『声 優 論』 第一部 |
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「声優の仕事」 (イ)発生から現在まで。 大正14年(1925年)にNHK(日本放送協会)のラジオ放送が始まり、ラジオ・ドラマが初めて制作された。 出演者は歌舞伎・新派・新劇等の舞台俳優や映画俳優であった。ラジオドラマの人気が高まり、制作本数も増えてくると、次第に専門の声優が必要とされてきた。 そして、昭和16年(1941)年6月、NHK東京放送劇団が設立され、プロフェッショナルな声優が誕生した。 第二次世界大戦が終結すると、ラジオ・ドラマは映画と並ぶ庶民の娯楽として定着し、数多くの名作と呼ばれる作品も生まれた。声優という職業が社会的にも芸術的にも確立したのはこの時期である。 さらに昭和20年代半ばから、全国の民間放送のラジオ局が次々に発足し、各局のスタジオやロビーには俳優たちがひしめき華やかな光景を繰り広げていた。ラジオ黄金時代の到来であり、TBSも専属の放送劇団(ラジオ東京放送劇団)を作った。地方の大きな局もこれに倣った。 昭和28年(1953年)、NHKと日本テレビがテレビ放送を始めると、他のテレビ会社も昭和30年代半ばまでには次々と開局、番組の制作競争、スポンサーの獲得競争に乗り出した。 その渦の中に、アメリカのテレビ映画が参入し、音声が日本語に吹き替えられて放送されるようになり、劇団やタレント・プロダクションの主として若い人たちが多数起用されるようになった。 テレビ受像器の一般家庭への普及に伴って、テレビは全盛期に向かい、劇場映画やラジオは衰退の一途をたどり始めた。やがて、ラジオ番組からラジオ・ドラマが消え、放送劇団も解散、ラジオ局は独自の存在価値を模索する時代に入った。そして、ディスクジョッキーやトークショー、ワイドショーなどが番組を埋めるようになった。パーソナリティが出現した。 テレビでは、アメリカ・テレビ映画の視聴率が驚異的な数字を示したため、各テレビ局は争って購入・放送するようになり、吹き替えの現場は活況を呈し始めた。 また民間放送では、ラジオ、テレビを問わず、コマーシャルが不可欠なため、それに声を入れる声優の仕事も忙しくなってきた。主にこれらの声の仕事で生活する人々も増え、そういう声優集団も生まれてきた。 昭和30年代半ば頃から放送され始めた国産のアニメ番組は、着実に子供達の人気を集め、やがて、爆発的なアニメ・ブームを巻き起こす(バブル経済絶頂の頃には、毎週50シリーズものアニメ作品が制作・放送され、声優、特に若い人たちは引っ張りだこの忙しさだった)。 また、テレビの番組内容も質的な成長を遂げつつ分化して、ニュース、ドラマ、映画、クイズ、スポーツ等のほか、報道物、記録物、紀行物等と多様化し、それぞれの特徴を打ち出し始めた。この中でナレーターを必要とする番組では、局アナのみに頼らず、番組の個性にあった声優や俳優を起用するようになった。 声優の仕事は、他にも記録映画・PR映画や、企業用・教育用その他のパッケージ・ビデオのナレーションやゲーム・ソフトやカセット・ブックの声の入れ込みがある。また、例えばディズニー・ランドの場内アナウンスも声優が務めているように、色々なイベント等にまで活躍の場は広がった。 外国映画の吹き替えの仕事も、テレビ放送用映画のみにとどまらず、日本航空・全日空他の長距離フライトの機内上映用映画から、販売・レンタル用映画のパッケージ・ビデオにまで及んできた。 テレビ放送も衛星やケーブルが加わり、番組数は増加したが、今のところ、衛星放送の外国映画は字幕の作品が多く、ケーブル・テレビでは再放送物が多い。やがて、衛星やケーブルの契約者数が増えれば、吹き替えの仕事も増えるはずである。アニメでは初めから、ビデオ用として企画・制作される作品も出てきた。 このように声優の仕事の場は時と共に増え続けてきたが、バブル崩壊後の不況の影響で、今はだいぶ冷え込んできている。 かつてのような忙しさは当分の間見込めないだろうし、競争は今後ますます激しくなると思われる。 将来、この世界で活躍するつもりの者は、一刻も早く実力をつけて現場に出て、競争に加わる必要がある。 (ロ)アニメーション映画と外国映画。 アニメと外国語映画の吹き込み録音は、作業システムとしてはよく似ている。 アニメの場合、役柄や筋の運びを単純化してあるから、役の性格や行動は掴みやすいが、誇張やデフォルメーション(変形)が必要とされたり、時によって、独自のギャグやアドリブを要求される場合がある。やさしそうでいて実に難しいのがアニメである。演技の基本ができていなければ、リアリティ(現実感・実在感)は出ず、空疎で安っぽい、馬鹿馬鹿しいだけの仕上がりになってしまう。 これは外国語映画の吹き替え演技についても言えることだが、画面上の人物を、その映像の流れに沿って的確につかみ、その人物に成りきって声の演技をするには、「俳優の仕事」を基礎からしっかりと身につけていなければ、演じられるものではない。 (ハ)声優の仕事の習得。 前項でも触れたが、声優の仕事、特に台詞が主役となる外国映画やアニメの声の吹き込みや、ラジオ・ドラマの録音は、あくまで「俳優の仕事」の一部である。 社会の発展、科学技術の発達に伴い、マス・メディアは進化し多様化した。 声の仕事も増えて、声優という職業が確立した。ナレーションの巧みな人もいるし、CMの声で売れている人もいる。こういった技術も確かに必要だが、声優の仕事の本質は、台詞を喋ることであり、それはまさに俳優の仕事なのだ。 つまり、優れた俳優が優れた声優に成り得るのである。俳優から派生した声優の技術の基本は俳優術にほかならない。 俳優術を大別すると「身振り表情術」と「物言う術」に分類される。だが、これも、便宜的な分け方であって、実際にはこの二つは連動する。頭や心の中から出てきたものが、身体に伝わって、動き(身振り)となり、声になって台詞となる。 声優の教育は当然台詞に重きが置かれるが、動きも絶対におろそかには出来ない。声優の仕事は声だけだから俳優より楽だと考えるのは大間違いなのだ。 まず、学ばなければならないのは俳優術の基礎である。建築物と同じで、基礎がしっかりしていなければ大成はしない。 本来は、連日6時間(8時間)で2年程の訓練が必要とされているが、今は時間的な余裕がない。よほど覚悟を決めてかからなければ何も得られないだろう。 教室での授業以外の時間を、自主的にかつ有効に活用するかしないかが、極めて重要な意味を持つ。自己訓練で絶えず自分を啓発し、変革改造していかなければ、プロにはなれないだろう。学校は学ぶ方法と方向を教える所であり、あくまで自主トレーニングが基本なのだ。 声優の仕事を習得するためには、過酷なまでの訓練を自分自身に課し、他の人の二倍も三倍もの努力を続ける以外にはない。それが唯一の道なのだ。 |