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特集企画 東海大学を知る「webマガジン」東海イズム

 

インタビュー:工学部・十亀昭人准教授 建築学で宇宙の迫る 「はやぶさ」チームに参加

--打ち上げもご覧になられたのですか。

 十亀 はい。打ち上げ自体を見るのが初めてでした。「はやぶさ」がだんだん上がっていって空へ消えていく、それをみたときには感動しました。途中、通信が途絶したときにはかなり心配したので、再び通信が回復したときの喜びはひとしおでした。それまでは研究室での研究だけでしたが、実際のミッションに携わる喜びも初めて知りました。

--学生時代から宇宙の研究をされていたのですか。

 十亀 はい。専攻は建築学科で宇宙は対象としてはかけ離れていたため、周りから何をやっているのかと言われたこともありましたが、気にせずに研究を続けました。100年、200年とずっと将来のことを考えると、人類が地球の薄皮の表面だけにとどまるというのは不自然です。そうであれば、今から基礎研究に着手し、微力ながら寄与できればと思い、宇宙建築学の研究者を目指しました。これまでに将来の宇宙開発に応用できるように考案したいくつかの宇宙展開構造物に関する折り畳みパターンの研究があります。

--十亀准教授の考案された折り畳みパターン、「ソガメ折り」とはどのようなものですか。


ソガメ折り

ダストシールド:ISSにソガメ折りダストシールドを設置する概念案

 十亀 小さく折りたたんだ構造物を大きく開いて展開する技術で、3次元的に展開する折り方です。宇宙へ物を運ぶ時、輸送機などの中は限られた空間です。小さく折りたたんで宇宙で広げたほうが効率的です。国際宇宙ステーションなどの構造物はスペースデブリ(宇宙のごみ)にあたって壊れる危険性があります。デブリは、1センチより小さいと現在の国際宇宙ステーションの外壁で防御可能です。また、10センチより大きいものは事前に地上から探知できるため、よけることができます。ただその中間、1~10センチのものがぶつかれば穴が開く危険性があります。例えば、こうした時に、その国際宇宙ステーション自体を覆うデブリ防護カバーとして「ソガメ折り」を展開して外周にシールドを作っておけば、万が一ぶつかっても被害を小さくすることができます。

 私の研究は宇宙展開構造物がメインテーマですが、研究室の学生は同じ宇宙建築をキーワードにしてさまざまな研究を行っています。宇宙空間における閉ざされた室内でのストレスがどう変化するか、無重力環境で避難するときはどうすればいいかなど、宇宙に人類が進出するときの基礎的な研究を行っています。地上の建築学で考えられる課題は宇宙でも同じではありますが、未開拓です。一つ一つ進めなければならず、考えなければならない課題は山ほどあります。基礎研究を重ねて、それらをもとに月面基地の建設へ向けた研究開発を行っていきたいと考えています。

--各国でもそういう研究は行われていますか。

 十亀 さまざまな研究がなされていますが、展開構造物に関しては折り紙文化がある日本が先行しています。

--宇宙や建築学に関心のある学生や若い研究者にアドバイスを。

 十亀 研究は何にしても好きじゃないと続けられません。研究というものは人がやっていないことをやることが大前提ですが、特に境界領域の研究が重要だと考えます。私は建築学をやっていて、そして宇宙にも興味をもっています。宇宙と建築の境界領域を研究することで、今までない独創性のあることができるのです。うちの学科は本当に研究が好きで自発的にやっている学生が多く、その点はありがたい。独創性のある研究は初め周囲から認められないこともあると思いますが、そこで折れずに研究を深めてほしいです。

東海大学工学部建築学科准教授
十亀昭人
1970年2月23日生まれ。1993年東海大学工学部建築学科卒業。1995年同大学院工学研究科修士課程修了。2000年東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了 博士(工学)。2002年より東海大学工学部建築学科専任講師、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 小惑星探査機「はやぶさ」AMICAチーム。2005年より東海大学工学部建築学科准教授。2010年に東海大学「はやぶさ」プロジェクトサポートチームとして文部科学大臣表彰、宇宙開発担当大臣表彰。日本航空宇宙学会、日本建築学会、などに所属。専門は宇宙建築学。

関連リンク:東海大学ニュース「はやぶさ」プロジェクトのサポートに対して感謝状をいただきました