水説

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水説:ベトナムに続け!=潮田道夫

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 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に中国は参加していないが、中国こそがTPPの「隠れた主役」である。なぜなら、米国がTPPをいじりはじめた理由は、将来、これに中国を取り込むためであるからだ。

 米国は「米国抜き」の経済圏がアジアで形成されるのを何としても阻む必要がある。経済上の利益だけでなく、安全保障上の利益も損ないかねないと考えている。

 TPPという高度に開放的で透明な自由貿易圏をつくり発展させる。そこに入らないと中国の利益を損ないかねないまでに拡大し、中国に自ら参加するよう促す。それがベストシナリオである。

 中国もそれは承知だ。自分に都合のいい自由貿易圏づくりを急ぐ。東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(ACFTA)が典型。昨年、本格始動した。結果は中国のひとり勝ち。ASEANは中華経済圏化している。

 人民元での貿易決済が進み人民日報は「アジアでは日本円でなく人民元が第2のドルになった」と書いた。英エコノミスト紙は人民元を「レッドバック」(赤いドル)と評した。ドル紙幣は緑色だからグリーンバックと呼ばれることを踏まえてのことだ。

 TPPは「米国の陰謀」などという人がいるが、あのしたたかなベトナムやマレーシアが陰謀にひっかかるか?

 ベトナムがTPP参加を決めたのは、TPPの圧力を利用して国内改革を進めようという思惑だろう。いまのままでは、中国の経済衛星国になりかねない。なぜなら中国の方が経済的魅力において勝っており、世界はベトナムより中国への投資を選ぶからだ。

 ベトナムは官僚腐敗の一掃が急務だ。米国はベトナムに「国営企業の規律強化」を要求している。ベトナムにきつい要求に見えるがベトナム自身が欲していることだ。

 この要求は将来の中国参加をにらんだものと言われる。国家資金を背景にわがもの顔の中国国営企業。その勝手ができないようなTPPにしておこうというわけだ。中国が主役であるひとつの証拠。

 マレーシアのTPP参加もベトナムと同断だ。魅力を高めないと中国にのみ込まれる。マレー人優遇政策はもう役割を終えた。ただ政治的に廃止は難しい。TPPを利用して前進するハラだろう。

 日本もまた、TPPを自己改造の契機、触媒ととらえるのがよい。強化すべきは農業だけではない。オリンパスのごたごた、大王製紙の不祥事に見るごとく、日本企業は相当「ヘン」になっている。

 ベトナム、マレーシアに続こう。(専門編集委員)

毎日新聞 2011年11月2日 東京朝刊

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