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事件
【正論】社会学者・加藤秀俊 風評被害あれば「風評加害」あり
若い男性レポーターが小腰をかがめてコンビニの陳列棚の前にマイク片手に立って、「こちら、ごらんください」という。その棚はからっぽ。「おにぎりがずっと品切れです」とレポーター氏は興奮気味の声をはりあげる。たしか大震災翌日、3月12日の朝のワイドショーの一場面であった。
≪震災後の品不足とテレビ報道≫
しばらくのあいだ、おなじような風景がくりかえされた。「納豆がありません」「ヨーグルトがなくなりました」「コメが不足しています」「水が売り切れです」といったふうに、連日のように生活物資不足の「ニュース」が報道された。それも、NHKをはじめ日本のすべての主要テレビ局がそろって朝から晩までこんな放送だけをくりかえしたのである。
おやおや、またはじまったな、とわたしがおもったのは40年ほどまえのオイルショックでトイレットペーパーがなくなった事件をおぼえていたからである。あのときはひどかった。石油の輸入が途絶する。石油がなくなれば製造業が生産中止になる。製紙業も影響をうける。紙製品のなかで生活に直結するのはトイレットペーパーである。だから品不足になる。
そういうもっともらしいおハナシをテレビが連日報道した。開店を待ち受けて行列をつくり、あのカサばる紙製品を怒号のなかで奪い合う主婦や老人。その現場中継を「こちらごらんください」といって上気した口調で報告していたのはテレビのレポーター諸氏、諸嬢であった。その熱気が全国に感染し、ついに「売り惜しみ買いだめ」禁止の法律までできた。同時代を生きてきた60歳以上のひとならおぼえているにちがいない。
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