血管再生治療部門
人口の高齢化や生活習慣様式の欧米化に伴って、我が国の末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)は、年々増加しています。これらの患者さんに対する治療として危険因子の除去、運動療法、薬物治療、経皮的血管形成術や外科的バイパス術が行われています。しかし、下記のような重症例や治療困難例も、増加の一方です。また、以前として難病であるバージャー病の患者さんも多くおられます。
1、重症の血流低下を認める。 | |
手や足の指が、安静時でも痛みを伴ったり、潰瘍・壊疽などを認める | |
2、既存の治療が困難である。 | |
血管狭窄部位が末梢血管(細い血管)のため、手術や風船の治療ができない場合 |
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3、既存の治療に抵抗性である。 | |
治療しても血管の再狭窄を繰り返す場合 |
人間の骨の中(骨髄)には、血管内皮細胞、心筋細胞、平滑筋細胞などの心血管系構成細胞の幹細胞が含まれ、この骨髄に存在する幹細胞を用いた血管再生が循環器医療に応用されています。骨髄単核球の虚血下肢治療への有効性の実験データをもとに、教授の松原らは、2000年6月よりヒト虚血肢に対して他大学と共同で、血管再生治療を開始し、その有用性を世界に先駆けて報告しました。(Lancet 2002:360 427-435).また、私どもは、他施設共同研究で、115例の患者さんの3年間にわたる有効性、安全性、長期予後を報告しています。(Am Heart J 2008:156:1010-1018).
これらの結果をもとにより多くの患者さんに安全で効果のある、患者さん自身の骨髄細胞または末梢血単核球細胞を用いて、従来治療に抵抗性で、潰瘍を伴うような重症下肢虚血病変に対し血管再生(血管新生)治療を行っています。(先進医療対象は、末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)またはバージャー病)
自分の細胞を使うため拒絶反応がないこと、細胞をそのまま使うため安全である事が最大の特徴です。
また、他に治療法がないと紹介された患者さんのうち末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)で6-7割、バージャー病で9割の方が、効果(治療後疼痛の軽快ー消失、潰瘍の軽快ー消失、歩行距離延長)を認めています。
具体的には、下肢血管に対する従来の内科的外科的治療抵抗性の患者さん(図1)に対して、適応基準(表1)を満たす場合、骨髄または末梢血から細胞を採取精製し、虚血部位に筋肉注射にて細胞を移植するものです。(図2-4)骨髄細胞を用いるか末梢血細胞を用いるかについては、患者さん個々の病態によって違うため、当科にて検討致します。(厚生労働省から先進医療として認可を受け、骨髄細胞の場合、約32万円 末梢血細胞の場合約10万円を必要としますが、保険医療と同時に受けられます)また、現在自費医療ですが、当院では、膠原病による難治性血管炎に対する血管新生治療(血管再生治療)も大学の倫理委員会の認可を得て進めています。 最近の循環器治療は目覚ましく進歩し、多くの患者様の生活の質も量も向上したといえます。しかし、いまだ未解決な重症虚血疾患で困っている患者さんが多いことも現実です。安全性と効果の結果に基づいた先進的医療を実践する事こそ私達の使命です。 下記に診療までの具体的手順をお示しします。
- 「新・心臓病診療プラクティス 15 血管疾患を診る・治す」文光堂 2010年発行
- Matoba S. Matsubara H: Therapeutic angiogenesis for peripheral artery diseases by autologous bone marrow cell transplantation. Curr Pharm Design; 2009; 15:2769-2777. Curr Pharm Design; 2009; 15:2769-2777
血管再生医療(血管新生治療)の受診をお考えの方へ
1、まず、主治医の先生と適応があるか相談し、その後近くの血管再生医療を行っている施設に連絡をとって受診して下さい。 施設により合併症(透析の有無や心疾患等)の基準があるため、直接相談に行く場合でも、現在の治療状況を確認しておくことで検査の時間を省くことができます。 血管再生医療の先進医療認可施設を厚生労働省のホームページ確認できます。 2、京都府立医科大学 医学部附属病院 循環器内科 受診をご希望の場合1. 主治医の先生とご相談の上、主治医の先生から地域医療連携室を通して外来受診予約をしてください。 また、先進医療の対象かどうかわからない場合、専門機関に相談されるか、主治医の先生から 下記にご遠慮なくご相談ください。すぐにお返事できない場合も折り返しご連絡致します。 | |
京都府立医科大学 附属病院循環器内科 TEL075-251-5511 FAX 075-251-5514 | |
(直接受診相談される場合、予約がないと、かなりの待ち時間が予想されるため事前のご予約をお勧めします。) | |
2. 先進医療の対象である場合、 | |
術前検査として、主に下記の確認または検査を紹介病院や当院で行っています。(参考 表1) | |
①心臓の冠動脈に問題はないか?適切な治療が施されているか? | |
冠動脈CT検査、運動負荷心筋シンチグラム検査または血管撮影など | |
下肢血管疾患の多くの方が、心臓や脳への血管の病気を合併しているため、まずこちらの検討が重要です。事前の検査が義務付けられています。 | |
②現在治療の必要な悪性疾患はないか? | |
内科的診察以外に 胃カメラ、便潜血検査、CT(胸・腹部できれば造影検査)、腫瘍マーカー(CEA, CA19-9、PSA(男性)、CA125(女性)) | |
私どもの検討では、血管再生治療で悪性疾患の発症増加は認めていませんが、事前の検査が義務付けられています。上記はあくまで当院の検査参考例ですが、人間DOCや他の検査で代用したり、上記検査結果によって陽性の場合は、専門科に受診していただく事もあります。(完全に悪性疾患の除外はできないので、上記検査はあくまで参考です。) | |
③糖尿病性網膜症があった場合、適切な治療はなされているか? | |
私どもの検討では、血管再生治療で網膜症悪化は認めていませんが、事前の検査が義務付けられています。 | |
④虚血部に感染はないか? | |
血流の少ない組織では、感染を起こした場合、急速に悪化しやすく、全身状態に影響をおよぼします。現段階では再生医療の効果が発現までに時間を要すること、また下記⑤の理由により感染がコントロールできない場合は、下肢切断を考慮する必要があります。感染を疑う場合、早急に担当主治医または皮膚科、整形外科での診察で確認してください | |
⑤炎症症状はコントロールできているか? | |
私どもの検討では、局所または全身の炎症が強い場合、再生医療に使用する細胞にも炎症を惹起する細胞成分が多く、血管再生医療が困難です。(当院参考値CRP 5mg/dl以下) たとえ感染がなくても、血流が少ないことによる虚血性炎症がある場合でも炎症のコントロールが必要です。 | |
紹介病院や当院でのこれらの検討後、入院と実施日を決定します。 入院期間は約2週間です。参考(図4) 先進医療費用以外は通常の保険診療です。 |
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3. 先進医療の対象でない場合、 | |
現段階(2011年6月)で膠原病や他の疾患に伴う血管再生医療は先進医療には認められていません。 また、年齢81歳以上の方や先進医療除外基準に当てはまる患者様も多くおられ当院の外来通院中です。既存の治療法を組み合わせたり、臨床研究や臨床治験が進んでいるものの、まだ確立した治療ではありません。私どもで、できる限りの助言や治療ができればと考えています。 その場合も、ご遠慮なく 主治医の先生を通して当科にご相談ください。 |