オリンパスは2005年、問題となっている4件の買収の直前に、初の社外取締役を投入して取締役会による監督を強化することを決めていた。ノーベル経済学者のロバート・マンデル氏もその1人だ。
同社取締役会がこれらの買収を承認したのは、マンデル氏その他2人の社外取締役(医師、元通産省官僚)の任期中だった。
関係筋によると、うち1件に関して助言を行ったアクシーズ・アメリカの日本法人は、02~05年にマンデル氏が東京で行った講演のための旅行の費用を負担した。マンデル氏は07年、オリンパス取締役会がアクシーズ・アメリカとの契約を承認したときにも取締役を務めていた。アクシーズ・アメリカは同案件で、関連会社と合わせて7億ドル近い支払いを受けている。
マンデル氏がこうした決定に関する採決に参加したか否かはわかっていない。
同氏はニューヨークのコロンビア大学教授職を休職中。コメント要請には応じなかった。アシスタントによると旅行中で対応できないという。
東京証券取引所や大手投資家を代表する諸団体によると、日本が取締役会による監督強化で苦戦していることがオリンパスの騒動で浮き彫りになっている。日本企業の取締役会は歴史的に大きく、波風を立てたがらない社内取締役が中心だ。
東証は09年、上場企業の取締役会に対して少なくとも1人は独立役員、つまり社外取締役ないし社外監査役を置くよう義務づけ始めた。しかし、多くの取締役会は最低基準を満たすだけにとどまっており、「独立」の定義も不明確だと企業統治団体は指摘する。
現在オリンパスには社外取締役が3人いる。
同社株主は、取締役会が中小企業4社に対する巨額の支払いを承認し、これに懸念を表明した最高経営責任者(CEO)を10月に放逐した理由の説明を求めている。
東証の幹部はオリンパスの状況について、社外取締役が適切に機能してきたかどうか、また、社外監査役が自らの仕事をしてきたか疑問を呼びそうだと語った。問題は、どんな種類の議論がなされ、社外取締役がどんな発言をし、どんな根拠に基づいてそうした多額の手数料や高額の買収を認めたのかということだという。
オリンパスは買収が合法だったとしている。
79歳のマンデル氏はユーロとサプライサイド経済の父として知られ、通貨に関する研究の功績でノーベル賞を受賞。現在はコンテナ船運航会社ダナオスの取締役を務める。
先月ニューヨークでマンデル氏に会い、オリンパスの状況について尋ねたというダナオスのジョン・コスタスCEOは「いま取締役会に籍を置いていなくてラッキーだと言っていた」と語る。
マンデル氏がオリンパスの社外取締役だったのは05年6月~08年6月。任期当初は、通産省出身の豊島格(とおる)氏も社外取締役だった。
07年には、豊島氏に代わり病院院長で内視鏡検査が専門の藤田力也氏が社外取締役に就任した。
この指名のため、オリンパスは07年の届け出を修正する必要があった。内視鏡生産はオリンパスの事業に大きな位置を占めており、同社は藤田氏が率いる内視鏡財団に寄付をしたことがあった。修正版では、藤田氏は寄付から個人的な恩恵を受けていないとしている。
6月に取締役を辞任した藤田氏はコメントを控えた。豊島氏は09年に亡くなっている。
買収が承認された期間の取締役は10人余り。こうした社外取締役を除くとすべてオリンパス幹部だった。
オリンパスは08年の行った19億ドルでの英医療機器メーカー、ジャイラス買収のアドバイザー料としてアクシーズ・アメリカと関連会社に6億8700万ドルを支払った。買収価格の約3分の1に当たるこの支払いは、こうした取引で手数料の慣例となっている1、2%を大きく上回る。
外部委員会が作成した09年の報告書によると、オリンパス取締役会は07年11月、ジャイラス買収とアクシーズをアドバイザーに採用する契約を承認。08年2月、取締役会はアクシーズに対するアドバイザー料の状況に関するアップデートを受領したという。
記録によると、アクシーズ・アメリカはその後閉鎖された。以前のトップには接触できていない。
オリンパスはまた、ほとんど売上高がなく事業歴も乏しい国内小規模企業3社の買収に734億9000万円を費やした。翌年には投資の大半について損失を計上している。同社によると、取締役会は3件の買収を08年2月に承認した。
4件の買収はすべてマンデル氏が取締役だった期間に承認されている。ただ、アクシーズに対する最大の支払いに関する交渉は、同氏が辞任した後の10年3月までまとまらなかった。
オリンパスは、買収について議論した会合にマンデル氏が出席していたかどうか確認できなかったとしている。
アクシーズ・ジャパンのウェブサイトのアーカイブ版によると、マンデル氏はオリンパス取締役に就任する前、アクシーズ・ジャパンのアレンジで講演をしたことがある。アクシーズ・ジャパンの筆頭株主はアキオ・ナカガワ氏とアクシーズ・アメリカ創設者のハジメ・ナカガワ氏。
アクシーズ・ジャパンと両氏に接触を試みたがならなかった。同社の現サイトには、10年11月30日をもって金融商品取引業を廃業したとしか書かれていない。
アーカイブ版には、アクシーズ・ジャパンが講演した2000~05年の東京での5回の講演について記載されている。そのうち3回はマンデル氏によるものだ。同氏以外に、元投資銀行バンカーのマイケル・ミルケン氏が02年4月に講演している。同氏の事務所はこの講演を確認した。広報担当によると、ミルケン氏はアクシーズのイベントで講演するかどうかマンデル氏に尋ねられたという。
オリンパスによると、マンデル氏が同社取締役に就任する前にアクシーズと関係があったかどうか確認できない。アクシーズから個人的利益を引き出すような関係を持っていた取締役はいないという。
東京経済大学によると、マンデル氏は04年に同大で講演した。日本訪問はアクシーズのお抱え旅行だった。
翌年、中央大学の教授らがアクシーズ・ジャパンを訪れ、マンデル氏の講演をアレンジするようナカガワ氏に依頼した。小口 好昭教授によると、ナカガワ氏はマンデル氏がアクシーズのアドバイザーだと述べたという。マンデル氏がアクシーズ・ジャパンのアドバイザーだったことは確認できていない。
その05年10月の講演は、日経新聞とアジア・クラブもスポンサーだった。アジア・クラブは、オリンパス取締役だった豊島氏が率いていたこともある団体で、既に解散している。豊島氏とアクシーズが関係していたことを示唆する情報はない。