冒険者かく語りき
作者:土鍋ご飯
今日プレイしていて実際にあったことを物語風にしてみました。
ゲームなのに本当に恐怖を感じたのは久しぶりです。
PC前で叫びました。
狭い通路が多い遺跡ダンジョン…
罠も多数仕掛けられており、初心者の命を屠る事でも有名で、冒険を始めたばかりの冒険者は立ち入る許可も出されないその場所に、今日もまた一つのパーティーが足を踏み入れていた。
「リリア早くー」
「ミューさん待って下さいよ~」
ノームの戦士ミューと僧侶リリアの女性二人のパーティだ。装備も整い初心者の保護も解かれ、駆け出しながらも徐々に力をつけ、この遺跡ダンジョンもほぼ制覇した二人である。
新たなダンジョンへの立ち入りを許可されてはいるものの、まだ力不足の感が否めない二人は自分達の鍛練と日銭を稼ぐ為に、ここ数日気ままにギルドの依頼をこなしているのである。
今日も二人でコボルト退治をし、陽も暮れかける頃にノルマを達成したのであった。
「疲れたねー。早く街に帰ろ?」
「はいー。でもやっぱりミューさん強いですよね。強さの秘訣は守りを捨てた所ですか?」
「リリアが魔法で回復してくれるしね。安心して攻撃出来るってのもあるかな」
戦士並に装備が可能とはいえ、聖職者である僧侶は刃物は装備出来ず重い鎧も装備は出来ない。あくまで打撃武器に頼る事となる。その為に戦士…しかも守りを考えず攻撃に特化した槍使いのミューの強さは非常にありがたいものであった。
後から段差を登るリリアに手を貸しながら、二人で帰路に着く。街に帰るまでは、いくら慣れた道とはいえ油断は出来ない。
「あ痛っ!」
「だーかーらー、リリアはなんで必ず罠にひっかかるかな~。そこは道の端を通れば避けられるって行きでも教えたじゃん」
「だって~。モンスターの攻撃があるかもって周り見ながらだと、そこまで気を配ってられないですし…」
「うちらだけじゃなくて、シーフもいたらいいんだけどね…。中々いい人も見付からないしねー」
盗賊…シーフの職業であれば、宝箱の罠を解除したり、モンスターの隙をついたりと中々トリッキーな動きをしてパーティーを多いに助けてくれる。
ただ、単独で冒険するには辛く、街でも見掛ける事は少ない。見掛けたとしても既に他のパーティーや、ユニオンに登録していて参加を募る事は中々難しい状態である。
「魔法使いもいたらいいんですけどね」
「行きに見掛けた人を思い出したの?私はああいう人だったら嫌よ。何か…凄い嫌な気配したし」
今朝遺跡に入る際に、二人は入口で魔法使いとすれ違っていた。単独では魔法使いも冒険は難しく、それほどお目にかかる事はない。しかもフードを顔も見えない程に目深に被り魔法使いのシンボルでもある魔法の杖を背中に背負い、挨拶も返さず足早に遺跡の奥に向かって行った姿にミューはあまりいい印象を持っていなかった。
遺跡に探索やギルドの依頼で向かう冒険者も数多いのだが、今日はほとんどすれ違う事もなく、二人共にこの魔法使いは強く印象に残っていたのだ。
「回復魔法はまだ使える?大丈夫?」
「さっき簡易キャンプで回復したから大丈夫ですよ。ちょっと傷治したら行くから先に行ってて下さい」
「分かったわ。早くしてよねー」
「はーい」
罠が設置してある狭い回廊を抜けた先のL字型の通路を曲がり、食虫植物が群生する広間に入る。
歩き廻る食虫植物は最早モンスターと同じく冒険者を攻撃する邪魔物であるが、ここの広間の食虫植物達は近くの虫でも食べているのか、特に襲いかかってくる事はなく、一種の安全地帯となっている。
「あんまり長居はしたくないけどね…ってあれ?」
一人先に広間にたどり着いたミューは、そこに他の冒険者のパーティーがたむろしているのを見付けた。何やら深刻そうな顔付きの面々を見て声をかけた。
「こんにちはー、どうしたんですか?」
「あぁ…こんにちは。ここいらで『人狩り』が出たらしくてな…警戒してたんだ。」
「人狩りですか…!」
背中に巨大な戦闘用の斧を背負ったドワーフの戦士が苦い顔をしながら答えてくれる。
冒険者にとって忌むべきもの…『人狩り』。
モンスターを狙うのではなく、冒険者をターゲットにし、その財産…そして命を狙う冒険者の事だ。
本来モンスターに奮われるべきその力が同じ冒険者に向けられてしまえば、それは非常に強力な武器となってしまう。ギルドでも当然他の冒険者に対する攻撃行為を禁止しており、間違って攻撃が当たった程度ならともかく、もしも人を殺めてしまった場合は、街に帰れば衛兵に捕まり牢へと連れて行かれる。投獄された者は非常に長い時間の苦役が待っているという。
街と違い、ダンジョンの中では衛兵もおらず冒険者同士で自衛するのが基本である。単独で冒険するよりはミュー達や、このパーティの様に複数で行動し『人狩り』に狙われる隙を見せないという事も必要になってくる。げに恐ろしきは怪物よりも理性ある人であるというのが古来からの哀しい事実である。
「この遺跡では見掛ける事は稀だったし、それ程の脅威もなかったんだが…」
「そうなんですか…。しっかしリリア遅いな~。ちょっと連れが遅れてるので見てきますね」
「お嬢さんお気を付け下さいね。もしかしたらすぐ近くにまで『人狩り』が来ているかもしれませんから」
「大丈夫ですって。ついさっきもそこ通ったばかりですし。心づかいありがとうございます」
魔法使いらしき背の高い綺麗な顔立ちのエルフの男に優しく声をかけられるが今はリリアが気がかりだ。
傷を少し治す程度であれば、呪文の詠唱の時間を入れてもさほどかかるものではない。ただ、リリアは非常にそそっかしい所がある為、壁に引っかかったり急にその場で一回転したりとまたワケの分からない事をして時間がかかっているのかもしれないと、ミューがL字型の通路を戻って見た光景は予想外のものであった。
うつ伏せに地面に倒れ伏し動かないリリア。そしてその横に膝まづき、リリアの荷物を漁っているフードの姿。
今朝方入口ですれ違ったであろうそのフードの魔法使いは、浴びた返り血が蒸発し周囲に赤く漂い、殺気に満ちた目は興奮で赤く光り異様な気配を放っている。
「リリアっ!」
件の『人狩り』だと気付いたミューが剣を抜き、飛び掛かる。
ローブの魔法使いは落ち着いて立ち上がると杖を振りかざし何か口の中で呟いた。杖の先から赤い光の塊が飛び出しミューに直撃する。仲間がやられた事で頭に血が上り、冷静な判断が出来なかったミューにそれを避ける事は出来ず、まともに食らってしまう。それは火の魔法。自然には存在しない凝縮した火力に鎧の表面が焼け焦げる。
モンスターの荒い攻撃とはこれはあまりにもレベルが違う。ダメージを受けた事で冷静になったミューは踏み止まると広間へ身を翻す。
仲間の死体を回収し、安全に街まで運んで寺院で生き返らせてあげたい。また、今日の戦利品を盗られてしまうは非常に悔しいし、仇も取りたい、しかしこのままでは自分もリリアの二の舞になってしまう…。そう判断したのだった。勿論感情的には到底納得は出来てはいない。
先ほどの広間に走って飛び込むと、物音と蒼白になったミューの顔で起こった事を理解したのか、先程の三人組の内の一人の小柄なボーグルが剣を抜いて入れ替わる様に通路の方へ走って行ったが、直ぐに戻って来るとそのまま遺跡の入口へ向かい走り始めた。
「駄目だ!おいらの技も全く歯が立たない。逃げるが勝ちだぜ」
「お嬢さんも逃げて下さい。うちのシーフの判断は外れません」
「でもっ!リリアが…」
「諦めるんだ嬢ちゃん。レベルの違いを見ただろう」
そう言って足早に入口に去って行く三人。
そして、革靴のコツン…コツン…という音が 逡巡してたミューの耳に聞こえてくる。
「ひっ!」
思わず息を飲み立ち竦む。
先程の魔法使いが禍禍しく赤いオーラを身に纏い、広間に入ってきた。ミューに向けてゆっくりと杖を振り上げる。
咄嗟に広間の奥に飛び込み地面に倒れ伏したミューの背中を火炎の残滓が舐めていく。
恐る恐る密集していた食虫植物の間から顔を上げたミューは今度こそはっきりと悟った。
ギルドの依頼でよく頼まれる害虫駆除に指定されている人間の全長程もあろう巨大な蛾。戦い慣れてきたミューとリリアの二人でも数回攻撃を加えなければ絶命させることは出来なかったその巨大な虫は、今の炎を浴びて一瞬で絶命していた。しかも数匹まとめて。
これほど強力な魔法はミューもまだお目にかかった事はない。そして、今の自分ではどんなに頑張っても勝ち目はない。
「リリア…ごめん…」
ミューはそう呟くと、冒険者に支給されている脱出装置を作動させた。街への緊急転送装置である。
これは一日に約一回しか使用出来ず、本当に緊急用である為出来る限り使わないようにしていたのが功を奏した。
転送される直前にミューが思わず流した涙が地面に残るも、火炎の魔法の熱によって瞬く間に消えて行く。
涙で濡れた地面が跡形もなく乾いていく様は、未熟な冒険者が入れ替わり立ち替わり来ては消えて行くダンジョンの掟そのものであるかの様であった。
登場人物の名前は変えてあります。
別パーティがいたのや、戻ったら仲間が殺されていたのとかその辺りはほぼそのままです。
後で無事に蘇生したパーティの仲間と街で合流して二人で怯えておりました。
でもこの臨場感はちょっと病みつきです。
初めは日記でも書くつもりが、結構頭の中で誇張されたのでそのまま小説にしてみました。
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