松井の代理人テレム氏の手腕 NBA選手も担当する実力者

豪腕ボラス氏の間隙縫えるか

2009.11.12


テレム氏とボラス氏の動きが松井の去就に影響する【拡大】

 去就が注目されるヤンキースの松井秀喜外野手(35)の命運を握っているのが米敏腕代理人のアーン・テレム氏(55)だ。大学教授のような実直な交渉で知られ、松井の人柄を涙ながらに米国人記者に訴えたこともある。38歳の若さで心臓手術を経験し、人生のはかなさを知ったというベテラン代理人が、どんな舵取りをみせるのか。

【心臓手術で人生のはかなさ知り】

 「まだ、松井はワールドシリーズの余韻にひたっているところだ。何もおきていないよ」。11日米シカゴで閉幕したGMミーティングの会場でそう語ったテレム氏。19日(日本時間20日)までのヤンキースの独占交渉期間を経て、残留、移籍交渉との両天秤での交渉が本格化する。

 テレム氏はスポーツエージェント会社、WMGマネジメント社(本社・米ロサンゼルス)の主任代理人で、大リーグとNBA(米プロバスケットボール)選手を担当している。2競技分野を両立させている代理人としては、現在最も成功をおさめている実力者といえる。

 テレム氏は例年米スポーツ誌が選ぶ最も影響力のある代理人に選ばれるなど、常にトップ3以内の実力者として評価が高い。物腰が柔らかく、理詰めで優しい語りで契約にこぎ着ける。米報道によると、テレム氏の仕事ぶりは一般的な代理人たちとは一線を画している。

 「自分は映画に出てくるスポーツエージェントとは対極の人間だ。恥ずかしがりだし、選手と飲みに出ることもしない。選手とは事務所で会うのが基本で、たまに食事に出る程度。選手には真実を話して敬意を示し、選手から敬意が返ってくるのが理想」と話している。

 試合を見にいくこともほとんどない。行っても選手と話ができるわけでもなく、自分の宣伝にはなるが、それは本来の仕事とは別物というのが信念。1981年に最初の担当選手を持って以来、地道な仕事ぶりだったが、人生の節目を迎えたのは38歳だった92年。心臓冠動脈のバイパス手術を受けた。

 「遺伝的に家族は心臓がよくない。父親は41歳で心臓病で亡くなっている。これが自分にとっては最も人生で落ち込んだ出来事だった。父の死を見つめることが人生を変えたんだ。やりたいことがたくさんあるが、それをする時間があるかどうかわからない。その恐れが、常に自分にはつきまとっている」

 当時、元ヤクルトのレックス・ハドラー氏(49)=現大リーグ野球解説者=の代理人も務めており、契約完了の国際電話を球団事務所にしたのは病院のベッドの上だった。そばにいたハドラーは「退院してからでいいよ」と言ったが、「契約を逃したらどうする」と聞かなかったという。

 この手術をきっかけにテレム氏の仕事運は急上昇。NBAレイカーズのスター選手、コービー・ブライアントと契約し、96年にホーネッツ経由の迂回入団を実現。芸術的な契約ともいわれた。

 物静かなタイプだが、03年の松井のヤンキース入団に際しては、感情を抑えきれず、外国人記者クラブでスピーチ中に号泣したこともある。「ヒデキと接して契約交渉をし、彼のすべてに感動した。情熱、勇気。彼は必ず成功できると信じている」と涙ながらに語った人情派だ。

 一方で、「レストランで飲み物をこぼされたのをきっかけに、ウエートレスからマネジャーまでを怒鳴りあげ、クリーニング代から食事代まで持たせた」と米紙に報道されたことも。テレム氏の硬軟交えた交渉が、松井をどんな結論に導くのだろうか。

【デーモン代理人はボラス氏】

 対照的な存在が辣腕代理人として知られるスコット・ボラス氏(57)。レッドソックスの松坂大輔投手の5200万ドル(47億円)、ヤンキースのAロドリゲス内野手の2億5200万ドル(227億円)の大型契約をまとめるなどその豪腕ぶりは枚挙にいとまがない。強気一点張りの交渉は各球団編成担当者の恐怖でもある。

 “スーパーエージェント”と呼ばれるボラス氏の今オフの交渉は、松井の去就に深い関係がある。ジョニー・デーモン外野手(36)=ヤンキースからFA=と、マット・ホリデー外野手(29)=カージナルス同=の代理人を務めているからだ。

 デーモンは松井とヤンキース生き残り合戦を繰り広げているうえ、ホリデーは大砲としてヤンキースが獲得を検討しているFA市場の目玉外野手。ボラス氏の強気一辺倒の交渉の間隙を縫って、松井再契約の好条件をヤンキースから引き出せるかどうか。テレム氏の腕の見せ所だ。

 そんなテレム氏だが、ヤンキースが根に持っている契約がある。井川慶投手(30)を2000万ドル(18億円)という高価で売りつけたことだ。ヤンキースのキャッシュマンGMはトラウマになっており、テレム氏対ボラス氏、テレム氏対キャッシュマンGMのせめぎ合いも白熱することは必至だ。

 ■アーン・テレム 1954年、米フィラデルフィア生まれ。ミシガン大学法学校、ハバーフォードカレッジを卒業し、法律事務所に勤務する。89年にロスにテレム&アソシエーションを設立。SFXスポーツ社社長を経て、WMGの主任。同社は大リーグでは170選手と契約している。主な担当選手は、ガルシアパーラ、ジアンビ、アトリー、松井稼頭央、五十嵐亮太ら。南カリフォルニア大学法学部の助教授も務める。ナンシー夫人はCBSエンターテイメント社長。

 

注目サイト