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仕分け人



作:逃げ馬







冬の朝、白い息を吐きながら、生徒たちが校門をくぐり、校舎に向かって歩いて行く。
ここは度子鹿野高校。 このあたりでは文武両道で名の通った進学校だ。
校庭から少し離れた柔道場では気合の入った声とともに、乱取りをしている。
がっしりした体つきの男が投げを打ち、受け身をとり、大きな音が柔道場に響く。
鳥山幸雄は、この学校の2年生。 柔道部期待の選手だ。
185cm、98kgのがっしりと筋肉の付いた巨体は、昨年は高校一年生でありながら、度子鹿野高校高校柔道部を全国大会準優勝に導く大きな力となった。
一躍注目を集めた鳥山には、周りがちやほやするようになっていった。
その結果、鳥山はクラスメイトに横柄に接するようになり、また教師たちもそんな鳥山の体格と力、そして“学校の宣伝効果”を失いたくないため、まともに注意できないでいた。
この朝も、練習を終えた鳥山は、制服に着替えると教室に向かった。
彼の目の前をショートカットの髪を揺らしながら、清水明美が歩いていた。
清水はこの学校の生徒会長。 成績優秀で、尚かつ”美少女”で誰でも一目置く存在だ。
セーラー服のスカートを揺らしながら歩いている清水を追い越しざま、鳥山の左手が素早く動いた。清水のスカートがめくれあがる。
「キャッ!!」
スカートを抑えて座り込む清水に向かって、
「ハハハッ!」
笑いながら歩いて行く鳥山。
「もう!」
目に涙を浮かべながら鳥山を睨みつける清水。
その後ろから教師が歩いてきていたが、何も言わずに立ち尽くすだけだ。
「先生! 鳥山君が・・・」
「・・・」
教師は人差し指を自分の口に当てると、素知らぬ顔で歩いて行く。
清水は唇を噛みしめながら、その後ろ姿を見送った。



その頃

校長室に黒いスーツ姿の3人の男女がいた。
椅子に座る校長が、女性の差し出す封筒から、書類を取り出した。
「こんなことが・・・?」
凍りついた表情で3人を見つめる校長に向かって、
「そうです」
二人の男を従えた女性が、冷たい視線を校長に向けた。
「無駄は、なくさなければいけません!」
大きな目で校長を見つめる女性。
「よろしいですね、そのリストに書かれた者を体育館に集めてください!」
そう言うと、もう振り返りもせずに3人は校長室を出て行った。

教室では一時間目の授業が始まっていた。
2年生の教室では、鳥山が机の上に弁当箱を堂々と広げてパクついている。
その横では、同じようにがっしりとした体の上に、箱のような頭を乗せたアメリカンフットボール部の大沢が同じようにコンビニ弁当を広げて食べている。
教室の中には揚げ物やソースの臭いが漂っているが、教師は見て見ぬふりをしながら授業を進めている。
授業に集中しようとしていた清水が、我慢しきれないといった感じで立ち上がった。皆の視線が清水に集まるが、鳥山と大沢は、黙々と弁当を食べている。
「清水、どうした?」
体調でも悪いのか?・・・といった感じで尋ねる教師に、
「先生! 鳥山君と、大沢君が授業中にお弁当を食べていますが?」
二人の箸が止まった。 じろりと厳しい視線を清水に向けた。
教師は困惑した表情で、清水と鳥山たちを見つめていた。
「今は授業中だ・・・その話は、またな」
そう言うと、また黒板に向かい、何事もなかったかのように授業を進めていく。
清水は、可愛らしい声で小さなため息をついた。
その時、突然教室のドアが開き、スーツ姿の男が入ってきた。教師が驚き、
「なんですか・・・・あなたは?」
男は教師に向かって一枚の紙を見せると、
「今日の授業はここまでです、これから名前を呼ぶ生徒は体育館に集まって下さい」
「なんの権限があって・・・」
詰め寄る教師にも構わず、男は次々に紙に書かれた名前を読み上げていく。
「大沢君、鳥山くん・・・」
「なんだよ・・・」
「・・・かったるいなあ・・・」
椅子から立ち上がった大沢は、ふと気がついた。
「おい・・・これって授業が無いってことだよな?」
「・・・そうだな?」
ニヤリと笑う二人。

体育館には、なぜか男子生徒ばかりが集められていた。
そして2階の観覧スペースには、女子生徒と名前を呼ばれなかった男子生徒がこちらを見下ろしている。
そして正面には仕切りで区切られたスペースが3つほどあった。
「なんだ?」
顔を見合わせる二人。
そんな二人に構わずに、名前を呼ばれた男子生徒たちが、次々に仕切りで区切られた部屋に入っていく。
すると、
「なにを言っているんだ?」
「わけわかんない事言うんじゃねえよ?!」
仕切りの中から男子生徒たちの怒号が聞こえてきた。
再び顔を見合わせる鳥山と大沢。
「次、大沢君」
仕切りが開き、中から教師が大沢を呼び入れた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
軽く手を上げると、大沢が中に入って行った。
次の瞬間、
「馬鹿言ってんじゃねえよ?!」
「わけわかんねえよ?!!」
中から大沢の怒号が聞こえてくる。
すると、二階にいる女子生徒たちが手を叩いて囃し立てている。
やがて、
「やめろ・・・離せよ!}
中から大沢の叫び声が聞こえる。
咄嗟に中に飛び込もうとした鳥山は、がっしりした体つきの黒服の男たちに体を抱え込むように止められてしまった。
「馬鹿野郎! 離せよ!!」
柔道で鍛え上げられた鳥山のはずだが、男たちに腕や足をがっしりと掴まれ、体がピクリとも動かない。
やがて、仕切りのドアが開き、
「次、鳥山君!」
教師が名前を呼んだ。 体を押さえられている鳥山を見て、『何をやっているんだ?』と言う目をしたが、それは一瞬のことだった。
男たちは、鳥山の拘束を解くと、身振りで鳥山に中に入るように促した。
鳥山が仕切りの中に入ると、男たちも後ろについて入ってきた。後ろ手にドアを閉める。
辺りを見回すと、仕切りの中は、二階席から丸見えだった。
狭い空間の真ん中にはパイプ椅子が置かれ、その正面には机を前にした髪の短い女性が座り、分厚いファイルを捲っていた。
女性の机の上には、赤と青の箱が置かれている。
その両側には、この学校の教師が座り、何かを女性の耳に囁いている。
急に薄暗くなった・・・そう思い両側を見ると、さっきの屈強な男が両側に立っていた。
「鳥山幸雄君ね・・・」
女性が見ていたファイルから、鳥山に視線を移した。
少々の事では動じない鳥山だが、一瞬背筋が寒くなった。感情のない、まるで爬虫類のような目。
「・・・あなたは、なぜ男の子なの?」
「ハッ?」
「成績は下の方・・・女性にはセクハラまがいの行為をしているし、授業はまともに聞かず、教師の注意も聞かない・・・」
女性は、ペンで鳥山を指しながら、
「あなたがあえて、男性でいる理由は無いでしょう?」
「なに、わけのわからない事を言っているんだよ?!」
鳥山は、他の男子生徒と同じことを言っていた。
「俺は、柔道の全国大会に出場をして、勝ちまくってこの学校に貢献したんだ!!」
「それは、何か価値がありますか?」
「ハッ?」
まったく感情のない、女性の冷たい視線を浴びながら呆然とする鳥山。
「そうよ!」
「ちょっと柔道が強いくらいで!!」
2階席から、女子生徒たちの声が飛ぶ。
「うるせえ! 黙ってろ!!」
思わず鳥山は、椅子から立ち上がり2階席に向かって拳を突き上げた。
たちまち、両脇に立っていた黒服の男に強い力で抑えつけられ、椅子に座らされてしまった。
そんな鳥山を、女性は鼻で笑った。
「やはりあなたは、男性でいる価値はありませんね」
「・・・」
わけがわからず、鳥山は何も言えない。
「わたしたちが、あなたにふさわしい“ポジション”を用意します」
女性はファイルから鳥山の書類を引き抜くと、二つ置かれた箱のうち、赤い箱に書類を入れた。
「ハイ、御苦労さま…」
そう言うと、女性はファイルに目を通しながら、
「次の人を入れてください・・・」
「おい・・・俺は、まだ言いたいことがあるんだよ!」
掴みかかりそうな勢いで女性に向かっていく鳥山を、また黒服の男たちが捕まえると、引きずりながら鳥山を連れ出して行く。
2階席では、女子生徒たちが、そんな鳥山を見て笑っていた。

仕切りの裏側につれて来られた鳥山の前には、セーラー服姿の数人の女子生徒が座り込んで泣きじゃくっていた。
その前には、電話ボックスくらいの大きさの金属製の箱が3個あった。
箱には、パイプやコードがいくつも付いていた。
トラックのエアブレーキのような、気体が抜けるような音とともに、金属製の箱のドアが開いた。
中から、見たこともないショートカットの髪の少女が出てきた。その少女がこちらを見るなり、
「鳥山!!」
鳥山に抱きつき、泣き出してしまった。
「君・・・・誰?」
戸惑っている鳥山だったが、
「ハイ、君の番だよ!」
黒服の男が、鳥山を金属製の箱に押し込んだ。
「何をするんだよ・・・出せよ!!」
鳥山が必死に扉を叩くが、分厚い扉はびくともしない。
「大体、何なんだよ・・・この箱は?!」
「これ・・・性転換装置だよ」
黒いサングラスをした黒服男がサングラスの向こう側で笑っている。
「そんなことできるかよ!!」
「異星人のテクノロジーなどを組み合わせればね・・・できるも何も、君の目の前に証拠があるだろう?」
鳥山の表情が凍りついた。さっき彼に抱きついてきたのは、もしかすると・・・?
「まあ、そこを出る時には、君も清楚な女子高校生になっているよ」
そう言うと、男はニヤリと笑い、装置のスイッチを押した。
「やめろ〜〜〜〜!!」
鳥山の悲痛な叫びが響いた。


『プシュ〜〜〜ッ』
金属製の扉が開いた。
その中から、白く細い腕が伸びて手すりを掴み、中から黒く艶やかなボブカットの髪を揺らしながら、セーラー服姿の美少女が出てきた。
「鳥山・・・」
さっき抱きついてきた、ショートカットの髪の少女が目に涙を浮かべながら、こちらを見つめている。
「・・・大沢だったのね・・・」
男言葉を喋ろうとしても、口から出てこない。
自分の体を見下ろす鳥山。
鍛え上げられた筋肉はどこにもない。
暑い胸板は消えうせ、代わりに女性のバストが、かつての筋肉と同じようなボリュームで、自己主張をしている。
投げ飛ばせば折れてしまいそうなウエスト、大きくボリュームのあるヒップ。間違えても人を投げ飛ばしたり、蹴ったりすることができないような、細い腕と足。
今の鳥山は、女子高校生に変貌してしまっていた。
突然、誰かが鳥山に抱きついた。
「なにをするの?」
振り返ると、清水が微笑みを浮かべながら鳥山の細い腕を掴んでいる。
「すっかり可愛い女の子になったわねえ」
清水が鳥山の生まれたばかりの胸を掴んだ。
「これからたっぷり、今までのお返しをしてあげるからね!」
凍りついた表情で、清水を見つめる鳥山。



三人の男女が、黒塗りのハイヤーに乗っていた。
「しかし、こんな“仕分け”をしてよいのでしょうか?」
一人の男が、上目づかいに女を見つめている。
「当り前でしょう・・・せっかく政権を取ったのだから、“国民にアピール”しないと・・・」
「しかし、なぜこんな“仕分け”を・・・」
「うん・・・?」
女はちょっと首を傾げた。 やがてニッコリ微笑むと、
「相手は、私たちに文句は言えないし、何よりも相手をやりこめるのって・・・かっこいいじゃない!」




仕分け人
(おわり)



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この作品に登場をする団体・個人は、現実に存在をするものとは一切関係のないことをお断りしておきます。

2010年1月 逃げ馬














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