2011年9月5日 2時30分 更新:9月5日 7時57分
生物の細胞のように、増殖しながら遺伝子を複製する現象を部分的に再現した「人工細胞」を、化学物質を使って作ることに、東京大の菅原正名誉教授(物理有機化学)と栗原顕輔研究員らが成功した。単細胞生物の大腸菌の増殖と似ており、生物の起源を明らかにする手掛かりとなる成果という。英科学誌「ネイチャー・ケミストリー」(電子版)に5日、論文が掲載される。
菅原名誉教授らは、洗剤の成分である界面活性剤に似た分子と触媒を水に加えて2層の膜を作製。そこへ大腸菌由来のDNAを溶かした水を注いで、DNAを含む水を膜で囲んだ、細胞に見立てた「ベシクル」という球(直径1~10マイクロメートル、マイクロは100万分の1)を作った。
そこへ細胞の「餌」に相当する膜と同じ成分を持つ物質を投入した。すると膜に餌物質が取り込まれ、触媒によって反応し、細胞が大きくなり始めた。やがてくびれが生じ、約4分後にはくびれが餌物質の一部で切断されて2~3個に分裂。細胞はこのまま8~10個まで増殖した。
一方、増殖した細胞内にもDNAは取り込まれ、遺伝子診断などに使われる遺伝子を温度変化で増殖させる「PCR法」で、増殖細胞の中でも複製させることができた。
菅原名誉教授は「素性の分かった物質で自然と同じ現象を再現することで、生命の起源に迫れるだろう」と話す。【野田武】