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社説:震災がれき処理 受け入れ広げる努力を

 環境省が、東日本大震災で発生した岩手、宮城両県のがれきの広域処理について、全国調査の結果を公表した。受け入れに協力的な回答は54市町村・一部事務組合で、4月の調査と比べ10分の1以下に激減した。

 被災地の早期復興のために、何ができるのか。震災後、多くの人たちが考え、行動してきたことだろう。その姿勢に水をかけられたような後味の悪さが残る結果だ。

 放射性物質への懸念から、多くの市町村が住民の理解を得られないと、ためらっている。もちろん、廃棄物の受け入れや処理によって、受け入れ側の住民が被ばくするようなことがあってはならない。だが、科学的データに基づいての処理が可能ならば、もっと多くの自治体が手を挙げられないだろうか。

 がれきは両県で2000万トンを超え、悪臭を放ち火災も引き起こしている。広域処理が進まなければ、復興の足かせになるのは間違いない。

 受け入れを決めたのは、山形県内の一部市町村と東京都だけだ。都内では3日、岩手県宮古市から運ばれた廃棄物の処理作業が始まった。都は13年度末までに宮城県分も含め、50万トンの受け入れが可能だとする。

 東京都は、被災地だけでなく都内に運び込まれてからも、繰り返し放射線量を測定し、データをホームページで公開している。埋め立て可能な焼却灰などの放射線量の基準は、国のガイドラインに沿っている。一方で、焼却灰の放射性物質濃度を測る焼却試験の結果に基づき、コンテナ搬入時の廃棄物の許容線量について、都独自の基準も設けた。

 受け入れ表明後、都には2000件を超える抗議電話やメールが殺到した。安全対策と情報公開に万全を期した上で受け入れた都側の対応からは、被災地の復興を国全体で支えたいとの姿勢が感じられる。

 どうすれば広域処理が広がるか。処分場の立地条件や処分能力の問題もあり、受け入れの可否が市町村の判断によるのは当然だ。だが、環境省はもっと前面に立つべきだろう。

 国が定めた安全性の基準の根拠に疑問を投げかける自治体は少なくない。市町村向けの「Q&A」も作成したが、さらにきめ細かい説明が必要だ。住民目線からの疑問に答えるパンフレットを作ったり、住民説明会に率先して出向く姿勢もほしい。今回の受け入れでは、念を入れた放射線量の測定が欠かせない。測定経費も国が負担すべきだ。

 被災地の人たちは、8カ月近くたっても片付かないがれきの山を見て「気分がめいる」と嘆く。十分なリスクコミュニケーションに基づき、その声を受け止める一歩を全国各地で踏み出したい。

毎日新聞 2011年11月5日 2時31分

 

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