「自炊問題」 代行業者に作家ら反発
産経新聞 11月2日(水)7時55分配信
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ビックカメラ池袋本店パソコン館の自炊用品売り場。昨年夏ごろから順調な売れ行きが続いているという=東京・東池袋(写真:産経新聞) |
電子書籍端末やスマートフォン(高機能携帯電話)の普及もあって、紙の本から自分で電子書籍を作る「自炊」をする人が増えている。家電量販店ではスキャナーなどの自炊用機器の売れ行きは好調で、自炊を請け負う「代行サービス」業者も現れた。しかし、出版社や著作権者は「自炊代行サービスは著作権法で規定されている複製権を侵害している」として、業者側に警告。代行サービスから撤退する業者も出てきている。(溝上健良)
著作権法で「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」とする複製権が規定されており、例外として個人や家庭で楽しむ場合に限って「その使用する者が複製することができる」と認められている。
自炊代行サービスは、利用者が紙の本を郵送すると、数日〜数週間で業者が電子データ化してくれるサービスで、1冊当たりの値段は安い店では100円程度。しかし、先の条文に照らせば、業者に委託して電子データ化(複製)することは「その使用する者が複製すること」に該当しているとはいえない。
著作権者の許諾を受けていれば代行サービスは可能だ。しかし、「業者には許諾していない」などとして、今年9月、大手出版7社と作家・漫画家ら122人が代行業者98社に法的問題点を指摘した上で、今後も事業を継続するかどうかを尋ねる質問書を送付した。その結果、回答があった43業者のうち37業者が「今後は事業を行わない」などとし、すでにサービスをやめた業者も出ている。出版社側は今後、悪質な業者については法的措置も検討するとしている。
代行サービス業者とは別に、機材と場所を提供し、自炊は利用者自身が行うという「自炊スペース」も登場している。草分けの「自炊の森」(東京・外神田の店舗は10月末で閉鎖、近隣に移転し営業再開の方針)では、店内に裁断機と6台のスキャナーを設置していた。
同店によると、「重い本を持って帰るのは面倒」との理由で、近くの書店街で買った本を持ち込んで電子データ化し、本を捨てて帰る客も多いという。
機材と場所を提供する持ち込み型の自炊スペースについては、「その使用する者が複製すること」に該当するため、出版社側も特に抗議の予定はないという。同様の理由で、一部の家電量販店では「自炊コーナー」が設けられ、消費者向けに裁断機やスキャナーが販売されていることについても、出版社側は「法的に問題ない」とみている。
しかし、電子データはネットで送信できるなど譲り渡しが容易なため、自炊そのものに不快感を持つ著作権者もいる。出版社側は「自炊する人は著作権を侵害することのないよう、ルールを守ってほしい」と呼びかけている。
自炊が流行している背景の一つに、利用者にとって欲しい電子書籍が少ないという状況がある。このため出版社側は電子書籍の品ぞろえを充実させていく方針だ。
■他人に譲渡は“アウト”
自宅で自炊するには本を一枚一枚の紙にばらすための裁断機と、紙の文面を電子データとして読み取るためのスキャナーが必要になる。スキャナーは自動紙送り機能付きで、両面を一度に読み取れる機種がよく使われている。
東京・東池袋のビックカメラ池袋本店パソコン館によると、スキャナー、裁断機ともに4万円程度の製品が売れ筋という。「(昨年5月下旬の)iPad(米アップル社の多機能情報端末)発売以降、自炊用のプリンターや裁断機の売り上げは急増し、その流れが現在もずっと続いている」と同店の豊城達久主任。年配者で「蔵書の整理をしたい」と購入する人も多いという。
いずれにしても、電子化したデータは自分(家庭)で楽しむために使うのにとどめることが必要。データを不特定多数の他人に譲渡した場合は著作権法に抵触するので、要注意だ。
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最終更新:11月2日(水)8時20分