現代コミュニケーション論 講義資料2


2.コミュニケーションの認知的モデル

2.1 ラスウェルの公式 (1948)

「コミュニケーション行為を記述するひとつの便利な方法は次の質問に答えることである。誰が,何を,どのチャンネルで,誰に,どんな効果をともなって言うのか」

誰が 何を言うか どのチャンネルで 誰に向かって どんな効果を伴って
伝達者 メッセージ メディア(チャンネル) 受け手 効果
統制研究 内容分析 メディア分析 受け手分析 効果分析
ブラドッグ(1958)はメッセージを送る環境(どんな状況のもとで),送り手が何か言うときの動機・目的(何の目的で)というコミュニケーション行為の二つの局面を付け加えている。

Lasswell, H.D. "The Structure and function of communication in society":「社会におけるコミュニケーションの構造と機能」シュラム編『マス・コミュニケーション』(学習院大学社会学研究室編),東京創元社,1968
Braddock, R. `An extention of the "Laswell Formura"',Journal of Communication ,8 : pp.88-93

2.2 ニューカムのABXモデル (1953)

「つりあいへの緊張」の結果として,コミュニケーションが「同意」の幅を広げる,という仮説を提示。「二人あるいはそれ以上の人々がお互いに対して,そして外部環境の対象に対して同時に志向することを維持する際に,コミュニケーションが不可欠の機能を果たす」。
コミュニケーションは「緊張に対する学習された反応」であり,不確実で不安定な状態では,「より多くのコミュニケーション行動」(情報を与えたり,求めたり,交換したり)が起こる傾向がある。
個人のAとB,共通する対象Xを各頂点とする三角形が想定できる。何らかの変化に関する情報を伝達したり調整したりすることによって,三要素間の関係の対称性を維持したり,改善したりする。条件が許す限り,態度や関係の一貫性に対する緊張がコミュニケーションを促す。
コミュニケーションが活発化するのは,次の三つの条件がある場合。
(1) AとBとの間に強く引き合うものがある場合
(2) 対象Xが少なくとも一人にとって重要な場合
(3) 対象Xが両者にとって共通の関心事である場合

これに類似したのが,フェスティンガーの「認知的不協和理論」(1957)。決定,選択,新たな情報が「心理学的に不快」な状況(不協和)を生じさせ,個人はすでに選択したことを支持する情報を求めたがる傾向が強い。例えば,ある新車を購入した者は,他の車の広告よりも自分が購入した車の広告に接触することが多く,「自分の選択は間違っていなかった」と納得させたがる。

人々は自分の現在の立場に沿った情報源に頼り,自分たちの現実の行動を支持し,肯定してくれる情報を収集しがちである。現在の意見や態度(先有傾向),行動傾向を補強する方向で,コミュニケーションを選択する。クラッパー(1960)は,マス・コミュニケーション効果研究で同様の結論を導いている。

とはいえ,新たな関係を作ったり,見解の相違を深めたりといった方向でのコミュニケーションもありうる。社会の発展のためには,「同意」ではなく「葛藤」や「拡散」を必要としている場合もある。

Newcomb, T.(1953) "An approach to the study of communicative acts", Psychological Review,60
Festinger,L.A. (1957) A Theory of Cognitive Dissonance /『認知的不協和の理論』(末永俊郎監訳),誠心書房,1965
Klapper,J.T. (1960) The Effect of Mass Communication /『マス・コミュニケーションの効果』(NHK放送学研究室訳),日本放送出版協会,1966

2.3 ガーブナーの一般的モデル (1956)

ガーブナー1

どんな種類のコミュニケーション状況をとるかによってモデルを変化させる。モデルの各部分を建物のブロックのように扱うことにより,複雑なコミュニケーション過程も,メッセージの生産過程,(メッセージとコミュニケーションしようとする事件〈イベント〉の)知覚過程として,知覚−生産−知覚の連鎖過程として分解することができる。人間のコミュニケーション過程が主観的,選択的,可変的,予測不可能なものであり,コミュニケーション体系が「開かれた体系」であることを示唆している。

1. Someone 2. percives an event 3. and reacts 4. in a situation 5. through some means 6. to make available materials 7. in some form 8. and context 9. conveying 10. with some consequence
1. ある人が, 2. ある出来事を知覚し,10. ある結果を伴って, 9. 内容を伝える, 7. ある形式と, 8. ある文脈の中で, 6. 有用な素材を得て, 5. ある手段を通じて, 4. ある状況で, 3. 反応する

知覚者(M)は,外界の事件(E)(E1)として知覚し,誰か他の人に伝えようとして,メッセージ(SE)〈事件についての言葉〉を作り出す。Sは形式,Eは内容である。Mが何を知覚するかは,Mの選択方法,問題となっているEを見いだす文脈,このEと他のEとの有用度(利便性)の違いによって決まる。つまり,知覚者の先有傾向や過去の経験がEをE1に変形させる。また,SEを送るためにMは,自分がある程度コントロールできるメディア(チャンネル)に依存している。次に,コミュニケーションをする別の人(M2)が,メッセージ(SE)をSE1として知覚する。

証人Mの事件Eに関する知覚E1がいかに正当で,E1をいかにうまくSEに表現しているか,また裁判官M2の知覚SE1がどの程度SEに一致しているか,という分析が可能である。社会的レベルでは,Eは潜在的ニュースであり,現実そのものである。Mはマスメディアを,SEはメディアの内容,M2はメディアの受け手を表す。「メディアが与えた現実についての言及が現実とどの程度一致しているか」「メディアの受け手はメディアの内容をどのぐらい理解しているのか」といった想定が可能になる。

Gerbner,G.(1956) "Toward a general model of communication",Audio-Visual Communication Review 4

2.4 ウェスリーとマクリーンの影響(influential)モデル (1957)

外部の対象に関して二人が共通志向するというバランス・モデルの相互関連的性格を保ったまま,マス・コミュニケーションというさらに複雑な状況まで表現できるモデルを提案した。

:社会環境におけるイベントまたは対象物。マスメディアを通じて伝達されることもある。
:提唱役割(advocate role)を担当する個人または組織。政治家,広告主,情報源
:行動役割(behavioral role)を担当する個人,集団,または社会システム。
:チャンネル役割(channel role)を担当するメディアまたはメディア内で活動している人。

情報源AがBとコミュニケーションするために,混沌としたX(X〜Xx)を知覚したうえで,総合したメッセージX'として発信する。
 BはX'だけでなく,みずからが直接Xを知覚することもできる(X1B)。また,Bがそれらを総合した結果として,その効果をAにフィードバックする過程(fBA)も想定できる。fBAもAにとっては,メッセージの内容を左右する一要因となりうる。

この過程をマス・コミュニケーションに拡大する場合には,二つのことに注意する必要がある。
(a) フィードバックの可能性が小さいかタイムラグがあること
(b) 個人Bは受け手であり,対象物を直接には認識できない場合もある(X1Bのプロセスが恒常的には存在しない)

 Cが編集機能を持つマスメディアであり,Bに働きかけBの環境を拡大する役割を担う。CがBに伝送するメッセージX''は,CがAから受け取ったメッセージ(X'),Cが直接取り入れた選択物もしくは抽象的観念の二つを総合させた結果である。この際,Cが行う選択は,Bからのフィードバック(fBC)に部分的にもとづくことになる。また,X'はCからのフィードバック(fCA),およびBからのフィードバック(fBA)に影響を受けている可能性がある。

問題点としては次の3点が指摘できる。
(1) 現実には,A,C,Bの利害のバランスがとれることは考えにくい。AがCをコントロールすることで,Bへの情報供給を制限することがある。
(2) 見解の共有を強調しすぎている。A,C,Bがそれぞれ異なる目標の下で活動を進め,この過程についての考え方も多様な場合が多い。
(3) 送り手の独立性を過大評価しすぎている。国家権力による統制が発生することが多い。

Westley,B.H. and MacLean,M, (1957) "A conceptual model for mass communication reserch", Journalism Quaterly, 34


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