アカデミックマナーの心得

このページでは、学際情報学府の学生の皆さんが、研究を進め、論文を執筆し、学会や学術誌で研究成果を発表する際に必要となる、研究倫理やアカデミックマナーの基本について説明しています。

1. 研究倫理とは

研究を行うためになによりも大切なのは研究に対する誠実さです。先人の研究成果を尊重し、実験計画やデータや結果の解釈においては予見や偏見を排除し、研究対象に客観的に接する態度が重要です。データの捏造、改ざん、他者の研究結果やアイデアの盗用、他人の論文の剽窃は研究者としての精神に反する行為であり、いかなる理由があっても許されるものではありません。

東京大学では、「東京大学の科学研究における行動規範」を策定しています。研究を行う際にはまずこれをよく読み、内容の理解に努めて下さい。また、学位申請の際には、この行動規範を熟読し、記された内容を正確に理解し遵守している旨の確認を求めることになります。

 

東京大学 科学研究行動規範コーナー

 

研究倫理を遵守した研究活動を行う際に、研究の過程をできる限り正確に記録することは、研究の客観性を担保するためにも非常に有効な手段です。結果の再現性や正当性を証明し、事実に基づいて研究過程を客観的に説明できるように、つねに記録を残すように心がけて下さい。日付つきの実験ノートやメモ、実験から直接得られる一次データ(生データ)、調査記録等を保管しておくことで、研究状況を正しく再現することが可能になります。

 

生命倫理・安全性

 

人を対象とした実験や調査を行う場合は、研究の科学的妥当性、安全性、倫理性、人権の尊厳、個人情報保護などの観点から適切な実験・調査が行われていることを保証する必要があります。指導教員や学環の「ヒトを対象とした実験研究および調査研究に関する倫理審査委員会」と相談の上、研究倫理審査申請書を作成し、東京大学倫理審査専門委員会の審査・承認を受けてから実験を行うようにしてください。より詳しい情報として、以下のリンクを付記しておきます。

 

東京大学ライフサイエンス研究倫理支援室

文部科学省:生命倫理・安全に対する取組

社団法人日本心理学会会員倫理綱領および行動規範

疫学研究のための倫理指針ホームページ

 

個人情報の保護・保有個人情報の開示

 

研究の過程で、アンケート調査や評価実験などで、被験者などの個人情報を保有する場合があります。これらの情報は研究の目的のみに利用すべきであり、不用意に開示してはなりません。ここで、「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、氏名、生年月日などにより、個人が誰であるかを識別することができる情報をいいます。個人の身体、財産などの属性に関する情報も、氏名などと一体となっていれば、「個人情報」に当たります」(東京大学「保有個人情報の開示等について」より)

「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」では、個人情報の不適正な取扱いによる個人の権利利益の侵害を未然に防止するため、独立行政法人等が個人情報の取扱いに当たって守るべきルールを定めています。また、これにより、保有個人情報のうち自分の個人情報については、だれでもが開示を請求することができことになっています。詳しくは以下のリンクを参照してください。

 

東京大学 「保有個人情報の開示等について」

 

2. 論文執筆に際して

そもそも論文とは何でしょうか。論文の第一の意義は知の共有です。過去の研究成果に自らの新たな知見や発見を加え、さらにはそれが次の議論や研究を喚起し、社会に浸透していくという一連の知的創造プロセスの中で、論文の果たす役割はきわめて大きいと言えます。研究者にとって自分の研究成果を論文の形で公表することはとても重要な活動です。従来は紙媒体による公刊が主でしたが、近年ではインターネット上の論文誌も登場し、知の進化速度はさらに増していると言えるでしょう。

また、それぞれの研究者にとっては、研究業績としての論文も重要でしょう。研究者の能力や研究成果を立証するためには、外部の査読者によって質が担保された論文を公開していくことが必要です。

それだけに、論文執筆において、他人のデータやアイデアの剽窃、文章の盗用などは許されるものではなく、厳につつしまなければなりません。また、そのような意図がなくても、不用意な引用や不適切なデータの解釈などで、結果的に研究倫理に反してしまう場合もあります。論文は多くの場合、著者の名前と共に公表されますので、研究者にとっては大きな名誉であると同時に、内容について大きな責任を負うことになります。

 

新規性・重複投稿

 

論文には新規性がなければなりません。すなわち、一般に公表されている刊行物にて、発表されていない内容であることが求められます。既に雑誌に掲載された論文や審査中の論文と同一の内容の論文を、他の雑誌に投稿してはいけません。また、同一の内容の論文を複数の雑誌に同時に投稿してもいけません。これらは重複投稿と呼ばれ、これを行った研究者は、厳しい非難を受け、信用を失うことになります。ただし、一度投稿した論文であっても、審査の結果、掲載を認められなかった場合は、他の雑誌に投稿してもかまいません。なお、刊行物の定義は雑誌によって異なります。分野によっては、シンポジウムや講演会の予稿集やプロシーディングスを刊行物として扱わないこともあります。論文を投稿する前に、投稿先の雑誌の執筆要領などを必ず確認しておく必要があります。

 

共著者

 

修士論文や博士論文は著者が一名となる単著ですが、対外的に論文を発表する場合は、指導教員や共同で研究した研究者を共著者に含めることも多くなります。共著者は、主著者とともに共同で研究に貢献し、論文内容を説明でき,それに関する質問に応じることができる人です。また共著者も論文内容について責任を負うことになります。

単著以外の論文を投稿する時は、過不足なく適切に共著者を選定して、全ての共著者に投稿前に論文原稿案を見て頂き、共著者になる了承を得ておかなければなりません。共著に加えておけば喜んでもらえるだろうと勝手に判断することは慎むべきです。共著者も論文の内容に責任を負うため、了承を得ずに投稿することはあってはならないことです。また、学会誌によっては採録の際に著者全員の許諾(サインなど)を求める場合がありますので、事後に思わぬトラブルを産む原因となります。

なお、連名の場合の著者の順は、主著者を筆頭にし、貢献度の高い順に共著者を書くことが一般的です。単に組織上の地位を重視して配列するのはしてはいけないこととされています。

 

事実と意見

 

論文の執筆において、事実と意見を区別して論述することはどの研究領域においても重要ですが、情報と人間、情報と社会に関わるテーマを扱う学環・学府のカバーする研究領域ではことさら注意を払う必要があります。それは事実と意見のほかに、それら二つを統率するような言説というものが、学環・学府的な学問的知見とは別にマスメディアやネットを通じてあふれかえっていて、知らぬ間に私たちの研究のあり方にも影響を与えているからです。

事実には大きく分けて二つのレベルがあります。第一に日本の総人口、国別のインターネット普及率など、おおむね誰にとっても同じ値や意味を持つことがらです。第二に何らかの実証的な探求をおこなって明らかになったことがら。こちらは別の探求によってくつがえされる可能性もあるために仮説的な事実だといえるかもしれません。一方の意見にも、ある思想や理論を共有する集団によって共有されている社会的な意見(特定の学問領域や学会で前提とされている〇〇論など)から個人的な意見まで幅があります。

個人の意見と事実を区分けすることがまずは重要です。何らかの実証的研究から得られた知見(データ)そのものと、それをどのように解釈するか(意見を持つか)ということは区分けして考えなければなりません。言い方をかえれば実証研究の成果はあなたの解釈とは異なる解釈に向けても開かれたものである必要があります。そうすることによって学術研究はより発展可能性を持つことができるからです。

このことに加えて重要なのは、マスメディアやネットを通じてあふれかえっている社会的な意見としての言説(ディスコース、ディスクール)を鵜呑みにしてしまわないことです。たとえば「マンガ、ネット、ケータイなどが若者をダメにしている」「日本社会が劣化している」などは個人的な意見というよりは、マスメディアやネットを通じた社会的な論調であり、それらは実証的な知見とはいえないものの、言説として世間で論じられ、少なからぬ学問領域や学会でも前提視されてしまうことが少なくありません。文理を問わず、こうした言説を批判的に検討し、先にあげた事実と意見の区分けをしながら研究を進めていく必要があります。

 

再現性

 

論文は、極めて限られた専門家ではなく、ある程度の幅をもった集団(moderate specialists)を読者と想定し、彼らがその内容を理解できるように書かれていなければなりません。また、計算に用いた数値や実験の条件など、追試験を行うことができる十分な情報が記載されていなければなりません。論文の内容は、著者以外の研究者によって結果が確認されて初めて、認められるものであることを覚えておいてください。

 

データ

 

実験・調査等から得られたデータは、論文の主張を立証するための根拠(エビデンス)として極めて重要です。それだけに、自分の主張に都合のわるいデータを隠したり、データの内容を変更・改ざんしたり、という行為は研究倫理上あってはならないことです。このようなことが起きないよう最大限の注意を払うのはもちろんのこと、実験・調査等から得られた一次データ(生データ)を保管し、研究ノートに日付とともにデータ取得方法などを記録しておくこと必要です。こうすることで、万一捏造の疑いをかけられた場合でも、記録に基づいて具体的に反論することができるようになります。

 

著作権

 

自らの思想や感情を小説、論文、絵画、写真、映画、コンピュータ・プログラムで表現、創作したものに認められる権利のことを意味します。特許権や商標権とならぶ財産権の一種です。

あなたが研究成果を論文や作品、プログラムなどとして創作した場合、法的な届け出などをしなくても自動的に著作権が生じます。当然、他者が同様のことをやっても生じることになり、私たちは自らの著作物を利活用する権利を持つとともに、他者のそれらを尊重する義務があります。学術研究において他者の著作物を引用する際には、その出典を明記するか、著作物の性格や著作権を有する人物の住む国や地域の法的習慣によっては引用、あるいは転載の許諾を取る必要があります。出典の明記のしかた、許諾の取り方は、それぞれの研究領域のスタイルに準拠して下さい。

著作権についてはその歴史的展開や国や地域による違いがあり、必ずしも一枚岩のものとして理解することはできません。また近年の、映像などの新たなメディアの登場による新たな表現、創造の様式の登場や、著作者人格権など隣接権との関わり、クリエイティブ・コモンズなどの動向も視野に入れておく必要があります。

研究を進める際にまず大切なことは、なぜ著作権を尊重しなければならないかを理解しておくことです。あなたは研究を単独でやれるものではありません。どのような分野の研究出会っても必ず、さまざまな先行研究や研究事例や学術情報を参照するなかからアイデアやヒントを得つつ、学術のネットワーク網のなかで進めることができているのです。その網の目のなかでそれぞれがたがいのオリジナリティを尊重し合い、相互に批判や助言をし合いながら、パブリックに発展していくのが学術研究なのです。その点で著作権はたんなる利己的な財産権ではなく、公共的な互恵関係にある権利としてとらえられる必要があり、だからこそ引用や許諾はしっかりと手続きを踏んでおこなう必要があります。

 

引用

 

そもそも引用はなんのためにするのでしょうか。ある人が論述を進める際に、先人や現場の声や状況を記した資料の一部を切り取り、それらを論述の中に組み込んだ方が、読み手に対してより理解しやすく、説得的であると思われる場合にするものです。

引用はまた、実験による再現性を追求できない人文社会系の学問領域においては重要な手法です。自然科学の法則はいつ誰がどこで語ろうとも同一であるべきですから引用する必要はありませんが、1950年代に放送局の人間がテレビジョンという新しい技術をどのような気持ちでとらえていたかの発言は社会学において重要であり、それを記述するには引用が効果的かもしれないのです。

このように論述の方法として引用は用いられているわけですが、それだけに、引用が盗用・剽窃・改ざんとならないように充分な注意が必要です。引用する際には、それが著作権法上で認められている範囲内であること、引用であると明確にされていること、その出典が正確に記載されていること、を確認して下さい。引用したものをあたかも自分の考えのように記載することは、盗用や剽窃とみなされますので厳に慎まなければなりません。また、記述や発言内容は勝手に修正してはならず、原則としてそのままのかたちで抜き移す必要があります。自分の都合で引用の内容を勝手に改ざんすることもあってはならないことです。

一般的に引用はなるべく短く、どうしても必要な時になされるべきです。不必要な引用を長々と、あるいは何度もやれば、読みにくさが増すうえ、あなたの論述のオリジナリティは低下し、下手をすれば無断盗用とみなされてしまうこともあり得ますので注意が必要です。

 

図版の引用

 

図版の引用も、基本的には文献の引用に準じておこなわれます。

あなたが論述を進める時に、一次資料としての歴史的な図像や先人のアイデア図などを引用し、読者の理解を高め、説得力を持たせることができる場合におこないます。その手続きは文献の場合と同じで、修正を施すことなく正確に記載すること、出典を詳述することなどが必要です。

注意すべきなのは先行研究のモデル図などを図式の意味は変えずに描き直して掲載する場合です。先行研究者の意図や意見を歪曲することなく描くことに努めなければなりません。脚注などで、何をどのように修正したかをできるだけ詳述した方がよいでしょう。文章での引用の場合と同様ですが、先行研究のモデル図をあなたの知見を加えて描き直すことは、しばしば先行研究者のオリジナリティを尊重せず、その意図や意見を勝手に解釈することになりがちですので、さらに注意を要します。基本的には避けた方が賢明でしょう。どうしてもやらなければならない場合には、オリジナルのモデル図も記載してその違いを説明するか、オリジナルのモデル図をどのように加工したかを明確に記述する必要があります。判断に迷った場合は指導教員と相談し、原著作者に利用許諾を得るなどの処置を行って下さい。

 

参考文献

参考文献とは、あなたが論文などを書く時に参考とした論文や本のことです。その他に一次資料や、参考にしたウェブサイトなどの情報源までを含めることもあります。

参考文献には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、あなたが直接的に依拠した知見の記載箇所、引用箇所がある文献です。もう一つは、直接の依拠、引用はないものの、その領域の古典的著作、標準テキスト、総合的な資料集であるため、論述に際して当然押さえておくべき文献である場合です。論文などで参考文献として列挙するのは、基本的には前者に絞るべきで、その場合には脚注などで依拠や引用の出典として記される必要があります。後者まで含めた参考文献一覧は、博士論文や人文社会系の著書ではありえます。ただ、多くの場合、これだけ本を読んだんだぞとひけらかすことが目的になりがちなので、なるべく関わりの深いものだけを選ぶべきです。

参考文献の一覧のしかたは、著者名順、分野別などいくつかあります。基本的には読む人にわかりやすいように配置することになりますが、学会誌等で記載方法が規定されている場合には、それに準拠することが必要です。

3. 論文執筆に関連して

 

査読

 

学術雑誌や専門誌では、投稿した論文や原稿を同じ分野で仕事をしている他の研究者によって評価し採否を決定する制度が定着しおり、これを「査読」と呼びます。査読によって、採録すべき論文や原稿を選別することで、学術雑誌や学会の質や価値を維持しています。また、業績上でも、査読付きの学会誌に採録されているかどうかは評価のポイントになります。

投稿論文はまず査読者によって評価・審査されますので、査読者が、研究の価値や新規性を理解しやすいように論文を構成することがまず重要です。各学会では「優れた論文」「どんな論文が採録されるのか」など規範を示したガイドをホームページ等で公開している場合も多いので、それらを熟知した上で論文を執筆することが必要です。

一方、あなたが査読を担当することになった場合は、それぞれの学術誌・専門誌の査読方針をよく理解し、厳正かつ公平に査読を行うことが必要です。査読中の論文の内容に関して査読者には守秘義務があります。論文公刊前にその内容を他人に教えたり公開したりすることは許されません。また、査読には著者の氏名所属を査読者に知らせないダブルブラインド法や、査読者が著者の名前を知っているシングルブラインド法などがあります。後者の場合、査読者自身と投稿者の所属が近い、あるいは共同研究関係にある、など利害関係のある著者による論文の査読は担当せず、またその論文の採否に関わる議論にも参加しないことが査読者が守るべきアカデミックマナーとなります。

 

論文の評価:インパクトファクター

 

論文は、如何に他の研究者に影響を与えたかによって評価を受けます。具体的には、参考文献として引用される件数(被引用件数)が多いほど、高い評価を受けます。論文の被引用は、トムソン・ロイターのデータベース Web of Scienceなどを利用して調べることができます。なお、その対象はトムソン・ロイターに登録されている学術雑誌に限定されますが、著名な雑誌は多くの場合、登録されています。

また、被引用件数を用いた学術雑誌の評価指標に、インパクトファクターがあります。これは、ある年のある雑誌に掲載された論文件数を分母にし、それらの論文が3年間(対象年、その前年、その前々年)に引用された件数を分子にして求めた数値です。インパクトファクターが高いほど、レベルの高い論文が掲載され、注目を受けている雑誌であると認識されます。より多くの研究者の目に触れて欲しいならば、論文を投稿する際に、まずはインパクトファクターの高い雑誌を投稿先に選ぶことが一般的です。しかし、インパクトファクターは分野によって異なります。インパクトファクターの絶対値のみを考えて、論文の内容と異なる分野の雑誌に投稿することは得策と言えません。

 

知的財産・特許

 

研究の過程で生まれた知的創造物・知的財産は研究活動の大きな成果といえます。東京大学では東京大学で生まれた知的創造物を保護し、社会に役立てるための全学的なポリシーを策定し、産学連携本部がその推進にあたっています。詳しくは以下を参照してください:

 

産学連携本部ホームページ

東京大学知的財産ポリシー(PDF)

 

研究者にとって気をつけなければならないのは、論文などによる研究成果の公開・発表と、特許との関係です。日本の特許制度では、特許出願より前に公開された発明は公知となり、原則として特許を受けることはできません。ただし、特定の条件下で発明を自ら公開し、その後に特許出願した場合には、自らの公開によってその発明の新規性が喪失しないものとして例外的に取り扱う規定、「発明の新規性損失の例外規定(特許法第30条)」が設けられています。この例外規定の適用を受けるためには、発明を公開した日から6ヶ月以内に特許出願を行なうことや、公開の形態が刊行物への発表や特許庁長官の指定を受けた学術団体が開催する研究集会での発表等に限られることなど、特定の要件を満たしていることが必要で、特許法の規定に基づく所定の手続きを行う必要があります。どんな学会発表でも6ヶ月以内なら大丈夫、というわけではありませんので注意が必要です。詳しくは特許庁のホームページなどを参照の上、適切な処置を行って下さい。

 

特許庁ホームページ

特許法第30条の適用について

 

4. 参考図書

以下では、研究をすすめ、論文を執筆する上で参考となる代表的な図書を何冊か挙げておきます:

 

木下是雄『理科系の作文技術』中公新書 (1981)

 

「理科系」と銘打っているが文理を問わずすべての学術研究に通底する内容を論じている。また「作文技術」といっているが、たんなる文章術ではなく、研究に取り組み、学会その他で発表する際の態度や姿勢、資料の扱い方などまでを網羅している。文系のこの種の書物にしばしば見られる修飾的で情緒的な論調を排して、ドライで合理的なスタイルを採っているのが気持ちよい。論文執筆やプレゼンテーションにPCやネットが使われるはるか以前に出版されているので個別技術は古いものの、それらを裏打ちする精神はいまだに新しい。

 

高根政昭『創造の方法学』講談社現代新書 (1979)

 

先行研究を学び、まねるだけではなく、自分独自の、新たなクリエイションをすることこそが学問の醍醐味。それではものごとを学問的にとらえ、未知の領域を探求するにはどんな方法があるのか。問題意識、命題と仮説、記述と説明、概念とデータ、因果法則、実験群と統制群、媒介変数などの基本的なことがらを説明し、それらを総合して「創造の方法学」を提示している。著者は高名な政治学者であったが若くして逝去。社会科学の領域ではいまだにほとんど見当たらない類の本で、理工系でも十分応用可能な内容となっている。

 

澤田昭夫『論文の書き方』講談社学術文庫 (1977)

 

英米系の人文社会系学問を通底している論理学とレトリック(修辞)法を踏まえ、学術論文を書くうえで必要な方法と手順を実践的に詳述した古典。資料を批判的実証的にとらえ、論理的に思考するとはどういうことなのかを理解する上で重要。「書く」ことのほか、「読む」「話す」という、研究に不可欠な活動にも言及し、それらを総合的にとらえている。

 

金出武雄『素人のように考え、玄人として実行する - 問題解決のメタ技術』PHP研究所 (2003 絶版)

 

「メッセージのある研究をしなさい」など、研究テーマの設定とアプローチの仕方が明快に説明されている。著者は米国カーネギーメロン大学教授でロボット工学や人工知能の分野で世界をリードする研究者。研究発想法からプレゼンテーション手法まで、著者ならではの切り口で論じている。トピックは工学系に関連するものが多いが、人文社会系の研究者心得としても参考になる。

 

参考文献

 

日本機械学会執筆要領(PDF)

IOP Journal, Guidelines for authors

東京大学大学院教育学研究科「信頼される論文を書くために」

東京大学学際情報学府 修士学位論文提出要領

東京大学の科学研究における行動規範

在学生・修了者向け情報

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東京大学