本当に大事なもの − アスレティック・ビルバオ入団条件 −
*この記事の「1〜3の条件」は、以前、footballistaという雑誌に掲載された現地取材の記事の情報を基に
しています。
その他については、個人的な考察です。
下にも書きましたが、解釈の問題もあるのでここに書いたことが必ずしも全て正しいとは言い切れません。
●「バスク人」とは?
ご存知の通り、アスレティック・ビルバオはバスク人選手しか入団できません。
それでは、この場合の「バスク人」とはどういう人ですか?
おそらく多くの人が、バスク人の家系に生まれた「血統的なバスク人」を考えると思います。
勿論、それは正しいのですが、決してそれだけが「バスク人」ではありません。
現在の「バスク人」の定義は
1 − 親がバスク人であること
2 − バスク地方(ビスカヤ、ギプスコア、アラバ、ナバーラ、フランスバスク)生まれであること
3 − 幼少期にバスク地方に移住し、ユース以下の年代でバスクのクラブでプレーしていること
この1〜3の条件のうち、いずれかを満たせば「バスク人」です。
例えば、06年夏に、「アスレティック入りか」という噂があった、バスク系選手のゴンサロ・イグアイン。
当時、「アルゼンチン国籍のイグアインが入団できるわけが無い」と言う人がいました。
全くの間違いではありませんが、彼はあくまで上記の条件を満たさないので入団できなかっただけです。
ここでまず言っておかなければならないのは、未だに国籍云々を言う人がいますが、
アスレティック入団に際し、国籍はあまり関係が無いということです。
1を満たして海外で生まれ育った選手もいるでしょう。
(ハビエル・イトゥリアガ(メキシコ)、フェルナンド・アモレビエタ(ベネズエラ)など。
ただ、両者とも同時に3の条件も満たしています。)
現在、レサマにはスペイン以外の国籍の選手が数人います。黒人選手もいます。
彼らは、2、3の条件を満たしているからです。
彼らは外国籍でも「バスク人」なのです。
ジョルディ・クライフがカタルーニャ人であることと同じです。
ただ、1を満たして海外で生まれ育った子供も両親と同じ国籍を得ることは可能だと思いますし、
2、3の場合も、仮に外国籍だとしても、親がスペインもしくはフランスの永住権を得ていれば、
スペイン、フランスの国籍取得は可能ではないかと思われます。
(生地的国籍と血統的国籍。イグアインはフランス生まれでフランスとアルゼンチンの国籍を、
ジョルディ・クライフはオランダ国籍とスペイン国籍を保有している。)
つまり、現在レサマにいる外国籍の子供たちも、スペイン国籍取得は可能であると考えられます。
なので結果的にスペイン、フランス国籍を有しない人が入団することが無いとは言えるかもしれませんが。
イグアインの例で、「全くの間違いではない」と言ったのはそういうことです。
●それぞれの条件について
1は言うまでもなく、上記の「血統的バスク人」です。
ただし、両親がバスク人でなければならないのか、片親でもいいのかは、はっきりしないのです。
過去のケースを見てみると
a − 片親がバスク人だが、生まれも育ちもバスクではない選手のトップチームへの移籍
b − 片親がバスク人だが、生まれも育ちもバスクではないユース年代の選手のレサマへの入団
aは当時セビージャのケパ・ブランコ(ヘタフェ)、当時サラゴサのオスカル・ゴンサレス(オリンピアコス)など。
彼らの移籍については、NGでした。
bは可のようです。
バスコニアに在籍している、イタリア国籍のイマノル・スキアベジャ(スキアヴェッラ?)は
母親がバスク人ですが、ローマ生まれ。17歳でレサマ(フベニルA)に入団しています。
まとめると、片親がバスク人、ということだけではトップチームに移籍することはできなさそうです。
片親だけバスク人である選手がトップチームに移籍するには、他に2か3を満たす必要がありそうです。
ただ、同様のユース年代の選手のレサマへの入団は可能なようです。
2は例えば、非バスク人の両親がバスク地方に移住してきて、バスク地方で生まれた子供などです。
元アスレティックのハビ・ゴンサレスは確かこのタイプのバスク人選手だったと記憶しています。
ただ、生まれた後、またバスク地方以外のどこかへ引越した場合などについてはわかりませんが、
下記のセルヒオ・ペーニャという選手の例を見ると、それだけでは入団は厳しいようです。
問題は3です。
少し考えれば、優秀な子供を家族ごと連れて来てしまえばいい、となりますね。
現在のところそういう例はありませんが、これから先、ないとは言い切れません。
ただ怪しいケースはいくつかありました。
有名なところではアスレティック・フベニルAに在籍するスペインU-17代表のエンリク・サボリ。
彼はバルセロナ生まれで両親もバスク人ではないようです。
ただひとつのバスクとの繋がりは母親がバスクに住んでいること。
家庭の事情とやらで母親と一緒に暮らすことになった彼は、エスパニョール・カデーテから入団したのです。
限りなくクロに近いグレーです・・・。というかクロ
以下の二人については08年夏に獲得するというニュースがあった時に(怪しいと)話題になった選手です。
二人はリオ・ベナというブルゴスのユースクラブに在籍していました。
現在、レサマには在籍していませんが、この条件3を満たそうと
他のバスクのクラブでプレーさせているという情報があります。
・セルヒオ・ペーニャ
バスクとの繋がりは、ビルバオ生まれということだけ。その後はずっとブルゴスに住んでいる。17歳。
両親はバスク人ではないようだ。別のブルゴスのクラブで育った。ポジションは左サイドバック。
・ダニ・スアレス
バスクとの繋がりは、母親がビトーリア(アラバ)に住んでいること。彼はログローニョ(ラ・リオハ)生まれ。
両親はバスク人ではないようだ。ラ・リオハのクラブで育った。ポジションはデランテーロ。
こちらも・・・特にダニ・スアレスはアウトかと
追記:09-10シーズンからバスコニアに加入。
しかし、名前を見ると、Daniel Suárez Etxebarriaなので、母親はバスク人(もしくはバスク系)では?
これらは極端な例です。
こういう怪しい例は、すぐにニュースとなってしまうのでこの3人以外にはないとは思いますが。
以上の3つの条件を見れば、よく言われる(私自身も使用していますが)「純血主義」という言葉は
少し違うように思います。
●これから
最近話題になった、南米のバスク系の選手の入団に賛成する人達の意見は
条件2や3で血統的にバスク人ではない選手の入団が認められるなら、
南米にいるバスクの血を引いた選手の入団が認められてもいいのではないかというものです。
ただ、それはそれで問題が出てきます。
一口にバスク系と言っても一体どこまでをバスク系とするのか。
何代前までならOKとか。それを決めたとして、それをどうやって証明するのか。
たまに南米の選手の名前を見ると明らかにバスク系の名前が見られます。
ただ彼らは自分がバスク人の血を引いていることを認識してはいないでしょう。
「バスク人」という括りに固執する余り、アスレティックでプレーすることの意味を知らない選手が
増えてしまうことを私は望みません。
子供の頃からアスレティックを直に見て、触れ、「いつかアスレティックで」と夢見ていた少年たちにこそ
アスレティックでプレーして欲しいのです。
ただ時代は確実に移り変わっています。
バスクでも少子化は深刻な問題となりつつあり、一方で人口に占める移民の割合は増えているそうです。
このアスレティックの入団条件というものは不文律で、時代によって解釈が異なります。
現在はレサマに在籍している黒人選手も、かつては入団が認められなかったことがあるようです。
今後も微妙に解釈が変わっていくことがあるかもしれません。
それでもこの哲学を大きく変える日は訪れないでしょう。
たとえ、降格しようとも。
「この哲学を捨ててまで目先の勝利や残留にこだわる必要はない」
そう言うファンも少なからずいるようです。
(8割以上のソシオは現行のままの哲学維持を支持しているようです。)
この哲学はクラブだけのものではなく、もっと大きなものなのだそうです。
バスク人選手を育成することは、バスク文化を育成することと同じなのだ、と。
footballistaの記事の中で小澤一郎氏が書いた一文が印象に残っています。
「外部の我々でさえ「1部残留か哲学維持か」を議論する。
しかし、現地でファンの声を聞けば、そんな議論自体が失礼に思えてくる。
なぜなら彼らは本当に大事なものを知っているからだ。」
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Thema:◆リーガエスパニョーラ◆
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