野田佳彦首相とベトナムのズン首相が、同国で計画中の原子力発電所建設を日本が受注することで合意した。国会で両国間の原子力協定が承認されれば、原発輸出が動き出す。
首相は9月の国連演説で、「世界最高水準の安全性」を原発輸出の前提にする考えを表明した。ビジネスを優先し、危険と不安を輸出することがあってはならない。慎重な上にも慎重な安全確保を輸出の前提にすべきだ。
合意したのは、ベトナム南部ニントゥアン省の原発第2期工事の2基(各100万キロワット)だ。それぞれ21年、22年の運転開始を予定する。
昨年10月の日越首脳会談で、日本が開発のパートナーになることで合意していた。その際、ベトナム側から事業への低利融資や先端技術の導入、人材育成、廃棄物処理の協力などの条件が出され、今回それらを満たすことが確認された。
国内で「脱原発依存」をうたう政府が、輸出を認める理由は何か。政府は、原発を国際展開する意義として、世界的なエネルギーの安定供給と温室効果ガスの排出削減や国内の技術力・人材の維持・強化などとともに、日本の経済成長への寄与を挙げている。
確かに、原発は1基5000億円のビジネスといわれる。内需縮小に悩む政府は、昨年6月の新成長戦略で、民間企業のインフラビジネスを後押しする「パッケージ型インフラ海外展開」を打ち出し、原発もその対象にしていた。
しかし、原発事故はいまだに収束せず、検証も終わっていない。東電が過酷事故の際に、長時間の全電源喪失を想定していなかったことなど問題点も次々に浮かび上がっている。この段階で経済的な利益を追求し、無条件に輸出を続けては、国際的な信頼は得られまい。
一方で、ベトナムは外資を積極的に呼び込んで経済成長を図るため、安定した電力源の確保を目指している。既にロシアへ原発2基を発注したが、大国への過度の依存は避けたい考えがあるという。その意味で、日本への期待は大きい。輸出交渉を続けてきた日本が、その信義に応える必要も否定できないだろう。
それでも、原発の「安全神話」崩壊を目の当たりにした日本が、原発を輸出するには、それだけの覚悟と責任が伴うはずだ。
政府の事故調査・検証委員会や国会に設ける事故調査委員会の検証をにらみながら、安全性の向上を図るのは当然のことだ。
原発輸出の交渉先はベトナムにとどまらない。なし崩し的な輸出を許さないためにも、政府と国会は議論を深めるべきだ。
毎日新聞 2011年11月1日 2時31分