一つの魅力になっています。

インターネットを描くときは、ネットでの人物像と実際の人物像のギャップを描くようにしましょう。

 

 

 

◇キャラクターと組織の関係を考えよう

 

~キャラクターが組織に所属している理由を考えよう~

 職業や部活動にかかわらず、そのキャラクターがその組織に所属している理由を考えていきましょう。とくに部活動はキャラクターが持つ目的・目標に直結します。そのキャラクターは何をしようとしているのか、その組織で何をするために所属しているのかを設定していきましょう。

 

~組織独自の人間関係を描こう~

 組織内の特徴的な人間関係を描いていきましょう。会社の人間関係とか、部活動内での人間関係とか。組織・職業・部活動というのはあくまで舞台です。いわば「入れ物」です。肝心なのは中身です。つまりその組織内の「人物」を描かなければ、作品は面白くならないのです。そして、その人物同士の「人間同士の関わり合い」を描いていくときにこそ、舞台がキャラクターたちを引き立てていくのです。その組織ならではの人間同士の関係性、それに伴う問題、障害、行動を描いて物語をさらに面白くしていきましょう。

 

■vol.54

54


『キャラクターが

 一番引き立つ「世界観」

 を設定しよう!』


◇キャラクターはどんな世界に住んでいるか

 

~「世界観」を構成する要素を決めていこう~

世界観を構成する要素は大きく分けると「時代」「場所」の2つです。それ以外の要素はこの2つに付随するものです。

物語の登場人物は現代の日常を舞台にしたものであれ,過去の時代や意世界を舞台にしたものであれ,ある「世界」に住んでいます。そこには文明があり,文化があります。多くの人が暮らし,町や都市が存在し,国家に属しています。その土地固有の植物が生え,昆虫や動物が生息しています。登場人物がどのような環境で,どのように生活しているか,これらの要素は物語を作る上で非常に重要な要素となります。これらの要素をおざなりにすると,作品によっては非常に薄っぺらいもの,説得力のないものにしかならなくなります。メイドマンガの最高峰として名高い『エマ』の舞台は「19世紀のイギリス」です。この作品の一つの大きな魅力は19世紀当時のイギリスを丹念に描写しているところです。生活様式から街並み,文化,人々の価値観,服装,小物に至るまで当時の様子を詳細に描ききっています。この中で展開していくドラマには非常に大きな説得力が宿ります。作者の森薫氏は膨大な資料を集め,こだわりを持って19世紀のイギリスを作中で再現したのだと思います。それはひとえに「貴族の後取り息子と使用人の身分であるメイドとの身分を越えた(許されぬ)恋」を描く目的があったからに他なりません。当時の生活や風俗,価値観を描けば描くほど,二人の「身分違いの恋」という題材が引き立っていくのです。

 

◇世界観の数だけ物語が生れる

~テーマと世界観の関係~

 「テーマ」のところでも述べましたが,一つのテーマでも,世界観(舞台)を変えると別のストーリーが作れます。たった一つのテーマでも様々な世界観で描けばその世界観の数だけ物語を作ることができるのです。また,一つの世界観でも,テーマを変えればそのテーマの数だけ物語を作ることができるのです。これがシナリオライターが何十本何百本と作品を量産できる理由です。


◇キャラクターやドラマがいちばん引き立つ「世界観」を選択しよう!

 

~世界観もシーンやキャラクター,ドラマのためにある~

 世界観を決めるときは,なんといっても「自分がやりたい世界観」を選択するのがいちばんです。日常ものがやりたい,時代劇がやりたい,SFがやりたい,中世ヨーロッパが舞台の作品を作りたい,異世界のファンタジーがやりたい,大正ロマンがいい,などなど……。やりたいシーン,やりたいジャンルがあるかと思います。それをやればいいのです。

 その時に,ドラマやキャラクターが存在する場合は「その舞台がどれだけそのキャラクターやドラマを引き立てるか」を考えてみましょう。そのドラマと世界観・舞台の「組み合わせ」を考えるのです。ファンタジーの世界観でやろうとしていることを,日常ものでやってみたらもっと面白くなるかもせれません。SFでやろうとしていることを江戸時代でやってみたら案外面白い物が生れるかもしれません。戦国時代でラブコメをやったら……。世界観はあくまで設定です。設定はいろいろ変わっていくものです。いろいろな組み合わせを試して,いちばん引き立つ舞台・世界観を考えていきましょう。

 

◇「世界観」の構成要素

 世界観を構成する要素は「時代」と「場所」です。これらをさらに細かく考えてみると以下のような要素になります。

 

■時代背景・場所(国)・文化

まず時代です。一口に時代といっても様々な時代があります。原始時代なのか中世なのか,近代なのか現代なのか未来なのか。あるいは魔法文明か。いつの時代の物語なのかということです。時代や場所(国)によって文化の面で様々なものが変わってきます。具体的には風景や町並み,服装,生活様式,食生活,町並み,建築様式,生息する動植物,しきたり,言語,礼儀作法などなどが変わってきます。どんな家に住み,何を食べ,どこに寝ているのか。

各時代には時代背景が持つ雰囲気,情勢,流行などがあります。その時代の空気感,人々の気分みたいなものを表現できればリアルに自由にその時代を描けます。それには資料が必要です。いろいろな面から資料をそろえていきましょう。

ただし,完璧に時代考証をする必要はありません。重要なポイントは〝らしく〟です。らしくなっていればOKです。物語はいうなればウソの集まりです。どうせウソなのですから,やろうとしている事を阻害するような時代考証は変えちゃって構いません。ただし,バレないように,上手くウソをつくことが大切です。このウソ,脚色,アレンジが作品の独自性と面白さになるのです。

■文明・科学技術・産業

 

◎時代に合わせた科学技術水準を設定していきましょう。

また文明の進歩状況,産業・科学技術レベルという面では,どうでしょうか。過去の時代を舞台にした作品や異世界を舞台にした作品では,まず電気の使用があるのかどうかを考えなければいけません。なければ当然明かりはランプやろうそくとなります。産業機械がある場合は,動力は電気なのか蒸気機関なのか人力なのか水車・風車なのか,はたまた魔法機関,未知のエネルギーなのか。燃料はどうでしょうか。薪? 石炭? 石油? 魔力? 交通手段はどうでしょうか。馬・馬車? その他の動物・生物・怪物? 自動車? 鉄道はあるのか。飛行機は,プロペラ? ジェットエンジン? 気球? ヘリコプターは? 未来が舞台ならどれくらい未来かを考えましょう。宇宙船はあるのか? 銀河系を旅行できるか? ワープ航法等は存在するのか? 他の惑星との交流はあるのかなど,あるとすれば他の惑星の住人はどんな外見か,どんな生物かなどなど,いろいろな要素が関わってきます。

その他では,文明的にどのような素材を使えるかという面です。木? 土器? 陶器? 磁器? 石? 青銅? 鉄は? ガラスは,一般的か? 窓は? プラスチックはあるか? アルミニウムはどうか? この辺を考えて文明・科学技術のレベルを設定していきましょう。

通信という面ではどうでしょうか。狼煙なのか,伝書鳩なのか。郵便は? 飛脚? 有線によるモールス信号なのか,電話はあるのか,電話の形態は? ケータイ電話はあるのか。無線通信,TVはあるのか,モノクロかカラーか。コンピューターはあるのか?  ノートパソコンはあるのか。インターネットはあるのか? どの程度コンピューター制御されているのか?

料理はどうでしょうか。調理器具はかまど? コンロ? ガスコンロ? 電子レンジは? 冷蔵庫はどうでしょうか。

武器・兵器という面ではどうでしょうか。剣なのか,両刃なのか片刃なのか。時代・場所によって剣にも様々な形態があります。また槍・斧・弓・メイスなど様々です。鎧は? 戦闘時の服装はどうだったでしょうか。火薬は発明されているか。はあるのか,あれば銃はどの時代の物か。単発式なのか,リボルバー? 何発弾を装填できるのか,連続射撃はできるのか。戦車はあるのか。

国家政体はどうでしょうか。統治形態は君主制なのか民主国家か。国家元首は誰か,王なのか,選挙で選ばれた人物なのか,独裁者なのか。古代の国では宗教指導者が国を治めている例も多くあります。国の歴史は? 建国・独立の時は? 国政を司る組織はどんなものか? 議会は,議員は? 国の規模はどれくらいか。国土は? 人口は? 他国との国家間の状況はどうなのか。貿易はあるのか。平和なのか戦時中なのか。豊かなのか貧しいのか,経済状況など様々な要素があります。


■生活環境

キャラクターが生活している環境はどうでしょうか。住んでいる土地の地理的状況はどうでしょうか。気候は暑いのか寒いのか,雨は降るか,食料はどうか,飲料水は? 田舎なのか都会なのか,海の近くなのか,山間なのか,平野なのか,荒地なのか草原なのか砂漠なのか,商店街なのか郊外の住宅地なのか,山奥の村なのか,農村なのか漁村なのか,都市部なのか。それとも野営しているのか,宿屋暮らしか。住み込みで働いているのか。

経済状況はどうか。庶民並なのか,お金持ちなのか,貧しいのか。家族構成どんなか。親は? 兄弟は? 夫婦関係・親子関係は? それとも家族がいないのか? 寮で生活しているのか? 修行中なのか? 人間関係はどうか。友人とは? 近所とは? 会社では? 学校では? 成績は? 部活では? 人間関係や成績,嫌々やっているのか,楽しんでいるのかなど,様々な角度から,様々な局面で,キャラクターがどんな状況かを考えていきましょう。

 

■宗教

宗教に関してはどうでしょうか。

宗教を描くというのは「ある特定の宗教」を喧伝するという意味ではありません。

西洋を舞台とした作品,過去(大戦以前)の日本,現代の日本と共産圏以外の国を舞台とした作品では,人々の生活や価値観,礼儀作法等に「宗教」が深く関わってきます。また,ファンタジーなどの世界で架空の宗教を設定する際もそうです。

文明を遡るほど人々と宗教の関係は深いものになっていきます。洋の東西を問わず国家と宗教の結びつきは強いものがあります。昔から文化=宗教でした。人のいるところ,必ず宗教が存在します。日本も例外ではありません。年中行事であるお正月の初詣,節分,七五三,お祭り,おみこし,お盆,クリスマス,相撲など,これらはすべて「神事」,すなわち宗教儀式なのです。ですから,様々な舞台での作品を描くときは,これらの宗教的な裏づけを軽んじると,時として非常に味気ない世界観しか描けなくなります。民間伝承を含め,こうした宗教からくる文化・風俗・しきたりは作品を豊かにし,世界観を深め,生活描写をより確かなものにしてくれるのに役立ちます。

日本人には信じられないかもしれませんが,宗教と生活は密着して結びついています。結婚式(結婚披露宴ではない)も神式でも教会式でも神前で行う宗教的な誓約です。お葬式も然りです。仏壇が家にあり,神棚にお供えをします。豊作や繁栄を願い祈祷し,健康や安全を神に祈ります。魂・霊,死後の世界を信じ,亡くなった先祖を大切にし,花を供え、お墓参りをします。法事も行われます。これらはただの儀礼的なものではなく,霊を信じるという人間の持つ神や霊魂を敬う気持ちからきているのです。

 

人間は死や絶望,絶体絶命など自分の力ではもうどうにもならない状況に陥ったときに,どうしようもなくなったときに何をするかというと、じつは「神に祈る」のです。無神論者でもそういう状況になると祈ります。自分の力を越える状況が襲いかかってきたとき,人間は自分以上の存在を認め,謙虚になり,助けを求め祈り願うのです。これは万国共通の人間の行動です。

人々の「信仰心」はどうでしょうか。過去に行くほど人々は「人間以上の存在」畏敬と畏怖の念を持ち,道徳や伝統的な正しい価値観を重んじて生活していました。現在は物質文明であり,唯物論的価値観やペシミズムが浸透しています。つまり「目に見えるもの」のみを信じ,経済的繁栄のためならば何をしてもよい(法に触れることでもバレなければよい)というものです。悲しいかな,日本では現在は経済が「神」として崇拝されているに等しい状況になっています。

しかし,エンタメ作品のストーリーでは目に見えないもの,すなわち「正義」とか「善」とか「優しさ」とか「誠実さ」,「思いやる心」「助け合うこと」「がんばること」「くじけないこと」「あきらめないこと」などの人の道,人間として大切な気持ち・価値観などがテーマとして描かれ,観客にしばしば大きな感動を与えています。こんな世の中だからこそ,こういった「目に見えないもの」の大切さを描く価値があるのではないかと思います。

外国では家庭や社会で宗教が今も根付いています。食事の前に祈り,行事や大会,議会などが開かれる際にも祈りで始められることが多くあります。アメリカ大統領の就任式では聖書とフリーメーソン憲章の合本に手を当てて宣誓します。タイなどの仏教国では修行中の僧侶などは人々から敬われ,深い尊敬を受けています。

ファンタジーなどで架空の宗教を描く場合は,国家と宗教形態,崇拝対象はなにか,礼拝形態はどんなか。宗教儀式は,その様式は? 宗教施設(教会・社殿・寺院・神殿など)はどんなものかを設定していきましょう。

 

◇設定はあんまり作りすぎないようにしよう!

 

 さて,異世界が舞台の作品を書く場合,これまで述べてきた要素を必要に応じてある程度細かく設定していく必要があります。

 その際に大事な事は,設定作りにのめり込みすぎて「設定に流されない」ことです。なんでもかんでも詳細に決めて行けばいいかというと,そうともかぎりません。全部の設定を作品の中で描き切ることは不可能ですし,それが面白さにとって必要な要素でもありません。「過ぎたるは及ばざるが如し」,バランスが大事なのではないかと思います。世界観を魅せる作品もありますし,逆にあまり描かない方がいい作品もあります。やりすぎは面白さを阻害したりもしますが,一般のレベル以上の世界観の描写があれば,それは確実に作品の出来を高めてくれます。「神は細部に宿る」なんて言葉もあります。


◇キャラクターに合った世界観,世界観に合ったキャラクター

 

~名作ゲーム『クロノ・トリガー』の世界観とキャラクター設定~

 『クロノ・トリガー』は時間旅行を扱った冒険ものの作品です。偶然,未来にタイムスリップした主人公たちは世界が滅亡した未来を目にします。そして,主人公は滅亡の原因を突き止め,世界を破滅から救うため歴史を変えようと過去へ旅立つというストーリーです。

タイムスリップを扱ったこの作品では,様々な時代に時間移動します。未来,現代,中世,古代,原始時代,様々な時代で主人公と出会い,仲間となるキャラクターが一人ずつ登場します。

 

未来(文明が滅亡し,荒廃した世界)……他のロボットに排除される壊れかけたロボット

現代(平和で科学技術も発展した世界)……主人公,ヒロインの王女,幼なじみの発明少女

中世……(剣と魔法の世界,魔王に支配されている)魔法でカエルの姿にされてしまった騎士,モンスターを統括している魔王

古代……(地上は氷河期,暑い雲の上には魔法文明が栄華を極める浮遊大陸)魔法文明に翻弄される一人の少年

原始時代(未開状態)……原始人の勝気な女戦士

 

これがクロノ・トリガーに登場する時代(舞台)とそのキャラクターです。それぞれの舞台の時代背景・状態で最も引き立つキャラクターが設定されているのがわかるかと思います。また,キャラクターが最も引き立つ世界観設定がされていると言い換えることもできます。また,各世界観とキャラクターの特長を最も引き立てて魅力的にみせるエピソードやストーリーが用意されていることも重要です。

このように,世界観はそれに合ったキャラクターによって決定・構成されていきます。その根本にあるのは「キャラクターが魅力的に見えるシーン」なのです。これらの要素を踏まえたうえで,そのシーンを,キャラクターを,エピソード,ドラマをいちばん引き立てられる,あるいは引き立てるのに有効な世界観を選択・構成していきましょう。

■vol.53

53

『キャラクターの

「目的」「目標」「動機」

 を設定しよう!』

◇キャラクターは「目的」や「目標」を持っている

 

~キャラクターに明確な「目的」や「目標」を持たせよう!~

 キャラクターには「目的」と「目標」が必要です。以前に学んだことですが,キャラクターはその目標を達成するために行動するのです。キャラクターや物語には「~のために~をしなければいけない,そうしないとなにか(例えば平和とか)が失われてしまう」というある種の強制力のある強力な「目的」が必要です。「問題」を考え,その解決のために「~をしなければいけない」という設定をまずは考えてみましょう。あくまで発想はシーンから考えていきましょう。

 

~マンガに必要なもの「目的」「障害」「倒すべき敵」~

目標を達成する過程で問題が起こります。何かで読んだのですが(たしか漫画家の高橋留美子氏の言葉だったと思うのですが)マンガの世界ではマンガに必要なものは「目的」「障害」「倒すべき敵」の3つです。手塚治虫の傑作マンガ『どろろ』を読むと,そのことがはっきりと分かります。主人公の百鬼丸は父親の野望をかなえるのと引き換えに生れる前に妖怪に体の各部位を奪われるという契約を交わされてしまいます。生れてきた百鬼丸は48の妖怪たちに体を奪われ捨てられてしまいます。しかし,ある医者に救われ,人工の義手や義足をはめられてなんとか生活できるようになります。成長した百鬼丸はその48の妖怪から奪われた自分の体を取り返すために討伐の旅に出るのです。

このあらすじだけ見ても「目的」「障害」「倒すべき敵」が見事に設定されて,百鬼丸の妖怪討伐の旅の強力なモチベーションになっています。

 一つの事象に対して多数のキャラクターは様々な「目的」を持ちます。その違いを描くことでキャラクタターを立てていくことができます。キャラクターの持つ目的をしっかりと決めていくことはとても大切です。


~動かないキャラクターを行動させるために「目的」や「動機」を与えよう~

「目的」「動機」のないキャラクターは動きません。動かそうとすると無理が生じます。このまま無理を通すと作品が行き詰ります。そして筆が進まなくなります。それを防ぐためには,キャラクターが動いてくれないと感じたら,その行動を喜んでするような,したくなるような,しなければいけなくなるような「目標」「目的」「動機」をキャラクターに与えてあげましょう。

『美味しんぼ』TVアニメ第1話で新聞社に勤める主人公の山岡は,新聞の記念企画で「究極のメニュー」の企画を担当することになります。しかし,山岡は味にこだわる自分に嫌気がさしており,この究極のメニューの企画を拒否し,会社に辞表まで出してしまいます。このままの山岡では「究極のメニューを作るという目的」とは相容れないので,キャラクター的に究極のメニューを作ることができません。そう動いてくれません。ここで無理やり究極のメニュー作りを山岡に強要させるとキャラクターが破綻してしまいます。でも物語的には主人公の山岡が「究極のメニュー」をつくっていかないとストーリーが進みません。

そこで,この山岡に究極のメニュー作りをさせるために山岡に「動機」を与える必要があります。キャラクターがそういう動機を持つようになる「出来事」を起こし,そのきっかけとなる「経験」をさせてやるのです。それによってキャラクターは「動機」を得るのです。

『美味しんぼ』TVアニメ第2話がその「動機」を与えるエピソードになっています。第2話では新聞社に親子の縁をきった山岡の父親,海原雄山が乗り込んできて料理に関することで対決をすることになります。そこで山岡は負けてしまうのです。その夜,山岡は「憎き海原雄山を倒すため,料理の面で完膚なきまでに叩きのめすために,究極のメニューの企画をやります!」といって決意して辞表を撤回します。この一連の出来事によってキャラクターに「目的」「目標」「動機」を与えることができるのです。

 

~設定に動機を絡めていこう~

 設定を作る際には「動機」「目的」「目標」をしっかりと設定していきましょう。いわゆる「巻き込まれ型」のキャラクターを出したい場合はとくにそうです。巻き込まれただけでは人は行動しないのです。何かその行動をする「動機」が必要です。『エヴァンゲリオン』でも主人公は最初,ロボットに乗り込むのを拒否しますが,代わりに乗せられようとする重傷のパイロットの少女を助けるためにロボットに乗る決意をします。

「動機」は「世界観」や「特殊能力」などのその他の設定と絡めて,連動させて考えていきましょう。あるキャラクターと一緒に何かをさせたい場合,「そのキャラクターがそうせざるを得なくなるような要素」を設定してやるとよいでしょう。例えば,魔物探しに協力しないと命が奪われるという契約をうっかりしてしまう(つまり協力しないと命を失う)などです。

おすすめLINK集

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 (随時更新でございます)


■下読みの鉄人

小説新人賞投稿支援サイト、我々の強い味方です!!

このサイトの管理人さんは小説新人賞の「下読み」を担当されてたベテラン編集ライターとのことです。

新人賞などで選考委員の作家先生が読むのは最終選考に残った作品だけです。そこに至るまでの一次選考、二次選考などは「下読み」といわれる方々が作品を読んで選考します。つまり「下読み」の方々にえらんでもらわなければいけないのです。

このサイトは、そんな一次選考、二次選考を突破して最終選考を目指すためのノウハウがぎっしり詰め込んであります。また非常に親切に解説されております。まさに目からウロコの内容です!

小説作品の投稿をされている方は、ぜひご覧あれ!

 

■「亡霊は夜歩く」コミックス

当ブログのサイドバーにも画像リンクが貼ってありますが、子供向けミステリーの巨人はやみねかおる氏の大人気シリーズ「名探偵 夢水清志郎事件ノートシリーズ」の第2作目「亡霊は夜歩く」が、箸井地図氏の手によってコミカライズされてマンガで読めます! いい時代になりましたね~。

はやみねかおる氏はワタクシの大好きなミステリ作家の一人です!

ミステリ小説全般が大好きなワタクシですが、夢水清志郎シリーズはとくに好きですね。子供向けとは思えないハイレベルな物理トリックがこの作品のすごいところです。とくにシリーズ3作目の「消える総生島」がびっくりです。

あと、本シリーズは人が死なない本格ミステリでもあります。

原作は児童書の「講談社 青い鳥文庫」で発刊されておりますが、講談社文庫でも出ております。

夢水清志郎シリーズやはやみねかおる氏については、新コーナー「ワタクシの本棚」で取り上げていけたらと思っています。

■青空文庫

著作権が切れた小説が無料で読めたり、ダウンロードしたりすることができる「インターネット上の図書館」です。

ダウンロードした作品はパソコンで読むもよし、ケータイで読むもよしです。

夏目漱石、芥川龍之介、宮沢賢治、太宰治など、著作権が切れているが輝きを失ってはいない珠玉の作品群がゴロゴロころがっております。O・ヘンリーなどの海外の小説家の作品もあります。

ぜひ一度のぞいてみて下さい。

■あらすじ.com  

ぴこ山ぴこ蔵氏主宰の物語創作サイト。
「どんでん返し」から物語を作っていくという非常にユニークかつ有効性の高い創作方法を提唱しておられます。「どんでん返し」のほかにも物語創作の基礎などを幅広く網羅。ネット物語講座の草分け的存在です。
方法論の確かさもさることながら、氏の人柄の暖かさも人気の秘密なのでしょう。

■ライトノベル作法研究所

ご存知、ライトノベルを描きたい人の、ライトノベルを描きたい人による、ライトノベルを描くための創作応援サイト。多くの人が閲覧しています。皆さんの中にもこのサイトのお世話になった方も多いのではないでしょうか。Q&Aコーナーや交流コーナーも充実しています。とりあえず、ライトノベルにチャレンジしてみようと思っている方は、こちらをチェキ!

■vol.52

52


「特殊能力」の面白さは

「制限要素の面白さ」

  である!



◇キャラクターに「特殊能力」を持たせるときのコツ

 

~「特殊能力」でキャラクターを引き立てていこう!~

 さて,マンガ・小説・アニメなどジャンルは問わず,ファンタジーや伝奇作品,ライトノベル小説やSF,超能力バトルものなどに見られる,主人公の「超能力・特殊能力」を描いた作品がたくさんあります。その特殊能力は,上手く使えばキャラクターを非常に引き立て,キャラクターの魅力を大いに増してくれる有効な手段となってくれます。

 ここではこのキャラクターの「特殊能力」について考えてみたいと思います。

 

~願望・シーンから特殊能力の内容を考えよう~

 キャラクターに持たせる特殊能力を考えるときも,まず「願望」や「シーン」から考えていきましょう。こんなことできたらいいなぁ,こんなことしてみたいという願望がまず発想の出発点になります。そしてその能力を使っている「シーン」を思い浮かべます。こうしてどんな特殊能力を持たせたらいいかを練っていきます。

 

~なんでもできてはだめ!~

「特殊能力」を考えるうえでの原則は「なんでもできてはいけない」です。オールマイティ,何でもできてたらすごいスーパーヒーローが誕生すると思いがちですが,それは誤りなのです。なぜかというと,なんでもできると物語の問題解決の過程が簡単・単純になってしまい,解決が難しい問題を何とかして解決するというハラハラドキドキワクワク・葛藤・感動などの物語の楽しみの要素が失われてしまうのです。主人公が負ける可能性がまったくない勝負を見てもまったく面白くありません。

ではどうすればいいのでしょうか。

 


◇特殊能力は様々な「制限要素」が面白くする!

 

~面白い「制限要素(しばり)を考えよう!~

「優れた特殊能力の設定」とは,その能力の内容の面白さではなく,「能力を制限する要素・しばりの面白さ」なのです。特殊能力を考えるにあたっては,まず能力と一緒に,その能力を「制限」するような要素も考えていきましょう。

そのためにはまず「できることと,できないことを明確にする」ことが大切です。限界や範囲を設けて,これはできるけどこれはできない,ここまではできるけど,これ以上はできないという「制限要素(ある種のルール)」を設定していきましょう。

 

~「能力の弱点」を設定してみよう~

特殊能力を考えるときには,その能力の「弱点」を必ず設定しましょう。以前は「キャラクターの弱点要素」を決めることを学びましたが,今回は「能力の弱点」を決めていきましょう。

例えば,すごい必殺技だが「水中では使えない」とか,時間制限があるとか。無敵の巨大ロボット『エヴァンゲリオン』も絶えず電源ケーブルから電源を供給しないと動かないという「弱点」が設けられています。電源ケーブルはもちろん有線で,そのケーブルの範囲内でしか稼動できず,範囲外で戦うには新しい別のケーブルを接続しなければいけません。ケーブルが抜けると内蔵電源が4分しか持ちません。その間に敵を倒すか,別のケーブルを接続しなければロボットは停止してしまいます。もし戦闘でケーブルが切断してしまったら,電源を消失してしまったら,もしケーブルを交換している最中に攻撃されたら……と考えるとハラハラします。それが面白さにつながるのです。

アキレスも不死身になる冥府の川に浸したときに,母親が掴んでいた足首のアキレス腱が浸されず,そこが弱点となっていますし,ジークフリートも葉っぱが張り付いて龍の血を浴びなかった部分が弱点となり,それが原因で不死身の二人は負けてしまうという興味深い展開を導きます。

ですから,何らかの「弱点」となる要素を考えていきましょう。天気が晴れてくると能力が使えないとか,落ち込むと能力が消えちゃうとか、お腹が空いてると能力が使えないとか、いろいろな弱点を考えてみましょう。


~「しばり」を設けよう~

特殊能力を考える際は,何らかの「しばり」の要素を設けましょう。つまり「なんでもできてはダメ」と同じように「いつでも能力を使えてはダメ」「どこでも使えてはダメ」「無尽蔵に使えてはダメ」ということです。何らかの限界・条件・代償を設定していきましょう。そのためには以下のような要素を考えていきましょう。

 

~「発動条件」を決めよう!~

 まず能力に制限を設けるために「能力発動に必要な条件」を設定していきましょう。その能力を発揮するためには「条件が整わなければいけない」ということです。

例えば『らんま1/2』では主人公には「性別が変わる」という特殊能力が与えられています。その能力の発動条件は「水をかぶる」というものです。水をかぶると女子に変化し,お湯をかぶると男子にもどります。『未来講師めぐる』では主人公めぐるの「その人の20年後の未来が見える」という特殊能力もお腹いっぱい、満腹の状態じゃないと発動しません。このように「発動の条件」を設けることで「いつでも」「どこでも」「いくらでも」ということに対して制限を設けることができます。

 

~整えるのが困難な「発動条件」を整えようとするときに面白さが生み出される~

「特殊能力」の面白さの重要な要素の一つはこの「発動条件の面白さ」です。「発動条件」のある特殊能力を使うため「条件を整えなければ」いけない,そのために登場人物たちが「奮闘」するところが面白さにつながります。条件がなかなか整わない,条件を整えて能力を使わないと大変な事になってしまう,こういった状況にキャラクターたちを追い込む事で物語は面白くなっていきます。

 発動条件を面白くするには例えば,例えば自分の好きな女の子から「キス」してもらわなければ能力が使えない,その能力を使わないと事故に巻き込まれた子供を救うことができない,でもその女の子は自分のことが大嫌い,キスは絶対嫌だけどキスしないと子供を救えない,どうするか。ホラ,なんとなく面白くなってきますよね。広がっていきますよね。シーンが浮かんできますよね。「面白いシーン・皮肉なシーン」が思い浮かぶような「発動条件」を考えて,能力を面白くしていきましょう。


~「足かせ」を設定しよう!~

 能力を発揮するうえで「足かせ」となる要素「能力の行使を妨げる障害となる要素」を設定しましょう。それがジャマして能力が思うように使えない,という要素です。これも面白さにつながります。

一つは「限界」です。能力に関する様々な限界を設定してみましょう。発動時間,効果範囲,強弱,場所,状況,条件,精神状態など様々な要素で限界をつくりましょう。たとえばある一定の効力しかないとか、この場所じゃないと使えないとか,この時間じゃないと使えないとか,条件を満たさないと使えないとか,効果が変わるとかです。

傑作マンガ『鋼の錬金術師』でこの作品独自の「錬金術」という設定が出てきます。物質の構成を自由に変えて様々なものを作り出すことができるという特殊能力です。しかしこの能力にも一定の条件や制限が加えられています。まず、「無から有を生み出すことはできない」という要素です。何かを錬成するには必ず他の何か別のものを作り変えなければいけません。何もないところから生み出すことはできないという設定です。また、術を発動させるのに陣が必要だったり、術を発動させる動作が必要だったりと、いつでもどこでも無尽蔵に術が使えるのではないところに、この作品の面白さと奥深さがあるのです。

『未来講師めぐる』の主人公めぐるの能力は「満腹になるとその人の未来の状態が見える」というものです。しかし、この未来予見の能力も制限が設けられています。その制限とは「見えるのは20年後の未来だけ」というものです。1時間後でも、1ヵ月後でも、1年後でもなく「20年後」。当然何でも未来が見えてしまってはすべてがわかってしまうわけですから、問題も起きないでしょうし、起きてもすぐさま解決策がわかる(見える)ので物語としては面白くもなんともありません。しかし「20年後」しか見えなければ、ほとんど普通の人と変わりません。でも、役に立ちそうもないこの特殊能力を使って未来を見、ある意味歴史を変えることによってめぐるは人を助け、命を救い、不幸な未来を変えていきます。このように「未来予見」というわりとありきたりな能力も、制限要素次第では面白い、キャラクターやストーリーを大きく膨らませるものにすることができるのです。特殊能力には何らかの「足かせ」となるものを設定してみましょう。


「代償」を設定しよう!

もう一つの足かせは「代償」です。「能力を使える代わりになにかを失う」「~と引き換えにしか能力を使えない」「能力を使うと何らかの弊害が出てしまう」という感じです。例えば,能力を使うと寿命が縮むとか,不幸になるとか,好きな女の子から嫌われるとか,恋が破局するとか,恋人が自分との記憶を失ってしまうとか。そういう代償を設定すると,おいそれと簡単に能力を使うことはできなくなります。また能力を使うかどうか,自分の大切な物を犠牲にしてでも能力を使うべきかどうかという「葛藤」の要素を生み出すことができます。そういう状況で自分を犠牲にして,誰かのために代償を覚悟で能力を行使するときに,お客さんに感動を与えることができます。特殊能力とその行使に対してキャラクターがどう思い,どう考え,感じ,選択するのか,それらを描くことでキャラクターをよりいっそう描いていくことができるのです。

『鋼の錬金術師』では「等価交換の原則」という設定があります。より大きい術を使うには大きな力の素となるものが必要、というものです。主人公とその弟は亡くなった母親をよみがえらせようとして失敗し、その代償として弟の〝体〟を失ってしまいます。主人公は自分の片方のうでと引き換えに、弟の魂をとりあえず他のものに定着させます。この作品が他の特殊能力や魔法を扱った作品と一線を画しているのはひとえにこの制限要素である「等価交換」の設定とそれにまつわるドラマの面白さ、葛藤があるからなのです。

 

~能力をどう使うか~

 特殊能力とはあくまで道具です。それをどう使うか,どう運用するかはそのキャラクター次第です。

例えば何でも持ち上げてしまう「怪力」という能力があった場合,ある者はそれを人助けのために使うかもしれません。またある者はその力を使って犯罪を行うかもしれません。特殊能力を制して,偉大な事を成し遂げる者もいれば,能力に支配されて堕ちていく者もあります。

特殊能力を描く際には,能力をどう使うか,何のために使うか,キャラクターがその能力に対して持っている意識,態度,状態を描いていきましょう。

また,能力は弱い能力でも使いかたを工夫すると大きな効果を発揮します。能力をどんな風に運用するか,どう利用するか。「バカとはさみは使いよう」という言葉もありますが,特殊能力にもまったく同じことがいえます。結局は人間の知恵なのですね。

弱い者が強い者を負かす,これはエンターテインメントの基本です。小さな能力でも使いかたを工夫したり,協力したり連携したりすることで効果が違ってきます。能力の使いかた,これも考えてみましょう。


~問題を解決しない特殊能力,問題の原因となる特殊能力の設定~

 特殊能力には問題解決に関わってこない能力,役に立たない能力というものがあります。そういう能力は問題を解決するのではなく「問題の原因」となるものが多いです。「心と体が入れ替わる」とか「子供になってしまう」とか「性別が変わってしまう」とか「時間を移動してしまう」とか,かえって「トラブルの原因」となる能力です。その能力によって問題が発生してしまうのです。

 

 

◇「特殊能力」を引き立たせる

 

~「ピンチ」「葛藤」をつくりだそう~

 特殊能力を考えるとき大切なことは「ピンチ」になりやすい要素を持っているかどうかということがあります。

 設定した特殊能力の「発動条件」や「弱点」,「足かせ」「代償」などの制限要素に「ピンチ」になりやすい要素,「葛藤」を生みやすい要素を必ず入れておきましょう。繰り返しますが,特殊能力が面白いのではなくて「制限要素」が面白いのです。致命的な弱点とか,難しい困難な発動条件,大きな代償など,制限要素を利用して様々な「ピンチ」,危機的状況,「葛藤」を作っていきましょう。

 

~特殊能力や制限要素が最大限に活きるシチュエーション・場所を用意しよう~

 特殊能力を使ってキャラクターを引き立てていくには,その特殊能力や制限要素が最大限に活きる状況や場所を設定してみましょう。

代表的なものは「絶体絶命の大ピンチ」です。絶体絶命の追い込まれた状況で「特殊能力」を使って大逆転,鮮やかに問題解決させてみましょう。これは「能あるタカは~」パターンでは必須の展開です。

 もう一つは「大騒動」です。その能力や制限要素のためにとんでもない大騒動になってしまうというパターンです。ギャグ,コメディ作品に多いパターンです。

 特殊能力はそれに付随する「制限要素」や「能力を使うシチュエーションや環境」などで面白さを生み出していきましょう。能力の内容はありきたりでも構いません。どれだけ面白い「制限要素」や「能力を使うシチュエーションや環境」を考え付けるかが鍵なのです。


◇その能力を得るに至った理由を考えてみよう

 

~能力によってキャラクターを立てるために「なぜその能力を持っているか」を考えてみよう~

 通常の才能・能力・知識や特殊能力など,キャラクターの持っている高い能力には,その能力を持っている理由が必ずあります。たとえば傑作マンガ『MASTERキートン』の主人公キートンはしがない大学の考古学の落ちこぼれ非常勤講師ですが,じつは高いサバイバル技術を持つ現代戦のプロで,銃で襲ってくる敵をその場にある有り合わせのもので撃退してしまうという「能力」を持っています。何でそんなことができるかというと,以前にイギリスの特殊空挺部隊SASに所属し,その隊の教官だったという過去があるからです。『るろうに剣心』の主人公剣心は普段は情けない優男ですが,実は剣の達人です。なぜならば,伝説の剣術「飛天御剣流」の継承者で,幕末には「人斬り抜刀斎」とあだなされる最強の剣客だったからなのです。傑作料理マンガ『美味しんぼ』の主人公山岡士郎は新聞社のぐうたら社員ですが,じつは凄腕の料理の達人で,深い知識と高度な調理技術を持っています。なぜかというと,父親が美食家の海原雄山であり,中学生ぐらいから高級料理クラブ『美食倶楽部』の厨房に立たされて,料理の技術を徹底的にたたき込まれたという過去があるからなのです。ドラえもんは未来から来た猫型ロボットなので何でもできる未来の道具をもっています。パーマンはバードマンからパーマンになるためのセットを授かったために空を飛べたり怪力を出すことができるのです。

 このようにキャラクターに備わっている能力の由来,理由を考えることによって設定が膨らみ,キャラクターが広がっていき,キャラクターに魅力を加えることができます。また,その「能力」に説得力を持たせることもできるのです。

 

 

 

 

 

 

 

■vol.51

51


『主人公には

「いちばんの才能」

 を持たせよう!』


◇主人公キャラクターの才能を決め,「一番高い能力」か「独自の能力」を持たせよう!

 

~キャラクターに「才能」を与えよう!~

 主人公キャラクターには一つの,特徴的な「才能」を与えましょう。どんなものでも構いません,一つだけ他のキャラクターに負けない「何か」を設定してあげましょう。それがキャラクターの特長となり,魅力となり,物語の問題解決の手段となるのです。

 「才能」の内容は何でも構いません。剣の腕がすごいとか,料理がすごく上手いとか,笑顔がすごく魅力的だとか,優しいとか,どんなものでも構いません。何か一つ,得意なもの,一番のもの,他のキャラクターが持っていないものを設定してあげましょう。

 

~肉体的な能力と知識・知性面の能力~

 キャラクターの「才能」は言い換えれば「能力」です。要はそのキャラクターができること,秀でている能力です。物語では往々にしてこのキャラクターの「高い能力」が物語の問題を解決します。

その能力には大きく分けて2つ,「技能」「知識・頭脳」の能力があります。技能は肉体的な能力,技術的な能力です。例えば格闘技の技能とか剣術とか,スポーツ等の能力です。知識・頭脳はある事柄に対する深い知識,とくに他の人が知らないような知識,専門的な知識,関係ない分野の知識を利用する応用力,分析力,発想力などです。この能力で一番分かりやすい例が推理小説の「名探偵」です。頭脳,頭の良さが名探偵の最大の能力です。それによって誰もわからなかった事件の真相を暴き,犯人を見つけ事件を解決するのです。また,諸葛孔明などの「軍師」もこの頭がいいという能力で何万という軍隊を撃退してしまいます。

 主人公は大体のパターンとして,登場人物の中で「最も高い能力」を有している,もしくは主人公にしかできないことがあります。一番強いとか,一番専門知識があるとかです。これらの秀でた能力・独自の能力によって問題が解決されていきます。

 ですから,主人公が活躍するには他のキャラクターよりも抜きん出た「能力」,もしくは主人公にしかできない事柄である「独自の能力」を持たせるようにしましょう。そして,その能力により問題を解決させましょう。


~精神面・人間性の能力~

 「メンタル面」「人間性」などの内面の特質も,問題の解決という面では「能力」と捉えることができます。

例えば「簡単に諦めない」とか「粘り強い」とか「何度倒れても起き上がる」「勇気を出す」「不屈の闘志」といった「意思の強さ」などから,「明るい」「潔い」「人を和ませる」「正直」「純粋」「優しさ」「思いやりがある」など性格面のものもあります。物語ではこういった「人徳・性格面の良いところ」などの人間性でも主人公が最も優れたものを有していることがほとんどで,それによって問題が解決につながるといった展開がよくあります。分かりやすいところではイソップ童話の「金の斧銀の斧」がそれです。この物語の主人公には何の際立った能力もありません。ただ「正直」なだけです。でもその正直が「湖に落として斧を失う」という問題を解決します。ストーリーはご存知のように「水の中から現れた女神の問いに正直に答える」というものです。このようにキャラクターの性格の優れた面も「能力」として考えていくことができます。

 この場合は物語の「テーマ」部分と上手く絡めていきましょう。その性格的特質を表すことで周りのキャラクターに影響を与えたり,他のキャラクターの心を変化させたりします。

 

~地位・立場・財力など~

 「能力」と呼べるかどうか分かりませんが,キャラクターが「持っているもの」もキャラクターを膨らませ,引き立たせ,問題解決に関与するものもあります。例えば「すごいお金持ち」だとか「高い地位に就いている」とか「すごい道具・設備を持っている」とか「すごい人物と知り合いだ」といった具合です。

 

~主人公の能力で問題を解決させよう~

これらの「能力」で主人公が問題を解決させれば,主人公のキャラクターが引き立ち,魅力が増していくでしょう。ただし,そのためには「演出」が必要です。他のキャラクターではできない事,離れ業を主人公がやってのける,そして,それが絶体絶命の追い詰められた状況でそれをやるということです。

どんな状況で,どんな問題に対して「能力」を発揮するか,そこを一番キャラクターの能力が引き立つ環境・タイミングで描いてやる必要があります。


■vol.50

50

 

 

「同人誌」つくろう!』

 

◇既存の作品を「どうすればもっと面白くなるのか」

と考えると、ヒントが見えてくる

 

 既存の作品のパスティーシュ(贋作・オリジナルエピソード)を書いてみると、

面白くするために「何が必要か」わかる

設定とは少し話がズレるかもしれませんが、また以前書いたことと重複するかもしれませんが「既存のある作品」があったとします。けっこう好きな作品だったとします。その作品のオリジナルエピソードを自分が書くとしたら、例えば一話完結の連載作品を自分が1話だけ書くとしたら、どういう手を使って面白くできるでしょうか。「さらに面白く」するにはどうすればいいのでしょうか。

これはいわゆるアニメやマンガ、ゲームのファンが作る「同人誌」の作り方と似ています。このいわゆる「贋作」作りは、物語を面白くする要素を学ぶ上で非常に役に立つ方法です。

名探偵の代名詞ともなっているコナン・ドイルの推理小説『シャーロック・ホームズ』シリーズは、世界中のファンの間で今なお贋作作品が作られ続けています。日本でも新本格推理の旗手として名高い島田荘司氏の作品の探偵「御手洗潔」シリーズの贋作作品などが有名です。作者の島田氏もこういったファン作品に大きな興味を示しています。

マンガやアニメの同人誌は今や各地で即売会が開かれ、年二回のコミックマーケット等でもおなじみのファンの集い&即売会です。これはいまや一つの創作文化として認められ、同人誌でのパスティーシュ制作はメーカーも事実上認めているところがあります。逆に同人誌に描いてもらった方が売り上げが伸びるという例もあります。

本講座でもあくまで自己の勉強のため、物語創作の技術向上のための習作の一つとして作ってみることをおすすめします。それを即売会などで発表・販売するかどうかは個人の自由です。

さて、同人誌では、キャラクターや設定はすでにあります。また、本編でのストーリーの流れもすでに存在します。その中でオリジナルのストーリーを創作するのです。そのためには、すでにある設定やストーリー、キャラクターを様々な角度から捉えて、膨らませて描いていく必要があります。

 

 キャラクターをいろんな面から多角的に捉えてみる

既存の作品は本編で見せるキャラクターの魅力がすでに存在します。ある程度キャラ設定が決まっています。そういう場合、その設定を膨らませたり、設定の隙をついたりして、物語を創作していきます。たとえば、キャラクターが普段見せない面(職業についているキャラクターだったら非番や休日の時に見せる別の顔など)を描いてやると、ギャップや2面性によってキャラクターが引き立ちます。

一人のキャラクターには、いろいろな面があります。家族では二人の妹の頼もしい兄ですが、学校では勉強ができずに悩んでいる学生かもしれません。しかし部活では水泳部に所属して県大会で優勝したすごい選手かもしれません。放課後はイタズラをやって周囲を困らせる問題児かもしれませんが、横断歩道ではおばあちゃんの荷物を持ってあげる優しい少年かもしれません。このように、キャラクターにはいろいろな側面があり、いろいろな立場・状況での一つのキャラクターのいろいろな側面が見えた時、キャラクターはふくらみ、広がっていきます。

 次のような方法で「いつもの」キャラクターを広げてみましょう。

 

 キャラクターの普段見せない意外な一面を描いて、キャラクターを膨らませる。

 

 スポットの当たらないキャラクターに

スポットを当ててみる。

 

 ヒーローや正義の味方などの日常を描いたり

生活描写をするなどして、キャラクターを

膨らませていく。

 

 さまざまな場所・立場・場面・状況で見せる一面を描いてみる。

 

● 普段関わりのあまりないキャラクターと関わらせてみる。

■vol.49

49

『物語のもう一つの流れ、

「謎の解明」


◇「謎」,「秘密」要素を作って,作中で少しずつ解明していってみよう!

 

~「謎の解明」を描く~

 物語は変化を描くものです。物語のはじめと終わりとで状況が変化します。変化とその過程を描いたものが物語です。

 しかし,物語には「もう一つの流れ」と呼べるような流れが存在します。それは「不明な要素(謎)が解明していく」という流れです。不明な要素,不可解な要素がまずあり,それが物語の進行とともにだんだん明らかになっていくというものです。推理ものや冒険ものの作品に多い要素です。日常ものにも,4コママンガにもあります。例えば「ある人物が,急いで走っている,何で走っているのか,実はトイレに行きたくて走ってトイレを探していた」という感じです。

 とくに推理ものは「謎の解明」が物語のメインプロットになります。冒頭で「不可能状況・不可能犯罪」が提示され,それがどのようにしてどうやって行われたか,誰が行ったか,なぜ行ったかなどの謎を解明していきます。

 

~謎の解明を障害や問題の解決に絡めていこう~

冒険ものなどの作品はこの「謎の解明」を物語中の障害や問題の解決に絡めていきましょう。謎が解明したおかげで問題が解決するとか,問題が解決して謎が解明するなどです。

映画『天空の城ラピュタ』でいえば「諜報員と一緒にいる謎の少女」「襲ってくる空中海賊」「宙に浮く少女」「飛行石と呼ばれる謎のペンダントとその力」などです。これは物語冒頭で出てきますが,説明らしい説明もされずに物語は進んでいき,物語が進むにつれてその「謎的な不明要素」が少しずつ明らかになっていきます。視聴者はその謎の解明にどんどん引き込まれていきます。

『エヴァンゲリオン』も「敵の正体」「味方のロボットの秘密」「敵と戦う組織とその目的」「人類補完計画」など「説明されない解明されない要素」がいくつも設定されています。「襲いくる敵とロボットで戦う」というメインのストーリーに加えて,放映話数が進むにつれてだんだんと不明だった謎の要素が解明され「意外な衝撃の真相」が発覚していくのです。


◇「謎」や「秘密」の要素を設定してみる 

 

~「謎」や「秘密」をつくるには「不明な要素」を設定していこう~

 「謎」「秘密」をつくって作中で解明していくためには,まず謎となる「解明前の不明な要素」を設定していきます。

 まず「ある状況」を考えます。これはできれば「シーン」「キービジュアル」であることが望ましいです。例えば「ここ一ヶ月,早朝にメイド服を着た若い女性たちが大型バイク・ハーレーダビットソンに乗って爆走している」という状況があったとします。なぜなのか,常識で考えても分からない,おかしい。これが「謎」になります。

この「謎」が決まったら次はその「意外な,驚くべき真相(理由)」を考えていきます。真相には次のような要素が含まれます。

 理由(真相・問題解決上重要な手がかり)

 動機・目的

 正体

 隠された過去        ……などです。

 

具体的には,

 何で(どうして)~なのか(理由)

 その人物は「何者」なのか(人物の正体)

 なぜ,なんのために~をしたのか(目的・動機)

 

前述の「ハーレーダビットソンで爆走するメイド服の女性たち」の場合は,何でそんな事をしているのか,なぜメイド服なのか,と言う理由,真相を考えていきます。例えば「近々メイド限定の大型バイクのレースが開催されるのでそのトレーニングをしている」といったような理由になります。さらに,なんでそのレースに出場しなければならないのかという謎があり,その真相は「傾きかけたメイド喫茶のお店を立て直すための資金をそのレースの賞金で補うため」とか「レースの賞金で難病にかかって膨大な治療費がかかる友人を救うため」とか,いろいろと考えられます。

ポイントは「驚くべき真相」「意外な理由」という点です。普通の常識的な理由や真相ではなく,予想もつかないような意外な理由が描けれていれば,その設定の面白さに繋がるでしょう。


 さて,ここで注意すべき点は,何度も繰り返しているように「設定」や「謎」が作品を面白くするのではないということです。この例でも「メイド姿の女の子たちがハーレーで爆走する理由」が作品を面白くするのではありません。作品の面白さは少女たちのキャラクターの面白さや,気持ちの描写,本番のレースの展開,クライマックスがストーリーを面白くしていくのです。ですから,設定はただの裏付けであるべきもので,やはりキャラやストーリーをしっかり作っていかなければ作品は面白くならないのです。

 それを踏まえた上で,続けていきましょう。

 

◇他人に知られてはいけない真相が「秘密」となる

 

~「秘密」を作ってキャラを引き立てよう~

驚くべき真相の中で,何らかの事情があって人からそれを隠さなければいけない場合があります。それが「秘密」の要素になります。秘密は隠さなければいけない要素であり,同時に,作中で必ず「暴露」されなければいけない要素でもあります。

物語の鉄則として,「秘密は必ずバレる」のです。

なぜなら,そうじゃないと面白くないからです。また,「秘密」がバレるか,バレないかといったやりとりがキャラクターやストーリーに面白さを加えていくこともあります。

 

~「秘密」と「隠さなければいけない理由」を考えよう~

「秘密」を描く場合は,「秘密」とそれを「隠さなければいけない理由」の2つを決めておきましょう。

 また秘密,隠さなければいけない事柄という面では人物の他にも対人関係,恋人関係,親子・家族関係でもあります。親しげに接しているが実は憎んでいるとか,不倫・二股,仇,本当の親じゃない・子じゃないなどの血のつながりなど,敵だと思っていたら実は兄弟だったとか親子だったとか(スターウォーズなど),特殊なものとしては親を殺した犯人にそれとは知らずに育てられたとか,いろいろ考えられます。実は男だったとか女だったとか,別人だったとか,地球人じゃなかったとか,人間じゃなかったとか,いろいろな秘密を設定してシーンやキャラクターやストーリーを引き立たせていきましょう。

 「実は~だった」という秘密を設定する際は,それを匂わせる証拠をさりげなく提示しておきましょう。例えば,乞食が実は王家の末裔だったとしたら,王家の人間しか持っていない指輪とか首飾りを持っているなど,さりげない伏線を張っておきましょう。


~組織の秘密,「裏の目的」を考えよう~

会社・国家・軍隊など,色々な組織の中では「隠されている事柄」というものがあります。会社の実情とか,資金の流れとか,過去に事故死した社員の事とか,社長の本当の目的とか,いろいろな真相があります。組織というものは「なにかの目的があって」作られているものです。しかも「隠さなければいけない要素」というのはたいてい「悪い事」です。悪いから,社会的に反することだから隠さなければいけないわけです。正義の,正しい,まっとうな組織だと思っていたら実は裏でとんでもない悪事をたくらんでいたという「真相」が明らかになるのです。ですから組織の「秘密」を設定していく際は「何をしようとしているのか「何のために行うのか」「それよってどんな利益があるのか」を考えていきましょう。それが「秘密」や「隠す理由」に繋がっていきます。

 

◇「個人的事情」を設定しよう

 

~個人的な秘密・事情をキャラクターに与えよう~

 キャラクターを面白くする要素として「個人的事情」があります。これは「個人的」な「何らかの事情のある事柄」です。何らかの事柄とは,人から隠さなくてはいけない秘密,人にいえない過去,バレると困る事柄,偽っている(ウソをついている)事,家庭の事情,人と違う点などがこれに当てはまります。これは外見と本当の人物像のギャップをつける事で設定することができます。

 たとえば,お金持ちのふりをしているけど本当は家が貧乏だとか,お嬢様の振りしているけど本当はまったくの庶民だとか,人には言えない意外な趣味を持っているとか,意外な秘密を持っているとか,意外なバイトをしているとか。

 「個人的な事情」は特殊であればあるほど,意外であればあるほど,外見とのギャップが大きければ大きいほど面白い物になります。

また「個人的事情」はあるキャラクターにばれる事になります。そのキャラクターとは「秘密を共有する仲」になります。この二人は特別な関係になります。また「個人の秘密」を知ってしまったキャラクターがどんな態度をとるのか,どんな対応をするのか,秘密をバラすのか,秘密をネタにゆするのか,それとも……。その秘密を知られたキャラクターがどんなことをするかで,そのキャラクターを描いていくことができます。また,秘密を共有するもの同士に発生するドラマというものも,描いていくことができます。

 

◇謎や秘密を描く場合は「説明しない,しすぎない」ようにしよう!

 

~謎や秘密を描く場合は「全部説明」してはいけない~

 謎や秘密を描く場合は,不用意に全部説明して真相が明らかにならないように注意しましょう。なぜなら,お客さんはその秘密・謎がどんなものなのか,どんな真相があるのかといったことを知りたくて作品を読んだり観たりするところがあるからです。

 第1幕のツカミのシーンのあとは人物や状況などの説明の場面です。ここで,謎や秘密として引っ張りたい要素は意図的に説明しない,しすぎないようにしましょう。謎や秘密は,ちょっとずつちょっとずつ明らかにしていきましょう。いきなり全部明らかにするのではなく,チラチラと真相を覗かせながら,でも肝心な真相は見えない,といった形で描いていきましょう。

説明は「多少説明不足かな」と思えるくらいでちょうどいいのです。『劇場版起動戦艦ナデシコ』では冒頭で,ほとんど説明のないまま怒濤のようにドラマが展開していきます。謎の黒いロボットのパイロットや不気味な暗殺部隊など,登場人物も説明のないままどんどんドラマに登場していきます。ここは謎をばら撒くシーンです。そして最後に正体不明のロボットが確認され,「あのロボットは一体? その目的は? 誰が乗っているのか?」という大きな謎が提示されて物語がはじまります。その後は真相を解明するために主人公たちの行動し,少しずつ謎が明らかになっていきながらストーリーが進みます。そしてロボットやパイロットの正体が分かったところで「更なるもう一つの衝撃の驚くべき真相」が明らかになります。衝撃の真相だと思ったらもっと大きな驚愕の真相が隠れていた,というわけです。最初から全部説明されてしまったり,逆にまったく説明しなかったりすると,お客さんの興味は失われていってしまうのです。ここでビックリできるのは,説明を最小限に押さえ,謎を残し,ちょっとずつ解明していき,それをストーリー(問題の解決)にうまく絡めていったからビックリできたのです。これが「うまい説明の仕方」なのです。

◇どこでバラすか? 謎を解明する「絶好のタイミング」と「方法」を考えよう

 

~衝撃の真相は「一番びっくりするタイミング」で,「一番びっくりする方法」で明らかにしよう!~

謎や秘密の衝撃の真相はその謎の真相の驚愕度の高さもさることながら,それを明らかにする(解明する)タイミングが重要となります。これらの謎要素はストーリー(問題解決の過程)に絡めて描いていき,ここぞというタイミングで真相を明らかにしましょう。それはどのタイミングかというと「お客さんが一番びっくりするタイミング」です。たとえば前述の『スターウォーズ』では師オビワンの仇であり宿敵ダース・ベイダーが,実は自分の父親だったという衝撃の事実,真相が明らかになります。それが明らかになるのが劇場二作目のラスト,主人公とダース・ベイダーが一騎打ちで戦い,手を切り落とされて絶体絶命の状況に主人公が陥ったときです。確かにこれはびっくりしますよね。お客さんも「まさか,えぇ~っ!?」という状況だったのではないでしょうか。

「一番びっくりするタイミング」で,「一番びっくりする方法」で真相を明らかにすることで,真相の持つインパクトが何倍にも強くなるのです。

 

~バラさない謎や秘密は作っても意味がない~

 前述しましたが,作中で語られる謎や秘密は作中で必ず白日の元にさらされることが前提になっています。明らかにならない謎ならば作らない方がいいのかもしれません。明らかにならない場合があるとすれば,それは続編などが作られる予定がある場合です。または,サブキャラクターなどの主要人物にかんする情報ならば,解明されない事もあるかと思います。

 しかし,通常は必ずバレます。なぜなら,バレることでキャラクターがより引き立ったり,広がったり,魅力が増したりするからです。

 すべてはシーンやキャラクターのためにあるのですね。

 ただ、制作者サイドでキャラクターに対する理解を深める目的で「裏設定」や「秘密」「意外な過去」を決めることはあります。しかし、それもメインではないサブキャラがおもで、メインキャラクターで、しかもウェイトの高い重要な「秘密」はバラした方がキャラクターが面白くなります。

 

 

■vol.48

48


『「設定」は、

「キャラが魅力的に見える

 シーン」のためにある!』


◇必ず「キャラクターが魅力的に見えるシーン」から「設定」をつくろう! 

 

~設定はキャラクターのためにある!~

 面白い物語に必要な3つめの要素は,この「設定」です。設定の中には「人や人間関係に関するもの,作品の舞台・時代・場所などの世界観を表すもの,物語上の特別な仕掛け・特殊設定など」があります。

 さて,設定をつくる上で肝に命じなければいけないことは,設定とは「キャラクターのためにある飾り・オマケである」ということです。決して設定がキャラクターを左右してはいけません。

そして,最も大切な事は「キャラクターが魅力的に見えるシーンを実現させるために,それに合った設定を考えていく」ということです。設定を先に考えてはいけません!(ただ同時に思い浮かぶ事はあります)

 

~面白い設定があっても、それだけでは作品は面白くならない~

凝った設定をウリにしている作品は数多くあります。特殊な世界観,特殊な能力,特殊な人間関係・状況,特殊な個人的事情など,作品を読んでいるとそういった特殊な設定に目が行き,あたかも特殊な設定が作品を面白くしているように感じることがよくあります。

しかし,それはちがいます。

特殊な設定がなされている理由は何かというと,それは「そのキャラクターを描く」ために「そういった設定が必要だったから」なのです。キャラクターのために,作者の意図通りのキャラクターを,意図通りの状況で,意図通りに描くために設定を考えるのです。設定がキャラクターを引き立てているから面白いのであって,設定が面白いのではないのです。

面白い設定があっても,面白いキャラクターがいなければ作品は面白くなりません。

設定を活かすも殺すも,やはりすべてキャラクター次第なのです。


◇設定は必ず「後付け」となる!

 

~シーンやキャラクター,ストーリーを作ってから設定を考える~

くりかえしますが,「設定」を作る際には,「設定」から先に考えてはいけません。

必ず「魅力的に見えるおいしいシーン」が浮かんでから,キャラクターができてから,その後で「設定」を考えていかなければいけません。そうしないと,設定作りの迷路にハマり,迷ってしまう危険性があるからです。設定だけはどんどん増えていくけど,肝心のキャラクターやストーリーが一向に思い浮かばない,という状況に陥りやすくなります。設定はあくまでもオマケ要素です。設定は必ず「シーンやキャラクター,場合によっては大まかなストーリーやプロットが浮かんだ後に作っていく」ようにしましょう。

 

~設定とは「やりたいこと(やりたいシーン)をやるための合理的な説明」である~

設定はシーンやキャラクターのためにあるものです。

まずシーンやキャラクターが浮かび,そのシーンやキャラクターを実現・具現化するために,そのためのお膳立てである「設定」をを作っていきます。そのシーンやキャラクターを作る過程で「必要」になってはじめて設定を作ります。設定は「やりたいこと,やりたいシーン」を実現するための合理的な説明なのです。ですから「できたらいいな」「あったらいいな」「起こったらいいな」「体験してみたいな」というシーンを作るために,ある程度無理なく実現できるための合理的な説明を考えてお膳立てしていくのです。

 

~設定の具体的な考え方~

例えば「若い男女がいつも一緒にいるシーン」が思い浮かんだとします。しかし,思春期の若い男女(とくに日本人)は,「何かもっともらしい理由」でもないかぎり男女がいつも一緒にいることはありません。ですから,二人が一緒にいる,いなければならない「理由・シチュエーション」を考えて,そのシーン実現していくのです。その「理由・シチュエーション」が「設定」なのです。

≪設定を考える順番≫

●まず実現したいシーン:「若い男女がいつも一緒にいる」

●次にシーンを実現するための理由:「日直で一緒にいなければならない」とか「部活で,部員がその男女二人しかいない」とか「家が隣同士だ」などなど……。


~少年ジャンプの隠れた名作「ダブル・アーツ」に見る設定のつくりかた~

古味直志著「ダブル・アーツ」という隠れた名作マンガがあります。(個人的には大好きな作品です)

この作品はファンタジーの世界を冒険していくというストーリーで,主人公とヒロインはとある事情から「四六時中手をつないでいなければならない」という状況に置かれてしまいます。それこそトイレの時もお風呂の時も,敵と戦うときでさえも二人は手をつないでいなければならないのです。なぜなら,手をつないでいなければヒロインが死んでしまうからなのです……。

さて,ここからは私の想像なのですが,おそらく作者はこの作品の構想段階で一番最初に「手をつないでいる主人公とヒロインのシーン」が思い浮かんだのではないかと推察されます。「手をつないでトイレに入るシーン」とか「手はつないで目隠しをしながらお風呂に入るシーン」とか「いくらケンカをしても手はしっかりつないでいなければいけないというシーン」などの「ドキドキの,爆笑シーン」がまず浮かんできたのではないかと思います。そしてそのシーンを無理なく実現するために「いかなる時も二人が手をつないでいなければいけない」という合理的な理由を考えていったのではないかと思います。

「ダブル・アーツ」で描かれたその理由となる設定は「世界中に蔓延するトロイという不治の伝染病,その治療のために各地を旅するシスターと呼ばれる若い女性たち,自身もシスターであり伝染病の影響で死が迫るヒロイン。しかし,主人公に秘められた特殊な力のため,主人公の体に触れているとその病気の進行が停止する。ヒロインはトロイの治療の手がかりになるかもと思い,主人公を中央の治療施設へ連れて行く旅に出る事になる。ただ,ヒロインはトロイに侵されているため,病状を食い止めるために主人公といつ何時も手をつないでいなければいけない」というものです。

 

このように,設定を考えるときは「伝染病トロイ」とか「トロイを治療するシスター,その寺院」「主人公の体に触れていると病状の進行が停止する」といった「設定」から考えていくのではなく,前述の「いつも嫌々ながら手をつないでるシーン」や「戦いの最中も手を離せずピンチになってしまうというシーン」など「シーン」をまず思い浮かべてから,そのシーンを実現・具現化するためのお膳立て・理由である「設定」を考えていくようにしましょう。

なぜならば,お客さんが見たいのは「設定」や「くわしい説明」ではなく,「ドキドキのシーン」「爆笑のシーン」だからなのです。

 

怪獣映画「ゴジラ」もそうです。(詳しくは分かりませんが,想像ですが)放射能の影響でゴジラが出現したという設定がはじめに考えられたのではなく,核の恐ろしさを象徴するシーンである「街を破壊するゴジラの映像」が始めにあり,それを実現するために放射能の影響でゴジラが生れて……という設定を付けていったのだと思います。(まあ,あくまでも想像ですが)

◇キャラクターを引き立てる設定を考える

 

~キャラらを魅力的に見せるために設定がある~

 設定を考えていく上でもうひとつ注意する点があります。それは「設定とはキャラクターを引き立てるためにあるもの」という点です。キャラクターを考えた段階で性格や弱点など様々な要素が決まってきます。「設定」はそうしたキャラクターの要素を最大限引き立てるものにしていかなければいけません。

決して,設定を先に考え,それからその設定を実現できるキャラクターを考えてはいけません。これをやるとキャラクターは設定を実現するだけのただの人形,駒に成り下がってしまい,設定に流されてキャラクターの面白さのまったくない,血の通っていない死んだキャラクターになってしまうからです。

 原哲夫の傑作アクションマンガ「北斗の拳」という作品があります。近未来の世紀末,核戦争で荒廃した世界を舞台に伝説の拳法「北斗神拳」を継承する主人公「ケンシロウ」が,その拳法を使って弱者を虐げる悪者をやっつけていく,というストーリーです。

 さて,伝説の拳法を使うカンフーの達人という主人公を一番引き立てる舞台設定とは何でしょうか。もし「北斗の拳」の舞台が現代の中国とか,アメリカとかだったら,これほどまでに「ケンシロウ」というキャラクターの魅力は描けなかったのではないでしょうか。近未来,核戦争で世界は荒れ果て暴力と略奪が日常茶飯事と化している,絶望が支配するバイオレンスな世界だからこそ,東洋の神秘的な拳法を使って無敵のカンフーアクションで悪人を倒すというケンシロウのキャラクターが一番引き立てられていくのです。近未来の荒廃した世界に拳法で戦うからいいのです。これが銃などで敵を倒すというのでは,普通過ぎて面白みやギャップがなく,キャラクターが引き立たないのです。

 

◇設定は状況に応じてどんどん変わっていっていい!

 

~キャラクターやストーリーの必要に応じて設定はどんどん都合よく変えていこう!~

キャラクターに関する設定,キャラクターが住む世界観や生活状況,人間関係などの設定は,種類を問わず「キャララクターを引き立たせる」ためのものを考えましょう。そして,設定はキャラクターやストーリーに応じて,柔軟に,どんどん変えていきましょう。設定を変えていくことでキャラクターがより引き立てば,それは変えるべきです。設定を変えたくないためにキャラクターやストーリーを変えるなんていうのは愚の骨頂です。設定はキャラを引き立てる飾りです。キャラのためにドンドン変えていきましょう。

◇お客さんの願望が叶うような,願望を叶えるための設定・状況を考えよう!

 

~お客さんの望むものを提供する~

 ここで,まず考えるべきことは,以前の内容と繰り返しになりますが「お客さんの願望を叶えるような設定を考える」ということです。

 エンターテインメント作品はサービス業です。つまり,お客さんの望む者を提供していかなければなりません。「需要と供給」です。ここがエンターテインメントの特殊なところです。客商売,商売なのですね。(といっても何でもかんでも観客に迎合するという意味ではありません)お客さんがいるのです。そのお客さんを満足させなければいけません。そのためにいちばん有効なのは「お客さんの望むものを提供する」ということになるのです。

 

~お客さんの望むものを実現させるための設定を考えよう!~

 たとえばお客さんが「毎朝幼馴染の女の子が起こしに来てほしい」という望みを持っているとしたら,それを実現できるような設定・状況を考えていくのです。「無敵の力を誇るスーパーヒーローに変身したい」という望みがあったら,それを実現できるような状況・環境・倒すべき敵などの設定を考えていきます。「たくさんの女の子たちと一緒に学生生活を送りたい」「メイド,もしくは執事のいる家で生活したい」「魔法を使って大冒険したい」「学校でいちばんかっこいい男子の誰にも言えない秘密をつかみたい」などなど……,様々なお客さんの願望,欲求があります。キャラクターをつくる時もこれらを考えますが,その延長として

その状況,人間関係,キャラクターを実現できるような,そのために必要な設定を考えていきましょう。

 

 何か面白い設定ないかなぁ,とは考えないのです。

こういうキャラクターがいてこういうシーンをやりたい,それを可能にするにはどんな設定にすればいいのかなぁ,と考えていくのです。

設定は「必要に迫られて生まれる」ものなのです。

 

 『必要は設定の母』というわけですね。


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    ~基礎編~

プロフィール

  • 名前:

    「あなたの物語」製作委員会

    自己紹介:

    とあるシナリオコンクールで賞をいただき、それがきっかけでこれまで「物語」や「演出」に関するお仕事をしてきました。

    みなさん、一緒にとびっきりの「あなただけの物語」をつくっていきましょう!!

    どうぞよろしくお願いします。