FC 第四節「スーパーソレノイド機関」
第三十五話 エルモ村湯けむり事件簿 ~エリカ・ラッセル博士の消失~
<ツァイスの街 遊撃士協会>
朝起きたエステル達にキリカが紹介した仕事は、またもや中央工房絡みの仕事だった。
昨日はラッセル家でのエリカ博士の実験に付き合わされて他の仕事が出来なかった事もあり、断ろうとも考えたが内容を聞いてみると護衛の仕事なのだと言う。
「ツァイスの街の南、トラット平原を越えた場所にエルモ村があるの。そこの温水ポンプが故障してしまって温泉に入れなくなってしまってみんな困っているのよ」
「温泉があるの!?」
キリカの話を聞いたアスカが目を輝かせて叫んだ。
「それが温水ポンプを修理するために中央工房から技師を派遣しなくてはいけないんだけど、街道には魔物が出るから貴方達に護衛をお願いしたいのよ」
「任せて、温泉のためならアタシ達は協力を惜しまないわ!」
二つ返事で引き受けてしまったアスカに、エステルとヨシュアは驚いた様子だった。
エステルがアスカのテンションの高さに少し困惑した顔でアスカに尋ねる。
「温泉、温泉って騒いでるけど、そんなに温泉って良い物なの?」
温泉に入った事のないエステルにはピンと来ないのか、エステルはアスカに素朴な疑問をぶつけた。
するとアスカはエステル達に対して温泉について解説を始めた。
アスカは日本に来て初めて温泉を知ったと言うのにすっかり温泉が好きになってしまったんだなとシンジは苦笑した。
「ふーん、たくさんの人が一緒に入れるお風呂なんだ、それは楽しそうだね」
「ええ、エステルもきっと気に入ると思うわよ」
「でもアスカはシンジと温泉に入った事があるんだよね、裸を見られるなんてちょっと恥ずかしくなかった?」
「バ、バカね、温泉は男湯と女湯に別れているのよ!」
エステルが顔を赤らめて尋ねると、アスカもあわてて顔を真っ赤にして否定した。
「そっか、ちょっとドキドキしちゃった」
アスカの答えを聞いてエステルはホッとした表情で胸に手を当てた。
「私はエルモ村までの“護衛”の仕事を貴方達に頼んだはずなんだけど」
黙ってアスカの話す様子を見守っていたキリカがそう言うと、アスカはあわててキリカに温泉に入りたいと頼み込んだ。
キリカはそんなアスカに対して少し表情を和らげてため息をつく。
「仕方無いわね、旅館に一泊しても構わないわ。だけど、その分後でたっぷりと仕事をしてもらうから」
「ありがと、キリカさん!」
キリカの言葉を聞いたアスカはぱあっと明るい表情になってエステルと手を取り合って飛び上がって喜んだ。
シンジとヨシュアは顔を見合わせて苦笑した。
キリカの話によると、護衛対象の技師は遊撃士協会で合流する予定らしい。
エステル達はじっと工房技師がやって来るのを待った。
「おはようございます」
しばらくして遊撃士協会に姿を見せたのはティータだった。
「あれ、エルモ温泉へ行くのってティータだったの?」
「あ、そうなんですけど、えっと……」
笑顔のエステルに声を掛けられたティータだったが歯切れが悪い。
「どうかしたの?」
心配そうな顔をしたシンジに言われて、ティータは話を切り出す。
「あの、エルモ村へはアガットさんがついて来てくれる事になりました」
「あら、そうだったの。では、こちらから遊撃士を派遣する必要は無くなったと言うわけね」
キリカが淡々とした口調で話すと、アスカの顔が真っ青になる。
「ちょっと、それじゃあアタシ達が温泉に行くって話はどうなるのよ!?」
「アスカ、ワガママ言っちゃいけないよ」
シンジが困った顔でアスカをいさめた。
ティータは自分がとてもマズイ事をしてしまったのだと思い、アスカに平謝りをする。
「アスカお姉ちゃん、本当にごめんなさい」
「別にティータが悪いわけじゃ無くて、あたし達が勝手に盛り上がっただけだから」
エステルはそう言ってティータをなだめた。
そしてティータは気まずそうな顔をしながら遊撃士協会を去って行った。
「……と言うわけだから昼間のうちは街の中での依頼をこなして、夕方になったらエルモ村へ行きなさい」
「えっ?」
ティータが立ち去った後、キリカが静かな口調で言うと、アスカは驚いた顔で聞き返した。
「アガットと2人きりにしてあげた方がティータも嬉しいでしょう?」
「なるほど、そう言う事ね」
キリカの言葉にアスカは納得したようにうなずいた。
「えっ、でも彼女はまだ12歳じゃないですか、それにアガットさんとは歳が離れてるし……」
「恋心を抱くのに年齢は関係無いわよ、それに10年経ったら歳の差なんて問題無くなるわ」
あわてるシンジに向かってアスカがあきれた顔でため息をついた。
「10年後のティータか……どうなっているんだろうね」
エステルのつぶやきに、その場に居合わせたメンバーは成長したティータの姿に思いを馳せた。
しかし全員ある人物を想像してしまったようで、否定する様に激しく首を横に振る。
「多分ティータの性格は父親になんじゃないかな」
「そうよね、それなら大丈夫よ」
ヨシュアの意見にエステルは強く賛同した。
そしてティータの護衛の仕事がキャンセルになったエステル達は掲示板に寄せられた仕事をこなす事となった。
<ツァイス地方 トラット平原道>
ティータと2人でエルモ村に向かう事になってしまったアガットは頭を抱えた。
エリカ博士に知られたら止められると解っているティータはエリカ博士が徹夜の実験で疲れて寝ている間にこっそりと出て来たのだ。
護衛の仕事をティータから頼まれた時、アガットはエステル達に代わってもらおうかと思ったのだが、先ほど遊撃士協会に行ったティータの話によるとエステル達はすでに別の仕事が入っているらしい。
まさかティータがウソをつくはずもないと思っていたアガットはティータの話を信じてエルモ村へ向けて出発した。
憂鬱なアガットの雰囲気を察したのか、ティータが不安そうな顔でアガットに尋ねる。
「アガットさん、私が護衛をお願いして迷惑でしたか?」
「別にそんな事は無えけどよ……」
アガットがそう答えると、ティータは華やいだ笑顔になってアガットの手を握った。
「おい……」
「あっ、ごめんなさいアガットさん」
ティータは謝ってアガットの手を離したが、表情は変わらず笑顔のままだった。
どうしてティータがそんなに上機嫌なのかアガットは解らなかったが、また黒装束のやつらに狙われたら自分がティータを守らなければならないとアガットは気持ちを引き締めた。
街を出てしばらく経っても襲撃を受ける気配は無かった。
エリカ博士が追いかけて来る様子も無く、アガットはたまに遭遇した魔獣を蹴散らして進んで行った。
「あの、アガットさんはどうして遊撃士になったんですか?」
ティータに尋ねられたアガットは自分が遊撃士になった切っ掛けを思い出して不機嫌な顔になった。
定職に就く事が出来ずに不良のリーダーとなっていたアガットは、カシウスにこらしめられて遊撃士の道を目指す事になったのだ。
アガットにして見ればあまり他人に知られたくない過去だ。
「あー、まあ、なんつうか、自分の腕で食っていくためだな。俺は両親を早くに亡くしてガキの頃から村長の世話になっていたし」
「ご、ごめんなさい、私ってば余計な事を聞いてしまって……」
「構わねえさ、俺も両親の事はほとんど覚えてねえんだ」
アガットはそう言ってティータの頭を撫でた。
頭を撫でられたティータは照れ臭そうに顔を赤くしながらも嬉しそうに目を閉じた。
「おっとすまねえな、つい妹の時と同じクセが出ちまった」
「アガットさん、妹さんが居るんですか?」
「……ああ」
「妹さんとは、たまに会ってたりするんですか?」
「ここ何年かは、帰って無いからな」
「そんな、きっと妹さんはアガットさんに会えなくて寂しがっていますよ、帰って顔を見せてあげて下さい」
「そうだな」
ティータが強く訴えると、アガットも納得した様子でうなずいた。
「もう、エルモ村まで半分を過ぎちゃいました。話をしているとあっという間ですね」
「このまま何事もなければ良いけどな」
アガットはティータが寂しそうにため息をついた事には気が付かなかった。
「助けてくださーいっ!」
アガットとティータが急いで悲鳴の聞こえた方向へ駆けつけると、ソバカスが印象的な眼鏡を掛けたピンク色の髪をした若い女性が魔獣に囲まれていた!
「私を食べてもおいしくないですよ……睡眠時間は毎日10時間しかとって無いし、お野菜が多目の食事なので血液はサラサラしてるし……ああっ、それってヘルシーでお徳って事なのかも!?」
「おいおい……」
魔獣と向き合いながらもそんな事を口走る女性にアガットは緊張を緩まされたようにため息を吐き出した。
「今助けますね、えーい!」
ティータが導力砲を放つと、魔獣は驚いて飛び退いた。
魔獣達の包囲が崩れた所にアガットとティータが突入し、襲われていた女性を守るポジションで戦闘を開始した!
襲っていた魔獣はこの辺りに生息する野良で、アガットとティータの連携の前にあっさりと倒されてしまった。
「ありがとうございます、助かりました……」
「まったく世話を掛けさせやがって」
ウンザリした顔でアガットがそう言うと、女性は頭をかきながらごまかし笑いを浮かべる。
「私、リベール通信のカメラマンでドロシーと言うんですけど、良い風景をカメラで撮りたいなあと思ったら夢中になって村から出ちゃいました」
「女の人が一人で外に出るなんて危ないですよ」
「ごめんなさい、デートの邪魔をしちゃったみたいで」
「ふえっ!?」
ドロシーがそう言って謝ると、ティータは驚きの声を上げた。
アガットはあきれたような顔でドロシーに言い放つ。
「おいおい馬鹿言うな、どこがデートに見えるんだよ」
「じゃあ、ご兄妹ですか?」
「それも違う」
「そうですよ、アガットさんは私の遊撃士の仕事で私を護衛しているだけですよ!」
ティータは思いっきり不機嫌な顔になって怒鳴るように否定した。
突然怒りだしたティータにアガットが不思議そうな表情になる。
「おい、どうしたんだ?」
「別にどうもしません、早くエルモ村に行きましょう!」
「まったく、街を出る時は機嫌が良かったのにわけが解らねえぜ……」
アガットはそう言いながら先に歩き出したティータを追いかけるのだった。
<ツァイスの街 中央工房>
遊撃士協会の掲示板に書かれた仕事のうち、エステル達はまず最初に『臨時司書の募集』と言う仕事を選んだ。
中央工房の資料室で本を整理するだけの簡単なお仕事ですと書かれていた。
「この仕事ならすぐ終わりそうね」
「そうだね、4人でやればそう時間はかからないと思うよ」
エステルとヨシュアの言葉に、アスカとシンジも同意見だった。
しかし、エステル達を待っていたのは中央工房の様々な場所に顔を出さなくてはいけない未返却の本の回収の仕事だった。
「ちょっと、話が違うじゃないの!」
アスカは机を叩いて反論したが、結局依頼を拒否する事は出来ず、エステル達は手分けして本の借主の所へ行く事になった。
「じゃあシンジはラッセル博士の家をお願いね」
「はあ!?」
突然アスカに頼まれたシンジは驚いて聞き返した。
「アタシ、やっぱりエリカさんの事がちょっと苦手と言うか……」
「僕だって、エリカさんに本の返却を迫るのは嫌だよ!」
「こんな時に頼りになるのはシンジしか居ないの、お・ね・が・い」
「頑張れシンジ!」
「健闘を祈るよ」
「とほほ……」
エステルとヨシュアにまで裏切られたシンジは肩を落としてラッセル博士の家へと向かった。
貧乏くじを引くのはいつも自分だとすぐに諦めてしまう所がシンジの長所でもあり短所でもあった。
「ごめんくださーい」
シンジが声を掛けても家の中から返事は無かった。
「もしかして、まだ寝ているのかな?」
シンジは徹夜で仕事をしていたミサトが次の日の昼まで寝ていた事があるのを思い出した。
しかし手ぶらで帰るわけにも行かない。
迷った末にシンジは玄関のドアに手を伸ばす。
「あれ、鍵が空いている……あの、エリカさーん」
声を掛けながらシンジはラッセル博士の家に入るが研究室にエリカ博士の姿は無い。
シンジは階段を登るが、書斎にエリカ博士の姿は見当たらなかった。
書斎の奥の部屋は寝室だが、シンジは寝室のドアを開けて中を確かめるのはためらった。
「……こっそり本を返してもらって、後で断っておけばいいよね」
シンジは直接エリカ博士と顔を合わせなくて済んでホッとしていた。
回収する目的の本は、書斎の隅に無造作に山積みされていてほこりを被っている。
長い間使われていない証拠だ。
これなら黙って持って行ってもエリカ博士は気付きもしないだろう。
シンジは本を回収するといそいそとラッセル博士の家を後にした。
その後シンジが嬉々としてアスカに報告すると、アスカはあきれた顔でため息をつく。
「バカ、何を得意気になっているのよ。それに、黙って持って来たのはマズかったんじゃないの? 気が付いたらエリカさんが逆襲に来ると思うわよ」
「やっぱり、ダメだったかな?」
シンジが青い顔になると、アスカは明るい顔で笑い飛ばす。
「ま、シンジが回収したなんて夢にも思わないだろうから大丈夫よ。借りたのを忘れてまた借りに来るんじゃない?」
「そうだよね」
アスカの言葉を聞いて、シンジは安心した様子で胸をなで下ろした。
昼を過ぎた頃に頼まれていた本の回収は終了し依頼主への報告を終えたエステル達だったが、さらに本の回収を頼まれてしまった。
しかも今度はツァイスの街の外へ貸し出された本の回収だった。
「他の仕事のついででも良いって言ってくれているんだから、ここは押さえて」
「そうだよ、エルモ村に貸し出された本もあるから、温泉に入る時にでも探せば良いじゃないか」
ヨシュアとシンジの2人掛かりの説得でアスカは怒りの矛を収めた。
「それじゃ、少し早いけど今日はエルモ村へ行っちゃおうか?」
「そうね、ティータも温泉を直してくれているかしら」
エステルの提案にアスカも賛成し、いよいよ温泉に入れるかもしれないと思ったアスカは自然と機嫌が良くなっていた。
エルモ村へ向かうと遊撃士協会へ立ち寄ってキリカに報告すると、キリカは警告をエステル達に与える。
「少し前にエリカ博士の姿が家に見当たらないと言う情報が入ったわ。エリカ博士はフィールドワークにも慣れているからその点は心配ないのだけど、別の意味で心配ね」
「あっ、もしかしてアガットさんとティータが2人で出掛けた事に気が付いて……!?」
キリカの話を聞いたエステルは驚いた顔をして声を上げた。
アスカは冷汗を浮かべながらも楽観的な意見を述べる。
「でもさすがにエリカさんもアガットさんを半殺しにする程度で止めるとは思うけど」
「ええ、遊撃士協会は基本的に民事不介入だけど、もし民間人が巻き沿いになるような事態になってしまってはいけないから」
「分かりました」
キリカの心配する言葉にヨシュアはうなずき、エステル達は急ぎ足でエルモ村へと向かう事になった。
<ツァイス地方 エルモ村>
エステル達がトラット平原を横切ってエルモ村に着いたのは、西の空が赤く染まり始めた時間だった。
村の入口の竹林を抜けた所にアガットが立っているのを見つけたエステル達は、安心してため息をつく。
「良かったアガットさん、無事だったんですね」
「ふう、余計な心配だったみたいね」
「……どういう意味だ?」
シンジとアスカのつぶやきを聞いたアガットは不思議そうな表情で聞き返した。
エステル達がエリカ博士が姿を消した事をアガットに説明すると、アガットは事情を理解した様だった。
「なるほどな、だがこっちには来てねえぞ」
「それじゃあフィールドワークに行ったのかな?」
「きっとアガットさんを倒すための新兵器開発のための材料を採りに行ったのよ」
「おいおい、物騒な事を言うな。本当になったらどうする」
アスカの言葉を聞いて、アガットはウンザリした表情でぼやいた。
「それにしてもアガットさん、どうしてこんな所に立っていたんですか?」
「どうやら、あいつを怒らしちまったみたいだ」
ヨシュアの質問にアガットは困った顔で答えた。
アガットの話によると、エルモ村に着く少し前につむじを曲げてしまったティータをなだめるために村の土産物屋に入って買い物をしたのだが、店主に恋人同士だとひやかされたのだと言う。
その前にもドロシーにデートをしていると勘違いされてウンザリしていたアガットはそんな事はありえないだろうと強く否定したらティータは激しく怒り出してしまったらしい。
アガットの話を聞き終わったアスカはあきれた表情でため息をつく。
「まったく救いようのない鈍感ね、2回もティータの気持ちを踏みにじるなんて」
「そういわれてもな……アイツは俺の事を兄みたいに思って憧れているだけだろう?」
「だからって、ありえないなんて言われたら傷つくわよ」
「でも俺はアイツの事を妹みたいにしか見れねえんだ」
「まあ、アガットさんの方からティータを追いかけるようになったらシスコンじゃ済まない問題になるわね」
「うるせえ、俺はシスコンでもねえ!」
アガットはアスカに向かって怒鳴って力説した。
「そう言う時は、軽くはぐらかすぐらいにするのが大人の男性の振る舞いってものよ」
「へえ、さすがアスカだね!」
エステルが感嘆の声を上げた。
調子に乗ったアスカは自慢気に語る。
「年上の男性に恋をした女の子はね、グッとおませになるものなのよ」
「アスカも加持さんに憧れていたから、気持ちが理解できるんだね」
「前から気になっていたけど加持さんって誰?」
シンジの口からもれた言葉を聞いて、エステルが尋ねた。
「えっと、僕達よりも15歳ぐらい歳の離れたお兄さんって感じの人かな」
「ふーん、俺とチビスケよりも歳が離れていそうじゃないか」
「こらシンジ、おしゃべりな男も鈍感と同じく嫌われるわよ!」
アガットがニヤケた顔でアスカを見ると、アスカはシンジの耳を思いっきり引っ張った。
「あれ、エステルお姉ちゃん達も来てたんですか?」
エステル達が話している所に、ティータが姿を現した。
今までずっと機械をいじっていたからなのか、服には油のにおいが染み付いている。
「ティータ、温水ポンプの修理は終わったの?」
「はい、さっき終わりました」
「やった、夕食前に温泉に入れそうね!」
ティータの返事を聞いたアスカは飛び跳ねて喜んだ。
アガットはティータの前に歩み出て、ぎこちない口調で謝る。
「ティータ、さっきはその……済まなかったな、お前の気持ちも考えてやれずに」
「もう良いですよ、アガットさんが私の事を名前で呼んでくれただけで嬉しいです」
「そ、そうか?」
すっかり機嫌が直ったティータにエステル達の間にもホッとした空気が流れた。
「そうだ、温泉でアガットさんの背中を流してあげますね」
ティータの発言を聞いたエステル達はあわてた。
「温泉って混浴なの?」
「あ、室内は男湯と女湯に別れているんですけど、露天風呂は共通なんです」
少し顔を赤くしたアスカが質問すると、ティータはそう答えた。
「ふう、それなら良かったわ」
「でも露天風呂だと、お互い裸を見られちゃうんだよね?」
アスカはホッとため息をついたが、温泉を知らないエステルは顔を赤くしたまま尋ねた。
「大丈夫よエステル、そういう所ではタオルを体に巻き付けて入るんだから」
「そっか」
やっとエステルも安心した表情になるのだった。
<エルモ村 温泉>
温泉に入れなくなったと言うウワサもあったおかげで旅館は空いていて、予約を取っていないエステル達もすんなりと泊まる事が出来た。
部屋に荷物を置いたエステル達はさっそく楽しみにしていた温泉に入る。
女湯はエステル、アスカ、ティータ、ドロシー、男湯はヨシュア、シンジ、アガットの貸し切りのような状態だった。
男湯のヨシュア達は会話も無くお湯の温かさを楽しんでいたが、静かな男湯には女湯からの賑やかな声がダイレクトに聞こえて来る。
「うわあ、アスカお姉ちゃんって腰が細いです!」
「本当、モデルさん顔負けのくびれですね。今度ヌード写真を撮らせて頂けませんか?」
「そんな、たいした事無いわよ」
シンジはアスカとユニゾンダンスの特訓をした時にアスカの細い腰に手を回して踊った事を思い出した。
そして遊撃士になり運動をするようになってアスカはさらに体重が減ったと話していたのを聞いていたシンジは服を着ていないアスカのウェストはどのくらい細いのだろうかと妄想を始めてしまった。
「エステルだって、いつもラフな格好をしているけど出ている所は出てるじゃない」
「そうですね、グラマラスですよね。健康的なフトモモに私も魅了されちゃいます」
「そうなのかな、あたしはあんまり意識した事無いけど。この胸だって筋肉だろうし」
「アスカちゃんだって、揉んでもらえばエステルちゃんぐらい大きくなるかもよ」
「やめてよドロシーさん、酔っ払ったおじさんみたいな手つきで触るのは」
エステル達の会話を聞いたシンジは頭に血が昇ってしまいそうになり、ヨシュアとアガットが心配して湯船から引っ張り出した。
「おいおい、大丈夫かよ」
「すいません……」
シンジは鼻を押さえながら謝った。
「あっ私、そろそろアガットさんの背中を流しに行きますね」
「あたしも露天風呂に行ってみたい!」
「ちょっと、エステルそんないい加減なタオルの止め方じゃ暴れた時取れちゃうわよ!」
女湯の会話を聞いたアガットとヨシュアは顔を見合わせて立ちあがって腰にタオルを巻いた。
「僕はもう少し休みます……」
「そうした方が良さそうだな」
「じゃあ行ってくるよ」
休憩をするというシンジを残してアガットとヨシュアは露天風呂へと向かう。
この後ちょっとしたハプニングとショッキングな事件が待ち受けているなど、誰も予想していなかった……。
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