チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30401] 【ネタ短編】魔法学院の愉快な人々【ゼロの使い魔】
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/04 22:08


※オリキャラ注意。
※名のある原作キャラそんなに出番ない。
※ネタ。あくまでもネタ。





[30401] その1:目覚めた男
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/04 22:09

 ぬるり、と生温かいものに全身を包まれる。
それは死の恐怖に直結したおぞましいものであるはずなのだが、
胸の内の高揚ととある一点の昂ぶりを抑えることができない。
このまま『飲まれて』死ぬことが出来る自分は、どれほど幸福なのだろうか。
「……またか……」
 下着のぬめりを感じて途方に暮れながら、少年は目を覚ました。
そうして目を覚ましてから、少年――名を、イジドール・モーリス・ド・ゲドロン――は、
今日が何の日であったのかを思い出した。
「しまった、今日は使い魔再召喚の日じゃないか!」
慌ててクロゼットから下着を取り出す。今まで履いていたもので、とてもではないが人前には出られない。
ひょい、と杖を一振りして部屋の隅の籠へと放り込む。
洗濯は自分でやるか、さもなくばメイドに押し付けるというのがこの学園での規則であり、
普通の着替えであればいくらでもメイドに洗わせることが出来た。
だが、いくら平民のメイドであっても相手は女性だ。
『夢魔の悪戯の成果(思春期以降の男性特有の汚れの婉曲表現)』のついた下着を洗わせられない、という男子が大半であった。
そこで用意されたのがこの籠である。
特殊な魔法によって匂いを抑える機能がついた籠は、学院勤めのメイド達が触ることを固く禁じられている。
これで悠々と、夜中にこっそり洗濯場に出て『夢魔の悪戯の成果(婉曲表現)』のついた下着を洗えるのだ。
閑話休題。
 風の力を使ったことからも解るように、彼は風のメイジである。
学力でいえば中の下、他の一年生と同じくドットクラスのメイジ。
そんな彼が、何故使い魔召喚を再び行うことになったのかと言えば――話は三日前に遡る。
といっても難しい話ではない。彼の使い魔である一羽のカラスが死んでしまっただけのことである。


 『ゼロ』と揶揄される少女がいる。彼女の魔法はいつも必ず『爆発』というカタチで失敗する。
初めて使い魔を連れて望んだ講義においても、常の通り爆発が起きた。
人間たちはいい。おおよそがその結果を予想して防御策を取れたのだから。
だが、そうはいかなかったのが使い魔達である。
強大な爆発によって混乱した彼らはパニックを起こし、教室の内外を暴れ回った。
彼はその時、自らの使い魔であるカラス――ラッキーと名付けた――を見失ってしまった。
ラッキーを探すために、彼は『感覚の共有』を試みた。
このハルケギニアで使い魔とメイジが一身同体とされる理由こそがこの『感覚の共有』である。
メイジは使い魔の視覚と聴覚を共有し、偵察などに使うことが出来る。
ごくごく一般的なメイジであったイジドールがそれを行ったのは当然であった
ただ一つ悲劇があったとすれば、共有した感覚が視覚と聴覚のみではなかったことである。
 その異変に最初に気がついたのは、隣でうろたえる使い魔(スキュア)をなだめていた少年だった。
「イジー、どうかしたのか?」
少年、メレディスは隣で呆然とする友人の異変に気づいて声をかけた。
「俺、の」
空ろな目をしてイジドールは呟いた。
「俺の、ラッキーが蛇に食われた」
「なんだって、えーっと、ど、どれだ!?」
友人の使い魔を探し、辺りを見回しながら問うが、返事はない。
「……おい、イジー?」
「ぬめぬめ、ぬるぬる、あは、あはははは」
口元からダラダラとヨダレをこぼして笑いながら、イジドールはそのまま床に倒れた。


 イジドールが介抱されている間に、哀れなラッキーは消化された。
蛇を召喚した同級生の少女が賠償を申し出てきたが、上の空のままイジドールは断りを入れた。
とはいえ、さすがに召喚翌日に使い魔を無くしたというのはいささか問題であった。
そのためコルベール教諭監督のもと、今一度イジドールには使い魔召喚の機会が与えられたのである。

「さて、不幸な事故はあったが君にはもう一度チャンスがある。一度出来たことだ。今度もきっと成功する」
「はい」

 イジドールは杖をしっかと握った。召喚したい使い魔を彼はこの三日で決意している。
彼の素質。彼の望み。両方の観点から彼はある生物の召喚を渇望した。

「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」

 銀の鏡が宙に浮かび上がる。ボゥ、と光輝いたそこから姿を見せたのは。
「……クエ?」
馬程はあろうかと言う巨大な鳥であった。
「ほぉ、ロック鳥ですか!」
コルベールは賛嘆の声を上げた。使い魔にランク付けをするならば、
先日彼が召喚したカラスに比べてロック鳥はずいぶんと高位にあたる。
しかし、彼は賛嘆の声が耳に入っていないのかのように、フラフラと鳥に近づいた。
「五つの力を司るペンタゴン。かのものに祝福を与え、我が使い魔となせ」
クチバシに口付ける。足の辺りにルーンが刻まれ、光輝く。
「クエ」
その痛みに不快そうな声を上げる新しい使い魔を、イジドールは恍惚とした眼差しで見ていた。
 ともすれば人間さえ食べるという巨大な鳥。この三日望み続けていた彼の使い魔。
思ったより少々小さいが、自分の『望み』を叶えるには十分だろう。
「お前は今日から俺の使い魔だ。名前はそうだな、前任がラッキーだったからハッピーにしよう」
よしよし、とそのクチバシを撫でながらイジドールは微笑む。
「最初の命令だ」
そのまま、クチバシをこじ開けた。

「俺を頭から思い切り飲み込んでくれぇえええええ!!」

「何を言ってるんですかあなたはー!!!」



 その日。何となく嫌な予感がして友人の再召喚の儀を見に行ったメレディスが見たものは、
ロック鳥のクチバシの中でケタケタウフフと笑っている友人と、パニックを起こした一羽のロック鳥と、
どうやらナニカおかしなものに目覚めたらしい生徒を必死に引きずり出そうとしている頭の寂しい教諭の姿だった。

 数日後には『(ナニかアブナイものに)目覚めた男』としてイジドールは学院中の話題となっていた。
だが本人は実に晴れやかな気分で、今日もハッピーの口の中に首を突っ込んでいる。
突っ込まれているハッピーの方は、酷く迷惑そうな顔をしている、とは
最早唯一の友人となってしまったメレディスの談である。



[30401] その2:前略、タコ娘
Name: 尼寺浦 雨月◆f017e48a ID:bdb2158c
Date: 2011/11/05 16:50

 「我が名はメレディス・エイルマー・イヴォン・ド・フィーユ……」
少年があげた名乗りは、トリステインでは少々珍しい響きであった。
何故なら、彼の名の大半はアルビオン風の名前であるから。
ではどうしてそんな名前なのか、といえば話は単純。
彼の祖父がアルビオン出身なのである。
 この祖父、という人が中々型破りな人生を送っている。
まだ極々若い頃に両親が相次いで亡くなり、当主を継いだ。
元より家に居るよりも屋外での狩りを好むような人物だった彼は、
引き継ぎの仕事が一段落した後トリステインへと旅行に出かけた。
目的地は空に浮かぶアルビオンからもっとも縁遠い場所――すなわち、海。
 初めて見た海。豊かな水をたたえ、心躍るような潮の香り。彼はたちまち虜となった。
手元にあった金の半分を使ってメイジを雇い、海辺に小屋を立てると
彼は城に戻ろうともせずそこで暮らし始めた。
 そんな彼の姿を見初めたのがその海辺一帯を治めていた伯爵の末娘である。
二人は互いに自らが貴族であることを隠し、交際を続けた。
暇さえあれば一日中海を眺めてる男と、暇さえあれば一日中海に潜っていかねない女が
互いを貴族である、などとは一瞬足りとて考えなかったのだが。
それ故、二人の付き合いが彼女の親に知れてから、それぞれの出自を知り仰天したほどである。
 かくして結ばれ、親に頼みこんで海に近い区画に分家してもらった二人は、
仕事を終えたら即海! 何はなくとも即海! 子の産湯も孫の産湯も海水!
社交パーティー? そんなことより海だ! 漁師が困ってる? よし援助だ!
といった感じの『海狂い』と化して、社交界からは距離をおかれるようなことになっていた。


閑話休題。
 そんな海狂いのフィーユ家の当主の末息子であるメレディスも、海狂いであった。
といっても、彼は海そのものよりそこに住むある種の生物に酷く魅せられていたのだが。
「五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」
杖を振るう。宙に浮かび上がる銀の鏡。その鏡が光り、ぬるり、と何かが這い出てきた。
「いやほおお! おいでませ僕のタコちゃああああん!」
少年メレディス。学力は中の中。水のドット。
比較的常識人の彼であったが、海と『タコ』のことになると、
少々思考のタガが外れてしまう残念な少年であった。
 思い切り飛び込んだ先。彼の予想ではぬるりとしたタコの体に激突するはずであった。
だが、彼の感じた柔らかさはタコのそれとは異なっていた。
特有のぬめりも、皮の張った感じもしない。どちらかと言えば――人の体に近い柔らかさ。
「……え?」
開いた目に飛び込んできたのは、顔を真っ赤にした黒髪の美少女。
「え?」
「~~~~~~~ッ!」
ベチン、と物凄い力で頬を張り飛ばされて、地面に落ちる。
「あいたたた」
頬を押さえ、地面から身を起こす。
 彼は改めて、自分が召喚したものを見た。
腰まで伸びた波打つ黒髪の合間から覗く、ツンと尖った耳。
どういった理由からか真っ赤に染まっている、青白い肌。
恨めしげに彼を睨みつける、爛々と輝く黄金色の瞳。
そして、その下半身では真黒な八本のタコ足が、うねうねと蠢いていた。
あと、胸元を手で覆い隠している。
この生物がスキュア、という人魚の一種であることを彼は図鑑で知っていた。
美しい上半身と、タコの下半身を持つ、人によってはグロテスクに見える生物。
 ――だが、彼にとっては。
つかつかと歩み寄る。警戒心も露わに喉から唸り声を発している。口元には鋭い牙が覗く。
「お友達から初めてください!!」
思い切り叫ぶと、両手でしっかりとその手を握りしめた。
スキュアの顔から怒りが消える。顔が赤いことに変わりはないが。
「使い魔! それ使い魔ですよ!!」
事態の推移を見守っていた監督の教諭が、さすがに声を荒げた。
「はっ。そ、そうでした。すいません、コルベール先生」
どうにか正気を取り戻したらしい生徒に、ホッと息を吐いた。
「お友達じゃなくて、人生のパートナーでした!」
「……それでは、次はコントラクト・サーヴァントに移ってください」
もう何を言っても無駄だ、とコルベールは投げた。
彼の後にも召喚の儀式を行う生徒は残っている。
手早く進めねば時間がなくなってしまう。
「はい。えーっと、ちょっと目を閉じてもらえる、かな。わかる?」
顔を近づけると、察したのだろうかスキュアがまぶたを下ろした。
「……五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我が使い魔となせ」
メレディス・エイルマー・イヴォン・ド・フィーユのファーストキスは、潮の味がした。


 部屋に戻ったメレディスは自らの使い魔と相対していた。
彼女は今、彼が元から用意していた水槽の縁からひょっこり上半身を出している。
「えっと、改めまして。僕はメレディス。君のことはなんて呼んだらいいかな?」
声をかけてみる。しばらく首を傾げ、うー、とかぐーとか呻き始めた。
何か特定の音を出したいのか、四苦八苦している。
「……ワタシ、ナマエ、ニンゲン、ムズカシイ、オト」
諦めたように、そう告げてしょんぼりした表情を見せる。
「じゃあ、僕が名前を付けてもいいかい?」
「エ、ト……」
彼女が困ったような顔をしているのに、彼は気付かない。
 机の上から手帳を取り、パラパラと捲る。びっしりと書き溜めていた使い魔の名前候補から一つを選び出す。
「色々考えてたけど、ミュリエルってどうかな。古い言葉で、『海は輝く』って意味らしいんだ」
「ア、ウ……」
「……気に入らなかった?」
心配になって覗きこむと、何故か彼女の顔は再び赤くなっていた。
「ど、どうしたの? 塩分濃かった? それとも温度高かった?」
あわあわと水槽を確認する彼に向かって、彼女はふるふると首を横に振った。
「ス、スキュア、アタラシイ、ナマエ、ツケル、ツガイ、ヤクソク」
「え」
パサリ、と手帳が床に落ちる。
「……デ、デモ、××××、ツカイマ。ダカラ、アタラシイ、ナマエ、シカタナイ」
「あー、うん、えーっと……」
「ク、クチヅケ、ハジメテ、デモ、ソノ、ツカイマ、ダカラ……」
「ああいや、うん、なんか、その、ごめん……」
「アナタ、キニスル、ナイ。ワタシ、ノゾンダ、キタ」
一般的に使い魔召喚のゲートを通るのは、使い魔になってもいいと思っている生き物だけである。
(もっとも、彼らの年度においては約一名例外がいるが)
だから、責任は自分にあると言わんばかりの彼女の笑みに、心が大きく揺さぶられた。
 「……いやその、ぼ、僕は、いいよ?」
そうしてしばしの沈黙の後、告げる。
「エ?」
「家は兄さんが継いだから問題ないし、今のとこ好きな人もいないし……」
居心地悪そうに顔を赤くして、ごにょごにょと呟く。
「っていうか、その、君みたいに可愛い子なら、その、大歓迎、っていうか」
「カ、カワイイ……!? デモ、ワタシ、スキュア。アシ、タコ」
「そういうところも僕は大歓迎です!」
「……ウレシイ!」
ばしゃん、と水槽から大きく跳ね上がり、彼女は彼にのしかかる。
「わっぷ」
「ワタシ、ミュリエル! メレディス! ゴシュジン! ツガイ!」
両腕とタコの足で彼を抱きしめて、ミュリエルはゴロゴロと床を転げ回る。
メレディスよりも少々大きいので、すっぽりと彼を包み込む形で。

 
 「おーいメレディス、使い魔関係の書類早く書いちま……メレディース!?」
友人をからかうつもりで部屋を訪れたイジドールが見たものは、
タコ娘に全身に絡みつかせたまま至福の笑みを見せて床を転がるメレディスの姿であった。
「止まれー! 死んじゃう、そのままじゃ死んじゃうからー! おーい!」
必死に声をかけるが、彼の声はメレディスにもミュリエルにも届いていない。
カァ、と呆れたようにイジドールの肩でカラスが鳴いた。
 彼は知らない。数日後には、彼もまたこのおかしな友人の類友となってしまうことを。
さすがにその趣味は……、と男女共に二人から離れていくことを。



────────────────────────

 タコ人魚とか可愛いのに。何で本編で絡んでこないんですか。
あと前回ヘビの主を『少女』って書いてましたが、原作では男子でしたね。
でもいいです。拙作では女子という設定にします。多分。
次はバシリスクを召喚した子かバグベアーを召喚した子の話になる。きっと。




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00404620170593