東京電力福島第1原発の事故で放射線量が局地的に高くなった「特定避難勧奨地点」の指定基準を巡り、住民が不満を募らせている。福島県南相馬市などが子供や妊婦のいる世帯に特別の基準を設けたのに対し、福島市にはそうした基準がなく、指定が見送られたためだ。南相馬市の基準を当てはめると福島市では少なくとも300を超える世帯が指定の検討対象になる。指定を受けていない地区からは「どこに住もうと同じ子供なのに、基準に差があるのはおかしい」という批判の声が上がっている。
特定避難勧奨地点は、国が市町村と協議して世帯ごとに指定し、避難すれば賠償される。年間被ばく量が20ミリシーベルトを超える可能性がある世帯が対象で、国は「高さ1メートルで毎時3.1マイクロシーベルト」前後を指定の一般基準としている(数値は時期によって変動)。
最初に指定されたのは伊達市の113世帯。同市は、国の一般基準に該当する32世帯のほか、その近隣で妊婦や中学生以下の子供がいる81世帯も指定対象に加えた。
南相馬市は、18歳以下と妊婦を対象に「高さ50センチで毎時2.0マイクロシーベルト以上」という独自の基準を設定。これまでに指定された131世帯のうち8割に当たる106世帯はこの基準で選ばれた。
子供や妊婦は放射線に対する感受性が高く、内閣府原子力安全委員会は「配慮が必要」との立場をとる。両市が独自の基準を設けたのも、こうした見解を考慮したためだ。
一方、福島市は、放射線量が比較的高い大波、渡利など4地区で特定避難勧奨地点の指定を検討してきた。2世帯が国の一般基準に達していたが、「いずれも地区の隅にある」などの理由で指定は見送られる見通しだ。
だが国が試算したところ、4地区のうち除染が始まった大波を除く3地区に南相馬市の指定基準を当てはめた場合、309世帯が基準に達したという。福島市は「高線量世帯を除染して線量が下がらなければ改めて指定を検討する」と説明し、子供や妊婦を考慮した基準を設定する予定はない。ある政府関係者は「県都が指定されれば人口流出や風評被害が拡大する可能性があり、踏み切れないのではないか」とみる。
福島市渡利地区に住む40代の主婦は「他の市と指定の基準が異なるのは納得できない」と憤慨する。「いつ除染が始まるか分からず、一番弱い存在である子供たちだけでも避難させたい」と願うが、指定されなければ費用が賠償されない恐れがあり、「何の補償もない現状では経済的に難しい」と訴えた。【清水勝】
【ことば】特定避難勧奨地点
地域的な広がりはないものの、局所的に1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを超える恐れのある「ホットスポット」を対象に、世帯単位で指定される。国が一律に避難を求める警戒区域や計画的避難区域と異なり、避難の判断は住民に委ねられるが、避難を受け入れた場合には国が支援する。6月30日に福島県伊達市で初めて指定され、その後、同県南相馬市や川内村でも指定された。
毎日新聞 2011年11月4日 15時00分(最終更新 11月4日 16時17分)