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[30143] 【ネタ、短編集】Fate/Zero hollow ataraxia
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/10/23 02:26
短編作品です。
もしゼロとステイナイトのキャラがホロウに居たら?
という欲望を満たすために書いたSSです。

ホロウの勢いで書くので真面目な型月SSではありません。
ゆえに、それを承知で読んでください。


更新

・ランサーズヘブン
・アーチャーのすごしかた(朝編)



[30143] ランサーズヘブン
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/10/15 07:30

空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。

文句のつけどころのない絶好のロケーション。
午後の散歩を好むマッケナジーのおじいちゃんやサイクリングに励むライダーの清涼剤になりそうな冬木の港。


そこを薄幸そうなガタイのイイ男が占領していた。


「あっちのランサーと同じく、違和感ないな」

こっちのどこか薄幸そうなのでなく、
暴力団っぽい感じのランサーも自然と一体化した達人だった。

おまけに、同じく固定具為しと来た。
気まぐれにでも、自動販売機で缶コーヒーでも買ってこよう。

「釣れているかー?」

「まあ、まあ。
 と、言った所か。
 サバが山ほど、黒鯛が4匹、鮍が3匹取れた」

「相変わらず節操がない港だな、おい」

「まったくだ」

事前に猛犬の方のランサーから聞かされたのか苦笑を以て答えた。
缶コーヒーをランサーに渡してから、バケツを覗きこむと他にも色々な魚がいた。

「やっぱり鯖が多いな」
「ああ、理由はしらないが先ほどから取り放題な状態だ」

ランサー共の釣り竿は概念の籠った魔術礼装か。
2人して寿司のネタを制覇できるぞ・・・・・あれ、そういえば。

「その竿、どこで手に入れたんだ?」

・・・まさか、暴力団よろしくまたもや慎二はランサーから強奪されたのか。
ありうる、だって同じタイプの釣り竿だし。

「セイバーのマスターよ、
 俺は猛犬の方とは違い対価を払ってこの竿を手に入れた」

むす、とした表情で即座に否定した。
しかし対価ねぇ、いや、まてまさか。

「アルバイトでもしていたのか?」
「無論、そこで金銭を得てから購入した」

なん・・・だと・・・
我が家の王様は食っちゃ寝状態だと言うのに・・・!!

「・・・セイバーのマスターよ、
 なぜそうも感激したような顔を浮かべるのだ?」

「いや、誰かさんに等価交換というのを教えたくなっただけさ」

敢えてセイバーと言わなかったが、
ランサーにも伝わったらしくそうか、と一言だけ言った。

「まあ、ともかく。
 そうして俺は鍛錬と数少ない楽しみを兼ねた釣りをしてるわけだ。
 ク―フーリン殿ならともかく、ゲーム三昧な征服王。
 魔術師とは名ばかりの貧弱キャスターには決して入り込めない男の世界だ」

フラグですね、わかります。

「いいのかな、
 そんなコト言って。
 口は災いのもとだぞランサー?」

「災いなど、
 ただ正面から粉砕するのみ、何も問題はない。」

災いが来たら戦うのみ、か。
真に英雄らしい返答で、セイバーが気にかけるのも分る気がする。

「鯖か」
「鯖だ」

釣りあげた魚はお気に召さなかったのか、ランサーはそのまま海に戻した。

「――――」
「――――」

会話が途切れる。
話のタネのない時間ほど居づらいものはない。

「邪魔して悪かったな、釣りを楽しんでくれ」
「差し入れ感謝する、セイバーのマスターよ」

港を後にする。
人間、話してみないとわからないものだ。
俺にとっては退屈極まりない空間だったが、ランサー達にとってはお気に入りの場所らしい。

「・・・・・・・・・」

既に10月、しかし夏と見違えるような日差しが港を照らす。
願わくば、心のない邪魔ものたちによって、この平和が乱されなければよいのだが。



※  ※  ※  ※



空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声がさみしさを緩和させる。

文句のないロケーション。
お年寄りから子供まで憩いの場となりそうな冬木の港。

しかし、そこに幸薄そうな男と赤毛の大男によって魔境と化していた・・・!!

「って、一人ふえてるぅ!?」

胡坐をかく幸薄男の背後。
やたらとデカイ頼れる背中がキラリと光る、あれは間違いなく新たな暇人・・・・・!!

「ぬははは、16匹目フィッシュ!!
 うむ、よい漁港だ、面白いように釣れる。
 ところでお主はそれで何フィッシュ目だ?」

「静かにしてもらえないのか、征服王。
 騒ぎたいのなら余所でやって戴きたいものだ。」

唯我独尊を絵に描いたような王のセリフに、ランサーは米神に青筋を立てる。
・・・珍しい、普段は数少ない良心の拠り所であるランサーがあそこまで腹を立てるなんて。

「むふふふふ。まだサバが8匹だけか。
 時代遅れかつ未熟なフィッシングスタイルではそんなところじゃろうて。うむ、17匹目フィィィィシュ!!」

ヒャッハー、とばかりにハイテンションな王様。
いや、家のセイバーと同じく王様だけど、どうして違和感がないのだろうか。

「くそ、いい加減にしろ征服王。魚が逃げてしまうだろうが!!」

「ふむ、腕の無さを他人のせいにするとは落ちたのうランサー。
 近場の魚が逃げるのなら、リール釣りに切り替えればよかろう。
 もっとも、お主のようなカタブツに、リールを操れるとは思えんがな。む、すまぬ。18匹目フィィィッシュ!!!」

2メートルを超える大男が歓声を挙げつつ釣りをする光景。
・・・おかしいなぁ、いつも童心なライダーにこんなにも苦々しく感じるなんて・・・・・・。

「・・・・・・つーか、あれって」

服装は「大戦略」のロゴのTシャツにジーンズ。
これはいい、だが使用しているリールは金に糸目をつけない99%カーボン製の高級品。
釣りをしに来たのでなく、もはや機械の調子を見に来ていると言っても過言でない代物。
ガングロ大男が使っていたのと同じやつか・・・!

「・・・あれって、本物だよな」

あの野郎のは投影したのを使っていたが、
ライダーにはそんな特技はないのでどう考えても本物を使っているとしか考えられない。

「むはははは。この分では日暮れを待たずして勝負がついてしまうのう! 
 軽い準備運動のつもりで始めたのだが様子を見るまでもないようじゃし。
 ランサーよ、別にこの港の魚を全て釣りつくしてしまっても構わんのだろう?」

「く、できるモノならやってみると良い。
 その時は二度とおまえをライダーとは思わないがな」

「良く言ったランサー!
 こんな形でお主と雌雄を決するが来ようとはな!  
 どちらが漁港最強か、ここでハッキリさせてやろうぞ!!」

ランサーの「頼むからどこか行ってくれ」というオーラを完全無視するノリノリなライダー。

ほら、言わんこっちゃない。
ヘンなコトを言うからヘンなのがよって来るんだよ。

二人の邪魔をしないよう、こっそりその場を後にする。
どうか、彼の異名が征服王から(漁場の)征服王に改名することがありませんように。



※  ※  ※  ※



 
空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句のつけどころのない絶好のロケーション。
平和な冬木の町を象徴するかのような港。


しかし――――今まさに盆と正月が一緒に来たかのような賑わいを見せいていた・・・・・・!


「って、さらに増えてる―――――!!?」

誰か、いや予想外すぎて言葉を失う。
うねうねする蛸みたいな生き物を統制する姿はまぎれもなく・・・!

「うおー、すっげぇー!! 
 ジルー、これサカナか!? サカナだな!
 うおーサカナ―――! 一匹くれよ―――――!!」

「ジルー、ジルー。
 あの蛸が捕まえたサカナとっていいかな!」

「あれぇ、隣の兄ちゃんはただの釣りかー。
 つまんないのー。ジルの方がかっこいいなー、ちょっと臭いけど」

「ジルー、今週のジャン○どこー?」

「すごーい、いっぱい捕れてるー! 
 ねぇジルー、後ろのお兄ちゃんにこのサカナ投げていいー?」

なぜか子どもたちに大人気な鳩○似の青髭。
あれか、愛らしい道化とかその当たりの気質が似ているせいなのか?
人気がないのにも関わらずなぜか恨まれず、ファンがいるという点とか。

「はっはっは。元気なのはいいですが、少し静かにしましょう。周りのおけらたちに迷惑ですから。
 それはともかく、ジロウ、一匹といわず十匹でも百匹も持っていくといいですよ。
 ミミ、すまない、ではとってくれれますか? イマヒサ、何を当たり前の事を言っているのですか。
 だがその嗜好はよし、やはり漢は強くなければ。さ、これでガリガリさんでも買ってきなさい。
 カンタ、ジャ○プはマスターの所望の品、読むのは構いませんが折り目などはつけんように。
 コウタ、あの雑兵は狗の方とは違い、心の広い男だ。ぶつけても怒ることはないでしょう。ただし、他の人にぶつけてはなりません。」

いや、あんた誰だよ。
見て強いて言うならば子どもたちの・・・ヒー・・・・・ロー・・・・・・でいいのかな。

「しかし拍子抜けでしたね。
 最強を名乗る者がいると聞いたがまるで話しになりません! 
 所詮は蛮族の王と雑兵、愛を語るこの身とは比べるべくもないか」

ふははは、と愉快そうに笑うヒーロー。
ときおり、子どもたちにほっぺたやら髪の毛やら服やらを引っ張られていたりする。
うん、普段とのギャップがありすぎる。セイバーがこの光景を見たらなんていいだすのか・・・。

「ふふん、所詮は魔術師か。
 使い魔の物量作戦で魚を捕らえようとするとはな、
 ・・・・・・失望したのう。自らの手で得物を捉えず使い魔に任せるとは、見下げ果てたぞキャスター・・・!」

子どもたちに囲まれながら挑発する征服王。
というか、おまえが言うな、ライダーのマスターが泣くぞ、色々と・・・。

「ふ、愚かな。
 釣りと狩りに違いなどありません。
 ようは如何に得物を捕えるかだけです」

「言ったのう?
 ならばどちらがより多く釣りあげられるか競い合ってみるか、キャスター!」

盛り上がった2人のやり取りにわー、と歓声を挙げる子供たち。

「・・・・・・・・・・・・」

そして先ほどから一言も口にしない緑の槍兵。

「古来より、勝者は敗者の所有物を手にする権利があります。
 よって、この戦いに負ければその釣り竿は私の物とします。」

「望む所よ!
 貴様のその胸糞悪い使い魔など要らぬが勝たせてもらうぞ!」

嗚呼、何故勝負となると、
どいつもこいつも無駄に本気になるのだろうか。

「すげー!ジルと釣りプロの一騎打ちだ! 
 こんなのメッタに見れないぜー! オレ父ちゃん呼んでくる!」

「負けるなー、
 やっつけろー! がんばれ王様ー!」

「カワハギとかイナダとかじゃなくてカレイ釣ってよーカレイー。
 けど、後ろの不幸そうな兄ちゃんにみたいにワカメとかワカメとかはカンベンな!」

「ねーねー。
 そんなことよりジャ○プ読んでよー」

もはや港にかつての平穏はない。
人に愛される王様と、なぜか子どもたちに人気なキャスター。


そして。


「そんなにも騒ぎたいか!?
 そうまでして釣りをしたいのか!?
 この俺が・・・たったひとつ懐いた楽しみさえ、踏み弄って・・・貴様らはッ、何一つ恥じることもないのか!?」

この世の終わりみたいな顔でランサーは叫ぶ。
見境なく、征服王に、青髭に、子供たちに喉も張り裂けよとばかりに怨念の叫びを吐き散らした。

「赦さん・・・断じて貴様らを赦さんッ!
 名利に憑かれ、我が娯楽を貶めた亡者ども・・・その娯楽を我が怨念にて穢すがよい!
 地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思いだせ!」

呪いを叫ぶそれに、輝かしい英霊の姿はなく、
ただ怨念に吼える悪霊の声だけを港に残響させた。

「・・・・・・帰ろう。ここはもう一般人の居ていい場所じゃない・・・」

そうして港を後にする。
見上げた空の高さにちょっとだけ目が眩む。

ランサーというクラスはいつも幸運値が低いようで、同情してしまう。
嗚呼、ランサーズヘブンよ、せめて思い出の中で永遠なれ――――。




[30143] アーチャーの過ごし方(朝編)
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/11/05 00:09

その1:早朝


遠坂家の朝は遅い。
なぜならこの家の血族三人の内、
家訓の優雅たれとは程遠い態度を貫いている、すなわち二度寝を決めこんでいるからだ。

「まあ、こんなものか」
「ええ、これでいいわ」

ゆえに遠坂家の朝はこの家に嫁いだ人物と、
娘が召喚した召使い(サーヴァント)が朝食の支度をして、親子二人を起こしに行く所から始まる。

「いつも助かります、アーチャー」
「何、この程度。感謝されるほどではない」

主夫と主婦の前にはフレンチトーストとパン、ベーコンが乗った4枚の皿に、
自由にとれるように大皿に盛り付けたサラダ、人数分のティーカップと完ぺきな洋風の朝食があった。

「じゃあ、オレ・・・いや、
 私は凛を起こしに行ってくる。
 時臣氏の紅茶は既に入れたから持ってくといい。」

アーチャーは一瞬、素で話していたが、
すぐに『アーチャーらしい』口調で台車に乗せたティーセットを遠坂葵に差し出した。

「ふふ、無理をしなくていいのよエミヤ君」

アーチャーらしく振舞う姿はどこか子供らしく、
見た目とは裏腹に応じるギャップに遠坂葵は思わず笑みをこぼした。

「・・・さて、記憶にない名前だな」

気恥かしいせいか、言われた本人は顔をそむけて、
避けるようにいそいそと冷えた牛乳を片手に主の元へと足を動かした。



その2:起床

「・・・また、破壊するとはな」

床には、ガントで破壊された機械式時計の残骸が広がっていた。
(ちなみに、部品のほとんどは投影のバッタもので、
 曲りなりとも英霊が作ったためなのか、ガントごときの神秘では消えない)

「凛、時間だ。起きたまえ」
「あと・・・10分」
「いいから起きろ」
「い――や――だ――」

アーチャーの主である遠坂凛は、
召使いに起きるように何度も催促されているが一向に起きる気配がない。

「ふん、ならばこうしよう」

その反応に対してアーチャーは容赦なく布団をはぎ取った。

「え―――きゃ!
 何してんのよ、寒いじゃないの!!」

「・・・普通、女性ならば勝手に寝巻姿を見られて驚く所だろうが」

羞恥心よりも、
眠気を邪魔されたことに対して怒る主にアーチャーは呆れる。

「ほら、牛乳だ」
「あ―――、うん。どうも」

凛はおずおずと、冷えた牛乳を受け取り一気に飲み干す。

「む、凛。
 髪がボサボサだな。
 背中を向けろ、私が髪をすくってやろう」

「うん、おねがいね」

凛は言われるままにアーチャーに背を向ける。
召使いは直ぐに、彼女の母親譲りの髪を丁寧にすくってゆき、整える。

「あ~~~」

頭に触れる母親や父親とは違う、
手の触れる感触に凛は思わず気が抜けた声を出す。
その姿は、優雅とは程遠い堕落の道に歩む姿で。

「ヤバイ、アーチャーのせいで堕落しちゃう」
「たわけ、人のせいにするな」



その3:朝食

「「「「いただきます」」」」

食前の祈りを終えてから、4人は一斉に食事に取り掛かかった。

「葵、今日はギルガメッシュとわくわくざぶーんの件について話し合うので、遅くなる」
「はい、では今晩の食事は凛とアーチャーの3人ですませます」

夫である遠坂時臣は妻に今日の予定を告げる。
その姿は一家の大黒柱たる父親の姿。

「お母様、シナモンの瓶を取ってください」
「どうぞ、凛」

娘である遠坂凛が母親に調味料を取るよう頼む姿。
その姿は魔術師でなくただの娘の姿。

「あなた、髭にパン粉が」
「む、すまない葵」

妻である遠坂葵が夫の口周りをナプキンでふく。
その姿は良妻の姿。

「凛、紅茶はいるかね?」
「いただくわ。あ、ストレートでね」
「了解した」

主人の世話を焼くアーチャー。
従者として実に様になっていた。

4人が囲む食卓。
本来ここにもう一人入るはずだが、今はいない。
だが、それでもここには当たり前の日常があった。



その3:出かける時

「凛、昨日の要望通り弁当は和食にしておいた」
「あ、どうも」

玄関先、これから学校に行こうとした時に、
凛はアーチャーから風呂敷に包まれた小ぶりな弁当を受け取った。

「で、中身は?」
「クク、それは開けてからのお楽しみ、というわけだ」

凛の質問に自信たっぷりに弓兵は答える。

「大した自信じゃないの、アーチャー」
「当たり前だろ、君が召喚したサーヴァントなのだから」

そう言うと、
いつもの捻くれたものでない、
真っすぐな笑顔をアーチャーは凛に向けた。
どうやら、心底遠坂凛に召喚されたことに誇りを抱いているようだ。

「ふ、フン!当然じゃないの・・・」

対して凛は、アーチャーの言葉に喜びつつも、
恥ずかしいせいか顔を赤らめ、素直でない態度をとる。

「何せ、私のアーチャーなんだし」

聞きようによっては、
否、顔を赤らめて、まるで恋する乙女のような仕草をする凛は、
どう見ても、アーチャーを恋人として宣言している以外の解釈ができなかった。


ゆえに、


「くそ・・・。
 やはりアーチャーも衛宮士郎か。
 2人して凛を、いや。娘2人を誑かせるとは・・・。
 これも全て衛宮切嗣の情操教育のせいなのか・・・おのれ、魔術師殺し。どこまで私を悩ませるつもりだ!」

影で覗いていた父親が、
嫉妬のオーラを鈍感ガングロ誑しに叩きつけていた。

「たしかに、
 エミヤ君と士郎君のジゴロ体質と浮気性は問題ね。
 アイリさんも言ってたけど、血は繋がってなくても親子なのね・・・けど、あれじゃあ、凛や桜が可哀そうだわ。」

「葵!?」

アサシンよろしく、気配を感じさせずに、
いつの間にか背後にいた妻に時臣は驚く。

「でも大丈夫よ、あなた
 凛には妊娠だけは気を付けて後はガツンと行きなさい、と言っておきましたから」

「あ、葵ぃぃぃいぃぃぃぃ」

奥さん、そこ何か違いますって。











おまけ:ミミックトッキー

サイド:衛宮士郎


「・・・・・あれ、誰もいないのか?」

今日はおかしい、呼ばれたというのに、
アカイアクマに葵さん、それに遠坂の親父さんもいない。
一通り探索をしてみたが人の気配すら感じ得なかった。

「いや、でもさっきまで誰かいたのは確かだ」

居間のテーブルにはまだ温かい紅茶とティーセットの一式が残っている。
台所のコンロには沸騰して間もない薬缶が置いてあり、誰かが居間で一服していたのは明らかだ。

「それで、この宝箱・・・怪しすぎる」

無人島か倉庫に置いておくべき代物が居間のど真ん中にに置いてある。
しかも人が入りそうなくらい大きな箱。ふと、こんなフレーズが思いついた。


――――箱の中には男がピッタリ入っていた。


「マテ、そのフレーズは」

何というか、おぞましい。
というか、なんで少女じゃなくて男なのさ。

だが、だ。
だがしかし、誰かがこの中にいると感が囁く。

「たしかめなきゃ、ダメだよな・・・?」


誘われるようにフタに手を掛けて隙間を覗き――――。


「・・・・・・・・・やあ、士郎君」
「ふん、よりにもよって小僧か」

暗闇の中には渋いおじ様とガングロ野郎がいた。
迷わず即座に閉めた。


「うん、気のせいだ」


し、士郎君。
現実を直視したまえ!とか、

くそ、やはり貴様とは相容れないか衛宮士郎!
とか全然聞こえないから!!


間違いなんかじゃない―――-決して、間違いなんかじゃないんだから・・・!!







[30143] アーチャーの過ごし方(昼前編)
Name: 第三帝国◆024f7521 ID:27c4ef44
Date: 2011/11/05 00:12
「む」
「えっと・・・」

時刻は11時ぐらい。
アーチャーと遠坂葵は、アイリスフィールに料理を教える、
という日課を果たすために衛宮邸へ向かっていたが、衛宮邸の前に一台の軽トラックが止まっていた。

ただの軽トラック軽トラックならば通行の邪魔程度で済んだが、
彼ら、神秘の住民と同じ気配を放っていたので、2人を警戒と困惑を引き起こした。

「この気配・・・トラックごと宝具化しているのか?」
「妙に、黒いですね・・・」

元から黒いカラーリングだとしても、
ありえない程の黒い色をしているトラックはあまりにも目立っていた。

「ふむ、降りてきたようだ・・・。
 あの姿は・・・マキリの方のバーサーカーか!」

トラックから降りてきたのは、
ガチムチで、どこか暗い雰囲気を漂わせているつなぎ姿のハンサムな男。
その正体は円卓の騎士でも最強とされる湖の騎士ランスロット、狂化されていることもあるがセイバー以上に武人としての空気を纏っていた。

そんな彼がじっと、アーチャー達を見つめる。

「葵、私の後ろにさがれ」

まさか、仕掛けてくるつもりなのだろうか?
ありうる、完全に制御せしめたイリヤとは違い、本当の意味で狂戦士とでしか振舞えないマキリの狂戦士ならば。
サーヴァントを目撃した瞬間に襲いかかっても可笑しくない。

と、アーチャーは分析し、
如何に後ろにいる人物を守り抜くかシュミレートし、防衛戦は不可。
後ろに下がれば巻き込んでしまう。よって、こちらから打って出る以外の道はないと結論を下した。

「ク、」

だが、相手は狂気に囚われても「湖の騎士」の名は伊達でなく、
魔術使いの英霊エミヤとの間には比べるのも馬鹿らしい程の差が、存在しているのをアーチャーは知っていた。

しかも、相性が最悪だ。
剣群を射出しても避けられるか、利用されるだろし。
「壊れた幻想」を発動させては周囲への被害が大きすぎるし、致命打を与えるには難しいだろう。

では、白兵戦は?
それこそ論外。英霊エミヤの本質は弓兵。
今のセイバー以上にセイバーの的性が強いバーサーカーに叶うはずがない。
正面から戦えば保って数合、それ以降は惨殺される結果しか浮かばない。

しかし、現状ではそれ以外の方法はない。
もたらされる結果はDEADENDしかない――――。

「なにを今さら。
 いつだって、あの運命の日から私はギリギリの綱渡りをしてきた」

地獄に行ってもなお、思いだせるあの光景。
あの運命の夜からずっと正義の味方となるべく衛宮士郎はギリギリの戦いをしてきた。

いつも、自分が不利な状況で楽な状況など存在しなかった。
現在陥っている状況も、生前は何度もあった。
弱音を吐いて理由など存在しない。

ゆえに、一歩前に出てこちらから仕掛けるべく準備し――――。

「は?」

襲うはずの相手が突然アーチャーに背を向けて、思わずアーチャーは間抜けな声を出した。
より正確に描写すると、軽トラックの荷台に乗せたクーラーボックスを取りだすためのようである。
しかも、そのクーラーボックスは業務用らしくかなり大きく、マグロが丸ごと一匹は入りそうだ。

「勘違い・・・いや、ならば何が目的だ?」

「あの・・・もしかして。
 あのクーラーボックスをセイバーに渡したったのでは?」

アーチャーの混乱気味な独り言に、葵が恐る恐る自分の考えを述べる。

「そんな馬鹿な話が
 ――――へ?同意?なんでさぁぁぁぁあああああ!!」

バーサーカーの肯定を示す頷きにアーチャーは絶叫した。
常に冷静極まりないアーチャーがこうも感情を露わにするのはあれだ、色々緊張がほどけたせいだろう。
ついでに気のせいか、バーサーカーは狂気に犯されているにも関わらず心なしか微笑んでいるように見えた。

「だいたい、
 そんなコトならば自分で渡せばいいのではないか。
 生前、裏切ったとはいえ今は関係ないだろうが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アーチャーのやや嫌味と刺を含んだ言い方に、バーサーカ―は見るからに生気を失った。
痛いところを突かれてガラスのハートが砕けたらしい。と、ついでに、黒い瘴気がもくもくとわき上がっていた。

「ああああ、わかった!!
 わかったから、私が責任もって、
 君の主に君が献上した物だと言っておくからその瘴気を収めたまえ!!」

バーサーカ―の変化にやけくそ気味に叫ぶアーチャーだが、
その必死さが伝わったらしく、バーサーカ―は穏やかな表情に戻りクーラーボックスをアーチャーに差し出す。

「しかしだ、セイバーとの仲を取り戻したい。
 と言うならば一緒に来たらどうかね?私たちが仲介役となるのは吝かでないのだが?」

一体どこからセイバーが食道楽に嵌ったと聞いたのだろうか?
食材を態々ここまで運んで来たということは、セイバーの歓心をもらいたいと言う意思があることは確かだ。

「・・・・・・・・・・・」

対するバーサーカ―の表情は変わらない。
だが、首を横に振り、否定の意を表す。
ただ狂犬として怒りをぶつけようとした時よりマシとはいえ、未だ正面から向き合う事に躊躇している。

「まったく――――少しは素直になったらどうかね?」

素直に成りきれない面倒な性格、
頑固さは仕えていた王と変わらないようだ。

そうアーチャーは嘆息し、クーラーボックスを受け取り――――。




「ぐはっっっ!!」

バーサーカーの筋力Aとの差を失念して、クーラーボックスの重みにつぶれた。

「アーチャーさん!!」

葵が慌てて駆け寄るが奇襲攻撃となったクーラーボックスは
アーチャーの意識を一時的に失わせるには十分すぎた――――――。







おまけ:ミミックトッキーⅡ


この箱の中では衛宮士郎が逃げてから、かれこれ30分程経過したが。
箱の外とは時間の流れがずれているので、外は何時間もの時間が過ぎたに違いない。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

沈黙が重い。
中からは脱出できないという絶望が言葉を発するのを止めて、
ただ、息のみが狭い空間を響かせるだけであった。

これがもし狭い箱の中、男女の2人なら、
特に衛宮士郎とその周囲の女性ならばフラグの1つや2つは成立していただろうが、
男2人ではそんなイベントもなく、腐女子を喜ばせるようなイベントもノンケな2人には成立し得なかった。

「く・・・凛に葵はまだなのか・・・」

外の助けを求める、遠坂時臣。
何時もならどちらか2人が必ずいたはずだが、今日に限って誰も来ない。

「何か外へ連絡する手段があれば・・・まて、携帯電話があったはずだ」
「な、う、うむ。そういえばそうだったな!」

挙動不審な遠坂パパン、優雅な姿も形なしである。

「あった・・・うむ・・・・・・・・・」

懐から出した黒い携帯電話。
通話とメール機能しかないシニア用の携帯電話であるが、しばし沈黙の業に突入する。

「・・・・・・代わりに私がしよう」
「・・・・・・頼む」

遠坂家の弱点その1、機械に弱い。
この点については父親である時臣は娘の凛よりもさらに酷い。

「まずは、衛宮邸だ」

携帯電話を受け取ったアーチャーが素早くボタンを操作し、衛宮邸につなげる。

「はい、衛宮です」
「む、カレンなのか!?」

意外すぎる人物にアーチャーが驚く。
基本、教会から動かない彼女が冬木大橋を超えて衛宮邸にいるのは珍しいからだ。
・・・まあ、某主夫を弄る目的があったらば話は別だが。

「妻に向かってその言い方はなんですか、駄犬。」
「く、本当にカレ―――何ィィいぃ!!?」

妻宣言。
いやな予感が懐かしい記憶と共にアーチャーの脳裏に映し出される。
どうして忘れていたのだろう、この箱は衛宮士郎にとってトラウマだったはずなのに!

「何を驚いているのですか、衛宮士郎。
 まったく、責任は自分が取ると大言しておきながらその態度。
 まあ、一発で妊娠させたケダモノゆえ、しかたがないかもしれませんが」

「・・・・・・・・・・・・・」

無限に連なる平行世界とは、すなわち様々な可能性の存在がありうる。
アーチャーのように一人英霊に至った衛宮士郎や、遠坂凛と共に歩む衛宮士郎など。
ゆえに、電話の向こう側が自分と同じではない、といことは知識として理解している。

しかしだ、しかしだ。
よりにもよってこのタイミングでこの可能性を引き当てたのは最悪であるとアーチャーは思った。

「・・・・・・ほぅ」

そう、カレンのことを「裏切り者の娘」ではなく、
「親友の孫娘」と認識している時臣にとっては聞き捨てならないセリフなのだから。
現に米神に綺麗な十字模様が浮かばせて、爆発寸前である。

「それとも、そんなに私の声が聞きたかったのですか、士郎?」
「へ?」
「それなら素直に言えばいいのに――――馬鹿」

デレだ、デレている。
こっちのカレンは泰山のマーボー並みにSなのに、
このカレンは黄色い桃の缶詰並みに甘ったるい。

「い、いや、違うぞ。
 ただ、間違えただけだ」

「嘘つき、素直になればいいのに」

甘ったるい声で囁くカレン。
一方、冷や汗をかくアーチャーに怒りのケージを上げつつある時臣。

「私は素直になったのに・・・愛してますよ、士郎」
「お、おう。そうか。」

一体全体どうすればこうなるのやら、
そう戸惑うアーチャーで、自分とは違う可能性を歩んだ衛宮士郎について聞きたかったが、
これ以上踏む込むと、隣にいる男性から送られる殺意視線が物理な物にチェンジしそうなのでここで引くことにする。

「すまない、時間がないから切るぞ。じゃあな、カレン」
「そうですか・・・では、また会いましょう士郎」

電話を切る。
隣に振り向く。

「さて、何か遺言は?」

にっこり0円スマイルを浮かべる遠坂時臣。
ああ、怒った凛と同じ顔をしているな、やはり親子なのか等とアーチャーは現実逃避を図り。


光と共に意識が消えた。




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