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[30214] 【習作】鋼鉄の男チャド!(BLEACH 憑依)
Name: あぶりー◆c175b9c0 ID:59998bda
Date: 2011/10/20 22:39






 幼い頃、俺は自分の力に酔いしれていた。
 浅黒い肌に同年代の子供達と比べて異常なほど成長する身体。俺を虐げようとした奴らを一発で黙らせることのできる拳。
 本来なら自分には在り得ない理想的な暴力がそこにあったのだ。

「ヤストラ、おまえは強い」

 だが、圧倒的な腕力で暴れまわっていた俺を腕力で黙らせることができる人物が居た。
 その人物は、オスカー・ホアキン・デ・ラ・ロ。俺の祖父アブウェロだ。

「おまえは人が望むおよそすべてのものを持って生まれてきたんだ。違うものは虐げられる。――だけどヤストラ、おまえは優しくありなさい」

 俺を愛の拳で諌めたアブウェロはそんなありがたいお言葉を言って諭してくれた。

「おまえのその巨きく強い拳がなんのためにあるのか。それを知りなさい」

 厳しくも優しいアヴウェロの言葉を受けた俺は笑顔でうなずた。








 それから数年後、俺は日本の空座町へとやってきていた。
 沖縄に生まれ、8歳の時に両親と死別してメキシコへと渡り、再び日本へと戻ってきた。
 まあ、波乱万丈といえなくもない人生を歩んできたが俺はとても幸せだった。

「ま、まさかソイツは……呪いのインコか!?」

 夜も更けた空座町に俺の野太い叫びが木霊する。
 俺の叫びに呼応して周囲の犬たちの遠吠えが始まってしまい、近隣のおっさんの怒鳴り声まで聞こえてきたが気にしない。

「そ、そーすよ? チャドさん、知ってたんすか?」

 俺の驚愕した様子に慄きながらも肯定する坊主君。

「なんか、コイツ飼ってる奴みんなヒデェ目にあって死んじゃうんだってさ。それですぐ他の人の手に渡ってるんだと」

「ナニ? そんで回りまわってオマエんとこ来たの?」

 坊主君の説明に半信半疑な様子でインコを眺めるちゃらい外見とは裏腹に苦労人で守銭奴なシゲオ君。

「お、おお俺が貰ってもいいか!?」

「マジっすか? チャドさんならそう言ってくれると思ってたっす!」

「ちょ、おいチャド!?」

 鼻息荒くどもりながら呪いのインコを欲する俺の言葉にシゲオ君が待ったをかける。

「今の話きいてなかったのか?」

 外見に似合わぬしっかり者のシゲオは本心から心配してくれているのだろうがそれでも俺はこのインコを諦めない。

「シゲオ、心配してくれてありがたいが俺はこのインコが現れるのを生まれた時から待っていたんだ。……そう、これは運命の出会いなのだ」

「チャド……」

 俺のかたい決意の言葉を聞いたシゲオは手にした煙草で一服すると大きなため息を吐いて一言。

「キメェ……」

「ハッ! 最高のホメ言葉だぜ、シゲオ。浦原商店のおさげエプロンをファックしてこい!」

「ふざけんな!! 誰があんなバケモノおっさんを――」

 シゲオの言葉に興奮してつい先日紹介してやった妖しげな駄菓子屋の店員を勧めるもシゲオはお気に召さなかったようだ。
 生意気な子供店員に虐められていたかわゆい子供店員を拳骨で救ってやった俺に拳骨を食らわせてきやがったおさげメガネのおっさんはシゲオの好みではなかったか、残念だ。
 大変ご立腹なシゲオの怒りの叫びが原因ではないことは分かっているが、あまりにもタイミング良く頭上から大きさが数メートルはある鉄骨が落下してきた。
 身長が高い俺を見上げるようにしていたシゲオたちが先に気付いてくれなければひょっとしたら誰かが死んでいたかもしれない。

「ふ、今宵の雨はヘヴィだぜ」

「ちょ……そんなレベルじゃねえよ! 血ぃ出てんぞ?」

「て、鉄材背中で受け止めてる!? ……チャドさんって、相変わらずムチャクチャっすね」

 痛みはあった。だがぜんぜん耐えられる痛みだ。
 特に今生の俺にとってこの痛みは幸福の始まりといっても過言ではない合図だから逆に気持ちよいと言ってもいい感じだ。

「タスケテクレテアリガトウ」

 受け止めた鉄骨を退かして一息つくとインコが感謝の言葉を喋った。

「問題ない。俺のアイアンボディは君のような子を守るために鍛えられているのだから!」

 インコの感謝にマッスルポーズを決めて応える。

「ボクノナマエハ、シバタ ユウイチ。オジサンノナマエハ?」

 インコ特有のたどたどしい言葉ではなく、カタコトながらはっきりとした喋り口のインコ。

「な、何だよこいつ……」

「まるで状況がわかってて喋ってるみたいじゃ……」

 呪いのインコという噂だけでも気味悪がっていた二人は、さらにインコユウイチから距離を取った。
 そんな二人は気にせず這いつくばって籠の中のユウイチと目線を合わせる。

「俺は茶渡泰虎。年齢15歳、職業はタイガーズブートキャン「アホなウソ言ってんじゃねぇよ」 ちょっと育ちすぎな無敵の高校生だ。よろすくな」

「ヨ、ヨロシク。オジチャン」

 シゲオのツッコミにより頭を踏みつけられながらもユウイチに微笑みかける。
 頭を踏まれながらいい笑顔で話しかけてくる俺の姿にユウイチも小さな身体を震わせながら応えてくれた。














 俺の名前は茶渡泰虎。
 しかし、俺の本当の、というか前の名前は違った。
 何の変哲もないどこにでもありそうな安っぽい名前をもったただの人間だった。
 いつ終わったのかも気付かないままに俺は新しい命と名前を手に入れていた。
 2メートル近い身長と常人を遥かに上回る頑強な肉体を持って生まれた俺は、新しい自分が何者であるかを悟った時に目の前にあるモノすべてが美しく見えた。
 これから動き出すであろう人生は、険しく苦しいものになるが俺は絶対に楽しみぬいてやると決めているのだ!




 茶渡泰虎/15歳

 肌の色/褐色

 特徴/アイアンボディ

 職業/高校生:憑依転生者








[30214] 2p
Name: あぶりー◆c175b9c0 ID:59998bda
Date: 2011/10/21 18:15



 呪いのインコを貰った翌日。
 登校中に暴走車が突っ込んできたり、何の前触れもなく頭上の電線が切れたりと予想よりもデンジャラスな朝を乗り切った俺は昼食を買い出い忘れていたため、校舎内の購買部を利用しようとしたら教員の車が無人で襲い掛かってきた。

「そ、それで昼飯がないのか……」

「ていうか相変わらずなんつーカラダしてんだよ」

 結局購買がメチャクチャになったので餌を手に入れられなかった俺は友人達を頼って屋上に来た。

「お? 何だその鳥?」

 弁当やパンを分けてもらい腰を下ろした俺の横に置かれた鳥かごを覗き込んだ友人の浅野啓吾が聞いてきたので親切に俺は教えてやる。

「インコだ」

「俺だって、それくらいわかるよ! どうしてインコを持ってきたのか聞いたんだよ!」

「相変わらず、良いリアクションだなケイゴ。ご褒美にお前の姉ちゃんをファックさせろ」

「俺のご褒美じゃないのかよ! ていうか、できるもんならやってみろ!」

 口の端から唾を撒き散らしながら叫ぶ啓吾の姿に満足した俺は冗談をやめて冷静に一言。

「すまん。あの生徒会長は無理だ」

「わかってんよコンチクショー!」

 涙ながらに自身の姉のオーラを思い出して慄きながら俺の言葉に悔しがる啓吾の姿は哀れだった。

「オジチャンノトモダチハ、オモシロイヒトガイッパイダネ」

 鳥かごの中のユウイチが可笑しそうに言った。

「「………っ!」」

「おおーーっ! メチャメチャ達者に喋るなあコイツ!」

「へぇ~今の状況を分かってるように喋るんだね、一体どうやって仕込んだんだろう?」

 ユウイチが喋った一瞬、黒崎一護と転校生の朽木ルキアが表情を変えたのを俺は見逃さなかった。
 啓吾と小島水色がユウイチに興味を持って色々なことを喋らせようと鳥かごの前に陣取っている。

「……チャド、あのインコは何処で?」

 何気ない風を装って一護が聞いてくる。
 その隣では朽木も聞き耳を立てている。

「ふ、気になるか?」

 一護の問いに俺は一護の隣に座りなおし、肩に手を回して耳元に囁きかける。

「お、おう」

 馬芝中に入学してから意識して一護と仲良くしてきた俺は、朽木が転校してきてから大げさなくらいに一護とのスキンシップを心がけている。

「そう……あれは、今日みたいに土砂降りの雨が降っているときだ「はい、そこぉ! 平然と嘘吐くな!」 バイト仲間の坊主から貰った」

 聞くも涙、語るも涙な運命の出会いをでっち上げ様としたがテンションの高い啓吾につっこまれたのでおとなしく事実を話した。





 昼休みを終えて午後の授業を終えた俺はユウイチを連れて帰路に着いていた。
 いつどこからユウイチを騙している虚が襲ってくるか察知できないから周囲の気配を注意深く感じながら歩く。

 ある程度は予想していたのだが、茶渡泰虎が持っている“力”は死神や虚の近くに居なければ覚醒しないらしい。
 これまでどんなに努力しても物理的な鍛錬では身体能力のみが上昇して能力が目覚める兆しがまったくなかった。
 正史の茶渡泰虎が力に目覚めたのは危機的状況の中でアブウェロの言葉により得た誇りがあったからだと言っていた。
 俺もアブウェロの存在には感謝しているが、その言葉が一番大切なモノであるとは言い切れない。
 今の俺にとって誇りとなるのは、浅黒いメスティーソの肌ではなく、恵まれた天性の肉体そのものだ。
 圧倒的な膂力を宿した肉体は、本来の俺がどれほど望んでも手に入れることのできなかった宝だ。
 顔が強面だから女の子には受けが悪いけど、身体を使った闘争で負けることは一度としてなかった。
 格闘技もスポーツも多少の技術は力技で勝利をもぎ取ってきた。
 これほど恵まれた肉体を持つことができた俺は誰よりも幸福だと思っている。
 誰よりも強い肉体を俺は誇りに思っている。
 そんな俺が能力を覚醒させる為にどうすれば良いか考えたとき、正史通りに死神化した後の一護の傍に居続けるのが一番良いと判断した。
 一護が死神化するタイミングは朽木が転校してくるという分かりやすいイベントが在るので簡単に把握できた。
 そして、シバタユウイチを見つけたことで虚との関わりも持てる。
 周囲を警戒しつつ、無用心を装って街中を歩き続けるのもその布石だ。

「アブナイ、オジチャン!」

「ん? ぶおッ!?」

 唐突にそれは訪れた。
 ユウイチが危険を知らせてくれたときにはすでに俺の身体は凄まじい衝撃により地面に叩きつけられていた。

「つづッ、マジで何も感じなかったぞ」

 背中に激痛が奔る中、視界の端では明らかに加速しながら突っ込んでくる自動車が多数と必死にブレーキを踏んでいる運転手達の姿を確認できた。
 霊圧をまったく感じることができない代わりに一瞬のうちに周囲の状況を理解することができるだけの思考速度が俺には備わっていた。

「オジチャン!!」

 このままでは俺もユウイチも車にひき潰される。
 だが、俺の身体ならば死ぬことはない。
 そんな俺が守ればユウイチも死なない。

「……だからと言って、巻き込んだ他人を死なせるわけにもいかない、か」

 背中の痛みはまだ引いていないが、身体を押しつぶすような感覚は消え失せている。
 俺たちを狙っている虚はすでに距離を取って様子見をしているのだろう。
 痛みはまだ我慢できる。身体も動く。
 眼前に迫った自動車の動きが徐々にスロー再生のようになっていくのを感じた。

「ォォォォぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ、だらあああぁァッ!!」

 知覚できるのなら後は肉体の潜在能力次第だ。
 俺を挟んで正面衝突するコースを取っていた車両の片方をギリギリで回避し、その横っ腹に渾身の拳を叩き込む。
 それだけで自動車は面白いように横方向にスライドした。
 反対側から突っ込んで来ていた車両は、低い大勢から車両の下にもぐりこむ様に回避してその下っ腹にも打撃を与えた。
 すると車体の前方が持ち上がり、反対側から来ていたもう一台の自動車を飛び越えるような形で通過した。
 それだけのことを1秒の間に行えるほどのポテンシャルを秘めた身体もさすがに節々が悲鳴を上げている。
 最後の一台は真正面から受け止め――「やっぱ限界」ようとして回避する。

 ギリギリで避けることに成功したものの、限界まで酷使した身体が一刻も早い休息を求めていた。

「オ、オジチャン。ダイジョウブ?」

「ん、問題ない」

 こうなることが分かっていたからクロサキ医院の近くを通るように歩いていたので、動けなくなる前には辿り着けるだろう。
 それにしてもやっぱり虚の存在を察知することができなかった。人間状態の一護や虚の傍に居ても覚醒するとは限らないということだろうか。
 この分なら力を得られるのは正史通りの時期になるのかな。





[30214] 3p
Name: あぶりー◆77e0910d ID:59998bda
Date: 2011/11/04 15:46





 クロサキ医院で手当てを受けた俺は、一護たちに状況を説明する前に病室を抜け出した。
 闇に紛れ、時に町の明かりを使って追っ手の目を晦ませた。
 ほんの1、2時間くらいしか休んでいないのに鉄骨が落下した時の傷や交通事故のダメージがほとんどなくなっている。
 傷自体は残っているが体力的には完全な状態になっていた。

「オジチャン……モウイイヨ」

 時間つぶしを兼ねた小休止のために忍び込んだ廃工場の中で一息ついているとユウイチが哀しげに呟いた。
 一護や朽木が俺の居場所を探り当てることができると知っている俺は、できるだけ民家の少ない場所で遮蔽物がたくさんある場所を選んで逃げてきた。
 この場所も前々から目をつけていた隠れ家の一つだ。
 他にも時期がくれば妖しげな集団が根城にする場所かもしれないという場所も把握済みだ。

「ママハ、生キカエラナインデショ? モウ、ボクノセイデミンナガアブナイメニアウノハイヤダヨ」

 ユウイチは実母と自分を殺した殺人鬼の成れの果てである虚に母親を生き返らせてやると言われて絶望的な逃走ゲームを続けさせられていた。
 それを始めから知っていた俺は、ユウイチに虚の言葉が嘘であることを教えた。
 純粋無垢な子供の魂には残酷なことかもしれないが、正史でもあと数時間で発覚することだったので偽る必要もない。

「気にすんな。それに俺の目的は、ユウイチやお前の母ちゃんを殺した悪い奴をボッコボコにしてあの世の警察に引き渡すことだ。それまで付き合ってもらうぜ?」

「オジチャン……」

 俺の言葉に心配そうなユウイチに親指を立てて大丈夫と無言の意思を示す。

「それにしても一護たちも早く見つけてくれねえかな」

 民家に被害を出さないために本来の逃走ルートから大きく外れているから見つけるのが遅れているのだろうか。

「……ち、また見つかったか」

 隠れていた建物の天井が大きな音を立てて崩れてきた。
 身を隠せる場所が多いということはそれだけ障害物も多いということ。
 しかし、虚がまったく見えない俺にはこんな場所でもないと虚の接近に気付くこともできない。
 崩れて倒壊を始めた工場から抜け出し、裏手にある山林地帯へ逃げ込む。

「オジチャン、モウイイヨ。ボクノコトハ、イイカラオジチャンダケデニゲテ」

 背後から迫る破壊音に怯えて弱音を吐くユウイチ。

「そんなことできるかよ。大丈夫、もうすぐ助けが来るからそれまでの辛抱だ」

 鳥かごの中のユウイチを励ましながらも本心では焦っていた。
 すでに夜が明けてから数時間が経過している。
 一護は学校に俺が居ないことを確認してから本格的に捜索を開始するはずだ。
 そこから霊絡を使って俺たちを見つけるはずなのだが、あまりにも遅い。
 ここは学校からそれほど遠い場所じゃない。人の足で走っても30分掛からない。
 学校の始業時間が始まってすでに3時間以上経過している。
 最初に見当違いの場所を探していたり、早退して道端で倒れている一護の妹を自宅に連れて帰っていたとしても霊絡を辿ってさえ居ればすでに俺たちを見つけてもおかしくない時間だ。

「ようやく見つけたぞ!」

 廃工場周辺を逃げ回っていたところにようやく待っていた片割れが現れた。

「よう、転校生。待ちくたびれたぞ」

「戯け! このような辺鄙なところに逃げこんだ貴様が……ちょっと待て。貴様は私が来ることを知っていたのか?」

 浦原商店の店長特製の義骸を使っているため常人並の身体能力しかもたない朽木ルキアは肩で息をしながら俺の言葉の違和感を指摘してきた。

「そんな細かいことは気にすんな。今は――」

 ようやく現れたイベントキャラに今回の敵虚がどんな奴かを説明しようとしたところで真横からの凄まじい衝撃に殴り飛ばされた。
 まるで車がノンブレーキで体当たりしてきたような破壊力だった。
 5メートルくらい宙を飛んでその倍以上地面で転がってようやく止まった。
 起き上がってユウイチの所在を確認すると離れた場所に鳥籠ごと転がっていたが、特に怪我をした様子はなかった。

「チャド!」

 朽木が木の上を警戒しながら駆け寄ってくる。
 虚の姿を確認したのだろう。
 俺の方は相変わらず虚の姿を見ることはできないが、何となく違和感くらいは感じられるようになったようで先の一撃も咄嗟の防御が間に合いガードした腕がしびれた程度で他に問題はなかった。

「俺は平気だ。敵に集中しろ」

「あれだけ殴られて平気なわけ……本当に無傷だな」

 俺のアイアンボディに呆れた様子で肩を竦める朽木。

「人間とは思えん頑丈さだな。しかし、今は好都合だ。貴様は奴の姿が見えているか?」

「いや、まったく見えないな。……今、睨み合いになってるっぽいことは何となく分かるが」

「それでは役に立たんでは――来るぞッ!」

 なにやら心外なことを言おうとした朽木が身構え、敵の襲来を知らせてくれた。
 俺の方は相変わらず虚の姿が見えない。
 さきほどの攻撃が牽制程度だったとしてもガードさえできれば何発かは耐えられる。
 ユウイチから聞いた虚の姿から相手がシュリーカーであることはほぼ間違いない。
 奴が使う頭から爆発するヒルを吐き出す小虚ミューズを使った攻撃に気をつければ十分身を守る程度のことはできるはずだ。
 朽木が到着したことから一護ももうすぐ駆けつけるだろうしな。

「オジチャン、マエッ!」

「チャド、横に跳べ!」

 一護が来ることを確信したことから意識に一瞬の空白を作ってしまった俺に虚が見える二人から危険が知らされる。
 二人の警告からシュリーカーは真正面から向かってきていることが分かる。
 シュリーカーは俺が見えていないことに気付いているのか、どうか。
 虚や死神のような密度の高い霊体は霊力に関係なく触れるということだし、正史のチャドも殴っていた。
 しかも、チャドに殴られたシュリーカーは痛がっていた。

「ずおりゃああああッ!!」

「(ゴアァッ!?)」

「ム?」

 渾身のストレートを何にもないはずの、けれど奇妙な違和感を感じる空間に叩きつけると確実な手応えがあった。

「当たったか?」

「お、大当たりだ……」

 確認の意味で朽木に尋ねると驚愕を通り越してあきれ果てたかのような表情で言った。
 これなら一護が来るまでの時間稼ぎくらいはできそうだ。

「よし、後は私に任せろ! “君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す「ちょいと待ちな、フロイライン」――何をする!」

 なにやら手を突き出して詠唱を始める朽木を制する。

「……っ、折角の好機を逃したではないか馬鹿者!」

 悪態をつきながら空を見上げる朽木。
 おそらくシュリーカーが空に逃げたのだろう。

「霊力が回復してないお前の鬼道じゃこの虚にダメージを与えられないぞ」

「ッ!? 貴様、何故そんなことを知っている!」

「それは後で教えてやらんでもない。それよりも――」

 ご立腹な様子の朽木の疑問を後回しにし、手近にある木の幹に腕を回す。
 瑞々しい生木な分、木製の電柱より硬いはずだが、不思議とやれると直感で分かった。

「奴はどっちの方向だ?」

「何? そんなことを聞いてどうするつもりだ?」

 あまりにも想定内の問いに嬉しくなって幹を抱いた腕に一気に力を込める。

「こうするつもりだ。――ふぁいっとおおおおおッ!!」

「ま、まさか貴様――!!」

「いっっっぱあああああああああああッ!!」

 これまでは単純な筋力トレーニングだけに使用していた膂力を破壊の為に全力で行使するのは初めてだった。
 本来のチャドの膂力がどの程度だったのかは知らないが、今の茶渡泰虎おれは立木を一息で絞り折ることができるようになっていた。

「さあ、どっちの方向だ!」

「そ、そのままだ! そのまま真正面に振り下ろせ!!」

 朽木の言葉にやはり笑いが堪えられない。
 枝葉が生い茂った3メートルはあろうかという木を掴んでも重いと思わない。
 この身体の防御力はある程度まで実証できていたが、攻撃力の実証はできていなかった。
 当然だ。こんな馬鹿げた筋力を人間相手に揮えばとんでもないことになる。
 これまで鍛えてきた筋肉がついにやってきた全力解放に打ち震えているのを感じた。

「脳天唐竹割じゃあああっ!」

 フルパワーで振り下ろした木を通して目に見えない衝撃が伝わってくる。

「(イ…イギャアアアアアアアアアアッ!!)」

「ム?」

 叩き付けた木の下にシュリーカーがいる。
 姿は見えないが地面に確かな質量が墜落した跡が出来ていた。

「とんでもない怪力だな、貴様……」

「ふん、俺様の筋肉は不可能はない!」

 木でシュリーカーを押さえつけたまま自分の力に酔ってしまっている自分がいた。
 人の為に力を使えとアブウェロは言った。最初のうちは、アブウェロの言葉通りになろうと思っていた。
 しかし、鍛えれば鍛えるほど俺は自分の膂力に酔いしれた。本来の俺では手にすることのできなかった最強の肉体。現世において俺は最強の男になっているんだ。

「……まあ、じきにこやつを片付ける奴がここへ来る。貴様は、それまで押さえつけて置け」

「うむ、問題ない」

 木の下でもがいていると思しきシュリーカーをさらに力を加えて動きを封じる。

「(へ、へへ……どうして俺がいままで2体も死神を倒して喰うことができたのか、そこんとこが分かってねぇようだな?」

「ム?」

「何だと?」

 耳鳴りのような小さな異音が徐々に明確な言語として頭の中に入ってきたのと同時に朽木が首を傾げ、背後からいくつもの錘が降り注いできた。
 俺も朽木も背後からの奇襲に対応できず、地面に叩きつけられた。

「な、何だこいつらは?」

「……油断しすぎたか」

 背中に掛かる重さは間違いなく小虚ミューズどもだ。
 最初から朽木にこいつらの存在を知らせておけば良かった。
 しかし、そうなるとシュリーカーは俺を警戒してしょっぱなからチューニング・フォーク・ボムを仕掛けられていた可能性もある。
 それを考えれば今の状況は最悪な状態じゃない。

「へへへへ……形勢逆転ってヤツだなァ、オイ?」

 勝ち誇ったように言うシュリーカーが木を押し退けて立ち上がり、俺たちを見下ろす。

「死神ってのは単純だねェ……。ちょっと俺が一人で相手をすりゃどいつもこいつもスグ俺が一人だと思い込みやがる。さァ~て、どっちから喰ってやろうかなァっと!」

 品定めするように近付くシュリーカーの姿に笑いを堪える。
 もうすぐ一護が来て地獄に叩き落されるということを知っている身としては、どうやって無傷で時間稼ぎをするかを――そこまで考えて強烈な違和感に気付く。
 地面に押さえつけられたまま首だけを動かしてシュリーカーの“声が聞こえる”方向に目を向ける。

「やっぱ、マズそーな男を先に喰うべきか~? それとも美味そうな女を先に頂くか」

 勿体つけたようにして悔しそうな朽木の表情を楽しんでいる“シュリーカーが見えた”。
 どういうことだ?
 この時点ではまだ霊体を目視することはできなかったはずだ。
 茶渡泰虎が霊力を得るのは、滅却師の石田雨竜が一護と勝負する為に使った撒き餌で空座町に虚が大量に押し寄せてきたときだ。
 チャドの力は完現術に属するから虚の存在が能力の覚醒に繋がっ……いや、待て違う。
 チャドや井上織姫が能力が目覚めたのは、一護や虚に関わったからだけじゃない。
 それらは能力が覚醒するきっかけに過ぎなかった。
 チャドたちの能力が目覚めた理由は――隣に倒れ伏す朽木を見る。
 現世で死神の力を失った彼女の中には、浦原喜助の手によってある物質が隠された。

「……崩玉、か」

 藍染が言っていた。
 崩玉の能力は、周囲の心を具現化する力だと。
 対象がそれを成し得る力を有していれば、その方向へ導くという。
 俺が力に目覚めるための条件――それは、朽木ルキアの中にある崩玉の干渉域で力を望むこと。

「俺が望む力……」

 今の俺は無力を嘆いてなど居ない。
 むしろ、自分の肉体を最強だと自負している。
 特異な能力や強大な霊力を望んだとしてもそれは副次的なモノだ。
 俺が強く望むのは自分の肉体が最強であるということだけ。
 “シュリーカー程度”を相手に一護の到着を待つ――俺は、それを本当に望んでいるのか?
 それは断じて違う。
 斬魄刀を使わなければ、虚の魂を昇華させることができないからだ。
 もし、完現術が滅却師のよう虚を完全に滅却してしまうのだとしたら世界のバランスを崩してしまう可能性がある。
 そう思ったから死神である一護にトドメを任せようと考えていた。
 俺が心から望んでいることは、この両の拳ですべての敵を叩き潰すこと。
 アブウェロの教えに反することを俺は望んでいる。
 力の何たるかを教えてくれたアブウェロの想いは理解している。
 それでも俺は力を望む。

「ぐぅ、ぐぬののおおおぉおォォォアアアッ!」

「なにェ~~~~~!?」

 背中に群がっていた小虚ミューズを押し退けて立ち上がる。

「ななな何てムチャクチャな奴だ! というかどこまで筋肉大好き馬鹿なんだ、この筋肉バカめ!」

 吹き飛ばした小虚ミューズどもが周囲の木々に叩きつけられ木っ端微塵になる。
 身体に変化はない。
 霊力らしきものに目覚めた感覚はない。
 しかし、身体中に漲るパワーは確かなものとして感じられる。

「チ、チャド……貴様は?」

 朽木が化け物でも見るような表情で呟く。

「見ろ、朽木! 俺の筋肉は(ビリィッ! ←服を破り捨てる音)――最高に漲っているぞ!」

 筋肉から湧き上がる得も言えぬパワーに高揚が増した俺は、自然と上半身の服を引き裂いて天を仰ぐように両の手を空えと掲げた。
 ちなみに勿体無いので学ランだけは先に脱いでおくことは忘れていない。

「…………」

「…………」

 俺の神々しいナマニクを目の当たりにした朽木とシュリーカーが硬直した。
 彼らの反応も当然だ。この筋肉美チャームに抗える者などいない。
 もし、かの時代のかの国に生まれていれば世界的に有名なチャド像が作られただろう。

「はっ?! こ、この筋肉馬鹿、どこまで自分が好きなんだ……」

 俺の筋肉美チャームから先に動き出したのはシュリーカーの方だった。

「ふん。化け物、お前は勘違いをしているぞ」

「な、何を勘違いしてるってんだ、変態筋肉馬鹿メ!」

 余裕の表情で語りかける俺をシュリーカーが警戒して徐々に後退していく。

「俺は自分が好きんじゃない」

 神々しさと優雅さと凄まじい威圧感とちょっぴりの暑苦しさを孕んだポージングを続けながらシュリーカーに一歩ずつ接近する。

「く、来るんじゃねえ、変態野郎ッ!」

 さらに後退しようとするシュリーカーが背後を木々に塞がれて退路を絶たれたことで苦し紛れに小虚ミューズを撒き散らしてきた。

「ムンッ! ムンッ、ムンッ、ムムンッ!!」

 至近距離から飛来した小虚ミューズを俺の筋肉ミューズが欠片も残さず殴り消す。

「あ、在り得ねえェだろォッ!?」

 物覚えの悪いヤツだ。
 先ほども「俺の筋肉に不可能はない」と教えてやったばかりだというのにな。

「大鋸屑しか詰まっていなそうなお前の頭にもしっかりと刻み込んでおけ! 俺は、俺の筋肉が好……いや、俺の筋肉を愛しているのだと!!」

「聞いてねぇェェ!! つうか、喋りながら胸筋をピクピクさせんじゃねェヨ!」

「ふッ、俺のサムスンは自己顕示欲が強くてな」

「サムスン誰だよ!? 100%お前ェの意思だろ!」

 退路を絶たれ、攻撃手段も通用しない状況となったシュリーカーに残されているのは俺の言動に対するツッコミのみ。

「終わりだ、シュリーカー……一護の代わりに俺がお前を地獄に殴り堕としてやる」

 テンションが上がり過ぎてこのまま座して待つことができない。
 この身のうちに感じる凄まじいリビドーをこいつに叩き付けないと別の場所で暴発してしまいそうだ。

「く、来るなあ――「逃げるなよ」 ……ヒ……イッ!」

 再び空に逃げようとしたシュリーカーの翼を掴み取って地に引き堕とす。
 翼を引き千切っても良かったが虚には超速再生があるので無駄なことはしない。

「安心して俺の筋肉の糧になれ……」

「ヤ、ヤメ……ッッッッ!!」

 最初の一撃は手加減をした。
 それでも俺の拳はシュリーカーの仮面を割った。
 仮面の下に隠れた本能の表情は、恐怖に歪んでいた。

「これでお前も殺される側の気分が理解できたな?」

「■■■■■■■■ッッ!!」

 俺の問いに声にならない悲鳴をあげるシュリーカーの顔面に渾身の一撃を俺は叩き付けた。
 頭部を消し飛ばされたシュリーカーの身体は幻だったかのように霞のように消えていった。

「これにて一件落着――ジーク・ハイル・マイマッソオッ!」

 シュリーカーを倒したことで何ともいえない快感を感じていた俺は、油断していた。






「相変わらずの規格外っぷりっすね……チャドさん」


 背後から迫っていたゲタ帽子の存在に気付けなかった。
 気付いたときには変な液体をぶっかけられ、意識が遠のいていく感覚が襲った。
 戦闘中に背中を警戒するのは当然なのだ。
 それをたかが虚一匹倒したくらいで怠ったということは、それだけ俺が戦闘というものに慣れていない証拠だ。
 ただ圧倒的な膂力で矮小な存在を叩き潰す。
 それが俺のこれまでの喧嘩だった。
 しかし、これからはそれだけでは足りないということだな。

「お、俺は……こんなところで、終わ―――」

 遠のきかけている意識の中、振り返った俺が見たものは、不敵に微笑むあやしげな浦原商店店主――浦原喜助の姿だった。







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