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[30379] My Grandmother's Clock [デバイス物語・空白期]
Name: イル=ド=ガリア◆9d8bc644 ID:ee4ccd9f
Date: 2011/11/03 02:18
初めての方もそうでない方もこんにちわ、イル=ド=ガリアです。

 この作品はリリカルなのはの再構成、オリジナルキャラが主役級の働きをします。独自設定や独自解釈、また一部の原作キャラの性格改変がありますので、そういった展開が嫌いな方は読まれないほうが、いいかも知れません。

 ここの掲示板にある【完結】He is a liar device [デバイス物語・無印編]はこの話の無印編で、
 【完結】Die Geschichte von Seelen der Wolken[デバイス物語 A'S編]がA'S編となっており、本作は空白期にあたります。
 あと、A'S編の過去編が、【完結】夜天の物語 ~雲は果てなき夜天の魂~ [デバイス物語 過去編]として別スレにあります。

 また、本作品(無印、A'S、過去編含む)ではロードス島戦記のソードワールドノベルや、ワイルドアームズシリーズなどの設定や固有名詞を一部引用しています。そして、

    Dies iraeをはじめとした正田作品
    Liar Softのスチームパンクシリーズ
    からくりサーカス

 などの作品からもネタや設定を一部引用しており、そういったものが苦手な方は、お読みになられない方がいいと思います。


2011  11/3

 現在、完結編にあたるStSのプロットを練っており、原作においても無印、A'Sに比べてStSは異なる作風となっているので、混同しないように設定を基礎から組み上げ直しております。
 その一環として、StSの原作キャラの雰囲気をつかむために、ある意味で『習作』となるオリキャラを含めないStSのみの再構成作品を別に書いており、それが出来たらもう一つ、今度はオリキャラを混ぜて異なる形での『機動六課』を描いてみようと考えています。
 なので、リリカルなのはStrikerSを題材に、ssを書く上での、私の中での『土台』を組み上げるのと並行して、空白期を執筆する予定となるため、更新速度が遅くなると思います。手間はかかりますが、“デバイス物語”の完結編なので、StSで主題にすべきことは絞り込みたいと考えています。



 週に一回程度の更新か、もしくはもう少し遅くなると思いますが、読んでくださる方がいらっしゃれば、どうかよろしくお願いします。



[30379] 第一話   陸士訓練校と恐怖の機械
Name: イル=ド=ガリア◆9d8bc644 ID:ee4ccd9f
Date: 2011/11/03 02:32
My Grandmother's Clock


第一話   陸士訓練校と恐怖の機械




新歴66年 6月1日  ミッドチルダ中北部  クラナガン近郊  第四陸士訓練校  AM8:00



 「フェイトちゃーんっ」

 「あ、なのはっ」

 クラナガンを走るリニアレールから駅に降り立ち、第四陸士訓練校に向かう道において。

 入学生にしては幼い少女二人の姿があった。


 「おはよう、フェイトちゃん」

 「うん、おはよう、なのは」

 「いよいよ入学式だね、2か月前に進級したばかりだから、ちょっと変な感じだけど」

 クラナガンにおいては、12歳で中等学校に入学するコースが最も多く、異世界からの転入組や、異なる文化背景の出身者でもない限りは陸士学校には12~14歳で入学するのが一般的。

 現在、実家が第97管理外世界にあり、そちらの小学校にも籍を置く二人は間違いなく異世界組であり、特殊な入学経緯であることは事実であった。


 「あ、でも、私が修業資格を取った時もこんな感じだったかも」

 「そっか、ミッドチルダ育ちのフェイトちゃんは保護者の同意と、適格性が認められれば、8歳で資格とれるんだもんね」

 それはつまり、貧しい家庭が幼子を奉公に出すようなことがないための処置。

 プレシア・テスタロッサがそうであったように、親権が確立されており、子供に何かがあっても親の力ですぐに救済できる状況が整っており、その書類申請が認められて初めて10歳未満の就業許可は得られる。

 つまるところ、フェイトがジュエルシードを求めて駆けまわれた経緯には、彼女の個人能力よりも、時の庭園の経済力と管制機の根回し能力こそが重要であったりした。


 「はやての誕生日が6月4日で、10歳になるから、書類が送られる時間ロスを考えれば、ちょうどいい感じかな」

 正式に管理局で働き始める以上、給金が出るのは当然の話。

 とはいえ、海鳴の小学校との両立であるため、管理局員としてのIDこそ持つが、彼女の給金は現状において、普通に勤める場合の3分の1程度だったりする。

 これもまた、後見人の場合を含めた各家庭の経済状況を考慮して設定されるもので、大学などの授業料免除のシステムに近いものがある。


 「うーん、わたしも一応は働いてることになるんだけど、あまり実感わかないなあ」

 「正直、私も嘱託魔導師との違いがあんまりピンとこないんだ。一応、説明は受けたけどどうしても実感が………」

 「クロノ君やエイミィさんは、働いてる、って感じなんだけど………」

 「私達は、勉強させてもらってる、って感じだものね」

 未だ親や後見人の保護下にある子達に下手に大金を渡せば気後れしてしまうことや、“管理局の役に立たねばならない”という固定観念を植え付けてしまいかねないこと。

 それらを考慮し、およそ65年の時を経て、管理局において子供の局員は“いつ辞めてもOKな派遣局員”的な雰囲気が醸成されつつあった。

 特に、なのは、フェイト、はやてはアースラと縁が深かったためか、お手伝い感覚がなかなか抜けきらない。


 「そう考えると、去年のクリスマスからは、何だかあっという間だったなあ」

 「そうだね、小学校と、お仕事と、局の技能研修と、資格試験、色々忙しいしね」

 そういった経緯があり、今は共に10歳であるなのはとフェイトは、陸士訓練校で短期間とはいえ、カリキュラムを受ける。

 ここは1年間で陸士として育ち、現場で働くようになる候補生の学ぶ場所。

 夢を追う者もいれば、単純に就職条件が良いので選んだ者、魔法適性があったので深く考えず取りあえず入学した者も当然いる。

 彼らと触れ合い、自分達とほぼ同じ立場の“候補生”が何を思いどのように過ごしているか。


 「うん、でも、なんだか楽しいよ、こっちでもあっちでも、フェイトちゃんと一緒なのも嬉しいな」

 「私も、なのはと一緒だと、嬉しいよ」

 それを実感することが、管理局員として働くための最後の研修であった。






同刻  ミッドチルダ南部  アルトセイム地方  時の庭園


 『バルディッシュ、フェイトお嬢様の様子は如何です?』

 【落ち着いておられます】

 『ふむ、三か月の短期間、それも極めて特殊なカリキュラムとはいえ、親しい人達の下を離れての新たな寮生活に多少は気遅れされるかと考察しましたが、杞憂でしたか』

 【御友人の、高町なのは様の影響かと】

 『それはそうでしょうし、むしろ、それ以外の可能性が考えられません』

 武装隊第四陸士訓練校の入学式に臨もうとしているフェイトの隣には、レイジングハートを携えた高町なのはの姿がある。

 その状況は、“閃光の戦斧”バルディッシュから時の庭園の管制機までリアルタイムで送信されており、プライバシーも何もあったものではないが、彼らは人間ではないので問題ない。

 仮に問題を提起した所で、トールの持ち主は常にプレシア・テスタロッサであり、その機能は娘の携帯電話にGPSを付ける程度のものでしかないため、訴えることに意味はなかったりする。


 『第四陸士訓練校の学長、ファーン・コラード三佐は有名な方ですし、彼女の夫もまた、シルビア・マシンを使って下さった方です。何も心配はいらないでしょう』

 【その縁があったからこそ、貴方は我が主に第四陸士訓練校を勧められたのですね、トール】

 『まあ、そうなりますかね。彼女らの場合は地理的条件がミッドチルダの全寮制の学校ならばどこであろうと変わりませんから』

 ならば、人格データベースに情報が蓄積されている人物が学長を務める場所を選ぶのも、至極当然の話。

 提案はトールであり、リンディとクロノの了解を受け、二人は第四陸士訓練校へとやってきた次第。


 『それに、コラード三佐ならば、お二方の癖を矯正してくださるでしょう』

 【癖とは?】

 『“初見殺され”の特性です。相手に遠慮しすぎるか、全力全開かのデジタル的な戦力配分はそろそろ直さねばなりません。3か月の短期講習を終えれば、名実ともに管理局員となるわけですから』

 【確かに】

 『デジタルは我々デバイスの独壇場なのですから、人間である彼女らにはアナログ的な運用を身につけてもらいたいところなのですが』

 【マイスター・リニスの教育内容に誤りがあった、ということでしょうか?】

 『貴方は、そう考えますか?』

 【いいえ、しかし、厳密に否定できる材料に確信がありません】

 フェイトが幼い頃から共に在り、彼女への魔法教育を知るバルディッシュの考えるところでは、特に問題はなかった。

 しかし、実際にフェイトは初めての相手と戦う際に、遠慮し過ぎるか全力全開かの極端な性質を持ちつつある。


 『解は実に単純です。フェイトお嬢様と高町なのは様の共通項を比較すれば、自然と答えは出ましょう』

 【………あの特性は、魔法教育の積み重ねによって身についたものではなく、実戦によって身についたもの、と考えるべきでしょうか】

 『然り、二人の魔法教育には共通点はさほどありません。フェイトお嬢様にはリニスがつきっきりで教育にあたっていましたが、高町なのは様は、ユーノ・スクライア様を魔法の師としています』

 常に実演の形を取り、フォトンランサーやプラズマランサーなども、手取り足とり教えていたリニス。

 砲撃魔導師と結界魔導師と、完全にタイプが異なったため、魔法を組む際のイメージの固め方など、助言に徹することが多かったユーノ。


 【ですが、お二人が同じ特性を有しているならば】

 『互いに影響しあうことでついた癖、と考えられます』

 きっかけは、ジュエルシード。

 願いを叶える宝石を巡って二人は何度もぶつかり、その中で絆を育んだから。

 彼女らにとっての“魔法戦”の根源がそこにあり、だからこそ、相手を気遣い過ぎるか、全力全開かの両極端になるのであった。


 『もっとも、現在においては、クロノ・ハラオウン執務官がお二方の共通の師と言えますが、こちらは魔法の師というよりも、集団戦や戦術の師という方が正しい』

 【確かに、彼では矯正役には不向きかと】

 クロノは、ジュエルシード事件に縁があり過ぎる。

 彼との模擬戦では、ほぼ無意識のうちに“出会いの戦い”がイメージされるため、矯正の効果は見込めない。


 『ヴォルケンリッターの方々の場合、全力で挑んだ結果、敗北となりましたので、余計駄目です』

 【面目ありません】

 こっちの場合、ボロ負けの記憶か、鍋を理由にすっぽかされた記憶か、サゾドマ虫の記憶が浮かんでくるため、論外。

 思い返せば思い返す程、碌なことがなかったヴォルケンリッターとの戦いであった。


 『そういった経緯で、クイント・ナカジマ准陸尉にお願いしたこともあり、かなり良い結果は得られたのですが、彼女も多忙であるため、機会が少な過ぎました』

 【ですが、ゼスト・グランガイツ一等陸尉では、やはり無理ですね】

 ゼストの場合、全力全開で戦い、常にボロ負け。

 “初見殺され”どころか、“何回やっても倒せない”なので、これまた論外。


 『だからこその、ファーン・コラード三佐です。彼女の魔導師ランクはAA、しかし、現状のお二方に勝利することが出来る。そこにあるものを学びとれれば、更なる飛躍が望めましょう』

 【全力で、我が主をお支えします】

 『お願いしますよ、バルディッシュ。私は時の庭園から動けませんが、可能な限りサポート致しましょう』

 とまあ、デバイスの間でそんな会話もあり。

 レイジングハートとの間にも同様の会話が成され、なのはとフェイトは陸士学校で短期プログラムを開始した。

 結果―――





新歴66年 6月4日  ミッドチルダ中北部  クラナガン近郊  陸士候補生女子寮  PM6:07


 「ごめんなさい……生まれてきてごめんなさい……」

 「どうして、どうして生まれてきちゃったんだろう、わたし……」

 宛がわれた二人部屋に、2つのす巻きが転がっていた。

 毎度お馴染み、“なのは巻き”と“フェイト巻き”である。

 これらが発生するに至った理由は至極単純、ファーン・コラード校長に特別に模擬戦を行ってもらい、見事に完敗したためであった。

 レイジングハートとバルディッシュは必死に励まそうとしたが、ダウナーモードの二人には効果なし。

 かといって、クロノやリンディが近くにいるわけでもなく、頼れる人物もいないため、やはり―――


 『いかがすればよろしいでしょうか?』

 【やはり、こうなりましたか】

 時の庭園の老デバイスに、通信を開いた次第であった。


 『八神家にも相談に伺ったのですが、あいにくとリインフォース以外が留守でして』

 【確か、密猟犯の出現とその逮捕に出動なされていましたね。八神はやて様も小学4年生の身で、苦労をなされます】

 今は6月であり、小学校は夏休みではない。

 3か月の講習のうち、半分近くは夏休みに入り、その辺りは集中的にカリキュラムが詰まっているが、それまでの一ヶ月半は小学校の方は“休学”に近い扱いとなる。

 当然のごとく、その辺りの社会的な手続きはジュエルシード事件からおよそ1年を経て、いつの間にか管理外世界にまで網を伸ばしていた管制機の担当。

 簡単に言えば、1ヶ月半程海外で留学、というよりも国際的なボランティアスクールに行ってきます、という感じで捏造と賄賂を駆使したわけであるが、灰色の部分についてはお察しいただきたい。

 なお、リンディやクロノにとっては、その辺の面倒な手続きを全部管制機がやってくれるので、大助かりだったりするらしい。


 『学業の方は問題ないと窺っていますが』

 【それはそうでしょう、およそ小学生にとって重要なものは学力よりも、コミュニケーション能力。つまりは、社会で生きるということの処世術を学ぶことにあります】

 その点では、3か月間を陸士訓練校で過ごすことは、大きなプラスであろうとトールは予想する。

 実際、ミッドチルダの訓練校での短期講習は、短期の海外留学、もしくはホームスティと大差ないのだから。


 『しかし、この場合はどうすればよいのか………』

 【“なのは巻き”と“フェイト巻き”への対処に関しては、まだ貴方とレイジングハートの手に余りますか】

 『申し訳ありません』

 【いいえ、そう焦ることはありませんよ。お二方と同様、貴方達もゆっくりと成長してゆけばよいのです】

 『ですが、まずは対処をせねば』

 【それについてはご安心を、既に手は打ってあります】

 その瞬間―――


 ガチャン


 「―――――ッ!?」
 「ま、まさか………?」

 陸士訓練校の女子寮の部屋に。

 響き渡るはずのない、異音が…………



 『トール、私はデバイスに過ぎぬ身なのですが、なぜか“嫌な予感”という境地に至れるのではないかと』

 【素晴らしいですよバルディッシュ。私がその境地に至れたのは、稼働し始めてよりおよそ42年、リニスが私のための処刑場を築き上げてよりのことですから】


 ガチャン、ガチャン

 音は、徐々に大きくなっていく………


 『一つ、質問をよろしいでしょうか』

 【なんなりと】

 『感謝します。我が主と高町なのは様がいらっしゃるこの部屋は、陸士訓練校の女子寮の一室であると記録しております』

 【間違いありません】

 『二人部屋であり、二段ベッドが一つ、広さもおよそ8畳程と、一般的な陸士候補生が入る部屋と変わりないはずで、当然、室内にシャワー室なるものは付いておらず、各階に共同のシャワー室があったと』

 【その通りです。ただし、東棟の3階の端にあり、女性教職員棟に続く渡り廊下に面している、という地理条件を有します】

 『それは存じておりますが』

 【加え、近年ではミッドチルダの治安が良くなり、地上局員への待遇も良くなったこともあり、訓練校に入る生徒も増えつつあります。よって、使用頻度が少ない教職員用の浴場を生徒も使えるように、という案が浮上しております】

 『それは存じませんでした』

 というか、一般生徒が知る筈もない事柄だった。


 【ですので、現在空いていることが多い教職員用の浴場の一角に、“あるもの”が待機しております】


 ガチャン、ガチャン、ガチャン


 一般生徒である筈の一室へ、何かが歩くような音が近づいて来る………


 「気のせい、気のせい、だよね、フェイトちゃん………」
 「なのは、なのはぁ………」

 なのはの顔は青ざめ、フェイトに至っては最早半泣きであった。



 【そしてもう一つ、厳しい内容の訓練に疲れ果て、シャワーを浴びる気力もないまま眠ってしまう訓練生も初期の頃にはよく見られ、疲労回復の面や、筋肉の成長の面からも、これは好ましいことではありません】

 『訓練の後は、湯で身体をほぐし、しっかりと休息をとるべき、ということですね』

 【然り、ですが各部屋にシャワー室があるわけではなく、共同のシャワールームを使うかどうかは個人の意志ですし、わざわざ教師が入浴の世話をするわけにもいきません】

 『二人部屋は、一人で眠ってしまうことを防ぐための処置ですね』

 【然り、一人では億劫になる事柄も、二人でいればやらねばならないという意思が沸き立ちやすい、そうです。我々デバイスには馴染みはありませんが、つまりはそういうものらしい】

 『しかし、二人して動く気力がない場合もあり得る』

 【その通り、ちょうど、現在のフェイトお嬢様と高町なのは様がそれに当てはまります。故に、それを解消するための“試作品”を時の庭園より陸士訓練校へ提供したのです】

 『すなわち、それは』

 【自動洗浄マシーンです】



 ガチャン、ガチャン、ガチャン


 そして、どういうわけか扉が開き。


 『洗浄シマス、洗浄シマス』

 なのはとフェイトにとっては、恐怖の記憶が呼び起こされ。


 『対象ヲ中ヘ格納シテクダサイ』

 なのはは逃げ出した!

 フェイトは逃げ出した!

 なのは巻きとフェイト巻きは光の速さで解除され、布団を巻いていたバインドなどは初めから存在しなかった如くに消え去っていた。。


 「逃げよう! フェイトちゃん!」
 「うん! なのは!」

 さらに、マッハに迫る程の速度でシャワールームに向かう準備を済ませ、早歩きの限界に挑むが如くに、部屋から去っていった。


 『……………』(バル)
 『……………』(レイハ)


 長く、大いなる沈黙の後。


 ガチャン、ガチャン、ガチャン


 何事もなかったかの如く、洗浄マシーンもまた、いずこかへ去っていった。


 【とまあ、このように、体力、及び気力の限界でシャワーを浴びることのできない訓練生を奮い立たせる起爆剤として、有用性が期待されています】

 『ひょっとして、既に犠牲者が?』

 【ええ、第一から第四までの各訓練校において、初日に訓練で足腰の立たなくなった者達、合計32人が餌食となっております。皆、疲れを癒し、身体的にはリラックス状態を取り戻しました、精神状態については保障できませんが】

 『何と哀れな………』

 『同感です……』

 同情という境地に至った、レイジングハートとバルディッシュ。

 デバイス達の人間心理学習も、着々と進んでいる模様である。


 【ただ、中には強者もおりました。第二陸士訓練校のヴァイス・グランセニック陸士候補生は、あえて洗浄マシーンを体験し、“詳しい感想を書きたいので参考に”という理由で借り出し、自前のバイクの洗浄に利用したそうです】

 この洗浄マシーンは、本来バイク用の洗浄機を改造したもの。

 故に、バイクを洗浄するのに適しているのは、自明の理であった。


 『何という………』

 『凄まじい男でしょうか………』

 【これも何かの縁ですので、彼には新型洗浄マシーンのモニターをお願いしようかと考えています。見返りに、試作品を提供するという条件で】

 これが、ヴァイス・グランセニックという男と、はやてを中心に機動六課にまで発展する人の輪、通称“ヤガミファミリーズ”との関係の始まりとなるのを、なのはとフェイトが知る由もない。

 サゾドマ虫が繋ぐ、人の絆があるように。

 洗浄マシーンが繋ぐ、人の絆もまた、ここにあった。


 ミッドチルダは今日も平和な模様。






ミッドチルダ  某所


 「ふむ、こんなものかな」

 ラボ内のとある場所にて、一人のマッドサイエンティストが、知り合いから送られてきた“コミュニケーション促進マシーン”をいじくっていた。


 「ドクター、そんなところで何をなさっているのですか?」

 そこに通りかかったのは、彼の半身でもある美人秘書のウーノさん。

 とあるモードに入っている時は、得体の知れない高次元の存在と化すこともある彼女だが、普段においては狂科学者な主の奇行に頭を悩ます苦労人である。


 「なに、友人から贈り物が届いてね。かつてのレリックや素体人形の礼ということなんだが、これがなかなかどうして素晴らしい」

 実に爽やかな笑顔を浮かべつつ、“贈り物”と肩を組むように立つ白衣の男。

 どう好意的に見ても、シュールな絵でしかなかった。


 「それの用途は、一体何なのでしょうか?」

 「せっかく集団洗浄のための温水洗浄施設を整えたのだが、コミュニケーションの場としてあまり使用されていないのは、君も知っているだろう、ウーノ」

 「はい」

 現在稼働中のナンバーズは、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロ、チンク、セイン、ディエチの7人。

 そのうちドゥーエは既に出張任務についているため、6人がラボ内で生活していることになるが、集団洗浄の機会はあまりなく、空いた時間に個々人がシャワーを浴びることの方が多かった。


 「というわけでだ、娘達が仲良く温水洗浄施設を使用できるよう、コミュニケーションを深める機能を追加して改造してみた」

 「改造、ですか」

 デバイスと異なり、既に14年近く前から“嫌な予感”というスキルを発達させてきたウーノの直感が告げていた。

 これは、危険なものであると。


 「既に必要なプログラムは搭載してある、後はスイッチさえ入れれば必要な動作を開始するだろう、というわけで、スイッチオン」


 ガチャン、ガチャン、ガチャン


 最初は、複数の足で大きな音を立てながら歩き始めた謎の機械。

 しかし―――


 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!


 変態博士が組んだプログラムによるものか、あっという間に速く走るための学習を行い、凄まじい速度で駆けだしていった。


 「……………」

 恐らく、これより災厄に見舞われるであろう妹達へ、心の中で十字を切った(聖王教会式の祈り)後、ウーノは自室へと向かった。

 念のため、IS“フローレスセレクタリー”を発動させ、ラボの様子を観察しつつ、いざとなれば謎の機械の管制機能を奪う準備を進めながら。




 5分後

 「ん、何の音だ?」

 ナンバーズの中でも小柄な少女、No.5チンクさんが歩いていると。


 『洗浄シマス、洗浄シマス』

 ラボの廊下に、少女の悲鳴が、響き渡った。




 20分後

 「あれ、チンク姉、どうしたの?」

 「ディエチ…………次からは一緒に洗浄に行こう…………」

 「? 別にいいけど」




 別の場所にて

 「あれ、何だろあの機械?」

 水色の髪を持ったムードメーカー、No.6セインさんが、初めて目にする妙な機械を発見。


 『洗浄シマス、洗浄シマス』

 新たな犠牲者の悲鳴が、高らかに響いた。




 さらに30分後

 「ねえ、クア姉、次からは一緒に洗浄にいかない?」

 「何馬鹿なこと言ってるのかしら、私はこれでも忙しいの、お子様に構ってる暇はないのよ」

 「…………ふ、くくくく…………地獄を知るがいい……………」

 「? なんか言った?」

 「いや、何も、変なこと言ってごめんね、クア姉」


 ややあって………


 『洗浄シマス、洗浄シマス』

 お察し下さい。




 そのさらに1時間後

 「ディエチちゃん、次からは一緒に洗浄に行きましょう………」

 「い、いいけど、何でクアットロまで……」

 「世の中には、知らない方がいいこともあるのよ………」

 悟りを開いたような表情のクアットロがそこにおり、後ろではチンクとセインが「うんうん」と頷いていた。



 次の日には、姉妹皆で仲良く入浴するナンバーズの姿があったそうな。



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