大麻に似た効果があるという脱法ドラッグ「ハーブ」が若者の間に広がっている。大阪・ミナミのアメリカ村では「合法ハーブ専門店」などと看板を掲げた店舗が急増し、一帯で少なくとも10店が確認されている。健康への悪影響が指摘されているが、所持や吸引を禁止する法律はない。薬事法で禁止する成分が含まれていれば販売だけは取り締まることができるが、成分を変えた新種が次々と輸入、販売される「いたちごっこ」の状態が続いている。【茶谷亮、武内彩】
厚生労働省や大阪府警によると、ハーブは乾燥させた植物片と化学物質を混合した薬物で、煙を吸って使用する。日本には2、3年前に欧米から入ったという。薬事法の禁止成分が入っていれば販売できないが、成分構造をわずかに変えた新種が200種類以上に増えている状況で、事実上、販売規制はできない状況だ。指定薬物であっても規制の対象は販売だけで、吸引自体は許されるという問題もある。厚労省の担当者は「規制するより商品化が早く、流通すら止められない」と嘆く。
アメリカ村周辺では、1年ほど前から店舗が急増し、1グラム1000~3000円程度で売られている。ただ、吸引目的の販売は薬事法で禁止されているため、どの店も「お香」などと表示している。
府薬務課によると、脱法ドラッグの使用者の大半が10~20代の若者。ゲートウエードラッグ(入門薬物)とも言われており、同課は「大麻や覚醒剤に移行する乱用者も多く危険だ」と訴える。
アメリカ村を管轄する府警南署によると、ハーブによる急性中毒とみられる若者を保護したり、病院に搬送するケースも少なくない。交番の前で堂々と吸う若者もいるが、南署幹部は、「目の前で吸われても取り締まれないのはつらい」と話す。
アメリカ村の雑居ビル内にあるハーブ販売店に記者が最近、入店した。薄暗い店内には大音量のレゲエの曲が流れ、人工的な甘いにおいが鼻をついた。
男性店員は、派手なパッケージ写真が印刷されたカタログを見せながら「うちで扱っているのは20種類ぐらい。どれも(法的に)大丈夫ですよ」と笑う。ハーブの効果について尋ねると「アッパー系(気分が高揚する)なら、これが人気」と気さくに説明してくれた。
ドアには「吸引目的の(違法な)ハーブは扱っていない」と書かれた張り紙があり、あくまでも香りを楽しむ「お香」として売られている。ところが、店内のベンチには、スーツ姿や学生風の男性3人が座り、パイプなどで堂々とハーブを吸引し、楽しそうに話していた。別の店舗では、「ここにハーブを乗せて火を付けるだけ」と、パイプの吸い方まで説明してくれた。
15日、若者らでにぎわうアメリカ村。ハーブを購入した女性(23)は「彼氏に勧められて始めた。お香として、たくだけでも気持ちよくなる。捕まらないし、お酒を飲んだ時と同じだ」とあっけらかんとした様子だった。
==============
■ことば
気分が高揚したり、幻覚などの症状がみられたりする麻薬と似た薬物で、10年ほど前から広まっている。吸引する若者が錯乱して事件や事故を起こし死亡する例が相次いだ。国は07年に薬事法を改正し、麻薬に似た症状を引き起こす疑いがある成分を規制する「指定薬物制度」を導入。これまでに約70種類を指定したが、成分を変えた新種が次々と生まれ、規制できないことが社会問題となっている。指定薬物の輸入や販売は禁止され、違反者には5年以下の懲役などが科される。
毎日新聞 2011年10月15日 大阪夕刊