2011年11月2日03時00分
ワールドカップ(W杯)の初優勝にロンドン五輪出場も決定――。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)の快挙によって、代表選手の多くが所属する「なでしこリーグ」が脚光を浴びている。ただ、代表がいるクラブと、代表がいないクラブでは観客数に大きな差が生まれている。このまま二極化が進んでいくのか。
日本代表7選手を擁する神戸が、敵地に乗り込んだ16日の伊賀戦。神戸が1―0で競り勝ったものの、代表選手が1人もいない伊賀にてこずった。代表FWの川澄奈穂美(26)は苦戦した原因について、こう分析した。
「観客が多いことが伊賀のモチベーションになっていた。大歓声に慣れている私たちにとっては、不利な状況だった」
観衆は6071人。創部36年目を迎える伊賀の主催試合では、過去最高の客入りだった。会場の三重県営鈴鹿スポーツガーデンのメーンスタンドには立ち見客が出るほど。試合前には、駐車場の空きを待つ車が会場に続く一本道で長蛇の列を作った。
W杯直前の6月11日に行われた神戸主催の同カード(兵庫県三木市の三木総合防災公園)は、448人だった。しかし、7月のW杯初優勝で「なでしこブーム」が巻き起こると、国内リーグ戦も注目を集めるようになった。
W杯で最優秀選手と得点王に輝いたMF沢穂希(33)らスター選手がそろう神戸は、常に盛況だ。W杯後には7試合を消化し、そのうち4試合の観客が1万人超。8月6日の敵地の新潟戦では、リーグ史上最多の2万4546人を記録した。
■神戸、1803%増
集客の鍵を握るのは、代表選手がいるかどうか、だ。W杯後の平均観客数は、代表がいるチーム同士の試合は「7189人」だが、不在同士の試合になると「685人」まで落ち込む。
9クラブのうち、W杯または五輪予選に代表を派遣したのは6クラブ。そのうち「勝ち組の筆頭」は、神戸だ。W杯前の本拠での平均観客数は912人だったが、W杯後は1万7353人。1803%増という驚異的な伸びを見せている。試合会場では、背番号入りTシャツなどが売り切れる。食品会社と「2年総額1億円」といわれるスポンサー契約も結んだ。
2011年世界年間最優秀選手(バロンドール)女子の候補の1人、宮間あや(26)が所属する岡山湯郷も観客数は3倍以上となった。新たにユニホームのメーンスポンサーも決まった。試合の際に掲げるボードなどのスポンサー企業も着実に増えている。
一方、伊賀、福岡、狭山の代表不在の3クラブは、W杯後も苦境が続く。新規スポンサーの問い合わせもあるが、小口が多く大幅な収入増とはならない。観客数も、対戦する人気クラブ頼み、という厳しい現実となっている。
クラブ間の格差は開く一方なのか。資金豊富なオーナーが立ち上げた神戸は、人気選手を他のクラブから獲得できる。実際、今季の開幕前には日テレから沢ら代表経験者4人が加入した。だが、残るクラブは資金が限られているため、自前で代表選手を育てることで、活路を見いだすしかない。
代表ゼロの伊賀も、かつては「名門クラブ」だった。1999年に大口スポンサーだったプリマハムの撤退で、伊賀市や地元企業などから支援を受ける「市民クラブ」に。取り巻く環境は厳しいが、元日本代表DFだった大嶽直人監督は「1人でも代表選手を出して、地元を盛り上げたい」。
しかし、リーグの田口禎則専務理事は、代表選手の育成がクラブ人気に直結するとは考えていない。「今のにぎわいはクラブの努力ではなく、W杯優勝などによる一時的なもの。代表選手の育成以上に地域密着が大切になる。男子以上に『オラが町のチーム』にならないといけない」。地域密着の呼び水となるように、来季からリーグ戦の地方開催を積極的に推し進める方針だ。(吉田純哉)
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〈なでしこリーグ〉 1989年に日本女子リーグとして始まり、2006年に改称された。今年は昨年優勝の日テレ、浦和、神戸、岡山湯郷、新潟、千葉、福岡、狭山、伊賀の9チームが2回戦総当たりを行う。東京電力も参加予定だったが、原発事故の影響で活動休止中。来季から高槻(大阪)が加わる。