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「えびす」食中毒:補償進まず…年内にも「被害者の会」

 死者5人、患者170人以上を出した焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」をめぐる集団食中毒事件で、遺族や患者家族らが「被害者の会」を年内にも結成する方針を固めた。連携して賠償交渉を行うほか、再発防止に向けて食の安全を高める活動などをする予定。事件は、富山県警などの合同捜査本部が業務上過失致死傷容疑で強制捜査に入って6日で半年になる。だが食中毒の原因となった病原性大腸菌の発生源特定は難しく、捜査は難航している。チェーン店の運営会社も既に解散して治療費などが補償される見通しも立っておらず、被害者の不安は高まっている。

 会結成を目指しているのは、妻と子ども2人が入院した富山県高岡市の建設会社経営、矢嶋真志(まさゆき)さん(32)ら。既に複数の遺族や患者家族と連絡を取っており、県や県弁護士会を通じて他の遺族や患者の参加も呼びかけたいとしている。

 妻と義母を亡くした男性(48)は「生肉の規制を徹底していなかった国や県にも責任がある。裁判をしてでもそれをはっきりさせたい」と語った。別の遺族男性(49)は「会に参加するかどうかはまだ決められない」としながらも、「横の連携がほしいというのは被害者共通の思い」と複雑な心境を打ち明けた。

 捜査本部は、菌の発生源を特定するため、店や納入業者に残っていたユッケ肉を押収。関係者から事情を聴いている。しかし、店のユッケ用マニュアルや納入業者は約2年前から変わっていないのに、なぜ今回だけ食中毒が発生したのか不明のままだ。このメカニズムの解明は責任者の特定に欠かせないが、難航している。捜査幹部は事件を交通事故に例え、「同じ遺伝子型の菌が被害者と横浜市内の店にあった肉から検出され、人をはねた車は見つかった。しかし、菌にはへこみもブレーキ痕もなく、事故当時の運転状況を特定できない」と、捜査の長期化を示唆した。

 運営会社のフーズ・フォーラス(金沢市)は7月に解散した。同社の清算人は5億円以上が見込まれる被害者への補償を優先するとし、銀行などに債権放棄を要請しているが厳しい見通しだ。債務超過となる可能性が高く、年明けにも金沢地裁に特別清算を申し立てる方針だ。1000万円近い治療費を抱える遺族男性は「同社から連絡は何もない。暗いトンネルの中に閉じこめられている感じだ」と顔を曇らせた。【宮本翔平、大森治幸】

毎日新聞 2011年11月4日 2時30分

 

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