全国19の政令指定都市の中で第2位の人口(267万人)を持つ大阪市が27日、「政治決戦」を迎える。大阪府知事選と同日実施される市長選だ。仕掛けたのは10月31日付で知事を辞職し、市長選に挑む橋下徹氏(42)。「二重行政」解消を狙い、府と大阪・堺の2政令市を解体して「大阪都」に作り替える構想を掲げる。一方、再選を目指す平松邦夫市長(62)は「都構想は府県集権主義」と猛烈に反発する。対決ムードが高まる中、両陣営間では批判合戦ばかりが目立つ。大阪の将来を左右する重要な選挙なのに、もっと論議を深めることが必要ではないか。
「東の東京都、西の大阪都で日本を引っ張る」
橋下氏が大阪都構想を提唱したのは昨年1月。最大の狙いは、産業振興やインフラ整備など広域行政の一本化だ。都知事一人に権限を集中することで、迅速な政策決定や統一的な経済成長戦略を打ち出せると主張する。大企業の本社が東京へ流出するなど大阪経済が衰退する中、世界の都市間競争を勝ち抜く「切り札」として提示した。
住民自治の面でのメリットも説く。大阪、堺両市の解体に伴い、市域は人口30万人規模の「特別自治区」という中核市並みの権限を持つ基礎自治体に再編する。橋下氏は大阪市役所を「基礎自治体としては大きすぎる」と批判しており、区長を選挙で選ぶ「区長公選制」を導入し、住民意思を反映させる考えだ。
ただし、構想実現には法改正が必要で、市長選に勝利しても、直ちに都ができるわけではない。識者から「特別自治区の間で財政格差が生じる」などと問題点を指摘する声も出ている。「統治機構を作り直す。これはすさまじい権力闘争だ」と語る橋下氏は、腹心の府議を擁立する知事選でも勝ち、世論をバックに国を揺さぶろうともくろむ。
これに対し、平松氏は「基礎自治体の力を強める方向に行くべきだ」と反論する。高度な行政能力を備える政令市を中心に、住民ニーズを最も把握している基礎自治体の連携を進める構想だ。例えば大阪では、病気やけがで救急車を呼ぶかどうか迷った時の電話相談窓口「救急安心センター」という行政サービスがある。当初は市消防局が市内のみで実施していたが、現在は府内の消防と連携して全域にサービスを拡大した。都市連携の好例の一つだ。
平松氏は、二重行政の問題には「話し合いで解決できることはいくらでもある」とし、府と市などによる協議機関を設置して解消に努める考えを示す。住民自治の面では、(1)市内24区で地域の代表者らで構成する「区政会議」が予算編成に関わる制度(2)各小学校区単位で担当する職員を置く地域担当制--を実現し、住民の声をくみ取るとする。
二重行政という問題は、大阪だけではなく、政令市を抱える全国14道府県に共通の課題だ。今回、大阪が論議の震源地となった背景には、大阪市の圧倒的な存在感がある。
大阪市は面積は府全体の1割に過ぎないが、府内総生産額(40.3兆円、08年度)の過半の21.6兆円を占める。東海道・山陽新幹線の全列車が停車する新大阪駅を抱えるなど交通の要衝であり、観光・ショッピングの施設も集中する。文字通り関西の中心地であるこの大都市で、都市計画など多くの権限を握るのが市役所だ。これが府庁には面白くない。府と市の歴代トップはこれまでも権限争いを繰り広げてきた。都構想も、府市確執の歴史の延長上にある。
そんな空気も反映しているからか、両氏の論争は決してかみ合っているとはいえない。むしろ互いの批判・中傷合戦ばかりが目立つ。
たとえば橋下氏は「平松市長が再選すれば日本の不幸」(9月15日の集会)、「自らのバカげた幻想を何も理解していない」(9月24日のツイッター)、「何を言っているか分からない」(10月25日のラジオ番組)とこき下ろす。公人の発言としては違和感を覚えるほど攻撃的だ。
一方の平松氏は「大阪を独裁から守る」(10月29日の集会)などと橋下氏の政治手法批判を訴えの中心に据え、都市制度論を語ることは皆無に近い。「制度論は国次第だから」という理由だが、これでは同氏が考える大阪の将来構想が有権者に見えにくい。
社会構造が変化する中で、大都市のあり方を巡る議論は大阪だけの問題ではない。せっかく有権者に都市問題を考えてもらう貴重な機会なのに、選挙の勝敗を意識した互いの「ネガティブキャンペーン」ばかりでは、あまりにも非生産的だ。大阪の将来像について正々堂々と論争してもらいたい。(大阪社会部)
毎日新聞 2011年11月3日 0時20分