小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

ギリシャとGS(赤字隠しのテクニック)

 NYタイムズ紙が、ギリシャの債務隠しにゴールドマン・サックスが加担していたと報じたとか。

 はい、そこの貴方! このニュースを聞いてどう思います?

 多分、思っているのでしょうね。行き過ぎた市場原理主義とか、欲まみれの金融資本主義だ、と。

 でも、新聞の記事などを読むだけでは、どのような手段によって赤字隠しを支援したのか、イマイチ分からないという人も多いと思いますので、ここで解説しましょう。


 

 新聞報道などによれば、概ね次のように報じられています。

 時期は、2000年と2001年。将来の空港税や宝くじ収入を担保にゴールドマン・サックスがギリシャ政府に数十億ドル(数千億円)の資金を提供。

 これ、普通に考えれば、将来の空港税や宝くじ収入を担保にしたGSからギリシャへの融資ということになるのですが‥

 しかし、これをギリシャ側は借り入れとはせずに為替取引として計上した、と。

 さあ、この会計テクニックの意味がお分かりでしょうか。何故、そんな面倒くさい取扱いにしたのか?

 もし、ギリシャが、単に資金繰りに困っていただけで、そのためGSからお金を借りたというのであれば、通常通り国の借金として計上すればそれで終わり!

 しかし、ギリシャは、資金繰りに困っていたというわけではないのです。ギリシャは、ユーロ導入の条件とされた財政赤字比率をクリアすることが必要だった、と。そうしないと、皆の仲間になるこ
とができい、と。

 ユーロ導入の条件としての財政赤字比率は、GDPの3%以内ということです。ギリシャのGDPは、日本の7-8%程度だったと思いますが、ということは、ギリシャのGDPは、当時日本円で約
30兆円程度だったとしましょう(大雑把で失礼!)

 で、GDPが仮に30兆円だったら、許される財政赤字は、9千億円までということになります。そして、当時ギリシャは、その上限を守ることができそうになかった、と。正直に財政赤字を公表する
と、その上限を超えてしまう。そして、上限を超えると、仲間入りが認められない。

 そこで、GSがやってきたわけです。

 「ユーロ圏に入りたいそうだが、財政赤字比率のことでお困りのようですね」

 「何故、それを知っている?」

 「そんなことよりも良い方法があるのですよ」

 「どんな?」

 「GSがお金を出しましょう?」

 「だめだ、そんな方法。GSからお金を借りたら、財政赤字比率は益々上昇してしまうじゃないか」

 「お金を借りたことにする必要はないのです。これは為替取引なのです。最初にGSが資金提供し、将来、その分に利子相当分を加えて返してもらえばいいのです」

 「どういうこと?」

 「だから、こちらが最初に出すお金は、ギリシャの収入として計上すればいいということです」

 「そんな方法があるの?」

 「あるのです。それで収入が増える訳ですから、その分、借金を減らすことができるので、財政赤字比率は低下する、と」

 「いいね」


 てなもんで、ギリシャ政府は、財政赤字比率の条件をクリアしようとしたのでしょう。

 でも、これ、どうみても融資です。しかも、そのために300億円ほどの手数料も払ったとか。


 はい、そこの貴方! こんな話を聞いてどう思います?

 「日本の銀行や証券会社じゃ‥」

 考えられない、と思っています?

 甘い! 1990年代、バブルが崩壊した後、赤字に転落することを恐れた日本の銀行に、これと同じような会計手法の採用を日本の証券会社が持ちこんでいたのですよ。

 ご存知でした?


 以上

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11月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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